第四章 再会

 下腹部の緊満感で目が覚めた。時計は午前五時を刺していた。彼女は、まだ眠っている。ぼくはトイレに立った。裸のまま小便するのは、何とも気持ちが悪い。
 ベッドに戻って、眠っている彼女にキスした。彼女は目を覚まし、ぼくのキスに応えた。ぼくは、また勃起した。
 今度は、ぼくがサービスする番だ。彼女の胸をゆっくり揉み、小さなピンク色の乳首に舌を這わせた。そして、股間に手をやった。
 何だ!! 何だ、これは!? 思ってもみなかったものが、手に触れた。
 「うふふ」
 彼女が、含み笑いをした。
 ぼくは、布団を剥いで、彼女の股間を見た。何て事だ。そこには、クリトリスではなく、ペニスがあった。小さいが、五センチばかりのペニスが・・・・。
 睾丸は・・・・ない。ペニス以外の部分は、一見女のものに見える。クリトリスが大きくなる病気の女がいると聞いたことがある。これはペニスじゃない。大きくなったクリトリスだ。そう思った。
 ぼくは、ペニスのようなものの下を見た。じっくり見た。膣がない! ・・・・肛門しかなかった。ぼくが二時間前に挿入したのは、彼女の膣じゃなかった。膣の中に入れたと思ったのに・・・・。
 「やっと気がついたの?」
 「君は、・・・・君は男なのか?」
 「そう。ニューハーフよ」
 「信じら・れ・な・い」
 「最後までいって気がつかなかったのは、あなたが初めてよ」
 「酔っていたから・・・・」
 ぼくは、うろたえた。
 「そうね。そう言うことにして置いてあげるわ。で、どうだった? わたしとのセックスは?」
 「ど、どうだったって、言ったって」
 「良かったって、言ったじゃなかったの?」
 「・・・・言った・・・・かなあ」
 「言ったわよ。良かったんでしょう?」
 「ああ」
 「女とのセックスと、どちらが良かった?」
 どう答えたらいいのだろう? ぼくには香川を含めても、ふたりしか女性経験がない。そのふたりとのセックスと、彼女とのセックスを比べてみれば・・・・。目の前にいる彼女とのセックスの方が良かった。ただ、そう答えれば、ぼくは倒錯の世界へ引き込まれてしまいそうな気がする。
 「ねえ、どうなの?」
 「どうって・・・・」
 「わたしとのセックスの方が良かったんでしょう?」
 「あ、ああ」
 ぼくは、根が正直だ。つい、そう答えてしまった。
 「当然よね。わたしね。子供は産めないけど、男を喜ばせるのには自身があるんだ」
 それは納得できる。彼女とのセックスは、少なくともぼくの多くない経験の中では最高だった。
 「君は、君はプロなの?」
 「プロ? そう、わたしは、プロの娼婦よ」
 「娼婦!?」
 「そう、お金のために、男と寝るの。腟じゃなくて、肛門を使うけどね」
 「大丈夫なの?」
 忘れていた不安が、頭の中で入道雲のようにむくむくと大きく膨らんできた。
 「あはっ、病気のこと? 気にしてんなら大丈夫よ。娼婦してたのは、今年の春までよ。今は決まった相手としかセックスしないし、毎月検査してもらってるからね」
 「安心した」
 「安心したはいいけど、あなたのほうは大丈夫なの?」
 「あ、当たり前だろう?」
 「ふうん。最近は、わたしたちみたいなプロよりも、素人さんの方が危ないいて言うけどね」
 「そ、そんなことは、絶対ないよ」
 「信用してあげるわ」
 彼女は、ベッドの上にうつ伏せに寝転がって、ぼくを見上げている。その彼女の姿は、とても男には見えない。
 「名前を聞いてなかったね。何て言うの? あっ、ぼくは、ぼくの名前は、佐山幹って言うんだ」
 「ミキ? ミキって、女の子の名前みたいだね。どう書くの?」
 初対面の人間には必ず聞かれることを、またもや聞かれてしまった。
 「木の幹の幹って書くんだ。父が、社会の幹になるようにって付けてくれたんだ」
 「なるほど、そう言う謂われがあるの。いい名前ね」
 「ねえ、君の名前は?」
 「わたし? わたしの名前はね、真実の真に、お琴の琴って書いて、マ・コ・ト。真琴って言うの」
 「真琴か、いい名前だね。本名なの?」
 「まあ、そうよ」
 「君の名前は、男と間違えられそうだね。あっ! 君は男だったね」
 彼女は何も答えず、黙ってぼくを見ている。
 「マコト!? マコトだって!」
 彼女は首を傾げて、にこっと笑った。ぼくの脳裏に、あるひらめきが浮かんだ。彼女の顔をじっと見てみる。イヤ、そんな馬鹿なことがあるはずがない。そう思いながら、もう一度じっと見た。彼女との過去二回の出会いでは、彼女はかなり厚化粧をしていた。だから、見覚えがあると思ったけど、気がつかなかった。今、目の前にいるマコトと名乗った彼女の、化粧を落とした顔をよくよく見てみると・・・・。
 「気がついた?」
 「あ、ああ」
 「幹は、ちっとも変わらないけど、わたし、変わったでしょう?」
 「君は、君は、ほんとにマコトなのか?」
 「そうよ。わたしは昔、大林誠と言う名前だったわ」
 その言葉を疑う余地はない。確かにそうだ。彼女の顔は、誠の母親を若くした顔、誠の姉を少し年取らせた顔だった。
 「信じられない。どうして・・・・」
 「話すね。その前にコーヒーでも飲まない?」
 「あ、ああ、いいよ」
 真琴は、ベッドから立ち上がって、ガウンを羽織り、キッチンへ歩いて行った。ジャーッとコーヒー豆をミルにかける音がした。
 「すぐにできるから待ってね」
 「うん。で、どうして?」
 真琴がキッチンから、髪の毛をたくし上げながら戻ってきた。その姿だけを見れば、真琴が男だなんて、とても信じられない。真琴はぼくのそばに腰を下ろして話し始めた。
 「中学入試のあと、あなたが女装してみたいって言うから、うちでお姉ちゃんの服を着せてあげたでしょう?」
 「ああ、良く覚えているよ」
 あの時撮ったポラロイド写真を、ぼくは今でも隠し持っている。
 「わたしね。あのずっと前から、お姉ちゃんの服を着て楽しんでいたの」
 「えっ! ほんと?」
 「ほんとよ」
 「でも、君はあの時、女装したぼくに向かって、気持ち悪うって言って、軽蔑したような顔をしたじゃないか」
 「あれは、わたしの女装癖を隠すためよ」
 「そうだったの」
 「わたし、嬉しかったわ」
 「どうして?」
 「女装したいなんて、自分は頭がおかしいんじゃないかと思っていたの。だから、あなたにも女装したいって気持ちがあるのを知って、とっても嬉しかったの」
 「でも、あれは、はしかみたいなもので、あのあとはぜんぜんやっていないよ」
 「でもね、男はみんな女装願望があるのよ。最近、それがよく分かったわ」
 「へえ、そうなんだ」
 「ほんとはね、わたし、中学へ上がったら、女装なんて止めようと思っていたんだけど、あなたの女装した姿があんまり可愛かったから、わたしもあなたに負けないように、うんと可愛くなりたいって思ったの」
 そう言われて、ぼくは動揺した。
 「えっ!? じゃあ、ぼくがあの時女装しなかったら、君はこうなっていなかったのかい?」
 「そうかもしれないわね」
 ぼくは、真琴の人生を狂わせてしまったのだろうか?
 「心配しないで。あなたがいなくても、わたしはどの道、こうなっていたと思うの。あなたの女装のせいで、時期が早まっただけだと思うわ」
 その言葉を聞いて、ぼくはちょっと安心した。
 「女装するために、ニューハーフになったの?」
 「うーん、ニューハーフって形になったのは、結果論かな?」
 「結果論?」
 「そうよ。中学校に入ってから、まわりの男の子たちが声変わりして、喉仏が出始めたの」
 「うん、うん」
 「喉仏がでたら、完璧な女装ができないじゃない? すぐにばれちゃうわよね」
 「そうだね」
 「だから、男性化しないように、女性ホルモンを飲み始めたの」
 「えっ!? 女性ホルモンを! まだ、中学生だろう? どこから手に入れたの?」
 「インターネット」
 「インターネット!?」
 「そう、インターネットは、何でもありなの。女性ホルモンを初めとして、ありとあらゆる薬がインターネットで手に入るの。青酸カリだってね」
 「ほんとに?」
 「ほんとよ。副作用なんかも、詳しく書いてあるけど、責任は購入者で持ちなさいって書いてあるの」
 「良心的に見えて、実は売りっぱなしってことだね」
 「そう。自分で調べて、自分の責任で利用すればいいわけ」
 「なるほどね。それで?」
 「両親は、わたしがなかなか声変わりしないから、おかしいなって気付いていたみたいだけど、共働きだから、忙しいでしょう? しばらくは、ばれなかったわけ」
 「いつばれたの?」
 「中学三年の正月よ。中三になったあたりから、女性ホルモンの効果で、胸が膨らんできていたの」
 「あっ、そうなんだ」
 「ばれないように気を使っていたんだけど、お風呂に入っていたとき、酔った父が、一緒に入ろうって浴室に入ってきてしまって・・・・」
 「ばれちゃったんだね」
 「そう。裸だから、隠しようがなかったからね」
 「怒られたろう?」
 「当たり前よね。たった一人の息子だもの。もう、立ち上がれなくなるくらい撲たれたわ」
 「あの温厚なお父さんが・・・・」
 真琴の父親を、ぼくはよく知っている。怒るって言葉が、辞書にはないって言う人だった。
 「そう。あんなに怒られたのは、生まれて初めてだったわ」
 「それだけ、真琴に対する期待が大きかったんだね」
 「そうだと思うわ。女装したって構わないと、わたしは思っていたんだけど、社会的には受け入れては貰えないからね」
 「・・・・そうだね。お父さんに怒られても、女性ホルモンを止めなかったんだね」
 「違うの。いったんは止めたの。怒られてから、卒業式までの2ヶ月くらいかな? でも、どうしても自分の中の欲求を抑えられなくてね。家にいたら、女性ホルモンを続けていけないから、卒業式のどさくさに紛れて、家出したの」
 「家出!? ぜんぜん知らなかった」
 「進学校に通う一人息子が家出したなんて、誰にも言えなかったんでしょうね」
 「どこに行ってたの?」
 「大阪よ」
 「大阪?」
 「あそこは多いからね。理由はいろいろあるけど、女装した男がね。それに東京だったら、すぐに見つかってしまうと思って」
 「なるほど」
 「雑誌で見かけたゲイバーに押し掛けて、雇ってもらったの」
 「中学卒業したばかりで、雇って貰えるの? 条例とかで厳しいんじゃないの?」
 「お店に出るのはね。店に出なけりゃいいの。おつまみ作ったり、ショーの準備をしたり、先輩のお姉さん方のお化粧や着替えを手伝ったりするのね」
 「今は店に出ているの?」
 「去年、十八になってからね。今年、こちらに戻ってきてからは、またしばらく下働きだったけど、先々月からお店に出ているわ」
 「ふうん。じゃあ、まだ駆け出しってところ?」
 「まあ、そういうことね。コーヒー沸いたみたいね。注いでくるね」
 真琴は、立ち上がってキッチンへ歩いていく。やっぱり女にしか見えない。棚からコーヒーカップを出して、コーヒーを注ぎ分けると、カップを持って戻ってきた。
 「アメリカンだけどいいでしょう?」
 「ああ、いいよ。ところで、その胸は、シリコンが入ってるの?」
 ガウンがはだけて、胸が見えている。
 「入っていないよ。これは自前よ」
 「自前なの!? 随分大きいんだね」
 「Bカップよ。ほんとはBカップに少し足りないくらいだけどね。インターネットに書かれている記事を見ると、男が女性ホルモンを服用すると、母親や女姉妹の胸のサイズのワンサイズ小さいくらいになるって言われているの」
 「へええ」
 「母も姉も、Bカップだったから、わたしのは予想より少し大きくなったかな? 女性ホルモンだけじゃなく、タマを早く取ったからかもしれないね」
 そう言われて、真琴のそこにはタマがなかったなと、あらためて認識した。
 「タマを取ると男性ホルモンが出なくなるから、女性ホルモンの効果が顕著になるんだね」
 「その通りよ」
 「タマはいつ取ったの?」
 「家出して半年後かな? お店の人に紹介してもらってね」
 「勿論、合法じゃないよね」
 「そうよ。合法じゃないわ。闇でやってくれるの。迂闊にすると罰せられるから、しっかりした紹介者がいなけりゃ、取ってくれないわ」
 「十六の時から、真琴は男じゃなくなったんだ」
 「そうね」
 「こうしていると、真琴は絶対男には見えないよ。まるで本物の女の子に見えるよ」
 「ありがと。そう言って貰えるのが、一番嬉しいわ。でも、わたしはまだ満足してないの」
 「えっ!? どういうこと?」
 「小さいけど、ペニスがあるでしょう?」
 「うん」
 「邪魔だから、取ってしまおうと思っているの」
 「ええっ! ペニスを取っちゃうの?」
 「そう」
 「ペニスを取るって、性転換手術を受けるってこと?」
 「別に性転換手術じゃなくても、ペニスさえ取ってしまえばいいんだけど。どうせするなら、腟を作ってもいいわ」
 「そこまでするの?」
 「だって、スカートの下から覗かれても安心だし、ビキニの水着を着て泳ぎに行ってみたいからね」
 「うーん」
 ぼくは何にも言えなくなってしまった。女装するために性転換手術まで考えるなんて・・・・。
 ぼくは少し冷えかけたコーヒーをすすった。

 「ところで、さっき、真琴はプロの娼婦だって言ったけど、いつからそんなことを?」
 真琴は、ぼくに話そうかどうか少し迷っていたみたいだけど、意を決したように話し始めた。
 「お店に雇われたって言ったって、給料はお小遣い程度でしょう? 食べていくのがやっとなの。女性ホルモンも手に入れなくちゃいけないからね。最初の経験は、商売じゃなかったんだけど、二度目からは、先輩のお姉さんに紹介してもらって始めたの」
 「ホモってわけじゃなくて、生活のためってことだね」
 「そうよ。だけど、今は生活のためっていうより、性的快感を得るためのほうが大きいかな」
 「えっ!? そうすると、真琴は、今はホモって言うこと?」
 「そうかもね」
 ぼくは、真琴をじっと見た。真琴は、自分がホモになってしまったことを恥じてはいないようだ。

 しばらく黙ってコーヒーを飲んだ。コーヒーを飲み終わると、真琴がぼくのそばに座って耳元で囁いた。
 「ねえ、もう一度しない? 昨夜は、とっても良かったから、わたし、すっごく感じちゃったんだ」
 「えっ!?」
 真琴にそんなことを言われようなんて、思ってもみなかった。真琴は、ぼくだと知っていただろうけど、ぼくは酔っていたし、本物の女だと思っていたから、できたんだ。
 目の前の女が、ぼくの昔の幼馴染で親友のニューハーフだと分かって、そんなことができるわけがない。
 「わたしが大林誠だと分かったら、できない?」
 真琴がぼくににじり寄って、首筋にキスをした。
 「で、できないよ」
 「うそ! こんなになっているじゃないの」
 頭の中では、できないと思っているのに、体の方が反抗していた。ぼくのペニスは痛いほど勃起していたのだ。ぼくはニューハーフとのセックスが好きなのだろうか? それも親友とのセックスが・・・・。
 真琴は、ガウンを脱いで裸になると、ぼくをベッドに押し倒した。ぼくは全身が痺れたように抵抗できなかった。
 真琴が、まるで男が女を愛撫するように、ぼくの体を刺激する。長い愛撫ののち、真琴との舌が、ぼくのペニスに達した。なんてうまいんだ。すっごく気持ちがいい。
 「どう? いいでしょう?」
 「あ、ああ。堪らないよ」
 「ニューハーフの命は、フェラだからね」
 爆発しそうになったとき、真琴の舌がぼくのペニスから離れた。
 「交替して! 今度はあなたが私にサービスする番よ」
 今度は、ぼくがいま真琴にされたと同じように真琴を愛撫した。
 真琴のペニスは、包茎で、ぼくの親指ほどしかない。子供のペニスのようなものだ。覆い被さった包被を舌で剥いて舐めてやると、真琴の体がぴくぴくと痙攀した。それからぼくは、タマがなくなって縮み、陰唇のようになっている陰嚢に舌を這わせた。真琴はシーツを握り絞めて悶えている。
 真琴のペニスの先端から、透明な液体がにじみ出てきた。睾丸がないから、これは精液じゃないと思うが何だろう。そう言えば、エロ本を読んでいて勃起したとき、透明な粘液が出たことがある。あれと同じものなのだろうか? そっと舐めてみると、しょっぱい味がした。
 「ミキ! 早く来て!! もう待てない」
 「コンドームは?」
 「そこにあるわ」
 ぼくは急いでコンドームをした。真琴はうつ伏せになって待っていた。
 昨夜は腟に入れたと思ってしまったのだが、今こうして明らかに肛門に入れているというのに、やっぱり腟に入れているように感じる。不思議だ。僕の女性経験が浅いせいだろうか? きっと、そうに違いない。
 真琴は、よほど感じているのか、それとも故意にやっているのか、ぼくのペニスを絞め付けた。僕は一生懸命腰を動かした。そして・・・・、すっごい快感とともに真琴の中に射精した。
 気持ちいい・・・・。頭の中が真っ白になり、ぼくの意識は遠のき、真琴の背中の上に倒れこんだ。