第8章 偽りの代償

 目覚めると、ぼくはベッドの上で点滴をされていた。股間に燃えるような痛みを覚えた。意識を失う直前のドクターの声が耳の奥でこだました。
 「さあ、そろそろ、陰核肥大の手術と、小陰唇にできた腫瘍を取る手術をしようか」
 「さあ、そろそろ、陰核肥大の手術と、小陰唇にできた腫瘍を取る手術をしようか」
 「さあ、そろそろ、陰核肥大の手術と、小陰唇にできた腫瘍を取る手術をしようか」
 「さあ、そろそろ、陰核肥大の手術と、小陰唇にできた腫瘍を取る手術をしようか」
 (ホントに手術したんじゃあ・・・・。でも、手術したんじゃなかったら、この痛みは何だって言うんだ!)

 目覚めてしばらくした時、ドクターが部屋の中に入ってきた。にこにこと笑顔をぼくに向ける。
 「気分はどうかな?」
 ぼくはドクターをじっと見つめた。ほんとに手術したの? と聞きたかったのに、言葉がでない。
 「痛みはないか?」
 そんなこと聞くって事は・・・・。
 「痛いのを我慢するのは却って良くないよ」
 「・・・・ホントに・・・・手術したんですか?」
 「ああ。大成功だよ。大きくなったクリトリスは、正常大に戻した。小陰唇内の腫瘍も取り除いてあげたよ」
 (そんなあ・・・・)
 突然涙がこぼれた。ぼろぼろと。涙を堪えきれなかった。
 「何を泣くんだよ。君は、元の体に戻るだけなんだよ」
 「ぼくは男です。女じゃない」
 ドクターは、ちょっとだけ首を傾け、憐れむように言った。
 「精神療法も必要だな。もう少し快復したら、やることにしよう」
 「イヤだ。止めてくれ!」
 「痛かったら、言うんだよ」
 ぼくの言うことは無視して、ドクターはそのまま部屋を出ていった。

 ドクターと入れ替わりに佐藤さんがやってきた。ナースキャップはしていないけど、ナースの白衣は着ていた。
 「佐藤さんは、看護婦さんだったの?」
 「ええ。あなたの治療を助ける役割なの」
 「治療を助けるって?」
 「あなたを女に戻してあげる治療よ」
 佐藤さんまで、そんなことを言う。そんなことを言われると、ぼくの方が間違っていたのではないかと考えてしまう。
 「ぼくは、ホントに女なの?」
 「・・・・ドクターに聞いて。わたしの口からは言えないわ」
 「言ってよ。お願いだ!」
 「だ、だめよ。ドクターに聞いて」
 佐藤さんは青ざめ、ぼくのベッドから後ずさった。
 「ぼくは女で、男性化したぼくを元に戻そうって言うのは嘘なんだね」
 「・・・・ごめんなさい。わたし・・・・、わたしから言うわけにはいかないわ」
 その言葉を聞いて、ぼくはやっぱり男。無理矢理女にされていると確信した。
 「佐藤さん。ぼくを助けてよ」
 「・・・・もう手遅れだわ。あなたは女になるしかないの。あの人を騙した罰よ」
 「あの人を騙した罰・・・・」
 その言葉に、ボクは大きなショックを受けた。
 (あの人を騙した・・・・。あの人・・・・。思い当たるのはジョニーしかいない。・・・・ジョニー。ジョニーの復讐だというのか・・・・。ああ、何て事だ)
 「ゆかり! 余計なことを言うんじゃない!」
 ドクターがいつの間にか戻ってきていて、佐藤さんの頬を叩いた。佐藤さんは、頬を押さえ床に倒れた。
 「ごめんなさい。ごめんなさい」
 佐藤さんは、走るように部屋を出ていった。
 「ジョニーの・・・・、ジョニーの差し金だったんだね」
 ボクはドクターに向かって言葉を投げつける。
 「そうだ。すべて、彼の命令だ」
 窓の外を見ながら、他人に話しているようにドクターは言った。
 「ひどいよ」
 ぼくは再び涙を流した。ドクターはぼくの方へ向き直って、強い口調で言い放った。
 「ひどいことをしたのは君の方だ。彼は傷ついている。君はその代償を払うのだ」
 (男のぼくが、女だと偽った代償をこんな形で払わなければならないと言うのだろうか? こんな事になろうとは思ってもみなかった。ちょっとした悪戯心だったのに・・・・。ほんのちょっとした・・・・)
 後悔するには遅すぎた。佐藤さんが言ったように、もはや引き返せないところにきている。ぼくは、ペニスも睾丸も失ってしまった。ぼくは、男ではなくなった。

 翌々日の午後、尿道に入れられていた管が抜かれ、ぼくはベッドから降りることを許された。
 「自分でトイレに行くのよ。分かったわね」
 そう言われたけれど、トイレに行くのが怖かった。どうやったらいいのか分からないのだ。立ち小便はできない。座って力めばいいのだろうと頭の中では分かっていたけど、それが怖くてできそうもなかった。
 午後4時を回った頃から、尿意を覚え下腹部が張ってきた。トイレへ続くドアを見つめて、ぼくは股間を押さえていた。
 夕食がすんで、ぼくはとうとう耐えられなくなった。これ以上堪えていると、漏れそうなのだ。トイレに駆け込んで、股間に貼られていたガーゼを取り去り、腰掛け便器に座って、恐る恐る下腹に力を入れてみた。シャーッと音がして、便器の中に尿が流れ出た。男の時とはまったく違う感触がした。下腹部の緊満感が取れ、ぼくはフウッと人心地をついた。
 「おしっこが出たら、ビデで洗浄してね。消毒をしなけりゃいけないから、終わったら、必ずわたしを呼ぶのよ。いいわね」
 そんな風に、佐藤さんに口が酸っぱくなるほど言われていた。ウオシュレット付きのトイレは使ったことがあるけれど、ビデなんて使ったことはなかった。男子トイレのウオシュレットにどうしてビデが付いているんだろうといつも思っていた。
 ビデのスイッチをじっと見つめ、思い切って押した。肛門用とは違う柔らかい水流を股間に感じた。それでも水流が当たると痛みを覚えた。その痛みは、これまでに経験したことのない妙な感覚を伴うものだった。
 トイレットペーパーを取り、水滴を拭き取った。ペニスも睾丸もなく、代わりに襞があることを指が感じた。
 (なくなっちゃった・・・・)
 手術されてしまったことを再確認し、また涙がこぼれた。
 (ぼくは、もう子供を持つことができない・・・・。父や母にも孫の顔を見せてあげられない)
 涙が止めどなく流れた。
 (あんなことしなけりゃよかった。あんなことを・・・・)
 後悔ばかりが浮かんでは消えていった。

 トントンとトイレのドアがノックされる音に、ぼくはビックリして飛び上がった。
 「おしっこ、すみました?」
 佐藤さんの声だ。ぼくがトイレにいることを知って、声をかけてきたのだ。
 「は、はい」
 「ちゃんと、ビデで洗った?」
 「・・・・はい。・・・・洗いました」
 「消毒するから、出てきて」
 病衣の前を合わせて、トイレから出た。涙を流していたことを覚られないように、佐藤さんがぼくに背中を向けた後、洗面所で顔を洗って誤魔化した。
 それから、佐藤さんの待っているベッドルームへ戻った。何も穿いていないから、スウスウする。
 「消毒してあげるから、いつものように膝を立てて、足を広げて」
 初めはそうするのが恥ずかしかったけれど、佐藤さんに見られるのも、もう慣れた。そこは、佐藤さんと同じになっているはずだから。
 おしっこするたびに傷の消毒が行われていたけれど、そこがどうなっているかとても見る気にはならなかった。

 手術が行われて5日目の朝、ドクターがビデオテープを持ってやって来た。
 「何のテープですか?」
 「君にどんな手術が行われたか、知りたいだろうと思ってね」
 「そんなの見たくないです」
 「まあ、そう言わずに、見たまえ。君自身のことだからね」
 見たくはなかったけれど、見なけりゃいけないような気がした。

 ドクターが再生のスイッチを押すと、麻酔をかけられて眠っているぼくの横顔が写された。それからカメラは、ぼくの股間へと移動していった。
 ペニスの上に残されていた陰毛は剃り下ろされている。まるで羽をむしり取られた鶏のようにみっともなかった。茶色の消毒薬が塗られ、シーツが掛けられた。
 「亀頭の後ろの部分をクリトリスとして利用する。神経と血管は残すようにするんだ。クリトリスにも包皮があるから、ペニスの包皮を一部一緒に切り取る。いま、その部分に印を付けている」
 ドクターが、画面を見ながら説明を加えていった。印に沿ってメスが入れられた。血が吹き出てくる。気分が悪くなった。しかし、目は画面から離れなかった。
 「クリトリスとして使う以外の余分な海綿体はすべて切り取ってしまう。睾丸は、血管と精子を運ぶ管を一緒にして、根元でくくって切断する」
 (気持ちが悪い。吐きそうだ)
 苦い唾液が口元に上がってきた。ぼくはトイレに駆け込んで、ゲエゲエと吐いた。朝食べたものを全部吐いてしまった。
 うがいをしてテレビの前に戻ると、一時停止が解かれ、画面が流れ始めた。
 「クリトリスの位置を決めて縫合する。尿道の一部を切り開いて縫合し腟前庭とする。倍速で早送りしているが、分かるかな?」
 「・・・・はい」
 ぼくは小さな声で頷く。
 「ペニスの皮膚と陰嚢を利用して、大陰唇と小陰唇を作る。余分な陰嚢は切り取ってしまう。少し内出血しているが、本物そっくりだろう?」
 ホントに本物そっくりだった。実物は見たことはないけど、友永が残したエッチ画像で女のあそこはたくさん見ている。ドクターはビデオを片づけ始めた。
 「ドクター?」
 「何だね?」
 「あのう・・・・。ちょっと聞いてもいいですか?」
 「いいよ。何でも聞いてくれ」
 「膣は? 腟はどうなったんですか?」
 おしっこして、陰部を拭いてはいたけれど、膣の存在なんて、調べもしなかった。調べようと言う気にもならなかった。手術のビデオが本当なら、ぼくの体に膣は作られていないことになる。
 「陰核肥大と腫瘍の摘出手術をするって言わなかったかな?」
 「・・・・そう言いましたけど・・・・」
 「だから、今回やった手術はそのふたつだけだ」
 「膣は作っていないんですね」
 「そうだ。膣は作らなかった」
 「どうしてですか? ペニスと睾丸を切り取ってしまえば、ジョニーの気が済むと・・・・」
 「そうじゃない。君を女に戻してくれと頼まれている。だから、膣も作る予定だ」
 「作る予定って、いつ・・・・」
 「明後日、もう一度手術をする」
 (ようやく痛みが治まってきたのに、もう一度手術するなんて、どうしてだ!!)
 「作るんなら、何故この前作らなかったんですか?」
 「ふん、そうだな。説明してあげよう。膣を作る方法としてペニスの皮を使う方法があるんだが、仕上がりが綺麗にならないんだ。見た目が女そっくりにならない」
 「じゃあ、何を使って膣を作るつもりなんですか?」
 「S状結腸という大腸の一部を使うつもりだ」
 「えっ!? じゃあ、お腹を切るの?」
 「そうだよ」
 ドクターはこともなげにそう言い放った。
 「お腹なんか切りたくない!」
 「しかし、そうしないと膣を作れないよ」
 「膣なんていらない。ぼくは男なんだから」
 「君の気持ちは分かる。しかしだな。君には、もはやペニスも睾丸もないんだよ。乳房も大きくなってきているし、見た目は女に近いんだ。男としては、もう生きていけないよ」
 そんなドクターの言葉を聞くまでもなかった。
 (ぼくは、男ではなくなった。もう男としては生きていけない)
 「だけど、女としてなら、生きていける。女として生きていくのなら、膣があった方がいいに決まっている。そうじゃないかね?」
 はい、その通りですと、口に出しては言えなかったけど、ドクターの言う通りだと思っていた。ぼくは黙って項垂れていた。
 「心配しないでいい。傷は残らないようにしてあげるよ」
 (傷が残らないようにしてあげると言われたって・・・・。お腹を切るのはイヤだけど、そうしないと膣ができないと言うのなら、そうして貰うしかない。イヤだと言っても、無理矢理膣を作られるのは分かっていることだから)

 二日後、ぼくは、ぼくが暮らしている病室の隣にしつらえられた手術台の上にいた。両手を広げ、足を大きく開いた姿勢で、手術台に縛り付けられていた。
 「眠っている間に手術は終わるからね」
 そんなドクターの言葉を聞き終わらないうちに、眠りに落ちた。

 目が覚めると、いつもの部屋にあるベッドの上にいた。目は覚めたけど、頭はまだぼんやりしていた。
 「痛くない?」
 佐藤さんがぼくの顔を覗き込む。
 「まだ痛くないよ」
 「痛くなったら言ってね。痛み止めの注射をするからね」
 「ありがとう」
 それから2時間ばかり、うつらうつらと寝たり起きたりしていた。

 痛みが襲ってきた。前回の痛みよりかなりひどい痛みだった。前回は、股間だけの痛みだった。今回は、下腹を切ったところと骨盤の奥深くに痛みがあった。
 「佐藤さん、痛くなってきたよ。痛み止め、いいかな?」
 「すぐ打ってあげるわ」
 お尻に注射されると、10分ほどして痛みは遠のいたけど、吐き気がして、頭がぐるぐる回り始めた。
 「佐藤さん、目眩がして気持ち悪い」
 「痛み止めの所為よ。眠ってしまった方が楽よ」
 「分かったよ」
 目を瞑って、吐き気を伴う目眩と戦いながら、うとうとと眠った。

 目が覚めると再び痛みが襲ってきた。佐藤さんに痛み止めをもう一度打って貰う。そんなことが4回続いた。
 痛みが軽くなってきたのは、翌日の昼頃だった。
 「佐藤さん、お腹が減ったよ」
 「まだダメよ」
 「だって、この前は、次の日にお粥を食べさせて貰ったよ」
 「今回は、腸を切っているから、ガスが出るまで食べられないの」
 (お腹を切ったら、ガスが出るまで食べられないんだ。そうだった)
 ぼくはがっくり来る。
 「いつ頃出るの?」
 「もう2,3日たってからでしょうね」
 「その間、ずっと食べられないの?」
 「そうよ。ずっと点滴だけよ」
 「・・・・ああん。お腹空いたよ」
 「ガスが出るまで、我慢、我慢」
 ぼくは項垂れて、ポタリポタリと落ちていく点滴を見つめていた。

 手術を受けて4日目、ガスが出た。傷の付け替えにやってきたドクターに、喜び勇んでガスが出たことを告げた。
 「そうだな。用心のためにもう一日待とう」
 すぐに食事を出そうと言ってくれることを期待していたから、ぼくは失望して肩を落とす。
 「もう一日、何も食べられないの?」
 「ちゃんとつながっていなかったら、大変なことになるからね」
 「明日になったら、何か食べさせてもらえますか?」
 ぼくは懇願するような目でドクターを見た。しかし、
 「明日、また考えるよ」
 と、やや冷たい返事だった。

 その翌日、ドクターは付け替えをしながら呟く。
 「我ながら、綺麗に縫えた。完璧だ」
 「ホントですか?」
 「ああ。見てごらん。傷はほとんど目立たないだろう?」
 イソジンという消毒薬を塗っていたのだが、切ったはずの傷が見えないのだ。
 「ドクター。どこを切ったんですか?」
 「ここだよ」
 ドクターが示すところにやはり傷は見えなかった。
 「ホントに切ったんですか?」
 「心霊手術じゃなるまいし、切らないと手術ができないだろう?」
 「それはそうでしょうけど・・・・」
 「人間には、皮膚割線と言って、その方向に切ると、傷が目立たなくなるような線があるんだ」
 「へええ」
 「君は、手塚治虫の『ブラックジャック』と言う漫画を読んだことはないか?」
 「読んだことはありますが・・・・」
 「あの中に、全身に刺青があるやくざの親分が癌になって、ブラックジャックが傷を残さないで切るという物語があるんだ」
 「博物館に刺青をした人間の皮膚が飾られていたやつですね」
 「そうだ。あれと同じようにやったって訳だ」
 ドクターはちょっと胸を張った。
 「恥骨のちょっと上に皺があるだろう?」
 「はい」
 「この皺と一致するんだ。それに沿わせて切ってあるから、まったく目立たないんだ」
 「なるほど・・・・」
 「ビキニのパンティーを穿いても、ここなら隠れてしまうしね」
 ビキニのパンティーを穿くことになるんだろうか? 穿くことになるんだろうな・・・・。
 「考えて手術していただいてるんですね」
 「プロだからね」
 望まない手術をされているという感覚はもうなくなっていた。
 (早く、完全な女になりたい。早くすませてしまって、こんな所を出ていきたい)
 そう思い始めていた。
 「膝を立てて。膣の方をみてみよう」
 ぼくは言われたとおりに膝を立てて股間をドクターに晒した。
 「こちらの傷の状態も完璧だ。熱も出ていないし、昼から食事を始めよう」
 「ドクター、ありがとう」

 食事が出た。流動食だったけど、久しぶりに食べる食事は美味しかった。4本あった点滴も、2本になった。もう二日したら、点滴もなくなると聞かされた。

 その翌日、膣に詰められていたガーゼが抜き取られた。以前は存在しなかった空間から何かが出ていくという感覚に不思議な感慨を覚えていた。
 「ちょっと痛いかも知れないけど、中を覗いてみるからね」
 ドクターが、クスコという器械で、ぼくの中を観察している。痛くはないが、妙な感触がした。
 「人造膣の中の状態も良好だ。さて、今後君には、ふたつのことをやって貰わなければならない」
 「何をやるんですか?」
 「まずは、骨盤底の筋肉を鍛えてもらわなければならない」
 「骨盤底の筋肉?」
 「腟を作るために、骨盤の底にある筋肉を切り開いてあるから、弱っているんだ。鍛えないと、尿が漏れることがある。今の君は尿道が短くなっているから、尿が漏れ易いんだ」
 「尿が漏れちゃうんですか? それは困ります」
 「そうだろう? だから、鍛えてもらうんだ」
 「どうするんですか?」
 「診察するときのように、膝を立てて」
 「こうですね」
 「そうだ。その状態で、腰を浮かせてごらん」
 ぼくは腰に力を入れて浮かせた。
 「それでいい。次ぎに、腰をベッドに付けたまま、恥骨を引き上げるようにする」
 「ええっ!?」
 「こうするんだ」
 ドクターが仰向けになって説明した。
 「なるほど」
 「それから、肛門に力を入れて閉める」
 何とかできているようだ。
 「朝晩、20回ずつやりなさい。いいね」
 「はい」
 「それで鍛えたら、尿は漏れないし、腟も締めることができるようになる」
 「ち、腟を締めるって・・・・?」
 「あ、君は知らないんだね。女は性的に興奮すると腟が締まるんだ」
 「・・・・聞いたことはありますが・・・・」
 「セックスに慣れた女は、意図的に締めることができるんだ。そうすることで、男を喜ばすって訳だ」
 ぼくは顔を真っ赤にして俯いていた。
 「潮吹き女って聞いたことがあるかな?」
 「は、はい」
 「あれは、腟を締める究極の技だ。腟の中に溢れ出た粘液を、腟を締めることによって腟外に噴出させるんだな」
 「そう言うことだったんですか・・・・」
 「君にそこまで要求することは無理だろうが、少しは締められるようになった方が、今後の性生活にとっては有利だろう。分かったね」
 「はい」
 (今後の性生活・・・・。膣があるんだから、男とセックスできるんだよね)
 何とも不思議な気分だ。
 「この器械を使うと、腟がしまっているかどうか分かる」
 「なんですか、それは?」
 「腟圧計というものだ。このディルドーに圧センサーが付いていて、締まり具合がこのメーターに表示される仕組みだ」
 ぼくは、コードの付いたディルドーを見つめた。
 「ここの黒い目盛りまであげられれば合格だ。この赤い目盛りまで来れば万々歳だ」
 ぼくは溜息をついた。
 「次ぎに、膣拡張を教えておこう」
 「膣拡張?」
 「ああ、そうだ。腸を使った造膣術の場合、ペニスや陰嚢の皮膚を使うよりも狭窄することは少ないが、しないとやはり狭くなってしまうんだ」
 「膣拡張・・・・」
 ドクターはシリコンでできた白い棒を取り出した。
 「まずこの太さのものから始めよう。ジェリーをたっぷり塗って入れるんだよ。いいか。こうやって入れるんだ」
 ぬるぬると体の中に異物が入ってくる感触がした。
 「痛くないか?」
 「大丈夫です」
 「もう一段大きなものでもいいようだな」
 そう呟いて、ドクターは再びぼくの中に入れた。
 「どうだ?」
 「少し痛いくらいです」
 「ちょっと、大きくしすぎたかな?」
 「ええっ! 何が大きすぎたんですか?」
 「心配するな。膣拡張しなければ、狭くなってくる」
 つまり、膣拡張しなくていいほどの大きさがあると言うことだ。
 「あの女、がばがばで締まりがなくってさあ。やりすぎだよ」
 そんなことを言っていた友永の言葉が脳裏に浮かんだ。
 「これならどうだ?」
 激しい痛みが脳天まで届いた。ぼくは思わず叫んだ。
 「痛い!!」
 「これは4.2センチのものだから、ちょうどいい大きさだよ。さあ、自分でやってみなさい」
 ドクターにシリコンの棒を手渡された。4.2センチと言えば、Johnnieが送ってきたいぼいぼ付きのディルドーより細いわけだけど、何だか太く思えた。
 恐る恐る入れてみた。痛いけど、割と楽に入った。他人が入れるのと、自分で入れるのとは違うなと感じた。一番奥に突き当たったかなと思っていると、少し動かすとさらに深く進んだ。気が付いたら、シリコン棒がほとんど付け根まで入っていた。持つところがほんの少ししかなくなって抜くことができなくなってしまった。
 「ドクター。抜けないよ」
 「あれ!? ちょっと待ちたまえ。力を抜いて」
 ぬるりとシリコン棒が抜け出ていった。
 「もう少し長いものを探してこないといかんな」
 ドクターはそう呟く。
 「長いものって、それ、何センチあるんですか?」
 「25センチだと思うが・・・・」
 「25センチ!! そんなにあるんですか?」
 「ああ、そうだ。大腸を使うメリットのひとつだ。好みの奥行きを確保できる。ペニスや陰嚢の皮膚ではこうはいかん」
 「どうして25センチも・・・・」
 「25センチはないな。20センチちょっとだよ」
 「20センチちょっとと25センチじゃあ、50歩100歩でしょう? どうして、そんなに深く作ったんですか?」
 「ジョニーのご希望だよ」
 「ジョニーの希望?」
 そんな言葉を聞いて、ぼくの頭の中にある考えが浮かんだ。
 (ジョニーのペニスは9インチ、23センチあまりだと言っていた。まさか、性転換したぼくとセックスするつもりでは・・・・)
 「まさかぼくと・・・・」
 「それは聞いていない。深さを9インチにしてくれと依頼されただけだ。少し浅くなってしまったようだが、ま、君の考えが当たっているのかもしれないがね」
 ジョニーがぼくにくれた花束に付いていた言葉がふいに頭の中に浮かんだ。

 『愛するnaomi
 心より愛を込めて。
 今度君に会える日を楽しみにしている。
 Johnnie』