第12章 絶頂

 ぼくの体は完全に女性化している。だけど、意識の上では男だ。どうしても男のものの見方、考え方が出てくる。だから、ぼくは、意識の改革をすることにした。
 『わたしは女。生まれたときから女。わたしは浜田のことが好き。愛してる』
 ぼくは、心の中で、そう繰り返している。
 部屋の中に花を生け、可愛らしい人形も飾るようにしている。カーテンやソファー、ベッドの掛け物などもパステルカラーのものに変えた。
 服も、今年流行のピンクを中心に、少し女らしい装いにしている。
 「何か、最近変わったね」
 「そう? どんな風に?」
 「女らしくなった」
 「あら? 今までは、女らしくなかったの?」
 「正直に言うとね」
 「あっ!? ひどいいー」
 「嘘、嘘。美佐は。前から女らしいよ」
 「ホントらしく聞こえないわ」
 「前のことはいいじゃないか。今は、すごく女らしくて、可愛いよ」
 ぼくは嬉しくなって、浜田に抱きついた。

 「あん、あん、あん。うん、はあ、はあ、はああ」
 横溝医師にアドバイスされ、あの最中に声を出すことにしている。その声で、浜田は勿論、ぼく自身をも刺激することができるというのだ。
 確かに声を出すことによって、高まりは早くなってきた。しかし、頂上は遠い。今日もだめだった。
 「美佐。今度の土日、仕事を休めるか?」
 「店長に頼めば休めるけど。どうしたの?」
 「一緒に大阪に行ってくれないか?」
 「大阪に?」
 「おふくろの三回忌があるんだ」
 「お母様の三回忌・・・・」
 「君を親族に紹介しておきたいんだ」
 「親族に紹介って・・・・」
 「フィアンセとしてね」
 「フィアンセ!!」
 ぼくは驚きを隠せない。
 「そう。ぼくと結婚して欲しいんだ」
 「結婚!」
 こうして週に一度浜田に抱かれるだけで、満足だった。結婚なんて、考えてもみなかった。
 「だめかい?」
 「だめかいって、そんなこと突然言われても・・・・」
 「ぼくのこと、愛してくれてないのかい?」
 「愛しているわよ」
 「じゃあ、いいだろう?」
 浜田は本気のようだ。しかし・・・・。
 「わたし、美人じゃないし、バツイチだし。あなたの相手には相応しくないわ」
 「美人とかバツイチとか関係ないだろう? 愛し合っていれば、それでいいじゃないか」
 ぼくが本物の女なら、それでもいいだろう。ぼくも、躊躇うことなく返事ができる。ぼくは、本物の女じゃない。しかし、その事実を言うわけにはいかない。とすれば・・・・。
 「わたし・・・・」
 「どうした?」
 「わたし、子供を産めないの」
 「何故?」
 真実を言うことはできないから、嘘を言うことにした。
 「子どもの頃病気をして、子宮を取ってしまったの。だから・・・・」
 「そうか。だけど、そんなことはどうでもいいよ。子宮がなくたって、結婚はできる。現に、矢野とは結婚していたんだろう?」
 「え、ええ。まあ。そうだけど」
 「矢野と結婚できて、ぼくと結婚できない理由はないだろう?」
 そう言われては反論できない。
 「でも、子どもができないのよ」
 「ぼく、子ども嫌いだからいいよ。美佐さえ、ぼくのそばにいてくれたら」
 「ホントに、わたしなんかでいいの?」
 「ぼくには君しかいない。一緒に行ってくれるね」
 もう、断りきれなかった。
 「ええ」
 「きっと、君を幸せにするからね」
 「ありがとう」
 ホントにいいんだろうか? ホントに・・・・。

 次の土曜日、待ち合わせの東京駅へ向かった。ぼくが着いたとき、浜田は既に待ち合わせの場所にいた。
 「ごめん。待った?」
 「来ないかと思ったよ」
 「着てくる服に迷ってたら、直通に乗り遅れちゃって」
 「その服似合ってるよ」
 「ありがと」
 真っ白な膝上丈のワンピース。三回忌には相応しくないかと思ったけれど、フィアンセだもの。赤やピンクじゃないからいいんじゃないかと思った。ただ、バッグの中には黒のワンピースも入れてある。

 浜田の実家に着いて、周りを見回すと、みんな黒ばっかり。結局黒のワンピースに着替えた。
 三回忌の読経も終わり、出席した親族に料理が配られた。親族以外は、読経が終わると帰っていくのに、あの女は誰だというような目で見つめられるのをぼくは感じていた。
 一区切りが付いたとき、浜田が立ち上がった。
 「みなさん、紹介しておきます。ぼくのフィアンセの矢野美佐さんです」
 「あなたのフィアンセだったの。誰かと思ってたわ」
 「そうそう。知らない人だなあって」
 ぼくは浜田のそばに立ち上がった。
 「矢野です。よろしくお願いいたします」
 「真吾、どこで引っかけた?」
 「そんなことはどうでもいいだろう?」
 「お年はおいくつ?」
 「23です」
 ホントは26だけど、戸籍上は美佐のものを使っているからそう答えざるを得ない。
 「23には見えないわね」
 「落ち着いてるだろう?」
 浜田が横から口を出す。
 「そう言う言い方もあるな」
 と浜田の従兄弟らしい男。
 「三つ年下になるのね」
 「みんな異存はないだろうね」
 「真吾がもらうんだから、文句言ってもしょうがないでしょう?」
 「じゃあ、死んだ姉さんには悪いけど、婚約披露パーティーにしましょうか?」
 真吾の叔母が言う。
 「賛成」
 「賛成」
 と言うわけで、三回忌の席が、婚約披露パーティーに替わってしまった。浜田の親戚は、みんな気安いいい人ばかりだ。ぼくは安心した。

 「だめよ」
 「いいじゃないか。婚約したんだから」
 夜遅くまで飲み明かし、みんな酔いつぶれて眠ってしまった頃、いったん寝ていた浜田が、やはり布団に入って寝ていたぼくを後ろから抱きしめてきたのだ。
 「だめだったら」
 「声を出すと、みんなに聞こえるよ」
 抵抗したのに、パジャマ、ブラ、ショーツを次々に脱がされていった。横で寝ている人に気付かれたらと思うと気が気ではなかった。
 「・・・・だめよ」
 「だめじゃないみたいだよ」
 耳元で浜田がそう囁く。そうなのだ。ぼくは、何故か興奮していて、濡れていたのだ。
 浜田が後ろから手を回して胸を揉みながら、横向きの姿勢でバックから入ってきた。
 「あうん」
 「ほら。声を出したらだめだって」
 何とか声を出さないようにしているのに、高まる興奮で声を抑えられなかった。浜田の腰の動きが性急になるに連れて、ぼくの興奮はさらに高まっていった。
 「い、い・・・・・いっ!」
 「うううっ」
 浜田が弾けた瞬間、ガツンと頭を殴られたような衝撃がして、体がガクガクと痙攀したのだ。
 「ああ・・・・ん」
 意識が宙に浮いたように、一瞬遠のいた。快感で朦朧となる。気持ちいいよ。ぼくが女として、初めてエクスタシーを覚えた瞬間だった。

 夜が明けて、ぼくは布団の中で、脱がされたブラとショーツを探した。布団の中にあるはずなのに、なかなか見つからない。裸だし、他の人たちもいることだから、布団を剥いで探すわけにも行かず、焦りながら探した。
 ブラは枕の下、ショーツは敷き布団の足下の畳の上にあった。ホッとして、布団の中でブラとショーツを身に着けた。
 パジャマを着て、何事もなかったように布団から起き出した。
 「おはようございます」
 「おはよう。眠れました?」
 「はい充分」
 歯を磨いて洗顔し、前日着ていた白のワンピースに着替えてから化粧した。

 二日酔いで目を真っ赤にした男たち、一夜明けて喪服から着替えた女たちと共に朝食を取った。
 「みなさん、聞いてください」
 「はいはい、真吾なんだい?」
 真吾の大叔父が応えた。
 「美佐は、天涯孤独で、親族がいないから、結婚式はしません」
 「おまえと美佐さんがいいのなら、わたしたちはどうでもいいけど。なあ、みんな」
 一堂は頷く。
 「主だった親族はみんないるから、いいですね」
 浜田が念を押した。
 「昨日の夜が、披露宴みたいなものだよ」
 従兄弟が言った。
 「そうだ。そうだ」
 「初夜も済ませたようだから」
 どこからかそんな声が聞こえてきた。ぼくは、真っ赤になって下を向いた。もう、浜田が無理に迫るから・・・・。
 「早く子供を作れよ」
 「頑張ります」
 ぼくが子供を産めないことを浜田は明かさなかった。ぼくへの思いやりと感じた。

 ぼくと浜田は、ぼくのマンションで暮らし始めた。戸籍上はバツイチだけど、ぼくは幸せな新妻。
 あの日以来、ぼくは8割方エクスタシーを覚えるようになった。後の2割はと言うと、疲れていて早く終わらせたいとき、浜田が酔って挑んできて途中でダウンしたときなどだ。つまり、ぼくがその気になれば、必ず達すると言うことだ。横溝医師は腕がいい。
 ともかく、ぼくは、女を満喫している。これで子供ができたらと言うのは、贅沢というものだろう。

 美佐、ごめんね。君の分まで幸せになるから。ぼくを許しておくれ。