俺は今、スポットライトを浴びながら、雛壇へ向かってゆっくりと歩いている。俺の足取りはしっかりしたものだ。何しろ二回目だからな。もちろん今日は俺は新郎だよ。今回は婚姻届もしっかり書いたよ。指輪だって左の薬指にばっちりさ。
後ろについて来る新婦の夏美は、俺が静香としてこの道を歩いた時に比べると、ほとんど緊張していないように見える。雛壇に座るとき、友人たちにVサインを出していた。俺が夏美を見るとニッと笑った。
それにしても疲れる。仲人の、この下手くそな挨拶と祝辞は何とかならないのか。参ってしまう。前回と違うのは、料理をフランス料理のフルコースにしたことだ。変えるついでに、仲人なしにすれば良かったと思う。次回、そう、次回があれば、仲人なしでいこう。それがいい。
乾杯が済んで、テーブルの方を見ると、北条綾子が俺に向かって手を振ってきた。綾子は夏美公認の俺の愛人だ。今日は、松田聖子がデビューした当時のような格好をしている。それがまたよく似合っている。
夏美一筋って言ったのは嘘かって? すまん。綾子だけは別だ。綾子は特別だから許してくれ。許さないって? 仕方ないなあ。事情を話すよ。
綾子は性格は違うが、顔の感じは夏美によく似ている。まるで姉妹だ。いや、血がつながっているのだから似ていて当然だ。綾子は、小田京子つまり田岡道夫の妹の長男で、夏美の異父弟なのだ。そう、以前は男だった。俺より三つ年下で、俺と同じ小学校に通っていた。その頃から俺のことが好きだったらしい。
京子が高田伸太郎のために性転換したように、綾子は俺、本間伸太郎のために性転換したのだ。まったく、田岡の血筋の男たちはどうかしている。どうかしていると言えば、俺もだ。俺はそんな綾子が好きなんだからな。俺もちょっとおかしいのかな。
綾子が女として俺の前に姿を現したのは、ちょうど夏美と付き合い始めた頃で、あの時、祥子が浮気封じに京子を公認の愛人にしたように、今回も夏美は俺の浮気封じのために綾子を公認の愛人にしてくれたのだ。そう言うわけだ。京子の妹、和代の顔を写真で見たことがあると言ったよな。その写真は綾子に見せられたものだ。
しかし、大丈夫なんだろうか? 綾子の両親は、今この会場に京子の遠い親戚として出席している。綾子の母親は夏美の実の母親だからな。ふたりは、綾子が性転換して女になったことを知らない。あんな派手な格好をしていたら、ばれそうなのに、綾子は平気な顔をしている。ばれてもいいと思っているのだろうか? ああっ、綾子のやつ、マイクを持ってカラオケで青い珊瑚礁を歌い始めた。ほんと知らないぞ。あいつのことは何でも分かっていると思っていたのに、気持ちがまったく分からない。
俺のあの特殊能力はどうなったかって? 言いたくないことを聞かれたなあ。もう無くなっちまったよって言いたいんだが、健在だよ。祥子に言われたあとやってみて、できなかったから諦めていたんだけど、やっぱり十七歳になったらやれるようになったんだ。ただし、ただし悪用はしてないよ。前に両親の夫婦喧嘩の仲裁をしたって言ったよな。あんな風に使っているよ。川島にやったような悪戯はしてないってば。信じてくれよ。俺が高田伸太郎だったときも他には悪用してなかったろう? 悪さをすると罰が当たるんじゃないかと思っているんだ。また元に戻れなくなって、おかしな事になるんじゃないかとね。
結婚式も万歳三唱になった。さあ、今晩は頑張るぞ。
そう言うことで、話は終わりだ。性転換した美女を愛人に連れた、いい男が現れたら俺だ。見かけたら、声を掛けてくれ。じゃあな。