大竹の家の二階にあるベッドルームで、大竹と新妻の菜摘が裸で抱き合っていた。
「初めてなんだろう?」
「ええ」
恥ずかしそうに菜摘が頷いて下を向いた。
「ホントに君を抱けるなんて思ってもみなかったよ」
「わたしも・・・・。優しくしてね」
「分かってるよ」
ふたりは唇を合わせ、舌を絡ませ合う。
「可愛い乳首だ」
「イヤ、恥ずかしい」
「おっぱいも可愛いよ」
「小さいから・・・・」
「そんなことないよ。これだけあれば充分さ」
「ホントに?」
「ホントさ。寿代は大き過ぎて気持ち悪いだけだったよ」
「そうなの・・・・」
「感じるか?」
「うん、感じる」
「ここは?」
「ちょっと痛いわ」
「すまん。もう少し優しく触ろう」
大竹が菜摘の股間へ顔を埋めた。
「は、恥ずかしい・・・・」
「みんな、こうするんだ。恥ずかしがることはないよ」
「それは知ってるけど、されるのは初めてだもの」
「さあ、力を抜いて。ああ、綺麗な花びらだ」
「ああん」
大竹の舌が、執拗に菜摘を責め立てる。寿代にはやったことのない技を駆使して。
「もう準備ができたようだな」
「痛いのかしら?」
「やってみれば分かるさ」
菜摘の目を見つめながら、大竹が腰をゆっくりと埋めていく。
「う、ん」
「痛いのか?」
「・・・・ちょっとだけ」
「動かすぞ」
「いいわ」
大竹は腰を動かし始める。菜摘は、少し顔をゆがめていたが、それも次第に和らいでいった。
「ああ、あん。ああっ!」
「いいのか?」
「・・・・うん。感じるわ」
「そうか」
大竹は、嬉しそうな顔をしてさらに腰を動かして菜摘を突いた。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はああ」
「うううっ・・・・」
大竹が弾け、菜摘は大竹を力の限り抱きしめる。
「よかったよ」
「恥ずかしい。初めてなのに、いっちゃった」
顔を赤らめる菜摘を大竹はホントに可愛いと思った。
「別にいいんじゃないか?」
「きっと、あなたが上手かった所為よ」
「君と長い間チャットで練習した成果だよ」
「ふふ」
大竹実が相良菜摘と顔を合わせたのは、市民病院の精神科が初めてだったが、実はふたりは大竹が結婚する前からの知り合いだった。
大竹は学生時代からインターネットをしており、5年前くらいから、チャットルームに顔を出すようになった。大竹はそこで菜摘と知り合った。
菜摘は、初めは『かっちゃん』と言う男風のハンドル名で出ていた。女だと知れると、非難中傷や、ストーカーもどきの相手に悩まされるからだ。
大竹と菜摘は何故か気が合って、しばしばチャットを繰り返していた。大竹が寿代と結婚する直前頃から、ふたりはチャットルームから抜けて、1対1でチャットを楽しむようになった。
1対1のチャットをするようになって、菜摘は自分が女であることを大竹に明かした。いつも野球や相撲などのスポーツや、車、コンピューターに関することばかり話していたので、てっきり男だと思っていた大竹の驚きは大きかった。しかし、菜摘が女だと分かっても、それまでと変わらぬ関係を続けていた。菜摘としては、それが嬉しくて、1対1のチャットを続けていた。互いの身の上を話し、すべてを知るようになっていた。
大竹が、妻への不満を漏らし始めたのは、1年半ほど前からだった。結婚して1年もならない頃から、大竹は妻の寿代に嫌気がさしていた。あの、他人行儀なものの言い方が鼻についてならなかったのだ。それを指摘しても寿代の言い方は直らなかった。
大竹は、休みの日にはゴルフに出かけて、家には居着かず、夜の時間のほとんどはインターネットに費やし、夜の生活もおざなりになっていた。
寿代と別れたいと思ったが、自分から言い出せば、法外な慰謝料を取られそうな気がした。寿代が浮気でもしていればと、興信所に頼んで調べて貰ったが、それはないとの返事だった。
natsumi> 寿代さんに何の非もなければ、別れるのは難しいでしょうね。
minoru> そうなんだ。我慢しなければいけないんだよ。
natsumi> 仕方がないわね。どうしようもないんだから。
minoru> 君とだったら、上手くやれそうなのに。
natsumi> わたし? わたしはだめよ。お料理も何にもできないんだから・・・・
minoru> 料理なんて、そのうち上手くなるさ。だけど、性格は死ぬまでよくならない。あああ、失敗だった。君が近くの人だったらよかったのに。君となら一生上手くやっていけそうなのに。
natsumi> そうね。わたしもそう思うわ。こんなに気が合うんですもの。聞いたことなかったけど、実さんは、何県に住んでるの?
minoru> 大分だけど。
natumi> 大分! わたしも大分なのよ。
minoru> 大分は市内なの?
natsumi> 市内よ。花園に住んでるわ。
minoru> ぼくは田尻グリーンピアなんだ。
natsumi> わあ、近いんだ。
minoru> どこに勤めてるの?
natsumi> 大分トヨタの西営業所よ。
minoru> あ、それで車に詳しいんだ。
natsumi> そういうこと。
minoru> ちょっと待って、トイレに行って来る。
minoru> ただいま。
natsumi> お帰り。大竹さん、今度会いませんか?
minoru> 会いたいけど、寿代にモニターを見られたみたいだ。君とのチャットの内容を見られたかも知れない。会うのはちょっと先にしよう。
natsumi> 分かった。連絡を待ってるわ。じゃあ、今晩はこれくらいで。お休みなさい。
minoru> お休み
菜摘とのチャットはほとんど毎日のようにやっていた。しかし、直接会う機会はなかなか訪れなかった。大竹は土日が休みだが、その土日は菜摘の方は仕事だった。仕事が終わってから会いたいと思っても、大竹はいつも家へ直行していたから、会う時間が取れなかったのだ。
ある日、忘れ物を届けて貰おうと自宅に電話したが、寿代は出なかった。やむなく自宅まで取りに帰った。寿代は出かけていた。
「一体、どこへ行ったんだ?」
忘れた書類を手に家を出ようとして、ふとリビングボードの上にある妙な本に目がいった。魔女のイラストが表紙に書かれた本だった。中を開いてみると、何と魔法の本で、しおりが挿まれたところに、精神を入れ替えるという項目があり、そこに大竹と菜摘のそれぞれの写真と髪の毛が包まれた羊皮紙があった。
寿代が魔法を使って、大竹と菜摘を入れ替えようとしているらしいことが分かった。
「魔法だって!? そんな馬鹿な」
natsumi> 精神を入れ替える魔法? 面白いわね。
minoru> そんなことが起こるわけがないだろう?
natsumi> 奥さんはそれを信じているんでしょう?
minoru> まさか。
natsumi> でも、魔法の本の通りに材料を揃えて、わたしたちを入れ替えようとしているわけでしょう?
minoru> そうみたいだね。
natsumi> 入れ替えてどうしようって言うんでしょうね?
minoru> 分からないなあ。
natsumi> もしかして、奥さん、大竹さんと別れたがってるのかもしれないわね。
minoru> どうしてだよ。
natsumi> もし、ホントに入れ替わったとしたら、わたしが奥さんと夫婦になるんでしょう? とても夫婦生活はやっていけないわ。
minoru> 男になるんだから、やれるんじゃないか?
natsumi> まさか! わたしは女なのよ。体が男になったって、女の人とセックスできるわけがないじゃないの。
minoru> そうかなあ。
natsumi> できないわよ。
minoru> ま、それはさておき、精神を入れ替えるって事は、人格が違うわけだから、違う人だってことにはなるな。
natsumi> そう。そうよ。別人とは結婚を維持できないって理由を付ければ、別れる理由になるわ。
minoru> なるほど、そう言う訳か。寿代も、ぼくと別れたがってるって言うわけだ。
natsumi> きちんと話して、別れたら?
minoru> ぼくの口から言い出すのはイヤだよ。
natsumi> じゃあ、どうするの?
minoru> この入れ替え計画を利用しようじゃないか。
natsumi> ええっ!?
minoru> 入れ替わった振りをして、寿代の方から離婚を言い出すように仕向けるのさ。
natsumi> うまくいくかしら?
minoru> ぼくは君のことを何でも知ってるし、君もぼくのことを良く知っている。うまく行くんじゃないかな?
natsumi> うーん
minoru> 面白そうだから、やって見ようよ。うまくいったら、ぼくたち、堂々と会えるんだから。
natsumi> そうね。やれるところまでやってみましょうか。
minoru> 決まったところで、いつからにしようか?
natsumi> お互いの記憶をもう一度確認しておきましょうよ。それからと言うことで。
minoru> じゃあ、ぼくの関する情報をテキストベースで送るから、覚えたところで入れ替わった振りの実行だ。
natsumi> 了解しました。
それから二日ほどして、菜摘から大竹にメールが届いた。幼い日からのいろいろな出来事が事細かく書かれていた。むかしチャットで菜摘から聞いたエピソードがいくつか抜けていた。人間すべてを思い出すことは無理だろうなと大竹は思う。
大竹が菜摘に送ったものも、完璧とは言えないだろう。しかし、あまりに完璧であっても、かえって疑われる。多少は、思い出さない。忘れましたと言うことがあった方がいい。
大竹は、寿代が眠った深夜や、学校で授業のない暇な時間を見つけては、菜摘から送ってもらったメールの内容をを頭の中にたたき込む。まるで、生まれたときから菜摘だったようにすらすらと口から出てくるようになるまで、一週間掛かった。
寿代が、大竹の顔を見ては、何か不可思議な表情を見せる。魔法が効くのを待っているのだ。魔法なんて効くはずがない。しかし、効いた振りをする準備は整った。大竹は、メールを送って約束した時間にコンピューターを立ち上げた。
minoru> 準備はできた?
natsumi> 準備完了よ。大竹さんの方は?
minoru> こちらも準備万端だ。
natsumi> いつ、実行に移すの?
minoru> 寿代は、まだかまだかと待っている。明日から実行しよう。
natsumi> 明日からね。分かったわ。
minoru> 赤の他人同士を装うんだよ。分かってるね。
natsumi> 分かってるわ。突然、知らない男になった振りをすればいいんでしょう?
minoru> そういうこと。事が済むまで、チャットは一切なしだ。
natsumi> 寂しいわ。
minoru> 寿代と別れられれば、毎日でも会えるようになるさ
natsumi> そうね。楽しみの前には、我慢も必要ね。
minoru> そう言うこと。じゃあ、菜摘、我々に幸運が訪れるように。
natsumi> わたしも祈ってる。
菜摘は、大竹の腕に抱かれて幸せに浸っている。
「ホントに上手くいったわね」
「こんなに上手くいくとは思わなかったよ。でも、寿代に1000万持って行かれたのは、ちょっときついな」
「わたしたちが、ネット上でテレフォンセックスみたいな事をやっていたことがばれたことを考えれば、安いものじゃない? ばれてたら、慰謝料として、もっとふんだくられていたかもよ」
「そうだな」
ふたりは、寿代がホントは浮気をしていたことを知らない。知っていたら、1000万円もやるんじゃなかった憤るところだ。
「明日から、元の生活に戻れるわね」
「イヤ、まだ早いんじゃないか?」
「どうして?」
「寿代と別れて、君と一緒になったとたん元に戻ったんじゃ、変に思われるよ」
「そうか。それもそうね」
「一ヶ月ほど待とう。一ヶ月待ってから、突然元に戻ったことにするんだ。入れ替わるときも突然だったから、誰も不審には思わないだろう」
「一ヶ月かあ。一ヶ月も今と同じ生活をするのかあ・・・・」
「それで、すべてがおわりさ」
「それにしても、思い出すたびにおかしいわ」
菜摘はくすりと笑う。
「何が?」
小首を傾げながら、大竹は菜摘の顔を見た。
「あなたが、わたしになった振りをして、内股で現れた時よ」
「ああ、あのことか。上手く成りきっていただろう?」
「最高だったわ。グラミー賞をあげたいくらい」
「菜摘も上手くぼくを演じていたよ」
「ありがと」
「木村先生に、催眠術をかけると言われたときは慌てたなあ」
「わたしも」
「催眠術に掛かった振りをするのも面白かった」
「ホントに掛かったらどうするつもりだったの?」
「ごめんなさいで済ませるつもりだった」
「それですむかしら?」
「初めは、あの先生、ぼくたちが入れ替わった振りをしてると思ってたんだよ」
「鋭かったのね」
「そう。しかし、ぼくたちの方が上手だったって訳だ」
大竹はにやりと笑った。
「・・・・寿代さんって、話しには聞いてたけど、すごい人ね」
「そうだろう? 結婚してからずっとあの調子なんだから、参るよ」
「その気持ちよく分かるわ」
「そうそう。君になった振りをしてこの家に戻って2日目だったかな? 夜、挑んできてね」
「ええっ!? ホントに?」
「よくそんな気になるなと思ったけど、相手をせざるを得ないだろう?」
「そうね。で?」
「これが一番きつかったな。男の本性が出そうでね」
「そうでしょうね」
「ま、そんなこともあろうかと思って、昼間学校のトイレと、うちに帰って来てから、こっそりマスターベーションしておいたんだ。だから、すぐには勃たなかったよ」
「なるほどねえ」
「菜摘は何か苦労したことは?」
「どこで誰が見てるか分からないから、女としてのことは何も分からない振りをしてたのよね。足を広げて、ショーツを見せるのは、ちょっと恥ずかしかったな。化粧の仕方も知らない振りをしなければならないし。めちゃくちゃなお化粧をして、わたし、こんなにブスだったかしらって思ったもの」
「見てみたかったな。そのめちゃくちゃな化粧をした菜摘を」
「やよ。あんな化粧は二度とやんないわ。あ、そうそう。寿代さんが、わたしのところへ来て、キスするのよね」
「君にかい?」
大竹は、呆れ顔で菜摘の顔を見た。
「もちろんよ。あなただと思ってるからね。あれはイヤだったな」
「女同士のキスか。見てみたかったな」
「馬鹿ね」
「寿代と別れるだけならともかく、菜摘と結婚した方がいいと言われたときにはビックリしたなあ」
「ホントに入れ替わったのなら、確かにその方がいいでしょうからね」
「願ったり叶ったりだよ」
「本気なのね。単なる行きがかりの上でって事じゃないのね」
「当たり前だろう? ぼくは菜摘のことが好きなんだ。ずっと前から好きだった。心が通い合ってたんだ」
「わたしが、もっとブスだったら、どうするつもりだったの?」
「バケツを被せておく」
「あ、ひどい」
菜摘は両手で大竹の胸を叩く。
「菜摘は幸い、バケツがいらない」
「よかった」
「もう一度いいかな?」
「元気なのね」
「こんなこと初めてさ。相手が君だからだよ」
「嬉しい。わたしを離さないでね」
「一生、大切にするよ」
再びふたつの影が重なった。