第4章 菊チャンと再会したものの

 そんなある日、やはり覚醒剤を使われて朦朧として奥村を受け入れているとき、ガタガタと騒がしい音がし始めた。
 「きゃあ」
 女の叫び声がどこからか聞こえてきた。どこかで聞いたような声だと思った。
 「会長?」
 ぼくたちがいる奥村の寝室のドアの向こうから、小林の声がした。
 「なんだ? 今、忙しい」
 「分かっておりますが、ちょっと会長にお話しが」
 「いったいなんだ?」
 小林が、ドアを開いて入ってきた。腰を上げて奥村を受け入れているぼくには見向きもしないでベッドのそばにやってきた。
 「ネズミが一匹紛れ込んだのですが」
 「ネズミ? 何だ?」
 小林が、奥村に耳打ちした。
 「ここへ連れてこい」
 「ここへ?」
 小林が首を少し傾げた。
 「そうだ。面白いだろう?」
 「そうですね」
 小林がふっと笑ったのが見えた。

 しばらくして、小林が誰かを連れて戻ってきた。ぼんやりした意識の中で、小林に連れてこられた人物を見た。
 「き、菊ちゃん!」
 「みっちゃん!!」
 菊ちゃんの目が大きく見開かれていた。
 「み、見ないでくれ!」
 ぼくは顔を隠す。
 「ほら、よく見な。おまえの彼氏はこうなってしまったんだ。もう、おまえを抱いてはくれないんだぞ」
 小林が、菊ちゃんの顎を持ってぼくの方に向けた。
 「みっちゃん」
 菊ちゃんの目から大粒の涙がこぼれていた。
 「奥村さん、お願いだ。菊ちゃんを向こうへ連れていってくれ」
 ぼくは奥村に泣きながら乞うた。
 「だめだ」
 「止めてよ。わたしの大事なみっちゃんを苛めないで」
 気丈にも菊ちゃんは奥村につかみかかろうとした。しかし、すぐに小林に押さえつけられてしまった。
 「ほう。これでも彼氏のことが好きか?」
 奥村は菊ちゃんの髪の毛をつかんで、ぼくのお尻に菊ちゃんの顔を押しつけた。
 「みっちゃんは好きでそんなことしてるんじゃない。あなたに脅されているんだわ」
 「そうか? 菊ちゃんとか言ったな。ようく見るんだ。おまえの彼氏は、わたしのペニスで喜んでいるんだ。なあ、みっちゃん」
 奥村が腰を激しく動かした。感じまいとしているのに、体は正直だった。ぼくは耐えきれなくなって嗚咽を漏らす。
 「あ、ああ。ああん、はああ」
 「ほらな。みっちゃんは男じゃないんだ。おまえとおんなじ女になってしまったんだ」
 菊ちゃんはワアワアと泣き始めた。
 「小林! 逃がすんじゃないぞ。逃がしたら、とんでもないことになる」
 「分かっております」
 小林が冷たくそう言って、菊ちゃんを寝室の外へ連れて出ていった。
 「き、菊ちゃんをどうするんだ!」
 「どうもしない。ただ、ここから出すわけにはいかないんだ。そうだろう?」
 奥村が冷たくそう言い放った。そうだった。ぼくだって、契約と言いながら、終わったあとどうなるか分からないのだ。

 「みっちゃん、会いたかった」
 ぼくと菊ちゃんは、地下室に放り込まれていた。
 「ぼくもだよ」
 ぼくたちはひっしと抱き合った。
 「どうしてこんなことに?」
 「奥村はホモなんだ。ぼくがこの屋敷に車のセールスに来たとき、ぼくのことを気に入ったらしくて、罠にかけて刑務所に入れて、刑務所の中でぼくをホモに仕立て上げたんだ。出所してすぐ、ここに連れてこられて、奥村の相手をしないと、菊ちゃんをひどい目に遭わせるって言われて、仕方なく・・・・」
 「ひどい・・・・」
 菊ちゃんはポロポロと涙を流した。
 「何とかここを抜け出そう。抜け出して警察に行こう。覚醒剤も使っているみたいだし、ぼくにやった罪を償って貰うんだ」
 「ええ。どんなことがあっても生き延びて、復讐しましょう」
 「うん。絶対復讐するんだ」
 奥村への復讐を誓い合い、ぼくたちは、ベッドの上で抱き合って眠った。

 「仲がよいことで」
 小林につつかれて起こされた。ぼくたちは体を固くする。
 「会長が、お呼びだ。上へ来い」
 「イヤだ」
 「そんなことを言える立場か! いいか。言うことを聞かないと、どちらかがひどい目に遭うんだぞ。いいんだな」
 「卑怯者!!」
 「いい響きだ。そうさ、俺は卑怯者だ。そうでなかったら、こんなことはやっていない。さっさと上へ上がれ!!」

 菊ちゃんと体を寄せ合って、奥村の待つベッドルームへ行った。
 「そのベッドの上で、二人でやれ」
 奥村はブランデーを飲みながら、命令した。
 「イ、イヤだ!!」
 「会長の命令は絶対だと言うことが、まだわからんのか?」
 小林がぼくの頬を撲った。
 「金輪際言うことは聞かない」
 ぼくは奥村を睨み付けた。
 「ほう、そうか。ならば、言うことを聞かせるようにしてやる。小林!」
 小林がにやりと笑って、鞄の中から注射器を取りだした。覚醒剤だ。ぼくたちが言うことを聞かないと分かっていたから、準備していたのだ。
 「や、止めろ!」
 「大人しくしろ。針が折れるぞ」
 いつの間にか、数人の男たちが入ってきていた。ぼくと菊ちゃんは引き離されて押さえつけられ、それぞれ注射された。

 10分もすると、意識が朦朧となり、一人で動けなくなっていた。
 「二人じゃ、やれないようだな。わたしは、こっちとやる。女の方は、おまえたちの好きにしろ」
 ぼくは奥村のいるベッドに引きずりあげられ、口の中にペニスをねじ込まれた。噛み千切ってやろうと思ったのに、噛む力も沸いてこなかった。
 「止めて・・・・。・・・・みっちゃん・・・・」
 菊ちゃんは、男たちに裸にされ、一度に5人の男たちに犯された。一人が菊ちゃんの頭を押さえつけてペニスを口の中に入れてグイグイと動かしていた。もう一人の男は、菊ちゃんの腟に、もう一人が肛門に入れて腰を動かす。二人の男は、菊ちゃんの体を舐め回していた。
 「止めてくれ・・・・・」
 ぼくは力無く叫ぶ。
 「なに? もっとしてくれ? そうか、そうか。そら! 入れてやるぞ」
 奥村がぼくの中に入れて腰を動かし始めた。
 「こんな時なのに、どうして感じてしまうんだ」
 自分で自分が疎ましくなった。奥村がぼくの中で弾けたとき、ぼくは快感で意識を失った。

 翌日も、その翌日も、ぼくと菊ちゃんは寄ってたかって犯された。ぼくはともかく、菊ちゃんは、もうぼろぼろになっていた。ぼくは、かなり長い間覚醒剤を投与されていたから慣れていたけど、初めてだった菊ちゃんには量が多すぎるようだった。地下室に戻されて、ぼくが声をかけても目の焦点が合っていなくて、涎を流すばかりだった。
 さらにその翌日、再び注射されて、ぼくたちは犯されていた。
 「会長! 女の様子がおかしい」
 小林が、いつもと違った調子で叫んだ。
 「どうした?」
 「死んだみたいです」
 ぼくは目を見張った。菊ちゃんは、ぐったりとして息が止まっているようだった。
 「量が多かったみたいだな」
 「どうもそのようで・・・・」
 「仕方ないな」
 「どうします?」
 「死んでしまったものはどうしようもない。いつものように始末しろ」
 「へい。上玉だったのに、勿体なかったな」
 小林は、菊ちゃんの尻をぺたぺたと叩いた。
 「会長。女が死んでしまったら、そいつも言うことを聞かないんでは?」
 小林がぼくの方を見て言った。小林の言うとおりだ。ぼくは、もうどんなことをされても、奥村の言うことを聞くつもりはなかった。
 「そうだな。人質がいなくなってしまったら、言うことを聞かないか」
 「一緒に始末しましょうか?」
 「こいつにもそろそろ飽きたし、そうするか」
 薬がまだ効いていた。逃げだそうにも逃げ出せなかった。それに、菊ちゃんが死んでしまった今となっては、もはや生きていく気力もなくなっていた。
 殺すなら殺してくれ。ぼんやりとした意識の中で、そう思っていた。

 「甲斐。裏の倉庫から、ビニールシートを持ってこい」
 「へい」
 しばらくして、甲斐という男が持ってきたビニールシートに菊ちゃんの死体がくるまれた。
 「そっちはどうします?」
 「こっちもシートに包め」
 「息ができないんじゃあ」
 「どうせ殺すんだ。どうでもいい」
 「そうですね」
 ぼくもビニールシートにくるまれた。苦しかったけど、何とか息はできた。
 「車に運ぶぞ」
 持ち上げられ、乱暴に車のトランクらしいところに押し込まれた。ぼくの上に菊ちゃんの死体も押し込まれたようだ。
 車が動き出した。薬が効いていたので、うとうとしていてよく分からなかったけど、かなり長い距離を移動したようだった。
 車が停まって、外に運び出された。ドンと固い床の上に落とされ、ぼくはうめき声を上げた。
 「なんだ。まだ生きてやがるぜ」
 小林の声だ。床が揺れていた。遠くで汽笛が鳴っている。ポンポンポンと言う船の音が聞こえてきた。揺れ方からすると、ぼくたちは船に乗せられたようだ。動こうとしたら、注射をされた。ふたたび意識がなくなった。
 気がついたら、巻かれていたビニールシートは取り除かれ、ぼくは裸にされていた。見回すと、クル−ザーらしい船の上に寝かされていた。
 「シートのままじゃいけないんですか?」
 甲斐という男の声。
 「シートが勿体ない。それに、足がつく恐れもある」
 小林の声。
 「だから裸にしたんですね」
 「そうだ。早く手足を縛れ」
 「へい」
 男たちは、菊ちゃんの死体の手足にロープを駆けて縛っていた。
 「さあ、今度はそっちだ」
 小林がぼくのそばにやってきた。首を絞めてやろうと起きあがって、小林の首筋をつかんだ。
 「この野郎!」
 殴り倒され、気絶している間に手足を縛られた。
 「さてと、そろそろ放り込むか」
 男がぼくの足を縛ったロープにブロックの重しを付けたロープを縛り付けていた。重しを付けて、海へ放り込むつもりらしい。菊ちゃんの死体にも重しを付けたロープが結びつけられていた。
 「重しが切れて、浮かんできませんかね?」
 「ここは太平洋のど真ん中だ。浮かんできたって、見つかりやしない。魚の餌になるだけだ。これまで何人かこのあたりに沈めてきたが、誰も見つかっちゃいない。心配することはないんだ」
 「なるほど」
 感心したように甲斐が頷いた。
 「止めてくれ」
 「やかましい! もう、いい加減に観念しろ!!」
 また殴られた。
 「さて、投げ込むぞ」
 「成仏しろよ」
 ぼくの体が持ち上げられ、左右に振られた。
 「止めろ! 止めてくれ!!」
 「3,2,1,そうりゃ」
 「あばよ」
 ふわっと体が浮いた。ぼくは大きく息を吸い込んだ。次の瞬間、足の方から、引きずられるようにぼくは海の中へ落ち込んでいった。
 沈みながら、暗い海面を見ると、菊ちゃんの死体が投げ込まれてきた。
 「ぼくも死んでしまう。菊ちゃん、もうすぐ、君の所へいくからね」
 ぼくはコンクリートブロックの重しに引きずられて深い海の底へ沈んでいった。