第10章 俺はあまねく女に愛を振りまく

 高校三年になった。本間は、甲斐という男と学年トップを競い合っていた。静香も十番以内にいた。俺は220番前後、祥子は190番前後をうろうろしていた。祥子は何とか国立に行けそうだが、俺は国立に行くのはちょっと厳しい状態だった。国立の方が親に経済的負担を掛けないのは分かっていたが、成績は伸び悩んだ。しかしまあ、入学時の成績を考えれば、ここまで来たのは奇跡と言うべきだろう。
 結局俺はあまり上等でない私立の土木工学科へ進んだ。土建屋の伯父には娘しかおらず、跡継ぎを欲しがっていた。その伯父が学費を出してくれたのだ。その私立を選んだのは、祥子が受かった国立大学に近かったからだ。本間は、東大の理Vに通り、医者への道を歩き始めた。静香は、医学部にも通るだけの実力があるのにも関わらず、看護婦になる道を選んだ。俺は、本間と同じ医者になって競い合うより、看護婦となって本間を助ける道を選んだのではないかと想像した。
 このころの俺は、静香のことがまだ好きだったが、本間と静香がうまくいくようにと願うようになっていた。

 学費を出した伯父が、励ましに来るというか、監視に来るというか、時々やって来るというので、祥子と同棲するわけにはいかなかった。祥子は女子学生専用のマンションに、俺は1Kの学生マンションに入った。祥子が週に二度ほど食事を作りに来て泊まっていくという生活を送った。
 祥子とのセックスにはそれなりに満足していたが、マンネリとなったセックスに飽きたらず、俺はつまみ食いを始めた。俺の通う大学には、女学生の多い、薬学部や文学部もあったから、引っかけるには事足らなかった。学園祭や合同コンパなど、機会を見つけては女を引っ張り込んだ。
 避妊にだけは充分注意した。酒を飲みながら伯父から聞いた話だが、若い頃、絶対大丈夫と言われて、避妊しなかったら、のちにできたから結婚してくれと迫られて困ったという。だから、俺はどんなことがあってもコンドームをした。それに処女らしい女は避けた。処女とすると付き纏われる恐れが高いからだ。
 祥子にはばれないようにやっていたのだが、女の勘は鋭い。ばれてしまうことが時々あった。しかし、素直に謝って抱いてやると機嫌が良くなった。
 ある時、連れ込んだ女が処女だった。絶対処女ではないと思ったのだが、俺の勘が外れた。女に結婚してくれと泣いて迫られた。どうしようかと困っていると、祥子がドアを開けて部屋に入ってきた。
 祥子は、女が俺の浮気相手だと知りながら何食わぬ顔で言った。
 「しんちゃん、この方どなた?」
 「あなたこそ誰よ!」
 女が金切り声で叫ぶように言った。
 「しんちゃんの妻ですけど」
 祥子はそう平然と言ってのけた。これには俺の方が驚いた。フィアンセならともかく、妻ですとは。
 「奥さん! 奥さんなの?」
 「そうですけど。それがどうかしました?」
 「高田さん! あなた、結婚されていたんですか?」
 「あっ、ああ」
 「酷いわ」
 そう言うと、女は泣きながら部屋を駆けだしていった。女が部屋から出ていくと、祥子は、急に目をつり上げた。
 「しんちゃんには、ほとほと愛想が尽きたわ。もう二度と来ませんから。さよなら」
 祥子は、俺の言い訳も聞かずに部屋から出ていった。いつもなら俺にくってかかって泣き叫ぶ。今日の祥子の態度からすると、二度と来ないと言う言葉は本気に違いない。祥子との仲ももう終わりかとさすがの俺も力を落とした。
 三日後、祥子がやってきた。いつもと変わりなく、台所で食事を作り、テーブルに並べた。祥子は何も言わなかった。俺は土下座して許しを乞った。
 「しんちゃん! 浮気は男の甲斐性だから、するなとは言わないわ。だけど、わたしの目の届かないところでして。いいわね?」
 「分かったよ」
 「絶対本気にならないでよ。本命はわたしよ。それだけは誓って!」
 「誓うよ。おまえを一生離さないよ」
 足枷がひとつ増えた。俺はもう祥子から逃げ出せそうもない。ずっと前からそうなんだけどな。

 俺はこの日を境に浮気を止めた。ははは、そんなことはないよ。俺は相変わらず、女を引っかけて回っている。もちろん、祥子にばれないように。『浮気は男の甲斐性だから』は祥子の本音ではないだろう。愛する男が他の女と寝るのを許すわけがない。祥子が怒るかもしれないが、祥子がしてもいいと言ったんだ。