本間と静香の関係も急接近しているように見えた。俺は祥子と深い関係になりながらも、静香のことを片時も忘れたことはなかった。しかし、静香の相手が俺の親友の本間と言うことで、ほぼ諦めの境地になっていた。
それは突如として起こった。春休み直前になって、静香は長かった髪をばっさり切って、男の子のような髪型となった。そして、あの笑顔が消えた。信じられないくらいの静香の変わり様だった。
俺は本間がその原因を知っていると思い、問いつめた。
「本間、静香はどうなってるんだ?」
本間は、暗い顔で俯いていた。そんな本間の姿を見るのは初めてだった。本間はどんな時でも明るかった。だから本間の家庭が経済的に苦しい状態だとは誰も疑わなかったくらいだ。
「なあ、どうなってるか知ってるんだろう?」
「分からないんだ」
本間は力無く呟いた。
「分からない? そんなことないだろう。絶対何かあったはずだ」
「2月の初めから、少し様子がおかしかったんだ」
「2月の初めから?」
「そう、何故か余所余所しくなって、ぼくが話をしても上の空なんだ」
「そんな風には見えなかったけどなあ」
俺と祥子が図書館にいるとき、本間と静香が並んで鉛筆を走らせていた。余所余所しい? 上の空? 絶対そんな風には見えなかった。
「先週、告白したんだ」
「えっ、静香にか?」
「そう。好きだから、ただ一緒に勉強するだけでなく、本気でぼくと付き合って欲しいって」
俺は驚いた。本間にそんな勇気があったなんて。俺も随分長い付き合いだが、本間は一度として女に告白などしたことがなかった。
「喜んだろう。おまえには言ってなかったが、祥子から聞いたところに寄ると、静香はおまえのことが好きだと言ってたらしいよ」
「本当か!? ・・・・でも違うんだ」
「どう違うんだ」
「泣きながら、わたしはあなたと付き合えない。わたしはあなたの期待に沿えない女なのと言うんだ」
「期待に沿えない女? どういう意味だ」
「それが分かったら苦労しないよ。次の日、静香は髪を切ってきたんだ。昨日も今日も、誘おうと思って待っていたのに、授業が済んだら、さっさと帰ってしまうんだ」
「おまえが振ったんじゃあないんだな」
「当たり前だろう。なあ、木村祥子とおまえは仲がいいんだろう? 木村から静香の本当の気持ちを聞いて貰ってくれないか?」
本間の目に涙が光っている。本間は本気で静香が好きになってしまったようだ。俺は静香が好きだ。本間と静香の橋渡しなど、墓穴を掘るようなものだ。しかし、本間のために、俺は何とかしてやりたいと思った。それが親友というものだし、本間のためには何でもやると決心していたからだ。
「分かった。何とかする」
何かがあったはずだ。そうでなければ、静香が本間の申し出を拒否するわけがない。期待に沿えない女? 訳が分からない。
俺はすぐに祥子に会って事情を話し、静香から原因を聞き出して貰うことにした。ところが・・・・。
「言わないのよねえ。今までこんな事はなかったんだけど・・・・。これまで、わたしには何でも話したのに。髪を切ったのは、ただの気分転換だって言うの。そんなはずはないと思うのだけど・・・・。ほんと、何があったのかしら」
「祥子はどう思う?」
「わたしにも分からないけど・・・・」
祥子は首を傾げた。
「ほんとに何も思い当たらないのか?」
「そう言えば、ひとつだけ思い当たるところがあるわ」
「何だ、何だ。聞かせてくれ」
「静香は、まだあれがないのよ」
「あれ? あれって何だ?」
「しんちゃん、勘が悪いのねえ。生理よ。生理」
「何だ、生理か。なくてもいいんじゃないのか。煩わしくなくて」
「煩わしいって言うのは問題じゃあないの。しんちゃんは男だから分からないだろうけど、生理は女である証拠なのよ」
「女である証拠?」
「そうよ。ちゃんと子供を産めるって事。大人の女だという証拠なのよ。まだ、始まってないと言うことは、静香は子供と同じだって事! 分かった? しんちゃん!」
「そうか。だけど、子供を産むなんて事はまだ先の話だろう? 今の俺たちには関係ないじゃないか。生理がなければ、避妊しなくていいのに」
「しんちゃんには、金輪際女の気持ちは分からないわね。うん、そう。絶対そうだわ。それなら、期待に沿えない女という意味が分かるわ」
「じゃあ、始まるまで待てばいいわけだ」
「それはそうだけど。もう、十六なのにねえ。小学生でも生理が始まってる子も多いっていうのに・・・・」
女の生理がいつ始まるかなんて気にもしたことがなかった。そう言えば、小学校四年の時、夕食に赤飯が用意され、少し俯きかげんの姉のそばに、母がにこにこしていたことがあったっけ。俺が何のお祝いなのと聞いたら、大人になったら分かるよと言われたんだった。あの時、姉は女になったんだ。
そうか、静香はまだ生理が始まっていないのだ。祥子の推理は間違いないだろう。そうに違いない。
「本間に伝えておくよ。もう少し待ってみるように。ところで、今日はどうなんだ」
「残念でした。今日は危険日」
「そうか。諦めるしかないな」
「でも、これするならいいわよ」
祥子が鞄の中からとりだしたものは、コンドームだった。
「ど、どこで手に入れたんだ? こんなもの」
「買ってきたのよ」
「買ってきた!?」
「そうよ。近くじゃ、いくら何でも恥ずかしいから、バスで出かけて、街の薬局で買ってきたのよ」
「女子高生にコンドームなんか売ってくれるのか?」
「私服で行ったからね。何にも言わないで、すぐ売ってくれたわよ。他にも女子高生らしい子が買ってたみたいよ」
「俺たちだけじゃあないんだ」
うまく着けられなくて、結局その日はできなかった。祥子は1個だけしか持ってきてなかったのだ。
翌日、本間に祥子の意見を伝えた。待てば解決するのだろうか? そう本間は呟いた。俺は、待てば解決するさと気軽に答えた。
本間の勘が当たるのだが、その件は後にしよう。