俺と健二が夫婦同然に暮らしていることはみんなが知っている。しかし、健二が男であることは殆どの人間は知らない。俺や健二の同級生たちは知っているが、大分に残っているものは少ないし、敢えてそのことに触れようとするものもいなかった。
だけど、俺たちの弁当屋が繁盛し始めると、どこからともなく、健二が男であるという噂が飛び交うようになった。それまで来てくれていたお客さんが来なくなってしまった。否定できないだけに悔しい思いが募るばかりだ。
出る杭は打たれると言うけれど、まったく、人間不信に陥ってしまう。一体誰が流したのだろうか?
「勝手にさせておけば? 俺は何と言われようと構わないよ」
健二は、平気な顔をしてそう言う。幼い頃から男女と虐められてきた健二は、これくらいのことでは挫けないのだった。だけど、俺は負けそうだ。
「林さん。書留です。判をください」
「はあい。ちょっとお待ちになって」
誰からの書き留めだろうか? 健二に書き留めなど送ってくる人間はいないはずなのに。そう思っていると、健二がにこにこ顔で、俺に抱きついてきた。
「な、なんだよ。人が見ているじゃないか」
「ちょっと中に入りましょう」
健二は、奥の部屋に俺を引っ張り込んで、ドアに鍵をかけた。
「去年、わたしを一生愛してくれるって言ったわよね」
俺といるときは、男言葉なのに、女言葉で俺に話しかける健二に、ちょっとどぎまぎしていた。
「言ったかな?」
「言ったわよ!」
「おまえを愛してるとは言ったけど、一生とは言わなかった」
「ずっとって聞いたら、ハイって答えたわ。間違いないわ」
ハイとは言わなかったが、ま、それに近い返事をした覚えがある。
「分かった。分かった。で、どうしたんだ?」
「ホントにわたしを一生愛してくれる?」
「ああ」
「ホントに、ホント?」
「ホントだってば!」
俺はウンザリ顔で答えた。
「じゃあ、結婚してくれる?」
「なにい? おまえと結婚? 結婚なんてできるわけがないじゃないか。おまえは、・・・・男なんだぞ」
「それが違うの。わたし、女になったの」
「はあ?」
「ほら、これ、見て」
健二はにこにこ顔で、受け取った書留から取り出された書類を俺の目の前に差し出した。俺は書類に書かれた文字を目で追った。
「『決定事項通知書』? なに、なに? 『林健二の申し立てを承認し、性別と名の変更を認める』。おい、おい。まさか」
「言ったでしょう? わたし、戸籍上も女になったの。だから、あなたと結婚できるの」
「嘘だろう?」
「嘘じゃないわ。裁判所からの決定通知だから」
「信じられないよ」
「喜んでくれる?」
「・・・・まあ、喜ばしいことだけど・・・・」
「嬉しくないみたい・・・・」
「嬉しいさ」
「ホントに?」
「ああ」
「結婚してくれる?」
俺を躊躇わせていた大きな壁が取り除かれた。残りは、いくら戸籍が女になったとしても、元は男だ、ホモと同じだと言われることだ。しかし、健二が生まれたときから、ずっと言われ続けてきたことに比べれば、大したことじゃない。俺は、女の健二と結婚するのだから。
「勿論だとも」
そう答える以外の言葉を持たなかった。
「嬉しいわ。人生最高の時よ」
戸籍上、健二は、林健二・次男から、林忍・長女となった。今日から、俺は健二のことをもう健二と呼べない。忍。それが、今の名前だ。
忍と再会したときのことを思い出した。
俺は、浮気調査をしていて、ルームメイトに追い出された忍から情報を得ようとして忍に近づいた。カクテルを飲んだあと、忍に誘われてホテルに行った。
「わたしって、綺麗?」
そう言って、全裸になった忍は輝くばかりだった。抱き合って、キスをして、忍の全身を愛撫してやった。淡い陰毛の中に隠れていた小さな隆起を舌で転がし、膣から溢れ出る密を吸った。手術の傷なんて気が付かなかった。本物の女だと思っていた。
そうなのだ。忍は、俺と再会する1年前に性転換していたのだ。
「小川さん、わたしのこと、覚えてないの?」
ベッドの中でタバコを吸っていると、忍が俺にそう言った。
「えっ!? 覚えてないかって、どこかであったことがあるのかい?」
「わたし、あなたの高校の後輩なのよ」
「俺の高校の後輩? 何年後輩だ?」
「あなたが3年の時、わたしが1年だったわ」
「2年後輩かあ。・・・・覚えてないなあ。お前くらいの美人なら、忘れるはずはないんだが・・・・」
忍の顔を見ながら思い出そうとしてみたけれど、思い当たる女はいなかった。
「ホント? わたし、有名人なのよ」
「俺の高校に有名人なんていたかなあ」
「わたし以上に有名人はいないわよ。よく思い出して」
「2年後輩で有名人と言えば、あの男しか思い浮かばないけどな」
「その男の顔を思い出せる?」
そう言われて、あの男の顔を必死になって思い出した。
「その男は、女装美人コンテストで優勝して・・・・、名前は・・・・」
「林健二」
「そうそう。林健二。その後、ずっとセーラー服で通ってた」
「その林健二の顔をよく思い出して」
俺は忍の顔を見て首を傾げた。
「わかった? わたしが、その林健二なのよ」
「嘘だろう? 林は男だ。お前は女じゃないか」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
そう言って、忍はにっこり笑った。
「冗談言うなよ。確かにお前は林健二に似ているけど、お前は女だ。俺を騙そうったって、無駄だぜ」
「騙してなんかいないわ。わたし、性転換したの」
「性転換!? 信じらんないよ。性転換したからって、俺が気が付かないほどそっくりにできるもんか!」
「でも事実なの。その気になって、よーく見れば、分かるわ」
忍の顔をもう一度よく見た。嘘や冗談でそんなことを言っているのではないようだ。
「もう一度見せてくれ!」
「もう一度やってくれるのなら、見せてあげてもいいわ」
「一度でも二度でもやってやるさ」
その時はホントはまだ信じていなかった。愛撫しながら、両足を開いた忍の股間に顔を埋めてよくよく見た。陰毛の中にわずかに傷があった。クリトリスも、少し形が違っていた。しかし、それと聞かされなければ、ぜんぜん気づかない程度の違いだった。
「信じられない・・・・」
本物の女じゃないと分かったのに、俺はかえって興奮していた。俺は再び、忍の中で果てた。
「信じてもらえた?」
「あ、ああ」
「わたし、女としての機能はどうだった?」
「最高だったよ。並の女以上だ」
「ホントに?」
「ホントさ」
これは事実だ。フェラに仕方などは勿論、膣の締め付けの強さは、プロの女顔負けだった。
「わたし、初めてなの」
忍は、恥ずかしそうにそう呟いた。
「なに!?」
「男としてもセックスしたことないんだけど、女になってからも、セックスしたのは今日が初めてなの」
「しょ、処女だったって言うのか?」
「そうよ。あなたに処女をあげたのよ」
忍は俺に向かってにっこり微笑む。
「どうして・・・・」
「あなた、わたしのこと、ずっと見てたでしょう?」
「そ、そんなことないよ」
「嘘! ちゃんと知ってるんだから」
確かに言われるとおりだ。俺は、セーラー服で通ってくる可愛らしい男の子、林健二に欲情していた。
「わたしもあなたのことが好きだったの」
「ええっ!!」
「体育祭でのあなたの活躍を見て、いっぺんに好きになったの」
俺は、高校3年の体育祭の時、応援団長をしていたのだ。
「今日、こうなれて嬉しいわ」
忍は、うっとりとした目を俺に向けた。
「初めての男は、あなただったらいいなって思ってたの」
「俺と今日出会ったのは偶然か?」
「偶然よ。だけど、これは神様のお導きよ」
「神様のお導き・・・・」
「そうよ。これは赤い糸よ」
赤い糸は、とうとう完全に繋がってしまった。忍が性転換して女になったことを抜きにしても、処女であった忍と関係し、その後3年以上も同棲していて、今更別れるなんてことを男として言えるはずはなかった。俺もかなりいい加減なことをやってきたけれど、男としての筋は通さなければならない。俺は忍と結婚せざるを得ない。
忍と結婚することに別に不満はない。女としての機能は最高だし、何より俺のことを心から愛してくれているからだ。
「こども、産んであげられないけど、それだけは悪いと思ってるわ」
「俺がこども嫌いなことは知ってるだろう?」
「ホントは欲しいんでしょう?」
「お前は俺と結婚したくないのか?」
「そんなこと、ないわ」
「じゃあ、それ以上、言うな。俺はおまえを愛している。おまえは俺を愛している。それでいいじゃないか」
「ホントにいいのね」
「初めから子供ができないと分かってりゃ、変に悩むこともないだろう?」
「それはそうだけど・・・・。ホントに後悔しない?」
「男に二言はない!」
そう言うわけで、俺と忍は合意できたけど、問題は親たちだ。特に俺の両親が問題だ。
俺の両親は後回しにして、まず忍の両親から説得することにした。忍の父親が家にいるという日を選んで、手みやげを抱えて忍の家を尋ねた。結婚の申し込みをすると、予想していた返事が返ってきた。
「小川君。本気なのかね? 健二、イヤ、忍は、今は一応女だが、以前は男だったのだよ」
「はい。それを承知で、お願いにあがりました」
「ホントによろしいの?」
母親も怪訝そうに横から口を出した。
「小さい頃はともかく、今は立派な女ですし、今回、戸籍の変更も認められたことですから」
「それは、そうですけど・・・・」
「ぼくたちが一緒に暮らしていることは、もうご存じでしょう?」
「は、はあ」
「心配されなくても、忍さんは、本物の女以上に女です。ぼくは忍さんを心から愛していますし、忍さんも、ぼくのことを愛してくれています」
本物の女以上に、あそこの機能もすばらしいと、喉まで出かかったけど止めた。そんなこと、両親に言うことじゃない。
「ホントにいいんだね」
「はい」
「でも、小川さんのご両親は?」
忍の母親が心配そうに俺の顔をのぞき込んだ。
「これから家に帰って説得します。説得できなくても、結婚はします。結婚するのは、ぼくですから」
「そこまで言ってもらえるのなら・・・・。忍。いいんだね?」
「はい。勿論です。わたしが選んだ人ですから」
それまで、俺の申し出を本気にしていなかった忍の両親の喜びようと言ったらなかった。最大の難関は俺の両親だ。しかし、あたって砕けるしかない。
絶対反対するだろうと思うと気が重たかった。許可を得ずに婚姻届を出してしまってから、両親に話そうとも思った。しかし、できれば、きちんとした手順を踏みたかった。
俺は、玄関のドアに手をかけてから、一度大きな息を吸ってドアを引いた。
「ただいま」
「あら? お帰り」
奥から母が手を拭きながら出てきた。
「母さん、忍だよ。一緒に暮らしているのは知ってるだろう?」
「え、ええ」
「初めまして。林忍です。これ、つまらないものですけど」
忍も手みやげを俺の母に手渡した。
「父さん、いる?」
「居間にいるわよ」
「忍を紹介したいんだ。応接間に来て貰って、いい?」
「紹介って? あ、あら? そう言うことなの? ちょ、ちょっと待って。すぐに応接間に行くように言うわ」
「頼んだよ。忍。応接間へ行こう」
「はい」
忍はいつになく殊勝にしている。借りてきた猫のようだ。応接間で待っていると、父が咳払いをしながら入ってきた。
「で、どう言うことだ?」
「紹介するよ。林忍さん。いま一緒に暮らしている」
「一緒に暮らしているのは知っているが・・・・」
父も噂を耳にしているようだ。あんまりいい顔はしていない。
「もう3年、一緒にいるんだ。彼女のために正式に結婚しようと思うんだ」
「結婚!? 結婚なんてできるのか?」
「できるさ。どうしてそんなことを言うんだよ」
父は口ごもった。それから、声を落としていった。
「ある噂を耳にしているものだからな」
やっぱり噂を聞いている。しかし、俺はそんなことには動ぜずに話を続けた。
「忍が、男だって言う噂だろう?」
「そ、そうだ」
「忍が男に見えるか?」
「・・・・見えない。可愛らしいお嬢さんだ」
「そうだろう? 戸籍も女だし」
俺は、戸籍謄本を父に手渡した。今からが勝負だ。父は戸籍謄本を開いた。それから目を丸くして戸籍謄本を穴が開くほど見詰めた。
「どう言うことだ!! この、次男が消してあって、長女になっているのは!?」
「父さん。噂はホントなんだ。忍は、生まれたときは男だった。だけど、性転換したんだ」
父は目を見張った。
「今は、父さんが認めるように、忍はどこから見ても女だ。外見だけじゃなく、ちゃんと夜の生活もできるようになっている」
忍は真っ赤になって下を向いた。
「裁判所も、忍は女だと認めたんだ」
「ゆ、許さん! いくら戸籍が女で、夜の生活ができようとも、男は男だ」
「違うよ。男だったのは、過去のことだ。今は女だってば」
「詭弁は通用せん。だめだと言ったら、だめだ」
「そうですよ。わたしも許しませんからね。そんなこと、世間が許さないわよ。男が男と結婚するなんて」
「だから、忍は今は女なんだって」
「だめだ」
二人でだめだ、だめだの大合唱。しかし、俺はめげない。
「反対されたって、俺は忍と結婚する。俺は忍を愛している。忍以上に愛する女は絶対現れないからだよ」
「勝手にしろ! その代わり、もう二度と小川の敷居をまたぐな。いいな」
「勘当って訳だな。いいよ。覚悟の上だよ。忍のためなら、勘当だって何だって受けてやるよ」
忍が俺を見つめる目は、俺の言葉に感動したって言う目だった。あ、別に駄洒落を言ってるわけじゃないよ。
やったね。俺は男としての筋を通した。
俺は忍の手を引いて家を出た。
「いいの?」
「何が?」
「勘当されちゃったのよ」
「昔の勘当と違って、何の効力もないんだから、心配しなくていいよ。できれば、うちの両親にも祝福して貰いたかったけど、こうなったら仕方がない。忍の両親だけを呼んで結婚式を挙げよう」
「・・・・何とか許してもらえないかしら?」
「あの剣幕じゃあ、だめだろうね」
「やっぱり、結婚、止めようよ」
「どうしてだよ」
「あなたのご両親に祝福されないのなら、止めた方が・・・・」
「大丈夫だって。世の中には、親に祝福されないカップルはいくらでもいるんだ。そのうち許してくれるさ」
「あなた。ホントに強いのね」
「忍ほどじゃない。忍の歩いた道に比べれば、大したことないよ」
「剛!! 大好きよ」
「人が見てるよ!!」
俺が止めるのも無視して、忍は道の真ん中で俺にキスしてきた。悪い気はしなかった。
忍が、高校1年の学園祭のあと、セーラー服で通学を始めたことを、忍の両親は当然知らなかった。しばらくして、街で噂になっていることを誰かから聞かされ、激怒して止めさせようとしたらしい。しかし、家を出るときは学生服を着ていても、登校途中でセーラー服に着替えるものだから、止めようがなかった。
高校を卒業してから、女になりたいと忍が言い出したとき、両親は当たり前のことながら猛反対をしたが、これも止められなかった。
女性ホルモンを飲んで、次第に女っぽくなっていく忍を見て、母親は泣き、父親はぶった。2年くらいその状態が続いたそうだが、初めに母親が折れてきた。
「母がわたしの気持ちを分かってくれたとき、ホントに嬉しかった」
忍は、その話しをするたびに涙を流した。その頃には、父親も諦めて、忍をぶつようなことはなくなったが、今度は無視するようになった。その父が、忍を許したのは、ごく最近で、つまりは女の戸籍を手に入れてからだ。
さて、俺の両親はいつになったら許してくれるのだろうか? 許してくれなくたって、俺は忍を結婚するつもりだ。だから、式の準備を進めていった。
案内状を送る頃になって、父が折れてきた。さすがに男同士だ。俺の気持ちを分かってくれたのだ。しかし、母は頑なに結婚を許してはくれなかった。
男は結婚を決意するとき、愛した女にそばにいて欲しいと願う。勿論女もそうだろうけれど、男はそれだけだ。それに対して、女は違う。さらに愛する男の子どもを産みたいと願う。母としては、子供を産めない忍との結婚をどうしても許せなかったのだろう。
式の前日、忍は、父に頼んでこっそり俺の実家に行って、母が入っている浴室に裸になって入っていった。
「裸の付き合いって言うでしょう?」
浴室に入る前、忍は俺にそう言った。浴室の中で忍が母に何を話したのか語らなかった。しかし、俺にはおおよそ分かっている。俺には忍の心が分かるからだ。
俺が忍だったら、母にすべてをさらけ出す。母と体の構造が変わらないことを示す。その上で、子供を産めないことの許しを請う。
「女に生まれていたら、子供を産んであげられたのに、わたしは剛さんの子供を産んであげられない。そんなわたしを愛してくれている剛さんに感謝しています。こどもが産めない分、わたしの愛情をすべて剛さんに捧げます。一生涯、わたしは剛さんを愛します。どうか、わたしたちの結婚を許してください」
まあ、こんなことを母に言っただろうと想像している。
結婚式の当日、母は付下げを着て、式場に現れた。忍が手渡した花束を涙一杯浮かべて受け取ってくれたとき、ああ母も許してくれたと俺は母に感謝した。
新郎の挨拶の時、俺はちょっとした嘘を付いた。
「本日はお忙しい中、ぼくたちの結婚式に来ていただいてありがとうございます。この会場にいる方々の大抵の人が知っているように、忍は、つい最近まで男として戸籍に登録されていました。忍が男から女に性転換したと理解されている方々が多いと思いますが、実は、忍はもともと女なのです」
ここで、エエッと言う驚きの声が挙がった。
「幼い頃の忍を知っているご親戚の方々が一番ご存じでしょう。あのころの忍が男に見えたでしょうか? そうでしょう? 生まれたときに、あのう、女の、あのう、分かるでしょう? 女の敏感な部分が少し大きくて、男だと誤認されたのです。高校1年の秋になって、女としての性徴が現れてきたために、忍はセーラー服を着始めたのです」
なるほどと言う声。
「4年前、忍は手術を受けて、女の体に戻りました。もともと女だったのですから、裁判所も簡単に戸籍の変更を認めてくれました」
実は簡単じゃなかったらしいのだけど、『簡単に』で済ませてしまった。
「戸籍の変更に4年もかかったのに、簡単になんてないわよ」
と、その夜ベッドの中で怒られてしまったのだが、
「他に言いようがあったのか?」
との、俺の言葉に忍は納得してくれた。
「そう言うことで、晴れて今日の式となったわけです。今日から、ふたりで力を合わせて、幸せな家庭を作ろうと思っています。どうか、今日ご出席のみなさん、ぼくたちにご指導ご鞭撻をよろしくお願いいたします」
ごく一部の人間を除けば、俺の言葉を信じたようだ。ごく一部とは、俺と忍の両親たちだ。
新婚旅行は、定番のハワイ。
「もっと稼いだら、ヨーロッパ旅行でも行こうよ」
忍がそう言うのだけれど、いつになることやら。
新婚旅行から帰ると、忍は地方紙に広告を出した。
『結婚記念半額セール。本日より10日間、すべての弁当を半額奉仕!!』
しかも、店頭に俺たちの結婚写真をでかでかと貼りだしたのだ。
「ご結婚おめでとう」
弁当を買いに来てくれた人たちが、口々にそう言った。
「忍さんが男だなんて、ライバル会社の策略ね」
俺は、笑顔で頷いた。横を見ると、忍が俺に微笑みかける。俺はなんて幸せ者だ。こんなに働き者で、可愛い女を嫁にもらえるなんて。