第11章 失われた森田早百合の記憶を求めて

 早野女史と井原がやっている、記憶の高速読み出しは難しいだろう。2600倍速なんて実現不可能だ。けれど、ボクのリモコン首輪の転送速度を落とすのは簡単だ。抵抗をちょっと入れてやればいいのだ。バリコン一個で勝負がつく。翌日にはできあがっていたけれど、教授に話すのは止めにした。止めたのは、現状ではこの機械がまったく役に立たないからだ。
 この首輪を使って、人の得た知識を労せずして得られるのは、確かにある意味で素晴らしいことかもしれない。けれど、10年掛かって得た知識を瞬時に得られると言うのならいいけれど、そうはいかない。バリコンで転送速度を落とすと言うことは、10年分の記憶を転送するのに、10年以上掛かると言うことだ。そんなに時間がかかるというのなら、自分で勉強した方がいいと言うことになる。
 ボク以外の人間から森田早百合を操ることはできていない。何らかの相性があるようだ。万人向けの人間操り装置はできるだろうか? 恐らくできると思う。脳波をシンクロさせればいいのだ。しかし、今のところその方法はわからない。それを追求しようとは今は思っていない。ボクの一番の関心事は、森田早百合の家族を惨殺した犯人を捕まえることだ。

 「妙なことに首を突っ込んだな」
 ウイッグがいらなくなった髪の毛を撫でながら、三雲が耳元で囁いた。
 「だって、可哀相じゃない? 彼女は精神科に閉じこめられているのよ。家族を殺し、自分まで殺そうとした犯人がのさばっているなんて」
 「あんまり深入りして、おまえが殺されたりするなよ」
 「大丈夫よ。犯人の知らないところで調べてるんだから」
 「ま、気を付けるに越したことはないな」
 「あん。そこ駄目。感じちゃう」
 三雲が尾てい骨あたりを指先でそっと触ったのだ。そのまま三雲はボクの下腹部へとズリ降りてきた。舌先が下腹部から恥骨あたりを動き回った。堅くなったボクの分身の先端にも時々舌先が触れ、ボクの身体はブルブルと震える。
 両足が抱え込まれて、ボクの分身は三雲の口の中に包み込まれた。
 「駄目だよ。そんなに激しくしたら出ちゃうよ」
 「久しぶりにおまえのを飲んでやるよ」
 「駄目だったら・・・・」
 三雲がボクの息子に舌を這わせるのは稀なことじゃない。だけど、行くまでやったことは何度もない。
 「い、行っちゃうよ・・・・」
 三雲は黙って頭を上下させた。
 「あうっ! ううううっ!!」
 とうとう三雲の口の中に出してしまった。三雲は口を離さずに喉を動かした。それから、舌なめずりをしながら這い上がってきた。
 「おまえはいつもうまそうに飲み込むけど、それほどじゃないな」
 「そうかな。美味しいと思うけど」
 三雲は肩をすくめた。
 「今度はわたしの番ね」
 ボクは、三雲の雄々しく屹立したものを口に含んだ。すぼめた唇でカリの部分を擦ったり、下で裏筋を舐め回したりすると、しょっぱい汁が出始めた。
 今日は口じゃなくてボクの中に受け止めたい。そう思って、口を離して這い上がった。三雲はボクの意図をすぐに察した。
 三雲の左側に仰向けになっているボクは、右足をあげた。三雲の方は少し身体をボクの方に傾けてボクの入り口にあてがう。
 「あん・・・・」
 ゆっくりと入ってきた。頭に突き抜けていく快感。さらに奥へ奥へと入ってくる。骨盤の奥が熱くなってくる。
 「あ・・・・」
 三雲の右手が、ボクの分身を捕らえた。行かされたばかりだから萎えて柔らかい。その柔らかい分身と袋の中にあるふたつの固まりを三雲は手の中で弄んだ。そうしながら、腰も動かす。それに合わせるようにボクの胸に付けた人工乳房が揺れている。
 「はあ・・・・。い、いい・・・・」
 ゆっくりと横向きにされてボクは三雲に背中を向けた形になった。角度が変わり、より深くなったような気がした。
 少し堅くなってきたボクの分身を三雲はしごきながら腰を動かした。
 「ああ、もう駄目。気が狂っちゃう・・・・」
 「まだまだ」
 ボクの分身から三雲の手が離れ俯せにされた。三雲はボクの上になって腰を前後させた。動きが次第に激しくなっていく。頂点に差し掛かっていたボクは達し始めた。
 「い、い、・・・・」
 言葉にならない呻き声がボクの口から発せられる。自分の声にボクはさらに興奮した。
 「行くぞ!」
 「ああん・・・・」
 骨盤が内側から押し広げられたような感覚が襲ってきた。頭の中が真っ白。何も考えられない。ボクは枕を両手で抱きしめ身体を痙攀させていた。

 天井に光る蛍光灯の灯。可愛らしい女の子。精悍な顔つきの男。優しい両親。悲しげな若い女。水の中。

 目を覚ますと、三雲に腕枕をされ、ボクは三雲に抱きついて眠っていた。以前のボクはこんなんじゃなかった。ボクが抱きつかれる立場だった。三雲のせいでこうなってしまったんだけど、今はこうする方が心地よい。
 「女にならないか?」
 三雲は時々ボクにそんなことを言う。三雲に抱かれた直後は、すぐにいいわと答えてしまう。だけど、翌朝になったら思い直す。
 「やっぱりそうだろうな」
 三雲はがっかりしたような表情でマンションをあとする。ボクと三雲がまったくの別世界で暮らせるというのなら、性転換でも何でもやってやろうと思う。けれど、現実世界にいる以上、仕事や家族のことがついて回る。ボクと三雲だけではなく、職場や親戚縁者にも迷惑が掛かるのだから、そんなに簡単にはいかないのだ。

 ボクは車を走らせていた。後部座席には、森田早百合と小森看護婦が乗っている。
 「自宅に連れて行ったら、ショックで何か思い出すかもしれない」
 そう説明して森田早百合を院外へ連れ出した。森田早百合は、いつもと違ってワンピースを着せられていた。体の線がはっきりとわかる。
 「スタイルがいいわね。早百合ちゃんは」
 連れ出すとき、小森看護婦が溜息をつくようにして言っていた。看護婦の誰かが口紅も付けてやったようだ。それだけで森田早百合はゾクッとするような色気を醸し出していた。
 森田家の前に到着すると、ハウスキーパーをしている岡田という女性が玄関先で待っていた。大学を出る前に連絡していたからだ。
 「島村です。お世話になります。こちらが森田早百合さん。こちらは看護婦の小森さんです」
 「岡田でございます。どうぞお上がり下さい」
 案内されて応接室は入った。外から見ても大きな屋敷だが、中はまるで御殿だった。あんな事件がなければ、森田早百合は深窓のお嬢様として、ここで暮らしていたのだろうなと彼女の横顔を見ながら思った。
 「何もございませんが」
 そう言いながら、岡田は紅茶と菓子を三つ差し出した。小森看護婦が森田早百合の口に菓子を取って運ぶと口を動かして食べ始めた。うまいともまずいとも何の反応も見せないでものを食べるというのは、何とも不思議な気がした。同じことを岡田も感じているようで、半分驚いたような顔をして森田早百合を見つめていた。
 「何とか治してあげようと思ってですね」
 「はあ・・・・」
 こんな状態で治るのだろうかというような表情を見せた。ボクだって彼女が治るなんてことは思っていない。ただ、犯人の手がかりが欲しいだけだ。
 「それじゃあ、屋敷の中を回ってみてもいいですか?」
 「どうぞ、どうぞ」
 小森看護婦が、森田早百合を立たせようとするのをボクは制した。
 「これを付けて」
 首輪を差し出す。
 「なんですか? これ?」
 「彼女がどう反応するかをボクに伝える機械さ」
 ボクも首輪を付けながら答えると、納得したような納得できないような顔をしながら、森田早百合に首輪を付けた。森田早百合の首輪のスイッチを押して、彼女の方をメイン側に切り替え、彼女の記憶がボクに流れ込んでくるように設定しておいた。
 屋敷の中を一周したけれど、ほとんど反応はなかった。反応があったのは彼女が使っていたという部屋に入ったときだけだった。
 「バスルームへ連れて行ってください」
 ここは反応がないはずはないと思っていた。パニックになったらいけないので、最後にしておいたのだ。
 バスルームの前に来ると、森田早百合の足が止まった。
 「どうしたの? 早百合ちゃん?」
 小森看護婦がバスルームの中を覗かせようとしたが、ガンとして動かない。首輪を通じて森田早百合の記憶が強く伝達されてきた。男が首を押さえつけて水の中に押しつけてくる映像がボクの脳裏に浮かんだ。男の顔ははっきりと教授に見えた。
 「どうして教授なんだ?」
 口には出さないけれど、ボクは心の中で叫んでいた。

 帰りの車の中で、ボクは運転しながら考えた。彼女が入院してから14年もの間、彼女に接した男は教授以外に数人しかいない。それもごく希だ。つまり男として認識されているのは教授だけと言うことになる。だから、あの場面に教授が出てくるのだ。教授にアリバイがある以上、そう考えるしかないのだ。