第15章 女よりも女らしい女

 疲れて少しうとうとしていると、京子は起きあがってバスルームに行ったようだ。シャワーの音を聞いているうちに俺は完全に眠り込んでいた。
 目を覚ますと、みそ汁の香りがした。ショーツ一枚の京子が遅い朝食を作っていた。時計はそろそろ午前十時を指すところだった。俺は起きあがって歯を磨いた。
 祥子が時々ここに泊まって、食事を作るから、一通りの道具はあった。しかし、冷蔵庫に大した材料は残っていなかったはずだった。テーブルの上には、茶碗に注がれた飯と、豆腐と揚げのみそ汁、卵焼きが並んでいた。
 「口に合うかなあ」
 そう言いながら、京子は俺の向かいに座って一緒に食べ始めた。信じられないくらい旨かった。
 「うん、旨いよ」
 俺はものも言わずに食事を頬張った。
 「料理が上手なんだね」
 「女として生きるために修行を怠ってないから」
 「へええ、料理以外のことも?」
 「そうよ。お裁縫だって、生け花だってできるのよ。和服もひとりで着られるわ。今時の若い女より何でも上手にできると思っているわ。わたしにできないのは子供を産むことだけよ」
 「凄いなあ」
 「全部、あなたのために覚えたのよ」
 俺はちょっと怖くなった。俺を愛しているからと言ってここまでやるのかと。しかし、京子の喜々とした顔を見ていると、このまま暮らしてやったら喜ぶだろうなと思い始めていた。そんな俺の心の中を知ってか知らずか、京子は続けた。
 「でも、一緒にいると、わたしの厭なところが出てくると思うの。だから、一緒に暮らしたいなんて言わないわ。時々でいいから、わたしのことを思い出した時に呼んでくれたらいいわ。すぐに来るわ」
 「おまえはいい女だ。おまえ以上にいい女はいないよ」
 京子は笑顔で片づけを始めた。都合のいい女。京子は俺にとってそんな女だ。
 「今日は、祥子さんはここに来ないの?」
 「祥子って?」
 「知ってるわよ。祥子さんがここに出入りしているのは」
 「知ってたのか」
 「もちろんよ。高校一年の体育祭の後からずっとでしょう?」
 「何でもお見通しだな」
 「あなたのことなら何でも知っているわ」
 どきりとした。まあ、あのことは知らないだろうけれど・・・・。
 「今日は来ないよ。研修旅行とかで、おとといから東京に行っている。帰ってくるのは明日の夕方だ」
 「じゃあ、ゆっくりしていっていいわね」
 「急に用事を切り上げて帰ってきたりするかもしれんよ」
 「あなたって意地悪ね」
 京子は口を尖らせた。
 「俺のことが好きなんだろう?」
 「そう。そんなところも含めて全部大好き!」
 京子は俺に抱きついてきた。俺のジュニアは、またもや復活した。京子と暮らしたら、俺はいっぺんに廃人になってしまう。本気でそう思った。

 さすがに今度は時間がかかった。終わると俺はベッドの上に大の字になった。
 「疲れたよ」
 「さすがのあなたも限界ね」
 「ああ、参ったよ。今朝から、五回だもんな」
 「わたしはまだまだ大丈夫よ」
 「女はいいな」
 「そう思う? あなたも女になってみる?」
 また、どきりとした。まさか知っているはずはない。
 「俺が女になったら、おまえが困るだろう? せっかく女になったのに」
 「それはそうね。これがなければ男じゃないからね」
 そう言いながら、京子は俺のジュニアを口に含んだ。止めてくれと言えなかった。もと男の強みだ。京子は男の急所を心得ている。また、復活してしまった。京子は遊ぶように俺のジュニアを離さない。とうとう俺は京子の口の中に放出してしまった。もちろん量的には少なかったようだが。
 「あなたのを味わうのは、久しぶりだわ」
 「6年ぶりだろうな」
 「もう、そんなに経つのね」
 二人でぼんやり抱き合っていると、電話が鳴った。
 「もしもし」
 《しんちゃん、わたし》
 祥子からだった。
 《もうすぐ着くから》
 「もうすぐって?」
 《おもしろくないから、帰ってきたの》
 「そうか」
 《もう30分くらいで駅に着くから、迎えに来てくれる?》
 「わかった。行くよ」
 《じゃあね》
 電話を切ると、京子が俺の顔を見た。
 「祥子さんからなのね?」
 「ああ。瓢箪からコマだ。帰ってくるそうだ。もう三十分で駅に着くらしい。迎えに来いと言ってきた」
 「じゃあ、今日はここまでね。電話してね。待ってるから。水曜日が休みだから、火曜の夜がベストだけどね」
 京子はそう言い残すと、急いで服を着て帰っていった。後ろ姿を見送りながら、京子は田岡じゃない。京子は、俺を愛してくれるひとりの女だ。そう思った。
 京子のいた痕跡を消して俺は祥子を迎えに出かけた。

 その夜、祥子に迫られることは分かっていたが、とてもできそうもなかった。浮気がばれるより、酔いすぎたらだめよと怒られる方がましだ。祥子が夕食の準備をしているうちから、俺はウイスキーをがぶ飲みして、食事も満足にしないまま、酔いつぶれた。
 期待して帰ってきた祥子はかなり腹を立てていたが、翌朝起き抜けに頑張って一発サービスしたら、とたんに機嫌が良くなった。祥子をコントロ−ルすることは簡単だ。もう付き合いが長いから、つぼは押さえてある。
 その後、京子とは祥子とのデートの合間を縫って、週に一回は会っている。ただ、祥子と会う約束の前日だけは避けている。何故かって。分かるだろう。京子と会えば、最低でも三回だ。理由は分からないが、京子とするとき、俺は十代に戻ったように元気になる。だから、次の日に祥子とできる訳がない。たとえできても絶対疑われる。どちらか一方にすればいいというのか? そんなことはできない。俺はどちらも愛している。