第七章 真琴としての生活は続く

 木曜日に、今日の打ち合わせをしていた。ぼくがあの日、どこでどれくらい飲んだか、おおよそ真琴に教えておいたのだ。ぼくが真琴に助けられた場所は、真琴に聞いた。
 今晩も店は開いているが、用事があるからと、休みを貰っていたから問題ない。昼までもう一度眠ったあと、買い物をして冷蔵庫を一杯にしてから、問題の時間を待った。
 午後十一時。マンションを出発。ぼくになった真琴を拾う場所でじっと待った。真琴が持っている服は、地味なものが何一つない。じっと立っていると、娼婦か何かと間違えられて、酔った男たちに何度も声をかけられた。男はどうして女をセックスの対象としてしか見ないのだろう。情けなくなってしまう。
 午後十一時三十五分、ぼくになった真琴が、へべれけになってやってきた。指定の場所の手前まできて、ついに倒れてしまった。
 ぼくは駆け寄って、助け起こした。
 「真琴、しっかりして!」
 「幹ちゃん、愛してるよ」
 「馬鹿なこと言ってないで、マンションに行くわよ」
 酔ったぼくは、とてつもなく重い。あの日、真琴は、どうやってぼくを運んだのだろう? タクシーだろうか? それにしても、初めからぼくと分かって、連れ込むつもりだったに違いない。そうでなければ、こんな苦労をしてまで、マンションにぼくを連れて行ってはいない筈だ。真琴が、そんなことをしなかったら、こんなことにはならなかったのにと、心の中で真琴を恨んだ。
 ちょうど通りかかったタクシーを停め、ぼくは、ぼくになった真琴をマンションへと運んだ。
 あの時と同じように、服を脱がせて、下着姿にした。これもかなり苦労した。ぼくになった真琴は、ごうごうと鼾をかいて眠っている。午前三時に起きるだろうか? ちょっと心配になる。
 ぼくは、シャワーを浴びたあと、あのときの真琴と同じように、ぼくになった真琴の隣に裸のまま滑り込んだ。

 午前三時過ぎ、ぼくになった真琴は、やはり目を覚まさない。揺り動かして無理やり起こした。
 「真琴、早く起きなさいよ。時間だよ」
 「ごめん、もう三時なんだね」
 「じゃあ、しましょうか」
 一週間前と同じように、二人で、セックスをした。自分の精液を飲み込むのには、ちょっとどころではなく、かなり抵抗があったが、元に戻るためと、我慢して飲み込んだ。
 さらにフェラをやってやり、回復させた。ぼく、佐山幹は結構強いのかもしれないなと思う。ぼくになった真琴が、ぼくの中に射精して、第一ラウンド終了だ。抱き合って、眠った。

 朝が来た。あの日、起きてからかなり長い話をした。時間まで何を話そうか?
 「真琴、柳井さんていう人はどう言う人? 独身?」
 「柳井さんには、奥さんも子供さんもいるよ。市立病院のドクターだよ」
 「えっ! ドクターって、お医者さんなの?」
 「そう、外科のドクターだよ」
 「外科のドクターで、ホモなの?」
 「ホモとドクターは関係ないよ」
 「それは、そうね」
 「柳井さんがホモになったのは、多分にぼくのせいだろうね」
 「あなたの?」
 ぼくは、ぼくになった真琴の顔をじっと見つめた。
 「柳井さんとは、柳井さんが学会出張で大阪に来たとき出会ったんだ。あの時、ぼくは女の友達に誘われて、スナックに飲みに行っててね。ぼくは女の子の格好をしていたし、女の子と一緒だったから、柳井さんは、ぼくが女だと思って誘ったみたいなんだ」
 「ぜんぜん気づかなかったの?」
 「そうなんだ。まったく気づかないんだ。ぼくは、どこまで騙せるか、面白くてね。そうしたら、とうとうホテルの部屋まで行っちゃったんだ」
 「真琴の女装は、その頃から大した物だったのね」
 「今ほどじゃあなかったと思うんだけど、まあ、柳井さん、かなり酔ってたからね」
 「いつ、ばらしたの?」
 「柳井さん、ぼくにキスしながら、ブラウスの裾から手を入れて、ぼくの胸を揉み始めたんだ。手遅れにならないうちにと思って、ぼくは女じゃないって言ったんだ。だけど、ぼくの胸はすでにAカップくらいはあったから、柳井さん、信用してくれないんだ。ぼくを押し倒して、スカートの下から手を入れて、ぼくにペニスがあることに気づいて、ようやく納得してくれたんだ」
 「驚いたでしょうね」
 「驚いてはいたけど、柳井さん、止めようとしないんだ。ぼくは、趣味で女装をやってたけど、男に抱かれるつもりなんて、その当時はまったくなかったんだ。抵抗したんだけど、柳井さん、あの通りでかいだろう。結局、そのままやられちゃったんだ」
 「強姦されたってことなのね」
 「まあ、そうだね」
 「ノーマルな男でも、男を抱けるんだね」
 「チャンスがあれば、男を抱いてみたいっていう願望は誰にでもあるんじゃないかなって、柳井さんが言ってたけどね」
 「へえ、お医者さんがそう言うのなら、ほんとだね」
 「うん。柳井さんが、実際に男を抱いたのは、ぼくが初めてだったんだけど、すごく良かったらしいんだ。勿論、ぼくも男の人に抱かれるのは、初めてだったんだ。でもね、ぼくも失神するくらい気持ち良かったんだ」
 「お互いに満足したって訳だね」
 「そうなんだ。柳井さんとは、それ以来の付き合いなんだ。学会なんかで、向こうに来る度に、ぼくに電話かけてきてたんだ」
 「真琴とのセックスが気に入ったのね」
 「そうみたいだね」
 「真琴は、他の男ともセックスしてたんでしょう?」
 「柳井さんに抱かれてから、男とやれるんだって自信がついてね。だから、生活費を稼ぐために、娼婦を始めたんだ」
 「柳井さんは、そのことを知らなかったんでしょう?」
 「初めはね。去年の秋、ぼくが、売春目的で、ほかの男と関係を持っているのを知って、すごく怒ってね。生活費の面倒を見るから、ほかの男とはするなって。だから、今年の春、こちらに戻ってきたんだ」
 「柳井さん、真琴を好きになったのかもしれないね」
 「ほんとは、柳井さんのために、こんな関係は続けたくないんだけど、ぼくの方も離れなくってね」
 「真琴も柳井さんを愛してるってことかな」
 「そうかもしれないね」
 「そろそろ時間かな?」
 「そうだね」
 真琴の為に元に戻ってやらなければと思い、一生懸命元に戻れと祈りながら、交わった。けれど・・・・。

 「どうしてダメなんだろう」
 ぼくたちは、入れ替わったまま、ぼくは真琴で、真琴はぼくのままだ。
 「もう、元には戻れないんだろうか?」
 「そんなことないよ。何かがいけなかったんだ。来週もう一度やってみようよ」
 「もし、元に戻れなかったら、柳井さんのこと頼むよ。柳井さんが、幹を捨てない限り、尽くしてやってくれよ」
 「そんな弱気にならないでよ。きっと元に戻るから」
 「まだ諦めたわけじゃないよ。もしも、もしもの時のことさ」
 「また来週やってみようね」
 「ああ、そうしよう」
 ぼくになった真琴は、力無く帰っていった。ぼくの心の奥底に、ニューハーフのままでいたいという願望があるのに違いない。真琴に悪いことをしたなと思った。

 月曜日から、ぼくは午後三時に店へ出た。ママから、ぼくもショーに出なさいと言われ、その特訓を受けるためだ。動きやすいように、Tシャツにスパッツを一着買い込んで、店へ向かった。
 特訓は、厳しかった。いつも優しいママが鬼に見えた。足の上げ方が悪い。棒立ちになっている。動きが固い。もっと笑顔でと、怒られてばかりだった。
 金曜日まで五日連続で特訓を受けたけど、お客に見せられないと言われて、次の週も、さらに特訓することになった。
 柳井が、ぼくの疲れた顔を見て心配そうにしていた。
 「うまくいかないのか?」
 「わたし、才能がないみたいね」
 「一週間じゃあ、誰でも無理だよ。お金を取る以上、いい加減なものは見せたくないって言うママのプロ意識があるからね」
 「そうね。もう少し頑張ってみるわ」
 柳井は、この日も優しかった。ぼくは、いけないと思いながら、真琴でいることに、ニューハーフでいることに完全に満足していた。

 土曜日の朝、ぼくが目覚めたのを見計らったように、真琴から電話が入った。
 「幹、調子はどう?」
 「ショーに出るための特訓で、疲れ切ってるわ」
 「ショーに出られるようになったんだね」
 「まだよ。上手く踊れるようにならないと、出して貰えないわ」
 「ママは厳しいからね」
 「うん、そうみたい。いい加減なものはやりたくないみたいだから」
 「そこがママのいいところなんだよ。お店が流行っている原因でもあるんだ」
 「そうでしょうね。ところで、今日は来るんでしょう? わたし、今日もお店、休み取ったのよ」
 すぐに返事が返ってこなかった。真琴は電話口でちょっと躊躇っているようだ。
 「幹、・・・・村上恭子って女の子とは、どういう関係だ?」
 「村上恭子・・・・」
 「そう、村上恭子」

 村上恭子は、ぼくと同じ学科の同級生だ。高校も同じだった。真琴は知らない人物だ。村上恭子とは、高校二年からの付き合いだ。成績が同じくらいで、彼女とぼくの進路が同じだったから、しばしば一緒に勉強した。
 高校三年の夏休み、ふたりで勉強していたときに、たまたま母が買い物に出かけ、ふたりきりになってしまった。彼女はぼくにべた惚れで、ぼくも憎からず思っていた。自然な形で、ぼくは彼女とセックスした。彼女がコンドームを持ってきていたところを見ると、チャンスがあればと思っていたに違いない。
 ぼくの数少ない女性経験の、ふたりのうちのひとりというわけだ。大学に入ってからも付き合っていたのだけれど、例の香川純子との関係がばれて、へそを曲げて会ってくれなくなっていたのだ。その村上恭子が、連絡してきたのだろうか?

 「なるほどね。そう言う関係なんだ。実はね、昨日講義が終わって帰るときに声をかけられてね。彼女のこと、幹から聞いていなかったから、ちょっとどぎまぎしちゃったけど、何か親しそうにするから、適当に相手をしてたんだ」
 「で、何て?」
 「反省してるかって聞くから・・・・」
 「何て答えたの?」
 「何て言ったらいいのか、分からないだろう? でもね。幹が彼女に何か悪いことをして、彼女が怒っていたんだろうって考えて、ぼくが悪かった。許してくれって、謝っておいたよ」
 「凄い洞察力ね」
 「何して彼女を怒らせたの?」
 「言いたくないわ」
 香川純子事件のことなど、他人には絶対言いたくない。ぼくの恥部だからだ。
 「そう? じゃあ、いいや。それでね。今晩、幹のマンションに夕食を作りに来てやるって言うんだ」
 「夕食を・・・・」
 村上は、以前もよく夕食を作りにぼくのマンションに来ていた。そして、そのまま泊まって行くのだった。つまり、真琴が謝ってくれたから、機嫌が直ったと言うことか?
 「どうしようかと思ってね。そう言う関係だったら、よりを戻して置いた方がいいのかな? それとも断ろうか?」
 ぼくは、可能ならば、村上恭子との結婚を考えている。勿論卒業してからだけど・・・・。よりを戻すってことは、ぼくになった真琴と恭子が寝ることを意味する。よりを戻して欲しいけれど、それは、ぼくがするんじゃなくて、真琴がするってことなのだ。親友に、恋人を盗まれるような気がする。
 「焼き餅焼いてんの?」
 「イ、イヤ、そう言う訳じゃないけど・・・・」
 「彼女の方は、君としたとしか思わないから、いいんじゃないのかい?」
 「それは、そうだけど・・・・」
 「幹は、ぼくの大事な柳井さんに抱かれているんだから、不公平はないだろう?」
 そう言われては、ぼくはそれ以上反論できない。
 「・・・・よりを戻して置いてくれるかい?」
 「そう言うと思ったよ。そう言うわけで、今晩は行けないから、例の実験は中止にしよう。いいだろう?」
 「やむを得ないね」
 そうは言ったものの、真琴は、恭子と寝るのを楽しみにしているように思え、落ち着かない気分だ。
 「それから、明日は病院に行く日なんだ。忘れずに行って欲しい」
 「病院? 何の?」
 「月に一度、女性ホルモンを注射してもらってるんだ。毎日飲む薬ももらってる。薬はきちんと飲んでるんだろう?」
 「真琴に言われたように、毎日飲んでるよ」
 最初の日の夜、真琴から三度目の電話があった。いつも飲んでる女性ホルモンを欠かさず飲むようにと言う電話だった。そう言われれば、毎日飲めと言われていた薬の残りがもう僅かになっていた。
 「どこに行けばいいの?」
 「五月通りの、南レディスクリニックだよ。薬の袋に書いてあるだろう? タクシーで行くといいよ」
 「分かったわ。南レディスクリニックね」
 「病気の検査もしてもらってくれよ」
 「病気の検査ね。エイズとかのね」
 「大丈夫とは思うけど、ずっと調べてもらってるんだ」
 「いいわ」

 夕方になって、恭子がぼくになった真琴の元を訪れていると思うと、嫉妬とも何とも言えない感情が沸き上がってきた。マンションまで行って、邪魔してやろうかとも思ったが、先週の金曜日、真琴も恐らく同じ思いをしていたはずに違いないと思い至って、缶ビールをあおって早々と眠った。

 翌朝、真琴からの連絡はなかった。電話を待っていてもしょうがない。留守電にして、真琴に言われたように、南レディスクリニックの門を潜った。
 婦人科のクリニックだから、待合室の中は、みんな女性だ。少し違和感を覚えるけど、香川を医学部の付属病院に連れて行ったときほどではない。
 このクリニックには、お腹の大きな女性はいないようだ。純粋な婦人科だけのクリニックなのだ。
 なかなか順番が回ってこなかった。ぼくは、待合室に置かれていた女性週刊誌を読むとはなしに眺めた。男性週刊誌には、精力増強や、包茎手術、ペニス増大術などの宣伝がたくさん乗っているけれど、女性週刊誌には、痩身術やむだ毛の処理、バストアップの宣伝ばかりだ。結局、どちらも、性に関係したものが多いと言うことだ。
 一時間待たされて、ようやくぼくの名前が呼ばれた。
 「木下真琴さん、中へどうぞ」
 待合室の中で、雑誌に目を落としていた女性たちが、一斉に顔を上げた。マコトと言うと、男の名前のように聞こえる。男がいるはずはないと思いながらも、気になったのだろう。しかし、立ち上がったぼくの姿を見て、女性たちは、雑誌へと再び目を落とした。ぼくは、自分が女として認知されていることを確認して、ほっとした。
 白衣を着たドクターの前の丸椅子に座った。ドクターは、このクリニックにいる唯一の男だろう。ぼくの顔も見ないで、カルテだけ見て言った。
 「生理痛の方はどうですか?」
 「はっ!?」
 そんなぼくの反応に、ドクターはカルテから目を離して、ぼくの顔を見た。
 「あっ! ごめん、ごめん。木下真琴さんね。月経困難症の患者さんと勘違いしちゃって。どう? 体調の方は?」
 「別に問題はありません」
 「そう。じゃあ、いつものやつね」
 「はい。お願いします」
 「電解質検査と、凝固能の検査をするけど、あれの検査もするの?」
 「はい」
 「そう、毎月じゃなくてもいいよ」
 「でも、心配だから・・・・」
 「先々月ここへ来たとき、相手が決まってるって、言ってたよね」
 「はい」
 「なら、大丈夫だろう」
 「でも、やって欲しいんです」
 ぼくとしては、初めての検査だ。やっぱり心配だ。
 「じゃあ、儲けさせてもらうか。高山君、採血も頼むよ。検査結果は、来週、郵送して置くからね」
 「はい」
 「木下さん、こちらへどうぞ」
 高山と呼ばれた看護婦に呼ばれて、カーテンの中に入った。腕の静脈から採血された。かなりの量だ。ぼくは貧血を起こしそうになった。
 「お尻に注射しますから、うつ伏せになって」
 ぼくは、ベッドの上にうつ伏せになった。
 「スカート、あげますからね」
 「はい」
 「ショーツ、おろしますよ」
 「はい」
 そういちいち言わなくてもいいと思うのだが・・・・。看護婦は、アルコールらしいものでぼくのお尻を消毒すると、注射した。あんまり痛くはなかった。
 「木下さん、いつ見てもお尻がぷりんとして、かっこいいわね」
 「ありがとうございます」
 女性に誉められるとは思わなかった。確かに真琴のお尻は格好いいと思う。毎日のストレッチ体操のお蔭だ。そう、ぼくは、真琴から言われて、毎日体操している。これが結構大変だ。
 「ニューハーフやっていくには、努力が必要なんだ」
 それが、真琴の意見だ。男やってる方が楽だなと思う。
 薬を受け取ってマンションへ帰った。留守電には何も入っていない。真琴は、いったい何をやっているんだろう?

 午後二時になって、ようやく真琴から連絡が入った。
 「幹、いい子じゃないか? あんまり美人じゃないけど、気だてがよくて、料理も上手いし」
 ぼくになった真琴の弾んだ声に、再び嫉妬の感情を覚えた。その感情を押しつぶして聞いた。
 「どうだった?」
 「勿論、よりは戻して置いたよ」
 「寝たの?」
 「当然だろう? 向こうの方が積極的なんだから、逃げるに逃げ出せなかったよ」
 「そう」
 ぼくの中に、恋人を奪われてしまったような絶望感が沸き上がった。
 「ぼく、女の子とするのは初めてだろう? 嬉しくってね。三回もしちゃったよ」
 「三回なんて、ぼくもしたことないよ」
 「幹は強いみたいだね。やろうと思えば、もう一回はできたみたいだよ」
 「彼女、何て?」
 「愛してる、愛してるって、何度も言うんだ。よっぽど、幹のことが好きみたいだね」
 ぼくは、恭子がぼくのことを愛してくれていることが分かって、うれし涙を流した。
 「早く元に戻りたい」
 「それはぼくだって、同じだよ。幹が恭子さんを思うのと同じくらい、ぼくは柳井さんのことを思っているんだからね」
 「来週は、きっと元に戻るよね」
 「そう思うよ。ぼくも男として一度セックスしてみたいという念願が叶ったからね」
 「じゃあ真琴、これまでは真剣の元に戻ろうと願わなかったのね」
 「そう言う訳じゃないと思うけど、心の片隅に男に戻れたんだから、一度はっていう思いがあったんだと思うよ」
 「それは理解できるわ」
 「許してくれる?」
 「もちろんよ」
 ふたりとも元に戻りたいという強う動機ができた。次の日曜日には、きっと元に戻る。そんな確信が沸いてきた。
 しかし、ぼくはニューハーフのままでいてもいいなと言う思いが何処かに残っている。真琴はどうだろう。男がいいと思ってやしないだろうか? 互いに少しでもそんな思いがあれば、元に戻れないかもしれない。元に戻れるという確信が揺らいできた。

 翌週もショーの特訓で明け暮れた。しかし、ママのお許しが出て、月曜日から、ショーに顔を出すことになった。露出度の高い超ビキニで踊るのだけれど、パンティーの部分に膨らみを隠すためのひらひらが付いている。ぼく、真琴は美人で、スタイルがいいから、こんなゲイバーでなかったら、ぼくは本物の女に見られるだろうなと思う。
 ただ、ショーの中心は真弓さんだ。この人はほんとに綺麗で、踊りも上手い。ぼくは、後ろで踊る集団の一員に過ぎない。舞台の一番前で踊ってみたいな、なんて思いがふと浮かんだ。
 そう思いながら、ニューハーフのままでいる動機が増えて、元に戻れなくなってしまうと言う恐怖がむくむくと膨らんできた。
 ショーで舞台に立つという話しをすると、柳井はあんまりいい顔をしなかった。自分の愛人?を見せ物にしたくないのかもしれない。しかし、柳井がいつまで面倒見てくれるか分からない現状では、自活の道を切り開いておかなければならないのだ。ぼくのためではなく、元に戻ったときの真琴のために。
 月曜日、初めてのショー。舞台が終わったあと、ママがよくできたわねと誉めてくれた。嬉し涙がポロリとこぼれた。特訓が厳しかったから、そう言われて余計に嬉しかった。
 日に日に出来が良くなるわねと言われ、ぼくは一層頑張るようになった。ただ、一ヶ月たつと、出し物を変えるから、来週からは別の踊りを練習しなければならない。ゲイバー勤めも大変だ。

 金曜日、柳井はいつものようにお店にやってきて、ぼくを連れて帰った。いつもとパターンを変えるが、結局はバックで終わった。正常位だとちょっとペニスが邪魔になるからなと思う。ただ、ぼくとしては、正常位の方が感じるんだけど・・・・。
 柳井が帰ったあと、シャワーを浴びた。自分の体に乳房があることも、この頃ではあまり気にならなくなってきた。反対に、ペニスがあることに違和感を覚えるようになった。これさえなければ、もっと女らしくなれるのにと思う。そう思いながら、自分の心の変化にどきりとした。