門を出ると、道は舗装されていないでこぼこの道だった。ハイヒールを脱ぐわけにもいかず、わたしは月明かりの中をよろよろと足元の悪い道をひたすら歩いた。気は焦るばかりで一向に進まない。何度か転びそうになって手をついた。
ミニスカートから覗いた下半身が寒い。女は、よくこんな格好で外に出られるものだ。いや、最近は暖房の効いたところが多いから、外気に曝されることが少ないんだろう。そう思う。それにしても寒い。凍えそうだ。
しばらく歩いて、T字路に出た。今来た道に向かって円城寺家入り口と書かれた矢印が出ていた。円城寺家といえば、数年前に屋敷の主人が死んで、若夫婦が住んでいる屋敷のはずだ。他には誰もいなかったようだが・・・・。
そんなことはどうでもいい。ともかく国道へ出よう。そう決心して、再び歩き始めた。でこぼこ道はさらに続く。いつになったら、舗装された道に出るんだろうか?
歩きながら考えた。今ごろ二人はどうしているだろうか? わたしに成りすました女は、恐らくわたしのマンションにいることだろう。テツが兄貴と言っていた男、佐伯も一緒だろうか? 男同士だから、セックスする訳にも行かないだろうなと思う。まさか、あの男、両刀使いってことはないだろうなと思うと、ぞっとした。
国道へ出るはいいが、そのあとはどうするか? わたしと入れ替わった女が、テロを働こうとしていますなんてことを訴えて、信じてくれる人間がいるだろうか?
わたしの配備場所は分かっている。現場で直接テロを防ぐしかないだろう。そうするためには、どうしたらいいだろうか? うーん、どうすれば・・・・。
しばらく下ると、再びT字路になっていて、そこからは道はアスファルトで舗装されていた。角に外灯があった。その下で、ショルダーバッグの中を探ってみる。口紅やファウンデーションのケース、ティッシュペーパー、財布。
財布を開けてみる。1万円札が1枚に千円札が2枚。それに小銭が数百円。現金はそれだけだ。カードが5枚も入っていた。女は、あまり現金を持たない主義らしい。
ここでもわたしは不審に思う。テロリストなら、カードよりも現金を使うはずなのだが・・・・。ますます、よく分からない。
バッグの底に免許証があった。大島渚。大島渚って、映画監督がいなかったかな? 昭和49年3月29日生まれ。と言うことは、今年31歳と言うことになる。由紀子よりひとつ下だ。由紀子も若く見えるが、女はさらに若く見えた。女の年齢なんて、外見だけでは、分からないものだ。
かなり道を下ってきたが、車の明かりの見える国道まではまだかなりありそうだ。アスファルトになって、歩きやすくなったとはいえ、ハイヒールは疲れる。足が棒のようになってしまった。こんなところを車が通りかかるわけもない。ともかく歩くしかない。
そう決心して歩き始めて5分ほどした頃、下から、ヘッドライトが上ってきた。やつらが戻ってきたのではないかと、ちょっと戦戦恐恐としたが、ライトの高さからすると、わたしの閉じ込められていた車ではない。わたしが閉じ込められていた車は、トランクがあった。あれは、普通車だ。今前方に見える車は、4WD車のようだ。
わたしは手をあげて、車の前に立ちはだかり、車を停めた。30前後のロンゲの男が顔を出した。
「なんだ? どうした?」
「すみません。国道まで、できたら市内まで乗せて行ってもらえませんか?」
「反対方向だよ」
男は、あからさまに迷惑そうな顔をした。わたしは、できる限り女を強調して男に頼み込む。
「お願いします。御礼はしますから」
男は、ちょっと考え込んでいる。わたしだったら、こんな夜道で、不審な人間を乗せないなと思っていると、男は笑顔になって答えた。
「帰ってもすることがないから、いいよ。乗った、乗った」
意外な返事に、こちらが驚いた。しかし、考えてみれば、今はわたしは男じゃない。結構美人の女だ。美人の女に頼まれれば、大抵の男はそうするんだろうなと思い直した。
「すみません。無理を言って」
わたしは、できる限りの笑顔を男に向けた。笑顔になっているはずだ。間違いない。そう思いながら。
車をユーターンさせると、男が聞いてきた。
「市内はどこまでだ?」
「市内までいいんですか?」
「国道まででも、市内まででも手間は変わんないからな」
「ありがとうございます。助かります。元町まで、いいですか?」
わたしのマンションへ行ってもどうしようもない。女の力では、わたし自身を取り押さえて、あの屋敷に戻ることなど不可能だ。それに、あの佐伯と言う男も一緒にいるかもしれないのだ。
わたしのマンションに帰れない以上、どこかに宿を取らなければならない。市の中心部にある元町は、いくつかホテルもある。ともかく元町に行ってみれば、何とかなるだろうと考えたのだ。
「元町だね。お安い御用だ。・・・・どうしてまた、あんなところを一人で歩いてたんだ?」
そう聞かれるだろうと思っていた。だから、車に乗り込むときから、返事は考えてあった。
「彼氏とドライブしてたんだけど、ちょっと喧嘩して、降ろされちゃったの」
「ひどい男だなあ。こんなところに、あなたみたいな人を放り出すなんて」
男の口調が和らいできた。この大島渚という女、31だが、見た目は26,7に見える。男から見れば、年下に見えることだろう。ミニのワンピースを着た、結構美人の女を乗せているのだ。鼻の下も長くなると言うものだ。
「名前はなんて言うの?」
「・・・・大島です」
「ファーストネームは?」
車に乗せてもらっている手前、答えざるを得ない。
「渚です」
「てことは、大島渚さんだな。大島渚? どっかで聞いた名前だなあ」
「映画監督でしょう?」
「そっかあ。あの変なおっさんと同じ名前だ」
「変なおっさんと同じは、ひどいんじゃないですか?」
「ごめん、ごめん。あの人がいなかったら、いい名前だと思うよ」
「ありがとうございます。あなたの名前はなんていうんですか?」
「俺? 俺の名前は、鈴木一郎って言うんだよ」
「ほんとに?」
「ほんとさ」
鈴木一郎なんて、そんなありふれた名前、本名とは思えなかった。しかし、わたしはそれ以上聞かなかった。男の気分を害してはいけないと思ったからだ。男の言葉を信じて、鈴木と言うことにしておいた。
車は、信号を右折して国道へ出た。車はハイラックスのようだ。時計を見ると、午後10時少し前だった。
鈴木は、それからしばらく黙ったまま運転していた。市内の明かりが次第に近づいてくる。わたしは、テロを阻止するアイデアを考えていた。
あるアイデアが浮かんだ。しかし、そのアイデアを実行するのは、明日の午後だ。今日は、どこかのホテルに宿を取るしかなさそうだが、現金は使いたくない。大きなホテルなら、カードが使えるだろう。行く先に指定した元町に行けば、大きなホテルがある。今夜は、シャワーでも浴びてゆっくりしよう。
「今夜はどうするの?」
鈴木が唐突に聞いてきた。
「えっ!? 今夜ですか? 今夜は、どこかのホテルにでも泊まるつもりです」
「家はこっちじゃないの?」
「え、ええ」
「・・・・そう」
鈴木は、再び黙り込んだ。しばらくして、元町に入ったところで、ウインカーを出して路肩に車を停めた。
「ここでいいかな?」
「すみません。ありがとうございました」
わたしは、お礼はどうしようか考えていた。現金は、一万二千円あまり。二千円じゃ少なすぎる。かと言って、一万円は多すぎる。一万円やってもいいが、現金が二千円になってしまっては心許ない。どうしたものか?
「お礼をしてくれるって言ったよね」
「え、ええ」
「こんなこと言うと、気を悪くするかもしれないけど、お礼も併せて、3万で今夜付き合ってくれないか?」
付き合ってくれ!? わたしは、ビックリして、鈴木の顔を見た。
「付き合ってくれって、どう言う意味ですか?」
「一緒にホテルに行かないかって言う意味だけど・・・・。もちろん、川向こうのホテルにだけど」
鈴木はわたしを金で買おうとしているのだ。・・・・どうするか? 女は処女じゃない。やったって、問題が残るわけではない。元に戻れば、わたしの体じゃない。しかし、やるのはわたしなのだ。
鈴木の申し出を断って、カードを使ってホテルに泊まってもいいが、現金が少ないことが気になる。カードが使えない場合のことも考えておかねばならない。
3万円か・・・・。現金があと3万円あれば、例えカードが使えなくても、かなり自由が利く。
「なあ、どうなんだ?」
「ホテル代も、出してもらえるでしょうね」
「もちろんさ」
鈴木は、嬉しそうな笑顔を見せた。
「じゃあ、いいわ」
鈴木は、車を発進させ、5分ほど走って、川沿いのモーテルへ車を入れた。
ほんとはわたしは迷っていた。当たり前だろう。いくら今は女だと言っても、セックスまでは考えていなかったのだ。しかし、ここまで来た以上、もう逃げ出すわけにはいかなかった。わたしは腹を決めた。よっしゃ、やったるか!
空いている部屋を見つけて、エレベーターで上る。部屋の入り口のそばに小さな窓があって、わたしたちが部屋の前に立つと、中年の女性の声がした。
「ご休憩? それともお泊り?」
鈴木は、わたしのほうをちらりと見てから、答えた。
「泊まりで」
「先払いでお願いいたします。チェックアウトは午前10時です」
鈴木は、一万円札を差し出す。窓から、千円札が二枚戻されて、ドアががちゃりと開いた。奥からドアを開けるようになっているのだ。
部屋の中からは、いつでも出られるようになっているが、入るには支払いをしなければならないようになっているようだ。
このモーテルは、そんなに凝ったホテルではない。10畳くらいの部屋の奥に、ダブルベッドが置かれているだけだ。回転ベッドや、ウォーターベッドを想像していたのに、拍子抜けした。バスルームも、普通のホテルより少し広いくらいのものがあるだけだ。
入り口の料金システムが違うだけで、普通のホテルとまったく変わらない。
「先にお金もらっていいかしら?」
金のために寝ると言うことに抵抗がなかったわけではない。しかし、明日からのために、現金が必要なのだ。ことが終わって、ハイさよならと言われたんじゃあ、困るのだ。
「プロって訳じゃないんだろう?」
「当たり前でしょう? そんな風に見える?」
わたしはふくれて見せる。
「あっ、いや。見えないよ。ごめん。・・・・じゃあ、3万円。楽しませてくれよ」
「分かってるわ」
わたしは一万円札を財布にしまうと、コートとワンピース、さらにスリップを脱いだ。
「へえ、真っ黒な下着かよ。やっぱ、プロだろう」
やっぱと言うところをみると、わたしはそんな女に見られていたようだ。確かにそう見えないこともないが、わたしとしては、ものすごく心外だった。わたしはちょっと怒ったような口調で答えた。
「違うわよ。彼氏の好みなの。わたしは、いやなんだけどね」
すらすらと次から次へと返事が出てくる。わたしも結構役者だ。
「へえ、彼氏の好みかい。いい好みしてるじゃないか」
そんなものかなと思う。女の真っ黒な下着。確かにそそられるが・・・・。
「その刺青も彼氏の好みか?」
「これ? これは、ちょっとしたアクセサリー替わり」
「アクセサリーねえ」
鈴木は、やはりわたしを素人の女だとは思っていないようだ。まあ、そんなことはどうでもいいことではあるが・・・・。
「シャワーを浴びるから」
「ああ、あそこもきれいに洗っとけよ」
わたしは返事をせずにバスルームへ入った。下着を備えられた籠の中に放り込み、お湯の温度を調節する。髪の毛はどうするか? 髪の毛は背中まで伸びている。洗いたいが、洗うのはかなり面倒だ。シャワーキャップをかぶって、シャワーを浴びた。
ブラジャーを外すときに見たサイズはCカップ。かなり大きな胸だ。ピンク色の乳首。ちょっと意外な気がした。ペニスのない股間。妙な感じだ。ボディーシャンプーで体を流し、鈴木に言われたことを思い出して、襞の奥まで洗った。違和感はあるが、まあ、こんなものだろうと思った。
体にバスタオルを巻きつけて戻ると、鈴木は備え付けのファミコンをやっていた。子供みたいなやつだなと思ったが、これくらいの年齢の男は、ファミコン世代だったなと思い出す。
「気持ちよかったわ。鈴木さんも入ってきたら?」
「ああ、そうする。逃げるなよ」
「わたしは、それほどワルじゃないわよ」
「じゃあ、入ってくる」
ベッドの足元に置かれたソファーの上に、皺にならないように脱いだ服を広げておいた。バッグの中の財布を調べてみる。一度支払った現金を抜いておくようなことはしていないようだ。
何分もしないうちに、鈴木が出てきた。
「さあ、やろうか」
男としてセックスしたのはいつのことだろうか? 30までは、由紀子に内緒で時々女を買いに行っていた。しかしここ数年、まったくセックスなどやったことがない。それが、今日は女としてセックスすることになろうなんて・・・・。まったく、妙なことになったものだ。
乳房を揉まれ、乳首に舌を這わされる。男では経験できない快感がした。しばらくして、鈴木の舌が、股間へと降りてきた。これは感じる! すごいよ、女は。鈴木は執拗になめまわす。行くなんて思わなかったのに、行きそうだ。思わず口から嗚咽が漏れてしまった。
「いいか?」
「い、いいわ」
鈴木は、舌を離して、這い上がろうとしている。
「止めないで、行きそう」
「そうか。じゃあ、もう少しやってやろう」
「あ、ああ、あっ、ああっ、ああ」
鈴木の舌だけで行ってしまった。一瞬、頭の中がまっ白になってしまった。鈴木が巧いのか? それとも大島渚の感度がいいのか? わたしには良く分からない。
「今度は、俺を行かせてくれ」
快感でうっとりしているわたしの目の前に、鈴木は雄雄しくせり上がったペニスを突き出した。でかいペニスだ。わたしもそう小さな方ではないが、わたしのものより一回り以上大きい。
「早くしてくれ!」
現金をもらってするセックス。いやだとは言えない。わたしは、鈴木のペニスを口に含んだ。舌を使って、丁寧になめまわす。
「あ、そこいいな」
「袋も頼むぜ」
鈴木は、いろいろと注文する。わたしは、黙って指示に従った。
「もう我慢できない。行くぜ!」
鈴木がわたしの口の中にどくどくと射精した。精液の独特なにおいが口から鼻へ抜けていった。
わたし自身は、一度射精すると、二度目はかなりの休憩が必要だった。イヤ、一晩に一回しかしたことがなかった。しかし、鈴木は元気だ。そのまま、わたしにバックから挑んできた。
激しく突かれ、内臓が口から飛び出しそうになる。しかし、それもしだいに快感へと変わる。自分が、体が感じているのが分かる。鈴木は再び射精し、わたしも行ってしまった。
鈴木はまだ止めようとしない。正常位になって腰を動かし続ける。わたしは、まだ残っている快感の中でぼうっとしていた。鈴木に突かれて、体が揺れるのを感じていた。
再び、鈴木が射精した。消褪しかけていた快感が再び襲ってきた。参った。なんて強い男だ。
さすがの鈴木も、3回連続では疲れたようだ。わたしの隣にばたりと横になった。
「よかったぜ」
わたしは返事をする元気もなかった。そのまま、うとうとと眠りについた。
誰だ! わたしの体を触るのは!? 誰かが、わたしの胸を触っている。
目を開けて横を見ると、鈴木と目が合った。そうだった。わたしは、大島渚になっていたんだ。そして、鈴木一郎と言う男とモーテルにいる。
鈴木は、わたしの乳首に舌を這わせ始めた。また、やるつもりのようだ。時計は午前2時を指していた。
「眠い・・・・」
「寝ててもいいよ」
そんなこと言われても、体中を刺激されて、眠れるわけがなかった。結局鈴木の相手をせざるを得なかった。立て続けに2回、わたしの中に放出した。眠らせてくれたのは、午前3時少し前だった。