第2章 ボクの秘密

 階段を下りていくと、フェアレディーZが走り出ていくのが見えた。早野女史の車だ。暗い光の中では車体の色は灰色に見えるけれど、実は真っ赤な車なのだ。
 黒縁の眼鏡をコンタクトに変え、頭のてっぺんに纏めていた髪の毛を下ろして、学内にいるときはいつもはほとんどノーメークの顔にばっちりと化粧して、臍が見え隠れするタンクトップにミニスカートという出で立ちの早野女史を見たら、彼女が医者だとは誰も思わないだろう。
 (やっぱり、ボクを誘っていたのかなあ。それにしても、あの太い足にミニスカートは・・・・)
 そんなことを思いながら、ボクはマークUのドアを開けた。

 時間が時間だけに走る車はそう多くない。走っているのはタクシーかボクのように遅くまで仕事をしていた連中の乗った車だ。いや、明らかにどこかで酒を飲んで車で帰宅しているらしい奴らの乗った車も走っている。事故に巻き込まれないようにしながら、ボクはハンドルを握っていた。
 大学から車で約15分の距離にボクのマンションがある。勿論、ラッシュ時にはこの倍以上の時間が掛かる。
 (今日も10時になっちゃった)
 駐車場に停めた車から降りながら、ボクは腕時計をジッと見た。
 (さあ、急がなくちゃ)
 エントランスを駆け抜けてエレベーターに乗り込み5階のボタンを押した。502号室がボクの部屋だ。昼間の熱気がまだ残っていて、ムッとした空気がボクの呼吸を阻害する。
 風呂のスイッチを入れてからカレーの入った鍋を温める。風呂が溜まった頃には、ボクはカレーを平らげて、汚れた皿を洗って食器棚にしまい込んでいた。
 時計は午後10時15分を指していた。
 (急げや急げ)
 ボクの入浴時間は短い。いつも『烏の行水』と言われる。バスタオルで身体の水分を拭き取って、頭をドライヤーで乾かす。それから昼間は73に分けている髪の毛を真ん中で分け直して前髪を下ろす。前髪は丁度目の高さになるように切りそろえてある。
 裸のままバスルームからベッドルームへと移動する。ボクはタンスの引き出しを開けた。そこにはふたつの肌色をした固まりがある。その裏面に専用の接着剤を塗って胸に押しつけた。3分ほどすると手を離しても剥がれ落ちなくなる。ただ、もう10分ほどしないと少しの力で剥げてしまう。ボクは注意しながら、同じ引き出しに入っている水色のブラジャーを取りだして後ろ手に身に着けた。
 ストラップを調節しながら、同じ水色のビキニショーツを取り出して足を通して引き上げた。初めてこんなショーツを穿いたときには、興奮してボクの息子が顔を覗かせていたものだけど、今はきちんと小さなショーツの中に収まっている。ビキニラインも当然処理してあるからはみ出るものはない。当然のことながら、すね毛やわき毛もきちんと処理してある。処理していないのは髭だけだ。その髭も何かと理由を付けて脱毛しようとは思っている。
 さらに真っ白なスリップを頭からかぶる。この滑り落ちていくスリップの肌触りがボクは好きだ。男の下着にはどうしてこんなものがないんだろうかといつも残念に思う。
 もうひとつ下の引き出しを開いて、ブラウスとスカートを取り出して身に着けた。ブラウスは白でシンプルなデザインのもの、スカートはベージュの膝丈のものだ。
 ボクはドレッサーの前に座り、鏡に向かって化粧を始めた。化粧を始めたのは約3年前。初めのうちはけばけばしくなったりでうまくいかなかったけれど、今は5分もあればそれなりの化粧ができてしまう。
 鏡の向こうに、小首をちょっと傾げてニッコリと微笑むボーイッシュな女の子が映っている。
 「さてと・・・・。今日は雰囲気を変えようか?」
 ドレッサーの端においてあるハーフウイッグをかぶってブラッシングすると、鏡の中のボクは、ちょっとおとなしそうな女子大生に変化していた。
 スツールから立ち上がったとき、玄関から鍵を開ける音が聞こえてきた。
 「来た、来た」
 ボクは玄関へと小走りで向かった。
 「お帰り」
 「ああ」
 気のない返事を返して、三雲は靴を脱いでリビングへと向かった。
 「お食事は?」
 「食ってきた。どうせカレーしかないんだろう?」
 鼻を動かしながら三雲はソファーに座る。
 「・・・・そうだけど」
 機嫌の悪そうな三雲に向かってボクはなんとか機嫌を直そうとする。三雲の機嫌が悪い原因はわかっていた。飲みに行かないかという誘いは、三雲がボクのマンションに来るという合図なのだ。大学病院の仕事と医局から行かされている当直の合間を縫って一緒に過ごそうとしたのに、ボクがデータ収集で遅くなってしまったものだから、へそを曲げているのだ。いつもは電話で誘うのに、今日は直接誘ってきたのは、最近忙しくてご無沙汰だったからだ。
 「早く帰ろうと思ったんだけど、早野さんがすぐにデータ収集をするって言うもんだから」
 「いつものことだから仕方ないさ。ビールあるか?」
 「ええ。冷えてるわ」
 ボクは冷蔵庫から缶ビールを取り出してコップを手にして、三雲のいるソファーのそばに膝を突いた。
 「はい」
 コップにビールを注いでやると、三雲はうまそうに一気に飲み干した。
 「これでもできるだけ早く帰ってきたんだから」
 三雲はなにも言わずにビールをもう一杯飲み干した。そうしてから、三雲はボクの顔をジッと見てフフと笑った。
 「なによ。なにがおかしいのよ」
 「おまえのそんな顔、可愛いなって思ってさあ」
 「ばか!」
 不機嫌そうな顔がいつもの表情に変わってボクは安心した。
 「来いよ」
 三雲はボクの手を引く。ボクはなされるままに三雲の膝の上に載った。
 「今日は生足なのか?」
 ボクの膝を撫でながら三雲が嬉しそうな顔をした。
 「外に出かけるんじゃないから。・・・・もう、だめよ」
 スカートがめくりあげられて三雲の手が太股にのぼってきたのだ。ボクは三雲の手をぴしゃりと叩いてスカートの裾を下げた。
 ボクに叩かれた手は今度はボクのウエストから胸へと向かう。偽物の胸を、三雲は本物の胸を撫でるようにしながら、ボクに唇を合わせてきた。ヤニ臭い匂いがした。
 「医者のくせに、たばこ、止めたら?」
 ボクはちょっと体を引いて三雲を睨むようにしてみた。
 「止めようとは思ってるんだけどな」
 「じゃあ、止めたら?」
 「簡単に止められたら、苦労しないさ」
 「意志が弱いのね」
 そう言うと、三雲はちょっとむくれた。また機嫌が悪くなりそうだなと思ったボクは、それ以上なにも言わないで三雲のヤニ臭い息に閉口しながらも唇を合わせていった。
 ボクの唇を割って三雲の舌が差し入れられてきた。それをボクは吸う。やっぱりヤニの味がした。
 長いキスのあとソファの上に押し倒された。スカートの下から三雲の手が進入してくる。ボクはちょっと抵抗する。短いかけひきのあと、ボクは力を抜いて三雲の手の進入を許す。これはいつもの儀式のようなものだ。
 三雲はショーツの上からボクのお尻をなで回し、しばらくしてからショーツの中に手を入れて直接お尻を触ってくる。
 三雲の吐息がボクの首筋に掛かる。舌の先がボクの首筋から耳元へとのぼってくる。耳たぶを軽く噛まれた。ゾクッとした快感が沸いてきた。
 三雲の手が前へと移動してきた。ボクは少し腰を引いた。だけど三雲はすでにボクの堅くなった隆起をとらえていた。
 「濡れてるぞ」
 そんなことは言われなくてもわかっていた。少し前からボクの先端から溢れ出ているのを感じていた。
 「あなたのせいよ」
 「最近、感じやすくなったな」
 「それもあなたのせい!」
 「何でも俺のせいだな」
 「そうじゃないって言うの?」
 「・・・・ま、そうだな」
 三雲はボクの息子を弄んでいた。
 「ね、ねえ。ベッドに、ベッドに行きましょう?」
 「だめだ。ここでする」
 「イヤよ」
 「いいから」
 耳たぶが再び噛まれた。ボクの堅くなった隆起とその下にあるふたつのボールが優しく撫でられる。快感が身体を走り抜け、ボクはもう抵抗する気力がなくなっていた。
 ショーツが足首の位置まで下ろされた。ボクは右足だけをショーツから滑り出す。三雲はジッとして動かない。スカートの下から覗いたボクの隆起を見つめているようだ。恥ずかしいところを見つめられていることで、ボクはますます興奮していた。
 先端に三雲に息が掛かった。舌先が触れる。快感が身体を電撃のように走り抜けた。
 「あん・・・・」
 舐め回され吸われ、行きそうになる。だけど三雲は決して行かせてくれない。行きそうになるとすっと止めるのだ。
 「膝を抱えろよ」
 ボクは言われたとおりに膝を抱えて丸くなった。
 「はあっ・・・・」
 いつもは排泄にしか使わない部分に舌先が触れた。初めてそんなことをされたとき、ボクは思わず汚いよと叫んだ。だけど三雲はセックスに汚いもなにもないと言って舐め続けた。今はボクも汚いなんて思わない。そんなことを考える余裕がないのだ。
 (それに、ちゃんと洗ってあるから)
 三雲が這い上がってきた。いつの間にか三雲はトランクスまで脱ぎ捨てていた。三雲と体勢を入れ替え、唇を軽く合わせてから三雲の股間へと向かった。そこには、ボクのものより一回りは大きいものが屹立していた。その赤紫に怒脹したものをボクは躊躇いもなく口に含んだ。
 口をすぼめて何度か頭を上下に動かしたあと、いったん口を離して舌先で敏感なところを舐め回す。ボク自身はヒモの部分が一番感じる。三雲だって同じはずだと思う。ヒモを中心にしてカリやシャフトに舌を這わせた。三雲は腰を何度か動かす。三雲の雄々しいものの先端からわずかに塩気を含んだ液体がにじみ出てきた。
 ボクはスカートのポケットに忍ばせてあったコンドームを取り出して三雲に被せてやった。そうしてから這い上がって三雲の上に跨る。少し腰を浮かせて三雲の分身をボクの入り口にあてがう。英語で『boy's vagina』って言ったっけなどと思いながら、一度息を吸い込んで吐き出しながら腰を沈めていった。
 「うん・・・・」
 慣れてはいるけれど、やっぱり最初の方はちょっと痛い。ジワッと広がるような痛みが肛門から骨盤へと広がっていく。その痛みが消える頃を見計らったように三雲がボクを下から突き上げてきた。
 「あん・・・・」
 快感が身体を突き抜けていく。三雲の動きに会わせてボクも腰を上下させ始めた。三雲の雄々しいものがボクの胃のあたりまで達するような感じがする。
 「ああ、いいっ・・・・」
 快感がボクの身体に満ちてくる。肛門は異物が通過するとき快感がある。だからこそ動物は排便するのだ。と言う話を学生の時の講義で聴いたことがある。その講義を聴いたあと、排便して確かにそうだと思った記憶がある。そしてこうして三雲のものを受け入れているとき、いつもそのことを思い出す。
 快感は肛門からだけもたらされるのではない。三雲の先端がボクの前立腺を擦ることによってももたらされる。骨盤神経叢という神経が刺激されることによって快感が生じると言うことだ。この快感は、女性がセックスをして感じる快感と同じだそうだ。誰もそれを証明できないのだけれど。
 ボクの息子は固く勃起したり萎えたりを繰り返す。勃起しているときも萎えているときも快感はある。ボクの息子の先端から、透明な液体が脈動するように流れ出始めた。その液体が三雲の下腹に付着してペチャペチャと音を立てる。
 「はあ、はあ、はあ」
 呼吸が荒くなり鼓動が高まって来た。
 「隆一! 行きそう。行きそう・・・・」
 三雲はボクを冷めたような目で見ている。だけどボクはそんなことはお構いなしに絶頂を迎えた。
 「はうっ!・・・・」
 ボクの身体を突き抜ける快感。脊髄を駆け上り、後ろ頭から目の奥に向かってくる。ボクは身体を硬直させた。半分空白になった意識の中で、萎えた状態のボクの先端から白濁した液体が吐き出されるのを感じていた。
 三雲に抱きつきたかった。だけど、行ったボクに対して、三雲はまだ行っていなかった。だから、ボクが前に倒れて抱きつくのをボクの腰を抱いて阻止していた。ボクは三雲に跨ったまま、上体をゆらゆらとさせていた。
 「ベッドに行くか?」
 「・・・・どこでもいい」
 「そうか。じゃあ、ベッドに行こう。その前に、片づけてくれないとな」
 三雲はボクの排出したものを顎で指し示した。
 「わかった」
 ボクはゆっくりと腰を上げて引き抜き、三雲の膝の中までずり下がった。そうしてボクは屈み込む。屈み込んで、三雲の下腹に舌を這わせてボク自身の排出した、生臭く、わずかに塩味のする粘液を舐め取っていった。
 綺麗になったことを確かめると、三雲は立ち上がってボクの手を引いた。ボクは夢遊病者のように三雲についていった。三雲の分身は、まだ天を向いていた。
 ベッドの上にばったりと倒れ込んだボクの上に三雲がのしかかってきて、ボクの萎えた息子を口に含んだ。萎えた息子は元気を取り戻さない。そんなふにゃふにゃな息子を三雲は舌で弄ぶ。三雲は、固く勃起したものより、こんな風に萎えてしまったボクの息子を弄ぶのが好きだ。だから、先ほどよりも長く長く舌で舐め回した。勃起した状態とは違う快感がある。ボクは力を抜いて、三雲のなすがままにされていた。
 「そろそろ行くか?」
 「うん」
 ボクは両足をあげて三雲の肩に掛けた。入ってきた。今度は痛みはない。痛みはないけれど快感も少ない。今行ったばかりだからだ。それでも三雲が出入りするに従って再び快感が沸いてきた。
 ボクの息子の先端からまたもや透明な液体が流れ出てくる。今度はボクの下腹の上に。そして、上り始めた。
 「ああ、ああ、ああ、はあ・・・・」
 三雲の動きが性急になってくる。三雲の表情が、まるで苦痛を感じているかのように歪む。
 「うううっ!」
 骨盤の中で風船が膨らんだように感じ、次の瞬間、爆発した。その爆発で、ボクの息子も小さく痙攀して誘爆し、暖かい水滴がボクの下腹にまき散らされるのを感じた。

 しばらく眠っていたようだ。目を開けて時計を見ると午前0時を回っていた。三雲はボクの横で寝息を立てていた。コンドームは片づけられていて、ボクの下腹も綺麗になっていた。三雲がやってくれたようだ。
 ボクはベッドから抜け出して、ソファのそばに脱ぎ捨ててあったショーツを手にしてバスルームへ入った。着ていたものを脱ぎ、シャワーを浴びる。シャワーを浴びながら化粧を落とした。
 「化粧を落とさないと肌が荒れるもんね」
 胸にくっつけた人工乳房はまだ剥がれない。ショーツは汚れていないのでもう一度はく。ブラジャーはしない。タンスの引き出しから取り出したネグリジェを頭からかぶってから、ウイッグを着け、三雲の横に滑り込んだ。起きているのかいないのかわからないけれど、三雲はボクの肩を抱く。ボクは、三雲に足を絡ませて胸に頬ずりしながら眠りに落ちていった。

 次に目覚めたとき、三雲はベッドの中にはいず、バスルームからシャワーの音がしていた。ボクは慌ててベッドから抜け出して、コーヒーをいれる準備をした。
 しばらくすると、三雲が体を拭きながら出てきた。ボクはできあがったばかりのコーヒーをカップに入れて三雲に差し出す。
 「サンキュウ」
 受け取って三雲は美味そうにコーヒーを啜った。ボクもコーヒーカップに口を付ける。
 「ウイッグ、曲がってるぞ」
 そう言われてボクは慌ててウイッグを直す。
 「めんどくさいから、髪、伸ばそうかな?」
 「ロン毛にするのか?」
 「うん」
 「医者ともあろうものが」
 たばこに火を付けながら言った。
 「外科じゃないからいいでしょう?」
 「医者は清潔第一。ロン毛なんて、もってのほかさ」
 「そうかなあ?」
 「そうに決まってる」
 「でも、もう少し伸ばした方がいいでしょう?」
 「・・・・そうだな。ばれない程度で」
 「わかった。ちょっと長目にしてみる」
 「じゃ、先に出るぞ」
 「ええ」
 一緒にマンションを出るわけにはいかない。だから、いつも時間をずらして出て行くことにしている。
 新しいワイシャツを取り出し、スーツも昨日とは別のものを着て三雲は玄関へ向かった。
 「行ってらっしゃい」
 「ああ」
 振り向かずに片手だけをあげて三雲は玄関を出て行った。

 三雲はコーヒー以外に朝食を取らない。だけどボクはきちんと朝食を取る。トースターに食パンをセットしてスイッチを入れてからボクは着替えをした。
 ネグリジェを脱ぎタンスに戻し、ショーツは洗濯機に放り込む。そのほかの汚れ物も一緒に入れてから洗濯機のスイッチを入れる。この洗濯機は乾燥までやってくれるから、女物の下着を干す苦労を考えなくてもいい。
 人工乳房を取り外して、トランクスを穿いてTシャツを着てから、焼き上がった食パンにマーガリンを塗って頬張る。普段は野菜サラダを作るのだけれど、今日はそんな時間がないので、冷蔵庫からリンゴを取り出して噛った。
 パンツにジャケットを身に着け、鏡に向かって髪の毛73に分け直す。
 「さて、出かけるか」
 今日も変わりのない日常が始まる。