バスルームから聞こえる水音を聞きながら、進の女装姿を想像していた。コンピューター上では、仮想女装をさせてみたことがある。
いろいろなウイッグの中から、進に似合うものを探し、アイシャドウ、チーク、ルージュを施してみた。
(モニター上では、結構可愛くできていたけど、実際にどうなるか楽しみだわ)
わたしはワクワクしていた。
「洗ったよ」
腰にタオルを巻いて進が出てきた。
「さっきは撫で付けていたから気づかなかったけど、かなり伸びているわね」
進は、まだ濡れている髪の毛を手で触って確かめる。
「カットしなくても女に見えるかもね」
「そうかもしれないけど、そんな髪型の女はいないわ」
進は肩をすくめた。
「じゃあ、そこの椅子に座って」
「大丈夫なの? 変な髪型にならない?」
ちょっと不安げにわたしの顔を見上げた。
「わたしの腕を信じなさい」
わたしは、生乾きの髪の毛をブラッシングしてから、櫛で髪の毛を真中で分けた。
「さて、そうだな・・・・」
前髪を下ろして、目の高さで切りそろえ、横と後ろの長さをそろえた。
「もう一度さっと洗い流してきて」
「わかったよ」
再びバスルームから水音。しばらくして、腰にバスタオルの進が髪の毛を拭きながら出てきた。
「ブローしてあげるわ」
椅子に腰掛けた進の髪の毛を、ドライヤーで乾かしながら、ブラシで内巻きにセットしてやった。
「はい、一丁上がり」
進は頭を左右に振って髪の毛を揺らしてみている。
「うまいね。ほんとに女の子みたい」
わたしもそう思っていた。化粧しなくても進は充分女の子に見える。
「化粧するから、髭を剃って」
「髭なんかほとんどないよ」
進の顔にはほとんど髭がない。だけど、全然ないわけじゃない。
「男としては薄い方だけど、女だったらおかしいわ」
「そうか・・・・。じゃあ、剃ってくるよ」
髭を剃って戻ってくると、先ほどよりもっと女の子らしく見えた。
「目を瞑って。まず眉毛を整えるわ」
「整えるって、どうするんだよ」
「女の子らしくするだけよ」
「志穂くらい?」
「そうよ」
わたしの眉はそんなに細くはしていない。進はわたしの眉毛を見て安心しているようだけど、もっと細く女らしくしてやるつもりだ。切ってしまえば、もう元には戻せない。
「仕事にいけなくなるような眉毛にはしないでよね」
「わかってるって」
そう言いながらも、わたしは剃刀とはさみを使って、進の眉毛を細い山形に整えた。
「さあ、化粧を始めるわよ」
「どうぞ」
開き直ったようにぼそりと返事をした。
「まず化粧水でお肌を整えてと・・・・」
女性ホルモンを飲ませているせいか、進の肌は艶が良く、化粧のノリが良かった。キャンバスに絵の具を塗るように、わたしは化粧を進めていった。
「最後に口紅を塗るわよ。少し口を開いて」
オレンジ色の口紅を塗って化粧が終わった。わたしは、少し離れて進の化粧した顔を見た。
(進って、化粧するとこんなに綺麗になるんだ・・・・)
しばらく忘れていた女の感情が、わたしの心の中に沸いてきた。それは、嫉妬という感情、女が自分より綺麗な女を見たときに覚える感情だ。
(わたしって馬鹿ね。進は男なのに)
自分の中に生まれた嫉妬心を慌てて打ち消した。
「もう、いいの?」
「え、ええ。もう目を開けてもいいわよ」
進はゆっくりと目を開いて、鏡を見た。
「うそ・・・・」
進は、唖然として自分の化粧した顔の写った鏡を見つめていた。そして、突然恥ずかしそうな顔をして、露わになった胸を両手で押さえた。
(胸を隠すなんて、進は女みたいな反応をしている)
ちょっと可笑しかった。そう思いながら、ふと見ると、腰に巻いたバスタオルの股間が盛り上がっていた。
(やだ。進ったら、化粧した自分に欲情している)
わたしの視線に気づいて、進は慌てて右手を股間にやった。
「ふふふ。あなたが何にもしないで勃起するのは久しぶりね」
久しぶりじゃない。わたしは初めて見た。
「・・・・見ないでくれよ。恥ずかしいじゃないか」
進は体を女の子のように捩った。
「可愛いわ」
わたしは、ドレッサーのスツールの上から、そばのベッドの上に進を押し倒した。進の股間のものに女のわたしが反応したんじゃなくて、女のような反応を見せる進にわたしの中の男が反応したのだ。
進も期待しているのか抵抗しなかった。
(キスしたいけど、せっかく綺麗に仕上がった化粧が崩れてしまうもんね)
わたしは、進の右の乳首に唇を持っていって舌で転がし、右手で進の左の乳首をつまんだ。進は、すぐに小さくうめき声をあげた。
「あん。ううん・・・・」
右手を進の股間に持っていくと、そこはガチガチに硬くなったペニスがそそり立っていた。
(進のこんなの初めて・・・・)
進は腰を浮かせて悶える。その反応は、進のペニスを見なければ、まるで女のようだった。
フェラチオなんて、やってあげたことはほとんどなかったけれど、今日しなかったらもう二度として上げられないような気がして、わたしはその雄雄しくせり上がった進のペニスを口に含んだ。
「ああ、いい・・・・」
進は声を漏らす。舐めまわし、ゆっくりしごきながら吸ってやると、わずかにしょっぱい液体が先端から湧き出てくるのを感じた。このころには、わたしもすっかり準備ができていた。
(進を受け入れると、わたしは女に戻ってしまう)
そうは思ったけれど、自分の衝動を止められなかった。
(女を捨てたつもりだったけど、わたしにはまだ女の感情が残っている)
わたしは、ワンピースのスカートを捲り上げてショーツを下ろし、進の上にまたがって、腰を沈めて受け入れた。
(ほんとはこれが本来ある姿なんだけど・・・・)
しかし、進の顔を見ると、そんな思いは消し飛んだ。目の前にいる進は、完全に女に見えた。わたしは、まるで進を犯しているかのように腰を動かした。
「ああ、いい。行く、行く、行くよ・・・・」
進がわたしの中ではねたと思うのだけれど、わたしにそんな感覚はなく、わたしが進の中に射精したような錯覚を覚えていた。
しばらく抱き合ってまどろんでいた。ふと時計を見ると、4時半を回っていた。
「大変。早く準備しなくちゃ」
進を起こして準備を続けた。
「これ、はいて」
「ほんとに、これはくの?」
進はレースの飾りのついた白いショーツを目の前にかざす。
「スカートが短いんだから、スカートの下からトランクスが見えたらおかしいでしょう?」
口を尖らせながら、ショーツをはいた。
「それだけじゃ、やっぱり膨らみがわかるわね。・・・・これもはいて」
「これは・・・・」
「ガードルよ。そうね。進、ペニスを後ろに回して、はいてみて」
「わかったよ」
ガードルをあげると、ペニスの存在はほとんどわからなくなった。
「次はブラね。まず、これをつけて」
「なに? これ? 人工乳房なの?」
「そうよ。シリコン製。高かったのよ」
「仮装パーティーのためにこんなもの用意したの?」
それだけじゃなかったけれど、そうだと答えざるを得ない。
「やるときは徹底する。これがわたしの信条よ」
「そうだったっけ・・・・」
「裏につけたのりが乾くまで、しっかり押さえていてね」
「うん」
両手で乳房を押さえているように見えた。下半身の余計な隆起も見えないから、進はほんとに女に見える。
「さあ、もういいでしょう。これをつけて」
「なんだよ、これは?」
「ロングラインブラって言うのよ。これだと、ブラがずれたりしないからね。それにブラの下の部分が細く見せるためのコルセットみたいな役割もするのよ」
「なるほど」
手伝ってやって着せてやった。
「苦しいよ」
「少しは我慢してよ」
「女はみんなこんなことするの?」
「わたしはしないけど、世の中の女は、結構やってるわよ」
「女は我慢強い・・・・」
恐らく、進の言う通りだろう。
「次、ガーターね。着けたら、ストッキングを履いて。薄いから、破らないようにね」
進は黙って支度を続ける。脛毛はあるけれど、それほど目立たない。
(剃ってもらってもいいけど、女でもこれくらいの脛毛の女はいるからね)
「はい、スカート。はい、上着を着て」
わたしは次から次へと衣装を進に手渡していった。すべての衣装を着終わった。目の前にいる進は、ほんとに男かいなと思ってしまう。
「鏡、見てみる?」
「うん」
進は、鏡に向かって、いろいろとポーズを取って自分の姿を見つめていた。
「完璧だね。ボクって、結構可愛いじゃない?」
水面に映った自分の顔にうっとりとするナルシスのような、うっとりとした表情をわたしに向けた。
「言葉遣いに気をつけたらね」
なんだかちょっと腹が立って突っ慳貪にわたしはそう言った。
「あ、そうだね。少し声を高くして、あああ。どう? 似合うかしら?」
「ハイハイ、お嬢様。よくお似合いで」
このナルシストめと心の中で思っていた。
「ありがと」
小首を傾げて、笑顔を見せた進は、ほんとに女そのものに見えた。
「髪の毛をもう少しあたりましょう」
「どうするの?」
「リボンをつけましょう」
左右の髪の毛をゴムで止めて、長いリボンを結んだ。
「これでほんとに完璧よ」
「うん。これならいいわ」
進は完全に女になりきっている。
「スカートが短いから、膝をそろえてショーツが見えないようにするのよ」
「わかったわ」
「わたしも着替えるから、あなたは立ったり座ったりする練習をしていて」
「ええ。そうするわ」
ほんとに女の子を相手に話しているような錯覚を覚える。わたしは、進をリビングに追い出すと、ウイッグを脱いで早速着替えを始めた。
擬似ペニス入りのサポータ、トランクス、バストバンド、靴下、ワイシャツ、ネクタイ、ズボンにタキシードの上着。簡単に用意ができた。
「お待たせ」
進がわたしの姿を見て唖然とする。
「か、髪の毛は?」
「切ったよ。この日のためにね」
「志穂じゃないみたい」
「あれ? 志穂は君で、ぼくは進だよ」
「そうか。そう言うことにするんだね。これなら、みんなを騙せそうね」
「そうだろう? どうだ? ぼくの立てた計画は?」
「きっと拍手喝采ね」
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。わたしたちはビックリして飛び上がった。
「だ、だれ?」
「さあ、ぼくが出てみるよ」
わたしは、進を寝室に押しやってから玄関へ向かった。
「はい、どなた?」
玄関の前にいる人物には男、進には女に聞こえるように、男とも女ともつかない声を出す。
「戸村です。車で行きますから、一緒に出ませんか?」
戸村夫婦と一緒に出たら、せっかくここまで順調に進んだ計画が進にばれてしまう。
「ありがとうございます。まだ準備が整ってないんです。先に行っていただいてよろしいですか?」
「そうですか。少しなら待ちますけど」
「時間ぎりぎりになりそうです。ご迷惑をおかけしそうなので、お先に行かれてください」
「じゃあ、先に行ってます。遅刻しないようにね」
「はい」
階段を下っていく足音が遠ざかっていった。ホッと胸をなでおろした。
「誰?」
「お向かいの戸村さん」
「準備はできているから、一緒に行けばよかったのに」
「一緒に行ったら、入れ替わっているのがばれてしまうだろう? 会場に着くまでは誰にもこの演出を知られたくないんだよ」
戸村夫妻は、わたしが原田進だと思っている。車でいっしょに行ったりしたら、そうでないことがばれてしまう恐れがあるのだ。
「なるほどね」
「会場までは、タクシーで10分くらいだから、タクシーが車での時間も考えて、あと10分したら、タクシーを呼ぼう」
「わかったわ」
「それまで、タクシーへ乗り込むときの動作の練習をしようよ」
「うん」