第10章 ジョニーとの再会

 車は、細い道を下って行く。いくつか信号停車した後、大きな通りにある交差点の信号で停まった。右方向が東京方面だ。信号を右折して大きな通りに出た。その道路の標識に京葉道路と書いてある。京葉道路を車は北上していった。運転手は、まっすぐ前を見たままひと言も口を利かない。
 ぼくは座席の凭れ、バッグを膝の上に置いて、窓の外をぼんやり見ていた。車は、ジョニーの待つパレスホテルへまっしぐらに向かっているようだ。
 信号で何度も停まった。だから、逃げ出そうと思えば逃げ出せた。しかし、逃げ出さなかった。
 (ぼくはジョニーに会わなければならない。ジョニーは女になったぼくと会いたがっているはずだし、ぼくもきちんとジョニーに話しをしておきたい。一年前、男だったぼくとの会話をジョニーは拒んだ。イヤ、聞こえない振りをした。女となった今、ジョニーとぼくはきちんと話しができるはずだ。会って話したあと、どうするか? そこまでは考えていない。ともかく、ぼくはパレスホテルに行かなければならない)

 東京駅付近の渋滞を抜け、車は約束の場所、パレスホテルの前に横付けされた。時計は、午後6時40分を刺していた。
 車を降りると、髪をカットに行ったときと同じように、あたりにいた人たちの視線がぼくに集中した。今日は7センチのヒールのパンプスを履いている。スタイル抜群で(と、ぼくは思っているのだが)、一目で分かる高級な衣服を身に着け、颯爽と降り立ったぼくに注目しなかったら、そいつはホモだ。

 ぼくは、玄関へと向かった。玄関ボーイが、ぼくを導く。ぼくは、口元にほほえみを浮かべ、丁度皇后様がなさるように、上品に首を傾げた。
 ジョニーのいる場所は分かっている。あの場所しか、ぼくを待つ場所はない。ジョニーももうぼくの姿を見つけたはずだ。ぼくは、ゆっくりとジョニーの方に視線を向けた。
 いた。去年と同じ場所に。ジョニーが椅子から立ち上がって、ぼくに向かって手を挙げた。今日も胸にバラの花を付けている。
 「ちょっと、きざなんじゃないの?」
 そう、言いたくなるところを押さえる。胸がどきどきする。ぼくのまわりから酸素がなくなってしまったように息が苦しい。周りに人がいなかったら、ぼくは金魚のように口をぱくぱくさせていただろう。ぼくは大きく深呼吸して、ジョニーのそばへゆっくりと歩み寄った。
 「ナオミ、早かったね」
 「いえ、一年も待たしてしまったわ。ジョニー」
 「君に会うためだったら、一年でも二年でも待つよ」
 ジョニーは微笑んでぼくの頬にキスをした。
 「もう、待たせたりしないわ」
 「君は、ぼくが想像していた通りの人だ」
 「ありがとう。あなたもよ、ジョニー」
 「さあ、座って。お茶でも飲もう。何にする?」
 「レモンティーを」
 ジョニーがボーイに向かって手を挙げ、レモンティーを注文した。ぼくは、ジョニーの向かい側に腰を下ろした。

 一年前のジョニーは、ぼくが男だと分かった所為で、鬼のような険しい目をしていた。しかし、今目の前にいるジョニーの目は違う。まるで、赤ん坊を抱く女性のように優しい目をしていた。
 ジョニーに見つめられて、ぼくは頬を染めながら、紅茶の入ったカップをスプーンでかき回し続けた。
 ジョニーはそんなぼくの様子を楽しむように、黙ってぼくを眺め続けていた。

 15分ほど、そうしていただろうか? ジョニーがようやく口を開いた。
 「ナオミ、そろそろ行こうか?」
 「どこへ行くの? ジョニー」
 「ディナーの予約をしているんだ。ディナーを一緒にしてくれるだろう?」
 「勿論です」
 微笑んで立ち上がると、ジョニーがぼくの腰に手を回してエスコ−トしてくれた。学園祭の時も、友永がこうやってぼくをエスコートした。しかし、友永はぼくより背が低かったから、みんなの失笑を買った。ジョニーは、ぼくより遙かに背が高い。ぼくたちはお似合いのカップルに見えるだろう。

 レストランの入り口で、ジョニーが予約の確認をすると、ボーイがぼくたちを席まで案内し、ぼくが座るイスを引いて座らせてくれた。ぼくは、ボーイに笑顔を向けた。
 「ありがとう」
 ジョニーはメニューを見ながら、何やら注文している。
 「シャンパンを注文しよう」
 「わたし、飲めないのよ」
 「一杯だけ付き合ってくれ。ぼくと君の将来のために乾杯したい」
 ぼくと君の将来のために!? ぼくは目を丸くした。
 「何かおかしな事、言ったかな?」
 ジョニーは首を傾げてぼくを見た。
 「い、いえ。なにも・・・・」
 (ぼくには、ジョニーとの未来があるというのだろうか?)

 シャンパンが運ばれてきた。ぼくは、グラスを目の高さにあげて、ジョニーに微笑んだ。
 「君とぼくのために」
 シャンパンはまろやかで美味しかった。ディナーの間、ジョニーは、ずっとぼくから目を離さない。ぼくは終始下を向いていた。
 「ナオミ?」
 「はい?」
 「もっと話しをしたい。いつものように」
 (いつものように・・・・。チャットの時のようにと言う意味だろう)
 「何を話したらいいのか・・・・」
 「最近推理小説は読んだ?」
 「ぜんぜん」
 「そうか。じゃあ、インターネットはしてる?」
 (ジョニーはぼくをあの病室へ閉じこめて、性転換させたことを忘れたのだろうか? インターネットなどできる環境ではなかったことは知っているだろうに)
 だけど、ぼくはそんなことはおくびにも出さずに会話を続けた。
 「ここ一年、キーボードに触っていないわ」
 「そうか」
 「一年も経つと、コンピューターも随分進化したでしょうね」
 「ああ、そうだね」
 「わたしのコンピューターは、MMX200だったけど、もう化石みたいになっているでしょうね」
 「MMX200!? それは骨董品だよ。ぼくが新しいものを買ってあげよう」
 「ホント?」
 「ペンティアムVのワンギガ、メモリー256メガ、ビデオメモリー128メガ、ハードディスク60ギガ、CDR/RWにDVD付き、液晶モニターなんてどうだ?」
 「ほとんど完璧」
 「殆どというと、何か不足でも?」
 「液晶は嫌い。場所をとってもブラウン管がいいわ。トリニトロン管のね」
 「トリニトロン管だな。オーケーだ」
 「それに、メモリーが256じゃ、少ないわ。倍は欲しい」
 「分かった。ナオミが望めば、何だって買ってあげるよ」
 この頃には、ぼくはジョニーの目を見ながら話していた。話しのきっかけができて、ぼくたちは、チャットの時と同じように語り合った。

 デザートがすみ、食後のコーヒーが出る頃には、ぼくはジョニーに顔をくっつけるようにして話していた。ぼくとジョニーは、やっぱり気が合うのだ。ぼくたちは、少し年の離れた恋人同士に見えるだろう。
 「そろそろ行こうか?」
 ジョニーがそう言いだしたのは、時計が午後10時を回った頃だった。
 「こんどはどこに?」
 「もう少しアルコールをと言いたいところだが、君が飲めないから、もう部屋へ行こうか」
 「部屋へ? わたしも?」
 「勿論だよ。イヤかい?」
 イヤだとは言わないことは分かっているだろうに、ジョニーも人が悪い。ぼくもちょっと意地悪を言ってみる。
 「イヤだっていったら、どうするつもり?」
 「縄で縛って、無理矢理にでも連れていく」
 「それじゃあ、行かざるを得ないわね」
 部屋へ行ったら、次は何をするか分かっている。ジョニーは男で、ぼくは女だ。男と女がひとつ部屋に行けば、することはひとつだ。ジョニーはほんとにぼくとするつもりのようだ。ぼくには覚悟はできている。そうするために、ここへ来たようなものだから。
 「それでは、お部屋まで、ご案内いたしましょう」
 再びジョニーに腰を抱かれ、部屋まで連れて行かれた。ジョニーが部屋のドアを開けている。ぼくの胸は、再びどきどきし始めた。

 ドアを開けて貰って中に入ると、絨毯の敷かれた短い廊下がある。右手にドアがあって、開いてみると大きな鏡の付いた洗面所があった。その奥のドアの向こうはバスルームらしい。真っ直ぐ廊下を進むと、大きなベッドがふたつ並んででんと据えられていた。
 ツインルームだ。ベッドはふたつはいらないんじゃないかなと心の中で思った。
 「スイートが取れなくてね。こんな部屋で申し訳ない」
 「そんなことないです。こんな素敵な部屋に泊まれるなんて夢みたいです」
 「そう言ってもらえると、気が休まるよ」
 そう言って、ジョニーはぼくにキスをした。すぐにでもぼくを押し倒しそうなジョニーをぼくは制した。
 「あのう、ジョニー?」
 「なんだい?」
 「汗かいちゃったから、シャワーを浴びてきてもいい?」
 「ああ、いいよ」
 ぼくは、バスルームへと向かった。洗面所の鏡の下に脱衣籠が置かれていた。ぼくは、着ていたものを脱いでバスルームへ入った。
 バスルームは広く、左手に大きなバスがあり、右手に半透明のガラスで仕切られたシャワールームが独立していた。
 シャワーキャップを被って、シャワールームへ入り、少しぬるめのシャワーを浴びた。まさかジョニーが入っては来ないだろうなと思っていたが、結局入ってこなかった。ホントはちょっと期待していたんだけど・・・・。

 バスローブを纏って部屋に戻ると、ジョニーは、どこかへ電話していた。ぼくが戻ってきたことが分かると、そそくさと電話を切った。
 「綺麗になったかい?」
 「ええ」
 「ぼくもシャワーを浴びてこよう。待っていてくれ」
 「はい」
 (待っていてくれって、どうして待ってたらいいんだろうか? このまま椅子に腰掛けて待つ? それとも立ったまま?)
 ちょっと迷って、ぼくはバスローブを脱ぐと、裸のままベッドの中に滑り込んだ。こうするのが一番いいと思ったからだ。

 それから何分もたたないうちに、ジョニーがバスタオルを纏い、バスタオルで髪の毛を拭きながら出てきた。
 「早かったのね」
 「君を待たせるといけないと思ってね」
 「早く来て」
 そんな言葉が自然に出た。ぼくはもう完全に女になりきっている。

 バスローブを脱いで、ジョニーがぼくの隣に入ってきた。すぐに抱きしめられ、キスされた。映画で見るような長い長いディープキッスだった。
 ジョニーの唇が首筋に降りてきた。くすぐったいような、気持ち悪いような、妙な気分だ。ジョニーの手がぼくの乳房を捕らえ、ゆっくりと揉み始める。自分で触ったときとは、まったく違う感覚が沸き起こってきた。
 ぼくは感じている。乳房を揉まれて感じている。
 (ぼくは女なんだ)
 うっとりとしながら、そう考えていた。

 乳首を舌で転がされ、強く吸われたとき、ズキンとした刺激がぼくの体を駆けめぐった。ぼくはエクスタシーへの階段を上り始めていた。
 ジョニーの舌がぼくの体を這い回る。そして、焦らしに焦らした挙げ句、ぼくの一番敏感な部分、新たに作られた小さな突起、セックスのためだけに存在する器官へ達した。
 柔らかくあるいは強く刺激されて、ぼくは上っていった。舌でその部分を跳ね上げられたとき、ぼくは行ってしまったようだ。体が硬直して震えるのを感じた。
 ジョニーがぼくから離れた。快感でまだぼんやりしていたけれど、やってあげなきゃと思った。ぼくはジョニーの銀色に輝く胸毛の中から乳首を探り当てて、舌で転がしてやった。男もこうすると感じると友永の持ってきた何かの本に書いてあった。それから、舌を股間へと移動させていった。
 そこでぼくはちょっと動きが停まってしまった。9インチと言ったジョニーの言葉は本当だった。9インチというのは、約23センチ。頭の中ではこれくらいの大きさだろうと言うことは分かっていた。しかし、思い描いていたイメージより遙かに大きかった。
 両手で握っても、まだ余る。しかも握る指と指が届かないのだ。2インチちょっとと言っていたが、ちょっとがちょっとではなかったのだ。
 友永の残したエッチ画像のように、口の中に含むなどと言うことはとてもできそうもない。ぼくは、ジョニーの巨大とも言うべきペニスに手をかけたまま固まっていた。
 「どうしたんだ?」
 「こんなに大きいなんて・・・・」
 「ぼくが送った写真は見たんだろう?」
 「見たけど・・・・」
 あれは嘘かもしれないと思っていたし、モニター上では、大きいと言うことは分かっても実感がない。
 「さあ、やってくれ」
 そう促されて、ぼくは舌を使って嘗め始めた。こんなことするなんて、思っても見なかったけど、ぼくは今は女。それもジョニーとセックスの最中だ。こうしてやるのが女の役目だ。そう割り切っていた。
 ちょっと萎えかけていたペニスが、再び硬度を増してきた。
 (裏筋が気持ちいいんだよね。カリの部分も。タマの部分だって)
 最後に、ぼくは意を決して、口を大きく開いて口の中へ入れた。チャットの時、ぼくならできるとジョニーが言ったけれど、ホントに入ってしまった。だけど、顎が痛い。歯が当たっているんじゃないかと心配になる。口の中一杯で、舌を使うどころじゃない。
 「無理しなくていいよ。さあ、フィニッシュだ」
 ぼくを仰向けにすると、ジョニーがぼくの上に覆い被さってきた。
 「大丈夫かしら?」
 「なにが?」
 「こんなに大きいんですもの。入らないかも」
 「やってみるしかないな。さっきドクターに電話したら、ドクターは大丈夫だろうって言ってたよ」
 (電話の相手はドクターだったのか)
 ドクターが大丈夫だと言っていたと聞いて少し安心し、ぼくはジョニーに笑顔を向けた。

 そっと自分の股間を触ってみた。ぼくの場合、前立腺液とカウパー腺液の他に、膣代わりに移植された大腸から粘液が出て挿入を容易にしてくれるだろうとドクターに言われていた。ぼくは性的にかなり興奮している。そこは多量の粘液で溢れていた。
 (これなら大丈夫だな)
 ぼくは、さらに安心する。
 「ナオミ、準備はいいか?」
 「うん」
 ぼくは、膝を立てて頷いた。ジョニーの大きなペニスが、ぼくの新たな器官の入り口にあてがわれた。一年前の冬、夢想していたことが実現される。早く、早く、早くとぼくは心の中で叫んでいた。
 ゴクッと音がしたような気がした。その瞬間、張り裂けそうな痛みが襲ってきた。4.2センチの拡張棒は容易に出し入れできていたけれど、2インチを越えるというジョニーのペニスは、ぼくにはまだ荷が重すぎた。
 「痛ああーいっ!」
 ぼくは顔をしかめ、思わず声を上げた。
 「大丈夫?」
 ジョニーが腰を引こうとする。
 「だ、大丈夫。大丈夫だから、そのままじっとしていて。抜かないでいいわ。・・・・大丈夫。すぐに治まるから。しばらく、・・・・しばらく、じっとしていて」
 肛門に直径4.5センチのディルドーを入れたとき、痛みはしばらくしたら治まった。恐らく、今日もそうなるだろうと思った。
 思った通り、痛みは次第に遠のいていった。ぼくの表情が和らいだのを見て、ジョニーは、ゆっくりと腰をぼくに押しつけてきた。
 治まりかけていた痛みが再び増してきて、ぼくは顔をゆがめる。ジョニーは、力を緩める。その繰り返しだった。カタツムリが歩くようなスピードで、しかし、確実にジョニーがぼくの中へと進入してきた。
 クリトリスが、ぼくとジョニーの恥骨に挟まれて刺激を受け始め、ジョニーがぼくの最も奥まで進入したことを知らされた。
 しばらくじっとしていたジョニーは、ぼくの様子を見ながらゆっくり腰を動かし始めた。痛みがまた襲ってきた。
 「い、い、い」
 痛いと言う言葉が出なかった。
 「あ、あ、あ」
 堪らなく痛い。ぼくは痛みを堪えるために、力の限りジョニーにしがみついた。そんなぼくの動作を、ジョニーは、ぼくが感じている所為だと誤解したようだ。ジョニーはさらに腰を動かす。それも激しく。
 「あん、あん、あん」
 痛くて、痛くて、涙が出た。この涙もジョニーは誤解したようだった。ジョニーは嬉しそうな顔をして腰を動かし続けた。痛みを通り抜けて麻痺したようになったとき、ジョニーが雄叫びをあげた。
 「うううう、おうっ!!」
 ぼくの中で風船が膨らんで爆発した。そんな風に感じた。激しい痛みが再び襲ってきた。ぼくはただただ痛いばかりで、ジョニーの背中にしがみついていた。
 ジョニーは、ぼくにブチュブチュとキスをし、耳元で囁いた。
 「ナオミ、すごく良かったよ。思っていたとおり、君は素晴らしい女性だ。愛しているよ」
 ぼくは、黙って頷くしかなかった。

 しばらくして、ジョニーが抜け出ていった。抜け出て良かったような、まだ中にいて欲しいような複雑な気持ちだった。
 ジョニーは、ぼくの横にばたりと仰向けになった。もう一度続けてしようと言われたらどうしようかと思っていたぼくはホッとした。
 ぼくは、ジョニーの太い腕にしがみついて、足を絡ませた。股間にはまだじんじんとした痛みが残っていたけれど、それは心地よい痛みだった。
 ぼくは男として性体験を経ないまま、女として経験してしまった。ぼくは処女を失った。イヤ、ジョニーに処女を捧げたのだ。
 (本物の女の処女喪失もこんなに痛いものなのだろうか)
 ちらりと思った。

 ぼくにとって、ジョニーは世界で最も大切な人となった。そんな風に感じながら、ぼくは眠りに落ちていった。