第二章 九人の男とひとりの女

 「ミキちゃん、いつまで寝てるの? 暇だったら遊ばない?」
 ぼさぼさ頭の山下守男が、ぼくの部屋に顔を出した。いつものことだけど、部屋の鍵をかけ忘れて寝ていたみたいだ。
 「ミキちゃんって呼ぶなって言ってるだろう?」
 「でも、ミキちゃんは、ミキちゃんでしょう?」
 「やかましい!」
 「ああら、今朝は、ご機嫌斜めね。どうしちゃったの?」
 山下は、わざと女言葉を使ってぼくを怒らせる。こんなことは日常茶飯事だから、そんなに怒ることはないとは自分でも思うのだけど、休みの日に、しかも朝っぱらから、ミキちゃんなんて呼ばれて、ぼくは気分を害していた。
 「面子が足りないんだよ。頼むよ、なあ、佐山」
 いつものマージャンの誘いだ。最近は、マージャンなんて暗い遊びをやる連中が少ないから、面子が足りないといつも声をかけられる。しかも、ぼくは下手の横好きだから、いいカモなのだ。
 「今日は、二日酔いがひどいから、だめ!」
 「始めれば良くなるさ。なあ、やろうぜ」
 「今日はしない! 誰が何と言おうと、絶対しない!!」
 「・・・・しかたないな。三マンでもするか」
 山下は諦めて、部屋を出ていった。三人でやれるのなら、最初から誘わなけりゃいいのに、やっぱりカモが欲しかったに違いない。
 「おお、赤木。いいところで会った。マージャンしないか?」
 山下が廊下で赤木に出会ったようだ。
 「いいよ」
 「一人足りなく困ってたんだ」
 「佐山は?」
 「二日酔いだから、今日は止めとくってさ」
 「なんだ。カモがいないのかよう」
 ぼくはちょっとむっと来た。しかし、ここで出て行くと、マージャンに引き込まれるのは目に見えている。ぐっと我慢する。

 すぐに山下の部屋から、ジャンパイをかき混ぜる音がし始めた。ぼくは、もう一度眠る気がなくなって、ベッドの中から抜け出た。
 天気もよさそうだし、早起きしたついでに、久しぶりにバイクを飛ばすか? そう思いたって、歯を磨いて着替えをして、ヘルメットを片手に部屋を出た。
 「佐山君、お早う」
 「ああ、お早う」
 この学生アパートに住む、唯一の女性住人の香川純子が、笑顔でぼくに挨拶した。香川はそんなに美人じゃないが、男好きのする顔をしている。スタイルは、まあまあと言ったところ。胸だけはでかい。自称Fカップ。そう言われて、誰もが納得する。それほどでかい。
 「どこ行くの?」
 「ちょっと、飛ばしてくる」
 玄関に向かって歩いていくぼくを、香川が追ってきた。
 「乗っけてってよ」
 「どこまで?」
 「どこでもいいわ。佐山君の行くところなら」
 ぼくは立ち止まって、香川の方を向いた。香川は、笑顔でぼくを見ていた。その笑顔は、ぼくをちょっとどきりとさせた。
 「ただ、走り回るだけだぞ」
 「乗っけてくれないの?」
 香川がぼくの二の腕を握って、すり寄ってきた。大きな胸がぼくの二の腕に触れた。その柔らかさに、ぼくの心臓はどきどきと高鳴る。
 「分かった。乗っけてやるよ。だけど、メットがないと・・・・」
 「山下君に借りてくる」
 香川は、嬉しそうな顔をして、山下の部屋のドアを開けた。カシッ、カシッとジャンパイを卓に打ち付ける音が響いてきた。
 「不健康な遊びしてないで、たまには外で遊んだら?」
 「頭の体操だよ、頭の。頭使わないと腐っちゃうからな。そりゃ、チーピン」
 「ものは考えようね。山下君、ヘルメット貸して」
 「そこにあるだろう? 勝手に持って行けよ。そのローピン、ローン。高目。タンピンドラ1。ザンクだ、ザンク。さあ、払った、払った」
 「どうしてリーチしないんだよ。そんなの、即リーだろう?」
 赤木の声だ。赤木が振り込んだようだ。
 「俺の勝手だ。そば聴でリーチなんてできるかよ。早く払え」
 「分かった。分かった」
 ジャラジャラと点棒を卓の上に放り投げる音がした。
 「じゃあ、山下君。コレ借りるわね」
 「ああ、ちゃんと返せよ」
 「分かってるわよ。夕方には返すわ」
 香川は、ヘルメットを被りながら、俺に走り寄ってきた。
 「さあ、これでいいでしょう?」
 「なら、行くか」
 女が一緒だと、気を使うので、ほんとはひとりで飛ばしたかったのだけど、見つかってしまったから仕方がない。ぼくは、香川をバイクの後部座席に乗せ、セルを廻した。

 制限速度を少しオーバーしたくらいで、国道を南下した。あと二点しかないから、今度捕まったら、免停になる。安全運転、安全運転。そう、自分に言い聞かせた。
 香川はぼくにぎゅっと抱きついていた。背中に香川の大きな胸が触れている。ぼくのペニスは、バイクが走り初めてからずっと勃起状態だ。香川は、わざと胸をぼくに押しつけて、ぼくの反応を窺っているのだ。
 一時間ほど走ってから、国道沿いの喫茶店にバイクを停めた。
 「アイスコーヒーください。香川は?」
 「わたしもアイスでいいわ」
 「じゃあ、ふたつ」
 「かしこまりました」
 注文を受けた店員は、ちび、デブ、ブスの三拍子が揃ったぼくらと同年齢くらいの女だ。ちびとブスは親の責任だが、デブは努力が足りない。少しはダイエットしたらどうだと女店員の後ろ姿を見ながら思った。
 「随分安全運転なのね」
 そう香川に言われて、我に返った。
 「あっ、ああ。今度違反したら、免停だからね」
 「そうなの」
 「びゅんびゅん飛ばすと、気持ちいいんだけどね」
 「そうでしょうね。ところで、佐山君、好きな人いるの?」
 香川は、両肘をテーブルの上について、両手の上に顎を乗せてぼくを見上げていた。
 「な、何だよ。急に」
 「いいじゃないの。ねえ、聞かせてよ。好きな人いるの?」
 香川は、悪戯っぽい笑顔を見せた。
 「いるわけないだろう?」
 「わたし、佐山君だったら、彼女になってあげてもいいな」
 香川は、この喫茶店に入るときから、まるでぼくと恋人同士のような振りをしている。デカパイは好きだけど、ぼくとしては、もう少し美人の方がいいなと思う。
 「ねえ、わたしじゃ、だめ?」
 香川は、本気なのだろうか? 夜はあんなことをしているのに・・・・。

 ぼくの住んでいる学生アパートには、部屋が十室ある。全員が一年生だが、香川だけが唯一の女だ。
 学部は違うが、みんな結構仲がいい。夜になると、何処かの部屋で酒盛りが始まる。すると、アパートのほとんど全員が集まって、ワイワイガヤガヤやり始めるのだ。
 香川もその一員だ。香川は、弱い方じゃないが、かと言ってそれほど強くもない。それなのに、毎晩のようにがぶがぶと酒を飲む。そして、他人の部屋の中で酔いつぶれてしまうのだ。・・・・そして、誰かと寝てしまう。毎日違うアパートの住人と。
 ぼくも香川を何度か抱いた。それは否定しない。昨日の夜も、ぼくは香川と寝た。だから、今日、バイクに乗せてくれと言う香川の要求を拒めなかった。そう言う訳だ。
 アパートに住む九人の男全員が、香川と寝ている。香川はそのことを覚えていないのだろうか? いくら酔っていても、覚えているはずなのだが・・・・。

 「ねえ、わたしのこと嫌い?」
 「い、いや、そう言う訳じゃないけど・・・・」
 「やっぱり、好きな人がいるんでしょう?」
 「あ、いや」
 付き合っているといえば、付き合っている女の子はいる。しかし、香川にはっきりとそう言わないほうがいいような気がした。一度も関係がなければ、はっきりと返事ができるのだが・・・・。
 「仕方ないわね。佐山君のことは諦めるわ」
 ぼくは内心ほっとした。
 「でも、もし振られたら、いつでもわたしに声をかけてね。いつでも恋人になってあげるから」
 「ああ、分かった」
 ちょっと気まずいなと思いながら、ぼくはアイスコーヒーをすすった。こんなの困るよな。

 大学の授業は、面白くない。期待はずれもいいところだ。学生が聞こうと聞くまいと、講師は黒板に文字を連ね続ける。真面目な学生が、それを写す。不真面目な奴ら、代返してもらって講義に出てきていない連中は、真面目学生の写したノートをコピーさせてもらう。
 ぼくは、真面目学生のひとりだ。ほとんど毎日のように、講義に出席する。山下はぼくの半分ほどしか出席していないと思う。

 「佐山、今日は、どうだ?」
 「半チャン4回までなら付き合ってもいいよ」
 「ようし、やろう」
 「4回だけだぞ」
 「分かってるさ」
 アパートに帰り着くなり、山下に誘われた。ここ一週間断り続けているから、たまには付き合ってやらんといかんなと思っていた。ほんとに半チャン4回ですむかどうかは、始まってみないと分からないが、今日は、絶対止めるつもりだ。
 ガラガラとやっていると、隣の部屋では、いつもの酒盛りが始まったようだ。マージャンがすんだら、向こうに合流だ。
 今日は調子が良かった。いつも点棒が出て行くばかりなのに、三回連続トップを取った。
 「ミキちゃん、今日はどうしたの? 随分調子がいいじゃないの」
 山下がぼくのペースを乱そうと、女言葉でぼくを挑発した。
 「たまにはね」
 「今度は、沈ませてあげるからね」
 「そうは問屋が卸しませんよっと。リーチ」
 ぼくはジャンパイを勢いよく曲げた。
 「佐山、もうリーチかよ。まだ4巡目だよ。今日の佐山は、手がつけられんなあ」
 「ほんと、ほんと。安牌なし。通せ!」
 「通し! ありゃ、一発つもだよ」
 「止めてくれよな」
 「積もり四暗子だよ。はい、点棒を出した出した。一万二千通しだよ」
 「親の役満! 俺は、どぼんだよ」
 「佐山! 積み込んだな」
 「佐山がそんなことできるもんか」
 「そりゃ、そうか」
 「もう止めた、止めた。酒飲んだ方がましだ」
 と言うわけで、マージャンはぼくの圧勝でお開きになった。ぼくは、入学以来初めて、現金を手にした。一万三千円也。
 隣の部屋に行くと、すでに五人の男が飲んでいた。
 「あれ!? 今日は、香川は来てないの?」
 「体調が悪いんだとよ。自分の部屋で寝てるよ」
 「いつも飲みすぎだからな」
 マージャンに勝って気分が良かったせいで、ぼくはいつもの倍くらい飲んでしまって、完全に意識を失った。

 目を覚ましたときには、もう昼が近かった。頭がガンガンした。
 「あいちゃ、寝過ごしちゃった」
 午前中の講義をさぼってしまった。午後の講義だけでも出ようと、起きあがろうとすると、山下が目を覚ました。
 「佐山、たまにはサボれよ。真面目すぎると、長生きせんぞ」
 「午後の講義には出なくちゃ」
 「だからさあ、たまにはサボれって」
 「佐山君、いる?」
 香川が、青い顔をして、ぼくたちの寝ている部屋に顔を出した。
 「部屋にいないから、きっとここだと思って」
 ぼくは、赤木の部屋に寝ていたのだ。この部屋の住人はいない。どこか、ほかの部屋で寝ているのだろう。
 「ああ、香川。どうした?」
 「気分が悪いの。病院へ連れていってくれる?」
 そう言う香川の顔は、ほんとに青白く、幽霊のようだ。
 「午後は授業があるんだけど・・・・」
 「佐山君、お願いよ!」
 香川とは寝たことがあるが、それはほかの男たちも同じだ。どうして僕に頼むんだよ。そんなことを頼まれるほどの仲じゃないんだけどなと、ぼくは香川の顔を迷惑そうな顔で見た。
 「佐山、頼りにされてんだから、連れていってやれよ」
 山下が、ニヤニヤしながら、ぼくの背中を押した。ほんとは断りたいのだが、ぼくは人に頼まれるとイヤだと言えない性格だ。特に女の子からの頼みは。
 「・・・・仕方ないな」
 ぼくは、ふらふらと起き出した。
 「どこに行く?」
 「医学部は、どう?」
 「そうだな。医学部の方が安いな」

 香川をバイクに乗せて、医学部の付属病院へと向かった。
 気分が悪いだけじゃあ、何科に掛かったらいいのか分からない。飲み過ぎだとしたら、胃腸が専門の第二内科だなと判断して申し込んだ。
 「受付時間は、過ぎてるんだけどね」
 受付の看護婦に、そう嫌みを言われた。受付時間は、まだ十分しか過ぎていない。十分くらいいいじゃないかと、心の中であかんべえをした。
 「同じ大学の学生だから、いいでしょう? お願いしますよ」
 「ちょっと待ってなさい。先生に聞いてみてあげるから」
 しばらくして、オーケーが出たらしく、ぼくらは待合室へ行くように言われた。三十分ほど待たされて、香川の名前が呼ばれ、診察室へと入っていった。
 10分ほどして、診察室から、ドクターが出てきた。大矢講師と書かれたネームを付けていた。
 「香川さんの付き添いは、誰かね」
 「はい、ぼくですけど」
 「どういう関係かね」
 「どういう関係って、同じアパートに住んでいるだけです」
 「同じアパートに住んでいるだけ?」
 「そうです。気分が悪いから、病院に連れていってくれって言うから、同宿のよしみで連れて来てやったんです」
 「同宿のよしみ・・・・。そうか。・・・・じゃあ、頼まれついでに、婦人科のカルテを作ってきてくれないか」
 「ふ、婦人科ですか?」
 男のぼくが婦人科のカルテを作るの? そう思って、ぼくはちょっとどきまぎした。
 「そうだ。手続きの仕方は、分かるだろう?」
 「は、はい。分かりました」
 ぼくは受付に戻り、婦人科のカルテを作ってもらった。何の病気だろう。まさか性病じゃあ。いや、性病は皮膚科か、泌尿器科だったな。婦人科ねえ、何の病気だろうか? 見当もつかなかった。
 婦人科の診察室の前で待った。周りはみんな女ばかりだ。ぼくは小さくなって、ベンチに腰掛けていた。
 「香川純子さんの付き添いの方、おられますか?」
 「ハイ、ぼくです」
 年増の看護婦に促されて、ぼくは診察室に入っていった。診察室には、ドクターが怖い顔をして座っていた。
 「君と香川純子さんの関係は?」
 「同じアパートに住む住人同士です」
 「じゃあ、九人の男のひとりだな」
 「はっ!?」
 ぼくは、ドクターが何を言わんとするのか、咄嗟には分からなかった。
 「彼女は、妊娠四ヶ月だ。アパートの九人全員と関係があったと言っている。誰の子どもか分からないともね」
 「妊娠・・・・。ほんとですか?」
 「妊娠反応陽性。エコーで胎児もちゃんと写っている」
 ぼくの目の前に、胎児が映し出されたフィルムが差し出された。
 「君にも、身に覚えがあるんだろう?」
 ぼくは確かに香川を抱いたことがある。しかも、香川が、アパートの男全員と関係があったと言っている以上、否定することはできない。
 「は、はい」
 「困ったもんだ」
 「どうすれば・・・・」
 「初めての子どもだから、医者の立場からすれば、本来は産んでもらいたいところだが、今回の場合はそうもいかんだろう」
 「・・・・堕ろすってことですか?」
 「そう言うことだ」
 「ほんとに誰の子どもか分からないんですか?」
 「DNA鑑定でもするかね。それで、君の子どもだったら、どうするね」
 「・・・・はあ」
 「今から帰って、他の八人と相談するんだ。誰も堕ろすことには反対しないと思うが・・・・。堕ろす費用を何とかしなさい。九人で出し合うかどうかしてね」
 「・・・・分かりました」
 香川の気分の悪さは、悪阻だそうだ。ぼくが妊娠させたのかもしれない。ぼくはまだ十九歳だ。こんなの困るよ。

 ぼくは、アパートにとって返し、九人を集めて相談した。
 「絶対俺たちの子どもだって決まった訳じゃあないだろう?」
 「香川は、俺たち九人としか関係を持っていないと言っているらしい」
 「信用できるのか?」
 「あいつが、他の男といたところを見たことがあるか?」
 「ない」
 「ないなあ」
 「佐山の子どもじゃないのか?」
 赤木が、ぼそりと呟いた。
 「ええっ!?」
 「このところ、香川のやつ、イヤに佐山に近寄っていたからな。今日だって、病院に行くのに、わざわざ佐山に頼んだ訳だろう? 女は、子どもが誰の子どもか分かるって言うからな」
 八人が揃ってぼくを見た。
 「と、とんでもない濡れ衣だよ。香川自身が、誰の子どもか分からないって言ってるんだから・・・・」
 「DNA鑑定だ。DNA鑑定してもらおう。そしたら、誰の子か分かるだろう」
 山下が言い出した。自分の子どもではないことを証明したいらしい。
 「佐山のことは別として、山下が一番香川と寝てるんじゃなかったか?」
 赤木が間髪を入れずにそう言った。
 「そ、そうか?」
 「おまえの子どもだったら、おまえが全額出すんだな」
 山下は、急に勢いをなくして、小さくなった。
 「・・・・やっぱ、九人で頭割りにするか?」
 山下は、力無く声を落としてそう言った。
 「そうするしかないだろうな」
 九人とも身の覚えがあるから、それ以上誰も何も言わずに、金を出し合った。

 翌日、ぼくはアパートの九人の男の代表として病院へ行き、承諾書にサインした。ほんとはこんなの困るんだけど、香川がぼくを指名したのだ。マージャンで儲けたお金が飛んでしまったが、女と寝た代償としては、少なかったのかもしれない。
 「ごめんね、佐山君。迷惑をかけて」
 「しかたないさ。ぼくにも責任があるんだし・・・・」
 「少なくとも、あなたの子どもじゃないわ」
 「えっ!?」
 「それだけは分かるの。あなたとするときだけは、わたし、素面だったから」
 それならそうと、早く言ってくれれば、金を出さずにすんだのにと思ったが、他の八人の手前、そうもいかないなと思い直した。
 ぼくとするときだけは素面だった!? 香川は、ほんとにぼくに気があったのだろうか? それなら、あんなことをしなければいいのに・・・・。気持ちが分からない。

 香川は、堕胎手術の後、退院するとそのまま大学を中退した。医学部の付属病院に行ったのが失敗だった。町医者だったらこんなことはなかったのに、医学部の学生を通じて、噂があっという間に広がって、とても大学に留まれなかったのだ。

 夏休み、帰省した折り、ぼくは父親にこっぴどく怒られた。
 「女と寝るなとはいわん。ただ、今回のような無責任は二度と許るさんからな。金で片を付けられる相手にするか、最後まで面倒を見る女にするか、どちらか覚悟して女と付き合え」
 ぼくは、しゅんとして父の意見を聞いた。
 ぼくは夏休み中、家の近くのハンバーガーショップでバイトをさせられた。悪い遊びをしないためだと。仕方がない。
 父の、あのアパートは環境が良くないとの意見が通って、ぼくは学生マンションへ引っ越しさせられた。親としては出費がかさむが、子供が変な方向へ行ってしまうのを懸念したのだろう。
 あのアパートは、部屋だけで、トイレも炊事場も共同だったけど、今度の部屋は、バストイレ付き。狭いけど、台所も付いていた。
 ただ、引っ越しても山下の誘いは相変わらずで、週に一度はマージャンに出かけて、大抵負けて帰った。