第六章 真琴として生活

 小鳥のさえずりで目が覚めた。雀の鳴き声かな? 昨夜の淡い期待は、太陽の前の朝露と消えた。ぼくは真琴のままだ。
 小便をしようとして、裸のまま便器の前に立った。しかし、下を向いたとき、胸の隆起が視界に入った。ものすごく不自然な気がして、座って小便した。しかも小便がすんだあと、ペニスの先をトイレットペーパーで拭いた。普段はそんなことは絶対しない。男はみんなそうだ。だけど、拭かなきゃいけないような気がしたのだ。
 下着を身につけ、真琴が昨日帰る前に出してくれていたワンピースを着た。真琴はスラックスの類は、まったく持っていない。女装イコールスカートなのだと言っていたから仕方がない。
 牛乳をコップに入れて飲みながら、時計を見ると午前八時十分だった。ぼくになった真琴はもう起きて講義に行っただろうか? 気になって電話してみた。
 コールは鳴り続けているが、真琴は出ない。もう、出かけたみたいだな。そう思って電話を切ろうとしたら、真琴が出た。
 「もしもし」
 眠そうな声だ。
 「真琴! まだ寝てたの? 早く講義に行かなきゃ」
 「講義? あっ、そうか。講義に行かなきゃいけないんだ」
 「真琴! しっかりしてよね。わたしの代わりもしっかりしてくれなくちゃ」
 「分かったよ。今、起きるよ」
 「真琴、バイクに乗れたっけ?」
 「バイク? 乗れるわけないじゃん」
 「昨日話した理論だと、バイクに乗れるはずだけど・・・・。一度練習してからにしたほうがいいでしょうね。今日は歩いていくのよ」
 「タクシーで行く」
 「馬鹿なこと言わないでよ。そんな贅沢できる身分じゃないんだから。早く起きて、歩いていくのよ。今日の講義の場所は、昨日説明したから、分かっているわね」
 「ああ、分かってるよ」
 「ほんと、頼むわよ」
 「はい、はい」
 大丈夫かなと思いながらも、監視に行くわけにもいかず、真琴がきちんとやってくれることを祈るしかない。

 不安の中で待つこと八時間あまり、午後四時過ぎ、玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けてみると、ぼくになった真琴が、立っていた。
 「やあ、疲れた、疲れた。幹は、いつもあんな講義を聞いているのかい?」
 そう言いながら、部屋に入ってきて、ノートの入った鞄を床に放り出した。
 「ええ、そうよ」
 「あんな退屈な講義を、良く聴いていられるね」
 「まだ、基礎だからね」
 「それにしてもひどいね。期待していたのに、大学なんて、行かなくて良かったよ」
 「まあ、そう言わないでよ。将来のためのステップなんだから」
 「あれ? こんな話し、むかし、しなかったかなあ?」
 「したような気もするね」
 「こんな話はもういいや。君の準備に取りかかろうよ。下着見せて」
 「どうして?」
 「下着に合わせて服を選ばなくちゃ。あんまりアンバランスだとおかしいだろう?」
 「ふうん。そういうものなの」
 「男の人はどうでもいいだろうけど、女の場合は、組み合わせを考えなきゃね。ああ、それ着たんだ。じゃあ、これがいいだろうね」
 真琴が取り出した服は、ぼくが真琴に最初に出会ったときに着ていたスリップドレスだった。
 「これ、・・・・着るの?」
 「そうだよ」
 「こんなお尻が見えそうな短いドレスなんて、恥ずかしいよ。もっと長いの出してよ」
 「お店に出るときの服は、どれも同じようなものだよ」
 「・・・・そう。じゃあ、着るわ」
 「パンストは、これにしよう」
 真琴は、柄の入った白のパンストを取り出して、ぼくに手渡した。新品のそのパンストを穿いて、スリップドレスを着た。
 「幹、ドレッサーの前に座って」
 ぼくは、ドレッサーの前にあるストゥールに畏まって腰掛けた。真琴は、キャンバスに絵の具を塗るように、ぼくの顔に、化粧品を塗りたくった。
 「手順を覚えるんだよ」
 「うん、分かってるよ」
 化粧は三十分もかかった。厚化粧の真琴の顔が出来上がった。
 「口紅は、自分でしてみて」
 口紅を塗った。ぼくは自然に唇を動かして口紅を整えていた。こういった無意識でやる動作は、真琴の修錬のお陰だろう。
 「うん、いいね。完璧! 髪をちょっと梳かした方がいいね」
 長い髪の毛をブラッシングした。立ちあがって、ドレッサーの鏡に全身を映し出してみた。
 「ほんと、真琴は、本物の女みたいだね」
 「ありがと。どう? 中学入試のあと、女装したときに比べて」
 「最高の気分だよ」
 ぼくは、凄く興奮していて、初めて女装したあの時のように、この真琴の体に付いた小さなペニスが勃起していた。昨日の夜は、刺激してもそれほど堅くならなかったのに・・・・。真琴に、今ペニスが勃起していることを知られただろうか? ぼくは、ちょっとどきりとした。
 「幹も、結構女装願望が強いみたいだね」
 「そうかもね」
 それは事実だが、ずっとするつもりなんてないんだけど・・・・。
 「バッグはこれ。財布を入れて! 靴はこれね」
 「これ履くの?」
 真琴が取り出した靴というのは、薄いブルーのハイヒールだ。かかとがずいぶん高い。こんな靴履けるのかな、前につんのめらないかなと思った。しかし、履いてみると、別に何の不具合もなく、運動靴を履くような感じで、高いハイヒールが履けてしまった。歩くのにも支障がない。体が覚えている。そんな感じだ。
 「さあ、準備完了。タクシーを呼んで。明るくね。あ、そうそう。あなたの名字は、木下だからね」
 「木下ね。分かったわ」
 「じゃあ、電話して!」
 「はあい」
 ぼくは電話の前に貼られているタクシー会社のシールを見ながら、ボタンをプッシュした。
 「はい、城西タクシーでございます」
 「サン・マンション五番館の木下ですけど、一台お願いします」
 「ああ、真琴さん。いつもご利用ありがとうございます。五分ほどで参ります。少々お待ちください」
 「よろしくね」
 ぼくになった真琴が、そばでニヤニヤしながら聞いている。
 「どう? こんなもんで」
 「まあまあだね」
 「合格ね」
 「うん、じゃあ、頑張ってくれよ」
 「了解しました!」
 「あ、そうそう。店に行ったときの挨拶は、おはようございますだからね」
 「おはようございます? 夕方なのに?」
 「決まりだからね。先に出るよ。明日も午後四時くらいに、ここに来るからね」
 「うん、待ってるから」

 ぼくになった真琴が出ていって、しばらく待ったあと、ぼくは一度深呼吸をして部屋を出た。もう、興奮は治まっていた。いざ出陣だ。
 エレベーターを降りると、ちょうどタクシーがやってきた。タクシーに乗り込む。自然に乗れたと思う。タクシーの運転手は、白髪の五十過ぎくらいの気のよさそうな男だ。
 「真琴ちゃん、いつも綺麗だね」
 「ありがと」
 「いつもの所でいいね」
 「はい、いつもの所まで」
 運転手は、真琴がニューハーフだと知っているのだろうか? それともただのホステスだと思っているのだろうか? そんなことどうでもいいやと思い、バッグから手鏡を取り出して、化粧を確かめた。
 車は、すぐに栄町のローソンの前に着いた。料金は八百九十円なり。ぼくは千円札を渡して、つりを受け取らずに車を降りた。運転手が何も言わないところをみると、真琴はいつもつり銭を受け取らないのだろう。
 店に向かって、ゆっくり歩いていく。通り掛かりの二人連れの男たちに、口笛を吹かれた。アクシデントでこうなったのに、いい気分だ。ぼくは、真琴に言われたように、潜在的に女装願望があるのに違いない。
 「おはようございます」
 店のドアを開けて、明るく挨拶しながら中に入った。
 「おはよう、マコちゃん」
 ママが、ぼくに向かって挨拶を返してきた。真琴は、マコちゃんと呼ばれているらしい。ぼくは、奥にいるバーテンに挨拶した。
 「おはようございます」
 「ああ、おはよう」
 カウンターの中でグラスを拭いていたバーテンは、ちらりとぼくを見て不機嫌そうに挨拶を返してきた。真琴の話では、このバーテンは、この店の唯一男の格好をした従業員だということだ。ただし、完全なホモで、真琴も何度か迫られたことがあるらしい。この男とだけは絶対したくないから、口車に乗らないように、気をつけてねと言われている。
 奥から、早苗さん、小百合さん、真弓さんたちが出てきた。ぼくは、先輩のお姉さんたちに挨拶した。
 「真琴ちゃん、相変わらず化粧が濃いわねえ」
 「やっぱり濃かったですか?」
 真琴に化粧されながら、少し濃いんじゃないのと言ったのに、真琴はいいんだと言ってかなり濃い化粧をぼくに施していたのだ。
 「真琴ちゃんは若いんだから、素肌で勝負できるでしょう?」
 「明日からそうします」
 「毎日そう言ってるわね」
 「薄化粧が下手だから・・・・」
 「まあ、いいわ。今日も頑張って、お客さんにサービスしましょうね」
 「はあい」
 「マコちゃん、テーブルに花を飾るのを手伝って」
 ママが呼んでいる。ぼくは、ママのそばに戻って、カウンターに並べられた花の入った花瓶をテーブルに運んでいった。
 「さあ、今日のショーの打ち合わせをしましょうね。みんな集まって!」
 それから、一時間あまり、ショーの打ち合わせだ。すごいプロ意識だ。頭が下がる。ゲイバーのショーだからと高をくくっていたけれど、いい加減な気持ちではやっていけそうもない。ぼくは、気持ちを引き絞めた。

 午後七時を回った頃から、お客が入り始めた。男の客が多いんだろうと想像していたのに、女のお客も結構多い。いや、むしろ女のお客の方が多いと言っても過言ではないだろう。ぼくは、テーブルにウイスキーのボトルやミネラルウォーターを運んだり、灰皿を交換した。
 その合間に、由香里さんの会話を聞いてみた。結構猥談が多い。しかし、それだけじゃあない。ゴルフや野球などのスポーツから、政治談義までしている。女性相手には、ファッションや化粧の話しをしている。頭のいい人だなと思う。ニューハーフなんてしているのが、不思議な気がした。イヤ、ニューハーフが悪いって言うわけじゃない。もっと他の道があったんじゃないかと思っただけだ。
 午後八時、一回目のショーが始まった。ぼくは裏へ回って、打ち合わせどおりの、次から次へと代わる衣装の準備をした。舞台の袖で見ていて、ショーはかなりのレベルをいっている。出演しているメンバーも汗だくでやっている。ゲイバーだからと言って侮れない。そんなショーだ。
 ショーが終わったあと、ぼくはテーブルに呼ばれて、お客の相手をした。
 「真琴です。よろしくお願いします」
 「真琴ちゃんって言うの。可愛いね。いくつ?」
 「十九歳です」
 「いつからニューハーフやってんの?」
 お客の一人がそうぼくに聞いた。いつからかな? 真琴はぼくに、中学卒業してからと言ったかなと考えていると、由香里さんが横から口を出した。
 「山田さん、この子は、うちのお店唯一の女の子なんですよ。間違えないで」
 「あれ! そうだったの」
 「ほら、真琴には、喉仏がないでしょう? 手術で取った瘢もないし」
 「ほんとだ。そうだろうな。真琴ちゃんは、男に見えないものね」
 「ママは、この店には女は雇わないって、言ってたんじゃなかったのかい?」
 別のお客が口を挟んだ。
 「それは先月の話でしょう? 今月から、この子を入れたよ」
 「そうなんだ。でもどうして?」
 「山田さんには言っちゃったけど、一人だけ本物の女の子がいるから見つけてくださいって、ゲームをするためよ」
 「なるほどね。じゃあ、ぼくを勝たせるために教えてくれたのかい?」
 「もちの、ろんよ」
 「嬉しいなあ。由香里ちゃん、どんどん飲んで。真琴ちゃんも飲んだ、飲んだ」
 「わたし、未成年だから」
 「堅いこと言うなよ。さあさ、飲んだ、飲んだ」
 「じゃあ、薄いのを一杯いただきます」
 由香里さんはどう言うつもりか知らないけれど、ぼくをダシにして、うまくやったようだ。
 午後十時半、二度目のショーが行われた。ぼくはミスすることなく役割をこなした。

 閉店は、午前二時。お客を送り出したあと、店の片づけを始める。テーブルや床を掃除し、あちこちに移動した椅子を元の場所に戻した。
 ママがお疲れ様の挨拶をして、やっと帰宅となった。
 店の前に停まっていたタクシーに乗り込んで、マンションへと帰った。時計は午前三時少し前を指していた。くたくただ。いったんは、服を着たままベッドに倒れこんだが、化粧を落とさなくちゃと起き上がって、化粧を落としてシャワーを浴びた。髪の毛も洗った。リンスもした。
 バスタオルで髪の毛を拭いていると電話が鳴った。真琴からだ。
 「幹、どうだった? 店は」
 「結構大変だね。疲れちゃったよ」
 「うまくやれた?」
 「やれたと思うよ」
 「そう、良かった。シャワー浴びて、髪は洗ったよね」
 「今、髪を乾かしているところよ」
 「うまくやっていけそうだね」
 「なんとかね」
 「じゃあ、明日午後四時に」
 「真琴、もっと早く来られない?」
 「どうしてだよ」
 「もう一度、元に戻らないか試してみない?」
 「焦っても、だめだと思うよ。恐らく、土曜日から日曜日にかけて、先週と同じシチュエーションでやらないとだめだと思うんだ。だから、今度の土曜日まで、頑張ろうよ」
 「なるほどね。そうかもしれないわね。じゃあ、土曜日まで待つから」
 「うん、お互い頑張ろう。じゃあ、明日ね」
 「じゃあ、お休み」
 「お休み」
 土曜日が来るのを首を長くして待ちながら、ぼくは真琴として一生懸命振舞った。

 金曜日、いつものように出勤して、いつものように時が流れていった。午後十一時頃、ふらりと一人の客がやってきた。ママが親しそうに話していた。しばらくしてぼくが呼ばれ、相手をさせられた。ママの特別のお客だと思っていた。
 午前0時ちょっと前、そのお客、柳井というお客は勘定を済ませると店を出ていった。ぼくは、止まり木に座って、バーテンがカクテルを作る様子をぼんやり眺めていた。
 「マコちゃん、何やってんのよ。早く行きなさい」
 「えっ!?」
 「え、じゃないでしょう。やなさんが待ってるわよ」
 「やなさんが?」
 「待たせちゃいけないでしょう? 早く、早く」
 ぼくは訳が分からず、控え室に戻った。どういうことなんだろう。ここは真琴に聞くしかない。真琴に電話した。
 「真琴? わたしよ」
 「なんだ、幹か。どうした? 今頃」
 「柳井さんってどう言う人? 外で待ってるから、早く行けって、ママから言われて・・・・」
 「ああ、言ってなかったかなあ」
 真琴はのんびりした口調で話す。ぼくは、少しいらいらしていた。
 「言ってなかったって、何を?」
 「ぼくは最近は決まった相手としか、してないって言わなかったかなあ」
 「ああ、それなら聞いたわ」
 「柳井さんは、その決まった一人なんだ」
 「ええっ!!」
 「ぼくの初めての相手でもあるんだ。それ以来ずっと付き合っている」
 「と言うことは、柳井さんとこれから付き合えって言うこと?」
 「そうだよ」
 「・・・・セックスも・・・・するの?」
 「勿論さ」
 「いやよ。そんなことしたくないわ」
 「幹、君がどう思おうと、柳井さんとは今晩付き合って、抱かれてもらわないと困るんだ。ぼくは、柳井さんには恩があるんだ。頼むから、付き合ってくれ」
 「・・・・困るわ」
 「ぼくを助けると思って、お願いだよ」
 そう言われても、すぐには決断できなかった。しかし、考えた末、永遠にと言う訳じゃないんだから、やるしかないなと言う結論に達した。
 「・・・・分かったわ。真琴のために、我慢するわ」
 「この前ぼくが君にしたようにしてやったら、いいからね。頼んだよ」
 「分かったわ」

 気が重いが、仕方がない。ぼくは、バッグを持って店を出た。店の前に、柳井が不機嫌そうな顔をして、煙草を吸いながら待っていた。
 「遅いぞ」
 「ごめんなさい。待たせちゃって」
 ぼくは、これ以上ないという笑顔で、柳井の腕にしがみついた。
 「穴埋めはしてもらうからな」
 「分かってるわ」
 近くの駐車場まで歩いていった。真琴は、身長が167くらいある。しかもハイヒールを履いている。しかし、柳井は恐らく180を超えるだろう。背が高いばかりでなく、がっちりした体をしている。ぼくがしがみついても、まるでセミが木にとまっているようだ。柳井は、そう美男子ではないが、好感の持てる顔をしている。この男なら、抱かれてやってもいいか、そんな気分になった。
 柳井は酒を飲んでいるから、車を動かしてもいいのかなとは思ったが、少しも酔った気配を見せない。
 ツートンカラーのクラウンにぼくを導いて、駐車場を出た。ぼくの、真琴のマンションまで約十分。柳井は、真っ直ぐ前を見たまま、運転を続けた。
 エレベーターを降りると、柳井はぼくより早く部屋の前に立って、鍵を取り出して開け始めた。柳井は、真琴の部屋の鍵を持っている。ぼくが思ったより、柳井と真琴の関係は深そうだ。
 「真琴! シャワーを浴びるから、コーヒーを沸かしておいてくれ」
 「はあい」
 柳井は、部屋の真ん中で裸になると、バスルームへと消えていった。体から想像したのと同じくらいの大きさのペニスがぶら下がっているのが見えた。大丈夫かなと思うが、真琴がずっと付き合っている男だから、大丈夫に決まっていると思い直した。
 コーヒー豆をミルで引いて、四杯分のコーヒーを沸かす。いい香りが漂ってきた。
 「真琴、おまえも入れ」
 躊躇している暇はない。ぼくは、すぐに返事をした。
 「すぐに行くわ」
 化粧を落としてバスルームに入ると、柳井に抱きしめられ、キスされた。優しくバストを揉まれる。男に抱かれるという違和感は、すぐに消えた。ぼくは、ちょっとホモっ気があるのかもしれないな。
 シャワーのお湯が頭から流れ落ちてきた。ぼくは、自然な形で柳井のペニスを口に含んだ。そして、真琴にやられた時のことを思い出しながら、丁寧に舐めあげる。真琴が、フェラはニューハーフの命よと言っていた。いい加減にはできない。
 「真琴、体を拭いて、ベッドに行こう」
 「はい」
 体を拭いていると、柳井に抱きかかえられた。そのままベッドイン。柳井が、ぼくの体を愛撫し始めた。そのやり方は、真琴のものと同じだ。恐らく真琴は柳井に学んだに違いがない。ぼくは、それだけでいきそうになった。
 柳井にお返しをしてやった。柳井も心地よさそうにしている。
 そして、柳井が入ってきた。ぼくより、佐山幹より一回り大きなペニスだ。それでも真琴の体は、それをなんなく受け入れた。柳井は、緩急をつけて腰を動かす。ぼくは快感で、気が狂いそうになった。柳井がぼくの中に射精したとき、ぼくはあまりの心地よさに気を失った。

 どれくらいたったろうか? 気がつくと、柳井は着替えてコーヒーを飲んでいた。
 「目が覚めたか?」
 「ごめんなさい。あんまり良くって、気が遠くなっちゃった」
 「いつものことだろう。おまえは、ほんと感度がいいよ」
 「柳井さんは、満足してくれた?」
 「満足したけど、おまえ、今日はちょっとおかしいな」
 ぼくは、ちょっとどっきりした。しかし、ぼくと真琴が入れ替わっていることに気がつくはずがない。
 「おかしいかなあ。生理中だからかな?」
 「生理中にしては、血がつかなかったぞ」
 「違う穴に入れたせいよ」
 「あっ! そうだった」
 二人で笑い転げた。
 「じゃあ、帰るからな。来週も金曜日だ」
 「待ってるわ」
 柳井は、鍵を閉めて出ていった。真琴として、上手く演技できた。これで、真琴に申し訳が立つ。それにしても、柳井とのセックスは良かった。ほんとに良かった。真琴には悪いが、このまま元に戻れなくてもいいなと、本気で思った。

 夜が明けて、まだ眠っていたいのに、真琴からの電話で起こされた。
 「ねえ、柳井さんとうまくやれた?」
 「やれたと思うよ。満足したって言ってたから」
 「良かった。で、どうだった。彼とのセックスは?」
 「・・・・良かったよ」
 「それだけ?」
 「正直に言うよ。最高だったよ。真琴としたときより、ずっと良かった」
 「病み付きになりそう?」
 「もう、なっちゃった」
 「元に戻りたくなくなった?」
 「元には戻りたいけど・・・・」
 「ぼくの彼なんだからね。元に戻ってもらわないと困るよ」
 「分かったよ。今日、やってみるんだね」
 「ぼくは夕方から飲むから、酔いつぶれたところで、拾ってくれよ」
 「じゃあ、この前話したコースで、こっちに向かってきてね」
 「じゃあ、午後十一時半に」
 「はあい」