第3章 前門の虎・後門の狼

 「兄貴。ひどいじゃないか」
 警察官たちが立ち去っていくのを確認したあと、滝川は痛む肛門を押さえてぼやいた。
 「ちょっとくらい我慢しろ。おかげでサツに捕まらなくてすんだんだろうが!」
 「だからって、何もほんとに入れなくたって・・・・」
 滝川はティッシュで肛門を拭く。そのティッシュに血液がべっとりと付いていた。滝川はその真っ赤な血を情けない顔をして見つめた。
 「入れたからこそ、サツにお前が女だと信じさせることができたんじゃないか」
 「入れなくたって、信じたよ」
 声が涙声になっていくのがわかる。
 「いや、お前のヨガリ声が利いたんだ」
 「俺はよがってなんかいない!」
 「そうか? 結構いい声してたぞ」
 市原が薄ら笑いを浮かべた。
 「痛くて喚いていただけだよ」
 「そうか? お前、初めてだろう?」
 「あたりまえだよ。こんなことされたのは初めてだよ」
 「処女って言うわけだ。そりゃ、痛くて泣くのはあたりまえだ」
 滝川は下を向いて、涙を流した。
 「男の癖して、泣くかね? いや、今は女か?」
 市原は、涙を浮かべる滝川を見ながら、茶化すようにそう言った。
 「兄貴なんて、もう嫌いだ!」
 「助けてやったのに、その言い草は、何だ!」
 市原の手が飛んだ。頬をぶたれて、滝川は女のようにベッドの上に倒れた。
 「いいか、考えても見ろ。あのまま捕まってみろよ。ムショに入れられたらどうなると思う? 女みたいな可愛い顔して、大きな乳が付いてるんだ。ムショ中の男に輪姦されるぞ。そうじゃないか? 俺一人ですんだんだ。しかもここは娑婆だ。感謝されても、怨まれる筋合いはねえぞ! ああっ?」
 そう言われれば、確かにそうだと滝川は思った。
 「ケン! もう服を着ろ」
 黙りこくったまま、滝川は服を着ようとするが、あたりに服はない。
 「兄貴。俺の服は・・・・」
 「そうか。洗濯機に入れてしまったな。・・・・どうするかな?」
 市原は、滝川の顔を見ながら、にやりと笑った。
 「兄貴。何考えてんだよ」
 市原の企みを察して、滝川は慌てて両手を振った。
 「おまえのお察し通りだぜ。どうせなら、きちんと女装した方が、おまえだとばれないなと思ってな」
 「い、いやだよ」
 「強盗傷害2件と強盗強姦殺人で追われているんだぞ。捕まってもいいのか?」
 「殺人はやってないよ。殺人は、あの女のだんなの仕業だよ」
 「そうだったな。しかし、それでも捕まりゃ、かなりの罪だぞ。保護観察中だからな。そうだな。10年は軽いな」
 「10年・・・・」
 「くさい飯を10年も食らいたくなかったら、ま、女の格好をするんだな。今日からお前は女として暮らすんだ。それがいい」
 「人のことだと思って・・・・」
 「おまえの事を思って言ってるんだろうが。それが分からんのか?」
 再び頭をど突かれた。
 「・・・・分かりましたよ」
 「よし。そうと決まれば、服を用意しなけりゃならんな。俺が買いに出るわけにはいかんから、清子を呼び寄せよう」
 「清子姉さんを・・・・」
 清子というのは、市原の情婦だ。新宿のスナックで働いている。
 「そうだ。電話するから、その間にシャワーでも浴びて来い。汗臭くってたまらん」
 福沢の病院を出てから、風呂に入っていなかった。汗臭いのはあたりまえだ。滝川は、電話する市原の前を、股間を押さえながらシャワールームへ走っていった。

 滝川は、熱いシャワーを頭から浴びて、シャンプーで髪を洗い体を洗った。でかい乳房を洗うのには、まだなれない。何か別のものを体にくっつけているように感じる。実際に、シリコンのバックが埋め込まれているだけなのだから、そう感じるのはあたりまえなのかもしれない。肛門に触れると、まだ痛んだが、出血は止まっているようだ。
 体を拭いて腰にバスタオルを巻いて外に出た。
 「ケン! おまえなあ。そのデカ乳を何とかしないか。女って言うのは、そういう風に腰にバスタオルを巻くんじゃなくって、胸に巻くもんだぜ。見たことあるだろう?」
 市原が、滝川と入れ替わりにシャワールームへ向かいながら、左の乳房を人差し指で押した。
 滝川は、慌ててバスタオルを乳房の上で結びなおした。しかし、
 「俺は女じゃない」
 滝川は、そう呟いてちょっと涙を浮かべた。思い直してバスルームに向かって叫んだ。
 「兄貴! ビール飲んでもいい?」
 「かまわんぞ。勝手に飲め」
 滝川は冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、リングプルを引いてぎゅっと一口飲んだ。
 「効くなあ・・・・」
 久しぶりのビールは、腹の中に染み渡った。

 しばらくして、市原がトランクス一丁で出てきた。滝川はしばらくはあんな格好はできないなと思いながら、ソファーに座って片目でテレビを見ていた。
 「清子はまだか?」
 「まだみたいですね」
 「遅いな」
 ぶつぶつ言いながら、市原は冷蔵庫から缶ビールを取り出して飲み始めた。そのとたん、玄関チャイムが鳴った。
 「おっ! 来たか」
 市原が玄関へ迎えに出て行く。がちゃりとドアが開いて、清子が入ってきた。清子は、どこから見てもお水の女だ。その清子は、滝川の姿を認めるなり、険しい顔つきになった。
 「あんた! 何よ、この女は!」
 振り向いて、市原を睨み付けた。洗いざらしの長めの髪の毛。可愛らしい顔貌。胸の高さでバスタオルを巻いた滝川は、確かに女に見えた。
 「清子に女だと思われるのなら大丈夫だな」
 「えっ? なになに? どう言うこと? 女だと思われるってことは、おかまなの?」
 「正解!」
 市原は清子に向かって人差し指を突き出した。
 「俺は、おかまじゃないよ」
 市原の答えを滝川は慌てて否定する。清子は訳が分からず、市原と滝川を交互に見た。
 「清子。こいつの顔をよく見ろよ。覚えがあるはずだ」
 「ええっ?」
 清子は、滝川の顔を見つめて首をかしげた。
 「分からないか?」
 「分からない。でも、確かにどこかで見たような・・・・」
 「そうだろう? よく見ろよ。瞼を一重に戻して、鼻を団子鼻にしてみろ」
 まじまじと見つめたあと、清子が素っ頓狂な声をあげた。
 「あ、分かった。ケンちゃんね」
 「ピンポン!」
 「ほんとにケンちゃんなの?」
 「ああ、そうだよ」
 小さな声で滝川は答える。
 「どうしたのよ?」
 「今、サツに追われてるだろう? だから、整形したんだ」
 「あ、なるほど。あんまり可愛かったから、おかまだなんて言って、ごめんね」
 そう謝られたけど、滝川は下を向いた。
 「謝らなくてもいいぞ。ケンは、今は立派なおかまだ」
 「違うって言ってるだろう?」
 滝川は口を尖らせる。
 「そんな大きな乳があって、違うなんて言えないだろう?」
 「え、なになに? そのバスタオルの下は、やっぱりおっぱいがあるの?」
 清子は興味津々という表情を浮かべた。
 「あるんだよな」
 市原がにやりと笑った。
 「見せて。見せて」
 面白がって、清子は滝川のバスタオルを取ろうとした。
 「いやだ。やめてくれよ」
 「我侭言うと、今後何の手助けもしてやらないぞ。ケン!! それでもいいんだな」
 市原に睨まれて、滝川は仕方なくバスタオルを腰まで下ろした。
 「わおう! でっかいおっぱい! わたしとどっちが大きいかな?」
 滝川は、顔を赤くして下を向くしかなかった。
 「下までは取ってないんでしょう?」
 清子は、腰に巻きなおしたバスタオルまで取ろうとする。
 「取ってないよ。俺は男だからね」
 滝川は慌ててバスタオルを手で押さえた。
 「へえ。残念」
 「何が残念なんだ?」
 「取ったらどんな風になるのか見たかったんだ」
 「清子。おまえは変なやつだな?」
 「そう? あんた、見たくないの?」
 「そんなもん、見たくないに決まってるだろう?」
 「ふうん。で、わたしに何の用なの? おかまになったケンちゃんを見せるためだけなの?」
 「おかまじゃないって」
 滝川が膨れる。
 「ケン! おまえがどう思おうと、今は立派なおかまだって言ってるだろうが」
 市原が滝川の頭にごつんと拳骨を食らわした。
 「それでだな。こいつに着せる服を調達してほしいんだ。もちろん、女物だ。俺が買いに行くわけにもいかんからな」
 「分かったわ。そういうことなら、任せておいて。・・・・下着はどうするの?」
 「そりゃ、もちろん、女物だ」
 「いやですよ」
 滝川は即座に否定する。
 「つべこべ言うなって言ってるのが、まだ分からんのか!」
 もう一度拳骨を食らわされて、滝川は小さくなった。
 「じゃあ、サイズを測らせてもらうわ」
 清子は、ベッドルームに入ってドレッサーの引出しからメジャーを持ち出してきた。
 「はい。キオツケして!」
 滝川は直立不動の体勢をとった。冷たいメジャーに滝川は、ちょっと身震いする。
 「まずバストから。えっと・・・・、アンダーは77ね。男としては細いわね。トップはと・・・・、94か。差が17センチだから、・・・・Dカップね。これ、シリコンなの?」
 清子が、滝川の大きな乳房を指でちょんちょんとつついた。
 「シリコンだって言ってた」
 「そうなの・・・・。わたしも入れてもらおうかな?」
 「それ以上大きくしたら、お化けだ」
 ビールを片手に、滝川と清子の様子とテレビを交互に見ていた市原が横から口を出した。
 「そのうちね。ウエストは・・・・、70か。ちょっと太目ね。少しダイエットしないとね」
 滝川は、ぶすっとして清子に計らせている。
 「ヒップは・・・・、86と。大体これでいいわ。ケンちゃん、身長はいくらある?」
 「身長なんて、関係あるんですか?」
 「スカートの長さに関係するのよ」
 「ス、スカート!? スカートなんてはかないよ」
 「あら? スカートはかないと、女に見えないわよ」
 「そうだぜ。ケン。女はスカート。スカートはいてたら、女に見られる。これ真理」
 2本目の缶ビールを開けながら、市原が口を出した。
 「そう言うことよ。はい、身長は?」
 「168だよ」
 「168ね。靴のサイズは?」
 「靴は、24だけど」
 「それなら、何とか女のサイズがあるわ。分かった。手に入れてくるわ。あんた。明日の午前中まででいいでしょう? 店がもう開いていないから」
 「新宿に戻ったらあるんじゃないのか?」
 「あんた好みの下着なら、いくらでもあるでしょうけど、普通の下着はないわよ。それに、服だってないでしょう?」
 「そうか。そうだな。じゃあ、任せる。頼んだぞ」
 「はいはい。確かに承りました」
 「金は10万もありゃ、いいか?」
 「高級品は買えないけど、なんとかなるでしょう? じゃあ、店に戻るわ。また、明日ね」
 市原から現金を受け取ると、清子は部屋を出て行った。

 「兄貴。今晩は兄貴のトランクスとパジャマを貸してくれよ」
 寒さのため両肩を抱きながら滝川が市原に頼んだ。
 「すぐに脱ぐんだから、着なくてもいいだろうが」
 「すぐに脱ぐって?」
 「そのままベッドに入れってことだよ」
 「えっ!? どう言うことですか?」
 市原の言っている意味が分からず、滝川は聞き返した。
 「10万出してやってんだ。せいぜいサービスしてくれ」
 「サ、サービスって・・・・」
 市原の言わんとすることが分かって、滝川は青くなった。
 「俺の相手をしろって言うことさ」
 「兄貴。俺は男だぜ」
 「だけど相手はできるだろう? 現に、さっきはできたんだから」
 「いやだよ。もう、真っ平だよ」
 「いやだって言うのなら、10万、耳をそろえてここに出せ!」
 「そんなこと言ったって、金なんてないよ」
 「じゃあ、どうする?」
 「働いて返す。だから・・・・」
 「今返さなきゃだめだ」
 「そんなあ・・・・」
 「返せないんだろう?」
 滝川は黙り込む。
 「体で払ってもらう。女だったら、みんなそうするんだ」
 「俺は女じゃないよ」
 「いや、女だ。今日からお前は女として暮らすって俺の意見に賛成したじゃないか」
 「あれとこれとは別だよ」
 「俺の言うことが聞けねえって言うのか! 散々世話になっておきながら。しかも10万も借りを作って」
 「だって・・・・」
 「何なら、そのまま外に放り出してやろうか? サツがまだ張ってるぞ。捕まったら、どうなるか、分かってるだろうが!」
 市原は本気らしい。ムショで輪姦されるんだと思うと、滝川は頷かざるを得なかった。

 滝川は、布団の中にもぐりこんで小さくなっていた。市原の言ったことが酒の上での冗談ですめば、あるいは酔いつぶれてしまえばと思っていた。
 だがしかし、市原は村田秀雄の「王将」を歌いながら、ベッドの中に入ってきた。
 「そうしてると、ほんとに女に見えるな」
 滝川の横に入ってきた市原が、滝川の頬に手を当ててやさしく髪を触った。滝川の方はと言えば、おぞましさで鳥肌が立っていた。
 「兄貴。本気なの?」
 「黙ってろ!」
 そう言うと、市原は唇を合わせて舌を差し入れ、滝川の大きな乳房を揉み始めた。
 「こら! ケン!! 10万分のサービスをしろと言ったろうが! ちゃんと吸わないか!!」
 目を三角にして睨み付ける市原の剣幕に、滝川は仕方なく市原の舌を吸った。
 「ケン! お前はこうしてみると可愛いぜ」
 男だと分かっていて、本気なのかと滝川は思う。市原は、滝川の左の乳房を揉み解しながら、右の乳首に舌を這わせ始めた。
 くすぐったい感じと気持ち悪さが渾然一体となって頭に伝わってくる。いやだいやだと思いながらも抵抗できず、滝川は涙を流した。
 そんな滝川の反応に気づかず、市原は女に対するそれと変わらぬ愛撫を続けていた。
 「お前も感じているじゃないか」
 市原が、滝川のペニスを握って耳元で囁いた。
 「感じてなんかいないよ!」
 「そうか? おい、ケン! フェラチオしてくれ」
 「フェ、フェラチオ!」
 「そうだ。綺麗にしているから、いいだろう?」
 綺麗にしているからいいとか悪いとかの問題じゃないよと思いながら、滝川は固まっていた。
 「早くしてくれよ。さあ、俺を怒らせる前に、早くしろよ」
 目の前に突き出された市原のペニス。滝川は、目を瞑ってそれを口の中へ入れた。真珠が埋め込まれた市原のペニスが、ぴくぴくと動く。
 「痛てえじゃねえか! 歯を立てるなよ。唇と舌を上手に使えよ。ケン、お前、女にされたこと、ないのか?」
 「されたことはあっても、したことないから、うまくやれないよ」
 「そうだな。とにかく歯を立てるな。分かったな」
 滝川は、涙を流しながら、市原のペニスをしゃぶり続けた。
 「もういい。じゃあ、フィニッシュだ。今度は正常位といこう」
 「正常位?」
 「膝を抱えて腰を浮かせ」
 「兄貴。ほんとにやるの?」
 「何度も同じことを言わせるな。お前は女だ。俺を満足させるためにここにいる。いいか! 分かったか」
 滝川が膝を抱えて、肛門を曝すような格好をしていると、市原は肛門に何かべとべととしたものを塗り始めた。
 「なに? それ?」
 「ただのクリームだ。痛かろうと思っての俺の愛情だ。俺だって、結構気を使ってんだ。分かったか?」
 気を使うのなら、こんなことしないでくれと言いたかったけど、言っても聞き入れてはくれないだろうと滝川は諦めていた。市原は、コンドームをすると、滝川の肛門へあてがった。
 「イテ!!」
 「二度目でも痛むか?」
 「痛いよ」
 「おおっ! この締り具合。たまんねえ・・・・」
 ゆっくりと抽送を繰り返しながら、市原は滝川の首筋に舌を這わせた。
 「痛い! 痛い! 痛い! 痛いよう・・・・」
 「うるせえ!! ちっとは我慢しろ!!」
 「兄貴、もう止めてくれよ。我慢できねえよ」
 「行ったら、止めてやる。さあ、行くぞ!!」
 市原は激しく腰を動かし始めた。
 「止めてくれよ・・・・。いてえよう・・・・」
 「ぐぐぐ・・・・、うふぁっ!」
 市原が滝川の中にどっと熱いしぶきを放った。滝川はとにかく痛みをこらえて、ただ泣き喚くばかりだった。