仕事を終えると、会社からそのまま高速で1時間走って進の病室を訪れ、消灯ぎりぎりまで病室にいて、自宅に帰った。
進の回復は順調で、術後三日目からベッドの上でストレッチをやり始め、5日目にはフォーリーカテーテルと言う尿道に入れられた管が抜かれて歩き始めた。
「おしっこがまっすぐ飛ばなくて・・・・」
と顔を赤らめながら、わたしに告白した。ナースに聞いてみると、MTFの術後はたいていそうなるそうで、わたしも進もホッと安心した。
術後8日目、日本では考えられないスピードで退院となった。入院費が高いから、長くは入院しておれない事情もある。
「志穂、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないけど、病院にいてもじっと寝ているだけだから、自宅にいた方がいいわ。あなたも1時間もかかって見舞いに来なくていいでしょう?」
「それはそうだけど・・・・」
わたしの心配をよそに、進は自分で傷の処置をし、人造腟が狭くならないように拡張をやっている。
「どんな風になってるんだ?」
「見たい?」
「あ、ああ」
「だめ!」
「何だよ、気を待たせたくせに」
「まだ腫れが引いてないし、やっと毛が生え始めたばかりだから。今見るとがっかりするから見せられないわ」
「そうか・・・・」
見せてもらったって、早く治るわけじゃない。進の方から見てもいいと言われるまで、見せろといわないようにした。
6週間ほどがたって、進の傷がほぼ癒えたころ、今度はわたしの手術の順番が来た。サマーバケーションで4週間の休みをもらえることになっていたので、この休みを利用して手術を受けることにした。
進の手術は、一回ですんだけれど、わたしの手術は一回ではすまない。まず、子宮、卵巣、腟の切除。次に、大きくなったクリトリスと腟前庭の粘膜を使って、ペニスの形成。このペニスは、長さが数センチしかないので、ペニスの延長術が行われ、最後に睾丸の代用となるシリコンのボールが埋め込まれるのだ。
「あなた、頑張ってね」
「ああ、志穂も頑張ったんだから、男のぼくが頑張らないわけにはいかないよ」
入院の翌日、子宮と卵巣、腟の切除が行われた。腟を通じて、子宮と卵巣を切除し、そのあと腟を切り取るから、お腹には傷が残らなかった。
(これが進に移植できたらなあ)
と思ったけれど、そんなことは不可能だった。
「痛くない?」
ぼくが進を看病したときは、仕事があったから数時間しか病室にいられなかったけれど、進は一日中付き添っていてくれた。
(病人になるときは男に限るな)
なんて不謹慎なことを思った。
「痛くないよ」
進のときと同じように、モルヒネが投与されているから痛みはないのだけれど、骨盤の奥になんともいえない不隠感があった。
二週間後、ペニスの形成が行われた。
「クリトリスがかなり大きくなっていたから、立派なグランスができたよ」
ドクターがベッドサイドにやってきて、にっこり笑った。股間を覗いて見ると、それまでまったく何も見えなかった位置に、先端からフォーリーカテーテルがのぞいたグランスらしい隆起が見えたときには感激した。
(まだ完全じゃないけど、これでわたしは志穂から進になった)
涙がポロリと流れた。
「あら? あなた、男が涙なんか流しちゃだめよ」
「これは感激の涙だよ。泣いてるわけじゃない」
「男になれて嬉しい?」
「もちろんだよ。この日をずっと夢見ていたんだからね」
さらに一週間後、ペニスの延長術が行われた。
「ちょっと短いかもしれないが、性交するのには充分の長さだからね」
(短いのなら、長くしてくれればいいのに)
そう思ったけれど、長さは5インチ弱あるそうだ。
(インターネットで調べた日本人男性の標準的な長さはあるじゃない)
わたしはものすごく安心した。
フォーリーカテーテルが抜かれ、わたしは初めてトイレへ行った。
(うまくできるかしら?)
トランクスからペニスを引き出してみた。縫い目だらけのフランケンシュタインのようなペニスだったけれど、わたしの股間に根付いていると思うと、10日前小さなグランスを見たときよりさらに感激した。
もっと感激したのは、わたしの手に握られたペニスの先からおしっこがほとばしり出たときだ。
(ああ、わたし、立小便ができた)
おしっこが終わっても、わたしは自分のペニスを飽きるほど見ていた。
「4週間でここまでやってしまうことなんて初めてだが、われながらうまくいったよ」
擬似睾丸の埋め込みが終わったあと、ドクターは自慢げに言った。
「一ヶ月は、性交をしないこと。まあ、しようと思っても、痛くて挿入はできないだろうがね」
立小便で感激したといったけど、ほんとはきばると痛くて、おしっこするのも気が重たかった。ペニスにはいつもジンジンした痛みがあって、ドクターに言われなくても、セックスしようなんて気にはならなかった。
職場に帰ってからも、痛みがあるから、いつも股間に神経が集中していた。しかし、3週間ほどたつと、痛みは殆ど感じなくなり、おしっこをするのも楽になった。
痛みが遠のくと、ペニスの存在を感じられなくなって、トイレでしゃがんでしまうこともあった。
(おっと、わたしは立小便ができたんだっけ)
わたしと進は、志穂が男だったときから、夜はセックスするしないにかかわらず抱き合って眠った。いつでも相手の存在を確かめていたかったからだ。
その日は、夕方仕事から帰ったときから進の様子がおかしかった。普段着としてはあまり着ない、肩が露わになったサマーセーターに、ミニスカート姿だった。進がそれとなくわたしを誘っているのが明々白々だった。わたしもそろそろと思っていたけれど、わざと気がつかない振りをして、食事を済ませた。
シャワーを浴びて、ニュースを見ながらブランデーをチビリチビリとやっていると、進がシャワーを浴びて出てきた。
「今日はずいぶん艶かしいな」
進はノーブラで、ショーツもそれ以上小さかったら、はいていないのと同じくらいのものを身に着けていた。さらに、そんなことがすぐにわかってしまうようなスケスケのネグリジェを身にまとって、わたしに近づいてきた。
「ねえ・・・・」
「ねえ、なんだよ」
「ん、もう。わかってるくせに」
「綺麗だよ。すっかり女になったね」
「ええ。もう裸になっても誰も気がつかないわ」
「そのようだね」
わたしは、進の姿を笑顔で見つめた。
「あなた、好きよ。愛してるわ」
「ぼくもだよ」
進はわたしの膝の上に載って唇を合わせてきた。わたしもそれに応えた。舌を絡ませながら、進はわたしのパジャマのボタンを外していく。
(ずいぶん大胆だな)
はだけたわたしの胸は、筋肉が隆々としていて、女だった痕跡はもはや残っていない。
「ううっ!」
進がわたしの乳首に舌を這わせ始めた。普通の男だって、乳首は感じるだろうけれど、わたしの乳首はまだかなり感じる。
そのとき、股間に奇妙な感じを覚えた。
「勃起するのね」
わたしの股間を手のひらで撫でながら進が囁く。
(勃起するって、こんな感じなんだ)
わたしは感慨深げに、その感触を味わっていた。しばらくして、トランクスの中に進の手が入ってきた。
「痛くない?」
「もう痛くないよ」
「堅いのね」
「そうでもないだろう?」
わたしのペニスは、男性ホルモンのせいで大きくなったクリトリスを利用して作られている。陰核亀頭と呼ばれる部分がグランスに、根元にあった海綿体は人造ペニスの根元にそのまま残されている。延長された部分には、海綿体はないけれど、堅さを得るためにシリコンのプロテーゼが埋め込まれていた。
普段は、根元の部分は柔らかく、ペニスはだらりとぶらさっがった状態だけど、今日のように性的に興奮すると、根元にある海綿体部分が緊満して、プロテーゼの部分と一体となって、勃起状態になるわけだ。
プロテーゼの部分は、普段あまり堅いと悪いので、適度な堅さのものが用いられている。だから、勃起した場合でもギンギンというわけにはいかない。ただ、挿入には充分の堅さはある。
「おい、おい」
進は、わたしのはいていたトランクスを脱がせにかかり、そのままわたしのペニスを咥えた。
「フェラチオ、してみたかったんだ」
そう言いながら、舌で舐めたり、のどの奥まで飲み込んだりした。
「どう?」
「気持ちいいよ」
神経はきちんと残されているから、ものすごく感じていた。舌の先でグランスを舐められるのは、クリトリスを舐められたときと同じような感触だけど、のどの奥に飲み込まれる感触はなんともいえない。
「なあ、ベッドに行こうか?」
「ええ」
進はわたしの手を引く。わたしは衣服を脱ぎ捨てて、進をベッドの押し倒した。Cカップに育った進の胸を揉み、ネグリジェを脱がせて、乳首に舌を這わせた。
「ああ、いいわ」
右手で進の体を撫で回す。こうやったときに触れていた股間の隆起がなくなっていることで、ほんとに進は女になったんだとわたしは感慨を深める。
小さなショーツ一枚になった進の体を隅々まで嘗め回した。進はそうされるのが好きだし、わたしも好きなのだ。
「初めて見せてもらえるね」
ゆっくりとショーツを下ろした。わたしはほうと感嘆の声をあげた。自分自身のそこは見たことがない。見たくもなかった。見たことがあるのは神取つかさのものだ。もう何年もなるから、明瞭には思い出せない。だけど、進のそれは神取つかさのものとほとんど違いがないように思えた。
「どう? 綺麗にできてる?」
「ああ、本物そっくり、というよりこれは本物だよ」
「嬉しいわ。1年待ったかいがあったわ」
「そうだね」
「あ、そこ、いい。ああん・・・・」
グランスの一部で作られたという進のクリトリスは敏感なようだ。舌を使いながら、わたしは神取つかさにはやったことのないことをやろうとしていた。
中指をそっと進の人造腟の入り口にあて、ゆっくりと撫でながら奥へと進めていった。進は腰を浮かせ溜息も漏らす。指が柔らかく締め付けられてくるのを感じた。指を出し入れしてやると、進は声にならない声を上げ始め、粘液があふれてきた。
(ドクターが、濡れることができるって言ってたけど、ほんとなんだ)
指を二本に増やすと、締め付けはさらに強くなったようだ。わたしは這い上がり、進の顔を見た。
「あなた、好きよ。ほんとに好き」
「ぼくもさ」
進はわたしを両手で強く抱きしめて、激しくわたしの舌を吸った。わたしは、進の腟の中に入れた指を動かす。親指でクリトリスも刺激する。
「ああ、い、いい。ああ、もう気が狂いそう・・・・」
溢れた粘液は、わたしの指ばかりではなく、進の股間をも濡らしていた。
「ああ、もう来て。早く・・・・」
体を重ね、進の中に入れようとしたけれど、どこなのかわからない。
「もう少し前よ。そう、そこ・・・・」
入った。腰を沈めていくと、包み込まれるような何ともいえない不思議な感触がした。わたしは腰を動かし始めた。抜けるほど引き抜き、根元まで突き立てた。出し入れするたびにクチュクチュと音がした。
進の喘ぎは次第に激しくなっていった。
「ああ、あなた。行きそう。行きそう。ああ、行く、行く、行くう・・・・」
わたしは射精という男としての最終的な行為ができない。だけども、進が行く姿をみて、わたしもがつんと体全体のショックが来て、行ってしまった。
「ああ、志穂、愛してるよ・・・・」
重なったまましばらく眠っていたようだ。目を開くと、進がわたしの顔を見て、唇に軽くキスした。
「わたしたち、とうとうひとつになったのね」
進が涙を流した。
「前だって、君とぼくはひとつになったことがあるじゃないか」
「あれは違うわ」
「違うって?」
「わたしは生まれたときから女。あれは現実じゃなかった。仮の姿だったのよ。今日、わたしたちはほんとに結ばれたのよ」
「そうかもしれないね」
「かもじゃないわ。そうでしょう?」
「志穂の言う通りだよ。ぼくたちは、本来あるべき姿を取り戻して、今日結ばれたんだ。そうだね?」
「ええ」
処女の進と、童貞のわたしが結ばれた。それは動かしようのない事実だ。
その日以来、わたしたちは新婚ほやほやの夫婦のように毎日愛し合った。