目が覚めて時計をみると、まだ6時を回ったばかりだった。3時間あまりしか眠っていないのに、眠ろうと思えば思うほど眠れなかった。
それにしても、昨日の夜は惜しかった。陽子の姉さんさえ来なかったら、ぼくは晴れて童貞をおさらばしていたところだったのに。
陽子の唇を思い出す。あの紅い唇に、ぼくの唇を重ね、陽子の胸に手を当てたんだっけ。
ぼくは、またマスをかいてしまった。マスターベーションを覚えた猿は、死ぬまでマスをかき続けるというが、ぼくもそうなってしまいそうな気がする。
そんなことを思いながら、ぼくは再び眠りについた。
どんどんどんと、ドアを叩く音がする。誰だろう? 目を開けて、枕元の時計を見ると、午前9時40分だった。
どんどんどん。ドアがまた叩かれた。いったい誰だよ。ぼくは、布団から抜け出して、ドアを開けた。ドアの外には、青紫のブラウスに、白のタイトミニスカートを穿いた、ショートカットの女性が立っていた。
「森君、下着を届けに来てあげたわよ」
げっ! 陽子の姉さんだ。下着を届けにって、陽子が、ばらしたのかな? それしかないけど・・・・。
「ちょ、ちょっと待ってください。服着ますから」
ぼくは、トランクスにランニングシャツ姿だった。ドアを閉めて、慌ててジーンズとTシャツを着た。ドアを開けると、陽子の姉さんは、ぼくの下着の入った袋を後ろ手に持って、廊下をうろうろしていた。
「あのう」
ぼくが、部屋から顔を出すと、陽子の姉さんは、にこっと笑ってぼくに近づいてきた。
「ちょっと上がらせて貰ってもいい? 話しがあるの」
少し迷ったが、断るに断れなかった。
「どうぞ」
陽子の姉さんがぼくのそばをすり抜けるとき、化粧と香水の混じったいい香りがした。陽子とは違う、大人の女の臭いだなと思った。
「男臭いわね」
そう言いながら、陽子の姉さんは畳に腰を下ろした。
「そうですか? どうしてここが分かったんですか? 陽子に聞いたんですか?」
「いえ、陽子が大学に出かけたあと、陽子の住所録を調べたの」
「ああ、そうですか」
陽子が出かけたあと? 何で、陽子に直接聞かないんだ? よく分からない。
「はい、これ。洗ってあるけど、乾かしてないから、干してね」
「すみません、わざわざ持ってきて貰って」
「陽子とは、もうしたの?」
陽子の姉さんは、部屋の中を見回しながら、唐突にそう言った。
「えっ!?」
「だからあ、陽子とは寝たのかって聞いてるの」
陽子の姉さんが、ぼくの顔を覗き込んで、探るような目で見た。
「ま、まだです」
「ほんとに? ひとつ部屋の中で、下着を着替えるような仲なのに?」
「昨日、お姉さんが来なかったら、もしかしたら、そう言うことになっていたかも知れないけど・・・・」
「ふうん。じゃあ、わたしが、陽子の処女を守ったって訳ね」
ぼくは、何も答えず、ただ俯いていた。
「陽子の話と一致したから、安心したわ」
「はあ」
「それを確かめに来たの」
「そうですか」
話しがあるって言うから、何の話かと思っていたら、そのことだったか。まあ、姉としては、心配になるだろうな。そんなことを思っていると、陽子の姉さんは、立ち上がってぼくのそばに座り込み、小さな声でぼくに尋ねた。
「森君は、女としたことあるの?」
「えっ! そ、それは・・・・」
ぼくは、顔を真っ赤にして、俯いた。
「そう、ないのね。ふうん」
ぼくは、童貞だ。そんなチャンスもなかった。昨日が、初めてのチャンスだったのに・・・・。
「森君。わたしのこと、どう思う?」
陽子の姉さんの息が、ぼくの耳に当たる。ぼくの腕には、陽子の姉さんのおっぱいが、触れていた。陽子の姉さんはどういうつもりなんだろう? ぼくは、どきどきし始めていた。
「どう思うって?」
「わたし、綺麗かなあ」
「も、勿論です」
突然、陽子の姉さんが、ぼくに抱きついて、ぼくを畳の上に押し倒し、キスしてきた。
「お、お姉さん」
「処女と童貞じゃあ、うまくいかないわ。わたしが教えてあげる」
「そ、そんなこと・・・・」
「陽子とやって、うまくいかなかったら、振られるかもよ」
そう言われて、そうかもしれないなと思った。初めてして、うまくいかないで、その後、自信を失ったという話を聞いたことがある。経験者と練習しておくのもいいかなと思った。こんなチャンスはそう訪れるものじゃあない。
ぼくがその気になったのを確かめると、陽子の姉さんは、ぼくにセックスの指導を始めた。
「さあ、わたしの服を脱がして。優しくね」
ぼくは、夢中になって、陽子の姉さんの服を脱がした。ブラウスのボタンを外すとき、手が震えてなかなかうまくいかなかった。
「首筋にキスして。そう、そうよ。感じるわ。うまいわよ。おっぱいを揉んで! 優しくね」
ぼくは、ブラジャーをずらして、おっぱいを触った。柔らかくて気持ちがいい。ぼくは、そのおっぱいに、舌を這わせた。
「森君、したことあるんじゃないの? 上手いわよ」
「は、初めてです。これでいいですか?」
「いいわ。もっと続けて!」
したことはないけど、本や雑誌で、一通りのことは勉強している。ひとしきり、おっぱいを弄んだあと、ぼくは、陽子の姉さんの股間にそっと手をやった。パンティーの上から触る女の股間。自分のそこしか触ったことがないので、そこに何も触れないと言うことに、奇妙な感慨を覚えていた。
「脱がして」
そう言われて、ぼくはパンティーをずらしていった。黒々とした陰毛が露わになってきた。ヘアヌードなどで見るものより、遙かに濃い茂みだ。
「舐めて」
「えっ!? 舐めるの?」
「そう、少しは勉強してるんでしょう? クリちゃんを舐めて! ヒダヒダの一番上に、クリちゃんがあるでしょう。女は、そこが一番感じるの。早く!」
指で触ってみると、少し硬くなった部分があった。
「そこよ。そこを舐めて」
ぼくは、言われるままに、舌を這わせた。少し、おしっこの臭いがした。その臭いもすぐに消えた。陽子の姉さんは、何も言わないで、体をくねらせている。女が一番感じるところと言ったけど、気持ちいいんだろうか?
ぼくは、ちょっと顔を離して、そこを見た。ふうん、こうなっているのか。初めて見る、女のその部分に、ぼくは、何故か懐かしいものを覚えた。ぼくは、母のここから出てきたんだなあと。
「何やってるの。もっとやってよ」
「はい」
ぼくはさらに舌を這わせた。腟の中から粘液が溢れてきた。ぼくは、その粘液を舐めてみた。何の味もしなかった。いや、ほんの少し、しょっぱい味かな?
「もういいわ。服脱いで。早く来て」
ぼくは、急いで服を脱いだ。陽子の姉さんが、ぼくのペニスを持って誘導する。
「そこよ。そこにあてて、そう、そうよ」
こくんと入る感じがして、ぬるぬると遠くへと進む。ぼくは腰を動かし始めた。
「まだよ。ゆっくりしなくちゃ。女がいく前にいったらだめよ」
そんなこと言われたって、ぼくは、もういきそうだ。だけど今朝、マスをかいていたから、何とか持ち堪えられそうだ。
「腰、動かさないで、じっとするの。目を瞑って、深呼吸して!」
ぼくは言われたとおりにする。何回か深呼吸すると、少し興奮が消退してきた。
「さあ、もういいわ。ゆっくり動かして」
ぼくは再び、腰を動かし始めた。陽子の姉さんが、小さな声を上げる度に、ペニスがぎゅっと圧迫される感じがした。
さっきは、今にもいきそうになったのに、今度はなかなかいきそうにならない。ぼくは、一生懸命腰を動かした。陽子の姉さんの声が、大きな喘ぎ声になってきた。
「早く、早くいって! わたし、いきそうよ」
その言葉に呼応したように、ぼくは射精した。陽子の姉さんが、大きな声を上げて、痛いほどぼくの体を抱きしめた。陽子の姉さんの体がピクピクと痙攣する。マスかくのとは、やっぱり違うなあ。それが、童貞を失ったぼくの感想だった。
しばらく、抱き合っていた。何秒かおきに、ペニスが絞められる感じがいた。陽子の姉さんの腟が収縮しているんだ。女が感じるとこういう風になるんだなあと、これまた感慨を覚えた。
そんなことを考えていると、また、勃起してきた。ぼくは、もう一度ゆっくり腰を動かし始めた。陽子の姉さんの口から、喘ぎ声が漏れてきた。ぼくは、再び射精した。
「ううん、気持ちよかった。続けて二回もできるなんて、森君、元気がいいわね」
マスかいたのを入れると3回だよ。ぼくって、すごいねなんて、心の中で思っていた。
「ぼく、上手くやれましたか?」
「初めてにしては、上手よ。あとは経験ね。いろんな体位を勉強して、やってみるといいわ。頑張って、陽子を喜ばせるのよ」
「は、はい」
「ティッシュ、取って」
ぼくは、ティッシュを何枚か手渡した。陽子の姉さんが、その部分を拭いている間に、ぼくもティッシュで、ペニスを拭いた。うん、自信ができたぞ。
部屋のドアが、突然バタンと開いた。ドアに鍵架けてなかった! 驚いてドアの方を見ると、そこに立っていたのは・・・・陽子だった。
「これはどういうことなの?」
狭い6畳の部屋にいる、裸の男女。申し開きができるはずがない。
「森君なんて嫌いよ。よりによって、わたしのお姉ちゃんと寝るなんて」
「陽子、これはねえ・・・・」
「言い訳なんて、聞きたくないわ。お姉ちゃんも、お姉ちゃんよ。いつもわたしのものを奪って」
そう言って、陽子は、ボロボロと涙を流した。そして、泣きながら、アパートを走り出ていった。
「どうしよう?」
「ばれてしまったものは、どうしようもないわね。陽子の機嫌が直るまで待ったら? それしかないでしょう?」
陽子の姉さんは、他人事のようにそう言った。陽子の姉さんにとって、ぼくと陽子がどうなろうと、関係ないのだ。陽子の姉さんは、童貞のぼくとのセックスを楽しんだだけなのだ。
陽子の機嫌が直るだろうか? きっと直らない。陽子の性格は知っている。陽子はぼくを絶対許さない。もう、おしまいだ。
陽子の姉さんは、服を着ると、何も言わないで出て行った。また、会いましょうの一言もなしに・・・・。
ぼくも服を着て、すぐに、陽子のアパートに行った。部屋には、鍵が掛かっていた。陽子は、中にいるはずなのに、返事もしてくれなかった。失敗しても、陽子とするべきだった。後悔したが、もう遅かった。
部屋に戻ると、陽子の姉さんの臭いが残っているような気がした。生まれて初めてのセックスはうまくいったのに、後悔だけが、ぼくの心の中を渦巻いていた。何もする気になれず、夕方まで、ふて寝をしていた。
夕方、朝から何も食べていなかったことに気付き、学食まで食べに行った。学食で食べるのが一番安くて、気兼ねしないですむなと思う。
今日も雨だ。今日も代返のきかない講義と実験がある。行かなければならない。この講義は、陽子も受講している。顔を合わせたくないような、会って、許して貰いたいような、複雑な気分だ。
講義の行われている312号室。陽子は、一番前の席に座っていた。ぼくは、後ろの方に座って、陽子の動向を窺っていた。
講義がすんで、皆が一斉に立ち上がる。陽子は、ぼくがこの講義を受けていることは知っているのに、まったくぼくを捜す様子はなく、教室を出ていった。
これは完全にだめだ。時間が解決してくれるだろうか? ダメだろうなと思いながらも、ぼくは僅かな可能性に期待していた。
午後の講義でも、陽子と一緒になった。陽子は、ぼくの方を振り向いてはくれない。しかも、講義が終わったとたん、野本という、これもぼくたちの同級生の男に声をかけて、腕を組んで教室を出ていった。出て行くとき、陽子は、ぼくの顔を見た。その目は、ぼくたちふたりの仲の、完全な終わりを示していた。
力無く、ぼくはアパートに帰っていった。もう、何もする気がなかった。ぼくは陽子に恋していたわけじゃないと思う。だけど、これは失って初めて分かる、失恋の痛みだった。