第2章 わたし、レズです

 生理がくるたびに、わたしは女なんだと思い知らされる。わたしの意に反して、ゆっくりではあるけれど確実に大きくなっていく胸もわたしを憂鬱にさせた。
 (ここままわたしは、完全に女になってしまって、やがて結婚して子供を産むことになってしまうのだろうか?)
 そう思うと、死にたい気分になる。

 そんなある日のこと、東京女子駅伝のテレビ放送を見ていて、ふと気づいた。
 (運動する女の子にデカパイはいないんだ)
 そう思って、周りを見回してみると、クラブ活動を遊びでやっている女の子にデカパイはいても、県体に出ようかと言う女の子にデカパイは珍しかった。
 (これだ。これだ)
 わたしは、合気道はもちろんのこと、より運動量の多い剣道に打ち込んだ。お陰で合気道も剣道も2段を取ることができたけれど、お母さんがデカパイのせいか、わたしの胸は大きくなりつづけていた。

 中学2年の正月のこと、正月番組を見ていたわたしは、テレビの画面にくぎ付けになった。男と女の境界線を見つけるという番組なのだけれど、どう見てもみんな男に見えるのだ。興味津々で画面に食い入っていた。
 「はい。AとB、EとFの間が境界線でした」
 そんな解答を聞いて、わたしは思わず声をあげた。
 「うそ・・・・」
 わたしの予想とまったく違っていたのだ。どう見ても男に見える人物の、昔の写真と免許証が披露された。中には一時女として結婚していたことのある人物も含まれていた。
 「信じられない・・・・」
 (わたしも、ああなりたい)
 心の中でそう決めた。

 とは言ってもそう簡単ではない。
 「わたし、男になりたい」
 なんて両親に言っても、冗談だと思われるだろうし、許してくれるわけがない。家を出て男性ホルモンを飲むか? わたしは、まだ中学2年生。一人じゃ生きてけない。じゃあ、どうするか?
 (少なくとも高校を卒業するまでは我慢しなければならないんだけど・・・・。それまでになにかしておくことはないかな?)

 「お父さん、パソコン借りてもいい?」
 「いいが、壊すなよ」
 「はあい」
 父や母が家にいないときを狙ってインターネットに接続した。
 「男性ホルモン、男性ホルモン」
 検索結果が画面に表示された。
 「注射はだめだからね」
 飲み薬は2種類。メチルテストステロンとフルオキシメステロン。フルオキシメステロンの方が、効果が強いようだけど、あんまり目立ってもいけない。メチルテストステロンを選んだ。
 この日のために貯めておいたお小遣いやお年玉を使って、メチルテストステロンをインターネットで注文した。
 お父さんにばれないように、履歴は完全に消しておいた。

 「志穂。外国から小包がきてるけど、心当たりがある?」
 2週間ほどしたある日、学校から帰ってくると、母が包みを抱えてわたしに手渡した。
 「ああ、ダイエット用の薬だよ」
 わたしは茶色の大きな封筒を受け取った。
 「ダイエット? へえ、志穂がダイエットに興味を持つようになったの。へえ・・・・。あんた、まさか、ボーイフレンドでもできたんじゃないの?」
 「違う、違う」
 わたしは小包というか封筒というか、男性ホルモンが入っているだろう包みを抱えて部屋に入り、ドアに鍵をかけた。
 (胸がどきどきする)
 興奮で心臓がのどから飛び出てきそうだ。包みを開くと白い錠剤と英語で書かれた効能書きが入っていた。辞書を片手に書かれている内容を調べてみた。
 (女が飲むと、嗄声、多毛、座瘡、色素沈着、月経異常、陰核肥大、性欲亢進! へえ・・・・。肝機能異常、悪心、嘔吐、食欲不振か・・・・)
 一通り調べ終えて、錠剤をじっと見つめた。
 (子供を産めなくなっちゃうかもしれないけどなあ・・・・。わたしはかまわないけど、お父さんやお母さんが悲しむかなあ・・・・)
 すぐには決心はつかなかった。一週間悩んだ。悩んだ末に行き着いた結論は・・・・。
 (わたし、やっぱり女でいたくない)
 わたしは、錠剤を飲み始めた。ただ、急速に変化が出ないように錠剤を半分に割った。

 気分が悪い。初めて生理があった日のようだ。
 (半分じゃなくて、1錠飲んでいたら、もっと気分が悪いのかも)
 気分が悪かったのは一日だけだった。その後は、なんとなく弾んだ気分だった。半錠のせいか、副作用らしいものは出てこなかった。ただ、生理が乱れ始め、中学校3年の夏休みころには、殆ど止まってしまった。
 生理がなくなってしまったけれど、親にばれないように毎月一回サニタリーをつけて誤魔化した。
 胸の発達も止まり、やや縮んだようだ。Aカップ近かったのに、AAになってしまった。だけど悲しいなんて思わなかった。
 「志穂。あんたの胸、大きくならないわね」
 母が心配そうに尋ねる。
 「お母さんはデカパイだけど、おばさんはペチャでしょう? わたし、そっちの血を引いたのよ」
 「そうかしらねえ」
 「そうよ。小さくたって大丈夫よ。おばさんだって、みちるを生んだときには、怖いくらい大きくなっていたもんね」
 みちると言うのは、わたしの従弟だ。
 「そうね。小さくてもおっぱいがきちんと出れば問題ないわね」
 「そういうこと」
 母は、首をかしげながらも納得したようだ。

 学校の成績は、中の上といったところだったけど、運動部枠の推薦で高校に合格することができた。
 「先輩、高校合格おめでとう」
 神取つかさは、相変わらずわたしに付きまとっている。だけど、昔と違うのは、わたしがそれを拒否しないと言うこと。いやむしろわたしは、彼女を積極的に受け入れている。
 腰まで伸ばしたつややかな髪の毛。パッチリとした大きな黒い瞳。ちょっと上を向いた可愛らしい鼻。真っ赤な小さな唇。中学では、男子生徒の憧れの的の神取つかさ。その彼女をわたしは手に入れたのだ。

 あれは、半年ほど前のことだった。
 お父さんはまだ仕事。お母さんは街へ買い物へ出かけた。わたしと神取つかさが、一緒にいることはお母さんも知っていた。だけど、女の子同士だからまさかと思っていたに違いない。
 わたしたちは、わたしのベッドに並んで腰掛けて、1時間ほどおしゃべりをした。話しが途切れたとき、わたしより小さな彼女がわたしを見上げた。彼女があごを上げて目をつぶったとき、わたしは自然に彼女に唇を合わせていた。
 最初はただ唇を合わせていただけだった。そうするうちにしっかりと抱き合って、互いに舌を吸い始めた。
 「先輩、好きです」
 「わたしもよ」
 「ほんとに?」
 「ああ」
 「嬉しい」
 家に中に誰もいないことをいいことに、行為はエスカレートしていった。わたしは、彼女の首筋や耳たぶに舌を這わせながら、彼女の着ていた服を一枚一枚脱がせていった。
 (わたしの身につけている下着とはずいぶん違うな)
 わたしはほとんど白一色の下着しか身に付けないけれど、彼女が身に付けていたのは、ピンクでレースがあしらわれたかわいいデザインのものだった。
 「大きいんだね」
 「恥ずかしいわ」
 「そんなことないよ。綺麗だよ」
 もしかすると、わたしもこんな風になっていたかもしれないなと思いながら、彼女の大きな胸に舌を這わせ、乳首を転がした。
 彼女の真っ白な体は、わたしと違ってすごく柔らかかった。
 (これが女の体なんだな。わたしの体とはずいぶん違う。わたしは女の体からはすでにかけ離れた存在になりつつある)
 それを実感した。それでも女の体のどこが感じるか、わたしにはわかった。わたしは、彼女の体への愛撫を続けた。
 彼女の秘部に指をやったとき、そこはすごいことになっていた。
 「ああっ!」
 小さな隆起がわたしの指の刺激に反応して硬く勃起した。わたしは、彼女の股間に降りていってその小さな隆起に舌を当てた。
 「ああっ!!」
 彼女が仰け反る。それまでも、わたしは彼女の反応を見ていて感じていた。彼女が仰け反るのを見て、わたしの股間がじゅんと熱くなるのを感じた。わたしは着ていたものを脱ぎ去り、シックスナインの体勢になり、互いにクリトリスを刺激しあった。
 「ああ、先輩も感じてくれている」
 「感じてるわ。あなた以上に」
 「先輩のって、大きいんですね」
 「そう?」
 飲み続けているメチルテストステロンのせいで、クリトリスが少し大きくなっていた。メチルテストステロンを飲んでいることは、まだ彼女にも知られたくなかったから、それ以上何も答えなかった。
 長い愛撫の末に、わたしたちはほとんど同時に行った。

 「ただいま」
 玄関が開く音がした。
 「大変。お母さんが帰ってきた」
 時計を見ると、すでに午後5時を回っていた。
 「2時間もこうしていたのね」
 「そうみたいだね」
 「先輩とこうなれて嬉しいわ」
 「わたしも。早く服を着て」
 「はい」
 神取つかさは、簡単に服装を整えられそうもなかった。一方、わたしの方は簡単だ。ショーツをはいて、ノーブラのままTシャツを着て、ジーンズをはき、髪の毛をさっとブラッシングしてから部屋を出た。
 「お母さんを下で引き止めておくから、きちんと服装を整えて」
 「わかりました」
 わたしは階段を駆け下りていった。お母さんは、デパートで買ってきたものを冷蔵庫へつめていた。
 「おかえりなさい」
 「遅くなっちゃったわ。夕食作るの、手伝ってね」
 「はい」
 「あら? いやに返事がいいわね」
 ちょっとドッキリ。
 「そんなことないよ」
 「ところで、神取さんの靴があったようだけど、まだいるの?」
 「上でCD聞いてるわ」
 「そう・・・・。いったい何をしてたの? CD聞いてただけなの?」
 「ただのおしゃべり」
 わたしは澄ましてそう答えた。
 「おしゃべりだけ?」
 「そうよ」
 「午後の時間をずっとおしゃべりしていたの?」
 「悪い? お母さんだって、隣のおばさんと話し出したら、何時間も話しているでしょう?」
 わたしのそんな反論に、お母さんは肩をすくめた。
 「そうね。そろそろ帰るように言わないと、暗くなるわよ」
 「そうね。言ってくるわ」
 わたしはゆっくりと階段を上って、部屋のドアを叩いた。
 「わたし。終わった?」
 「終わったわ」
 ドアが開いて、神取つかさが出てきた。わたしは少し離れて彼女の服装を点検した。
 「大丈夫みたいね。遅くなるから、もう帰りなさいって」
 「ええ。・・・・先輩」
 「なに?」
 「今日はありがとう。愛してるわ」
 「わたしもよ」
 ちゅっと軽く唇を合わせて、神取つかさは階段を駆け下りていった。
 「お邪魔しました」
 「気をつけてね」
 お母さんの声が台所から聞こえてきた。
 「ありがとうございます。先輩! また来ます」
 駆けていく神取つかさの後姿を二階の窓からずっと追っていた。

 それからというもの、わたしと神取つかさは、親の目を盗んで週に一回は愛し合っている。わたしがタチで、彼女がネコ。それはいつも変わらない。互いの全身を使って愛撫しあうけれど、腟だけには決して手を出さなかった。
 わたし自身は、腟を使うと女であることを認めてしまうような気がしていたし、神取つかさに腟を使うセックスを覚えさせると、男に目が向いてしまうのではないかと思ったからだ。

 高校でもわたしは剣道部に入った。高校2年で3段を取り、居合も初段を取った。女子剣道の場では、わたしは無敵で、練習は男子を相手にしなければならなかったけれど、男子の中に混じって練習することに快感を覚えていた。
 身長170センチ、体重63キロ、体脂肪率8パーセントのわたしは、長い髪の毛さえなかったら、完全に男に見られていた。
 「志穂。お願いだから、髪の毛を切ろうなんて言わないで。そんなことしたら、あなた、ほんとに男みたいになってしまうわ」
 お母さんがそう懇願するものだから、髪の毛を切るわけにはいかなかった。
 (大学に行くまでの辛抱よ。大学に行ったら、薬を倍に増やして、髪の毛を切って、男になるんだ)