第7章 女になってみた

 女の川島に乗り移ってあんなことをしたことで、俺の中にあった初めの欲求が頭を持ち上げてきた。そう、女になってセックスしてみたいという欲求だ。
 誰に乗り移って、誰とセックスするか、それが問題だった。祥子に乗り移って、俺自身とするというのが、一番無難で問題がないのだが、俺の魂が抜け出た俺の体は、人形と一緒で役に立たない。だったら、どうするか?
 その頃、静香は少し元気を取り戻していたが、本間は相変わらずドン底状態だった。本間を励ますために、誰か女に乗り移って本間を慰めてやろうと決めた。女が男を慰める方法はひとつしかない。
 乗り移る女としては、本間が好きだと宣言している静香が適任なのだが、俺としては静香に乗り移ることには抵抗があった。静香は俺にとっては永遠の処女だ。そんな静香に乗り移って本間とセックスなんてできるわけがない。
 考えた末、俺は祥子の体を使うことにした。祥子は本間が好きだった。もしばれても許してくれるだろう。そう考えたのだ。
 初盆で両親が親父の実家に出かけた隙に、俺は祥子を呼び寄せた。祥子は何も知らずに喜んでやって来た。祥子が俺の部屋に入ってきたとたんに、俺は祥子に乗り移った。俺は俺の体に布団をかぶせて、本間のマンションへ出かけた。お盆だというのに本間は母親のマンションに帰っていなかった。パトロンである俺の伯父が来ているかららしかった。
 呼び鈴を押すと、本間が眠そうな顔をして出てきた。俺の顔、つまり祥子の顔を見て、ビックリしていた。
 「本間君、こんにちは。そこでケーキ買ってきたの。一緒に食べない?」
 「あ、ああ。いいけど、君、ひとりなのか?」
 「ひとりよ。しんちゃんはお爺ちゃんの初盆に出かけたわ。迷惑かしら?」
 「いや、そんなことないよ。どうぞ」
 俺は散らかった部屋を片づけてやり、紅茶を入れてケーキとともにテーブルの上に並べてから、本間の向かいに座った。
 「最近調子が悪いみたいだけど、どう?」
 「いや、頑張ってるんだけど・・・・」
 「本間君、お医者さんになるんでしょう? 頑張ってね」
 「誰に聞いたんだ? ぼくが医者になりたいなんて」
 本間は以前は経済的理由で大学に行けるかどうか分からなかったから、医者になりたいという話は俺にしかしていなかった。今でもはっきりとそのことを知るものは俺しかいない。内緒にしておいてくれと言われていたのに、今のシチュエーションでは俺が祥子に話してしまったことになる。まあ、俺と祥子とがただ勉強しているだけの関係ではないことは本間も知っているから、俺が祥子に話したことにするしかないだろう。
 「しんちゃんから聞いたのよ。そうじゃないの?」
 「そのつもりだけど・・・・」
 「本間君の調子が悪いのは、静香に振られたせいだと聞いたけど」
 「・・・・ほんとに振られちゃったのかなあ」
 「静香のことはもう忘れなさいよ」
 「・・・・忘れられないよ。静香のことが忘れられないから、勉強に身が入らないんだ」
 「可愛そう。わたしが慰めてあげるわ」
 「慰めるって?」
 「わたし、ずっと本間君のことが好きだったの。お願い。抱いて! 静香のこと忘れさせてあげるから」
 本間は驚いた顔をして後ずさった。
 「だ、だめだよ。君は、高田と付き合っているんだろう?」
 「そんなこと、どうでもいいわ」
 「どうでもよかないよ。高田は俺の親友だよ。高田を裏切るなんてことできないよ」
 本間が俺のことを親友と言ってくれた。嬉しかった。
 「しんちゃんは知ってるわ。しんちゃんがここに来るように言ったのよ」
 「えっ! 何だって!」
 「本間君が悩み苦しんでいるのが、見てられなくてって言ってたわ。しんちゃんじゃあ、慰められないから、わたしにここに来て本間君を慰めてやってくれって」
 「だめだよ、そんなこと」
 「お願い。わたしに恥をかかせるの? それともわたしが嫌いなの?」
 俺は強引に本間をベッドルームへ引っ張っていった。俺は本間の目の前で全裸になって抱きついた。全裸の俺、つまり裸の祥子に抱きつかれて本間もついにその気になった。
 ところがうまくいかないのだ。本間のジュニアはびんびんで、俺のあそこも濡れているのに、結合できないのだ。本間は童貞だし、俺も女としてやるのは初めてだ。そのせいか、かなり長い間頑張ったが、だめだった。俺と祥子が初めてしたとき、あんなにうまくいったのが不思議なくらいだ。俺と祥子はよほど相性が良かったのに違いない。
 俺もとうとう諦めてしまった。仕方がないので、口を使っていかせてやった。本間の放ったザーメンを俺はごくりと飲み込んだ。何とも言えない味がした。
 「今度はうまくいくわ」
 そう言って、本間のマンションを出たが、却って落ち込ませたのではないかと心配になった。
 部屋に帰って、服を着たまま俺の体の隣に滑り込んでから元に戻った。目を覚ました祥子は、ぼんやりしていた。
 「あれえ、いつの間に眠ってしまったのかなあ」
 目をぱちくりさせている。
 「部屋に入ってからすぐだよ。眠たいからって言って」
 「そんなこと言ったかなあ」
 何度も首を傾げている。そんな祥子が可愛いと思った。
 「頭がおかしくなったんじゃあないのか? 大丈夫か、祥子」
 「まあいいわ。やりましょうよ」
 「一時間待ったんだ。このまま帰るっていったら、殺してやるところだ」
 「ごめん。サービスするから」
 「サービスって?」
 「・・・・フェラチオ、してあげるわ」
 祥子は俺の穿いていたトランクスを下げるとむしゃぶりついてきた。実は、祥子は俺にフェラチオをやってくれたことがない。結構気持ちがいいもんだ。
 祥子の口の中に放出したあと、祥子の胃の中で本間と俺の精子が喧嘩しているところを想像して腹の中で笑った。
 「しんちゃん、何がおかしいのよ」
 「なんでもない、なんでもないよ」
 「変なしんちゃん」
 同じ方法で祥子の体を借りて、二度目に本間のマンションに行ったのは、それから五日目だった。腰が重かった。生理が始まりそうと祥子が言っていたが、本間とできるだろうか? そんな心配をしながら、本間に抱きついた。
 この日は、やっとうまくいったと思ったら、本間はあっという間に俺に中に出してしまった。感じる暇もなかった。
 「ごめん」
 「今度は、今度は大丈夫よ。みんな初めはそうなんだから。また来るから」
 本間を慰めると言う目的よりも、女としてセックスして感じてみたいという俺の欲求の方が募るばかりだった。何が何でもうまくやってみせる。俺は意地になっていた。
 生理が終わって二日目。再度挑戦した。今度は大成功だった。気持ち良かった。どっちか良かったかって? どっちも良いよ。だけど、俺は男だ。攻めまくるのがいい。だからやっぱり男だな。男でもどちらかというと受け身の男もいるだろう? そんな男だったら、女の方がいいというかもしれないな。俺の個人的な意見だけど。

 だがしかし、俺としたときの祥子の様子を見ていて、女の快感はあんなものだろうかという疑問が起こった。どうも感じた振りをしているのではないかと思われるときから、ほとんど失神してしまうときまで幅があるのだ。
 だから、その後も時々祥子の体を借りて、本間とやってみたのだが、初めに感じた以上の快感は得られなかった。本間が下手なのかもしれないが、他の男に祥子の体を委ねることは躊躇われた。『まあいいか』そんな気持ちになり、その後は祥子に乗り移ることは止めた。
 本間は二学期に入ってから元気を取り戻し、最初の実考で学年トップに返り咲いた。
 俺は女としてセックスを経験することと、本間を立ち直らせると言う、ふたつの目的を達したのだ。