陽一に連れられて母親に会いに行った。陽一の母親は良く知っている。恭子の若いときの知り合いとかいうことで、うちにも何度か遊びに来たことがある。恭子の就職に一役買ったようだが詳しくは知らない。ここ何年かは会っていないが、相変わらず優しくて綺麗な人だ。わたしは今は片桐美香だからそんなことはおくびにも出せずにいる。
母親は終始にこにこ顔で、反対する素振りなどまったくない。どうして反対しないのか不思議でならない。ここまで来たら、あの戸籍を使うしかない。片桐美香の両親は死んでいる。親戚縁者のことは何も知らない。天涯孤独で通すしかない。
両親も親戚もいないと話したら、教会で式だけ挙げましょうとあっさり言われたのにはわたしのほうが驚いてしまった。大きな会社の次期社長の結婚なのに、こんな簡単なことで良いのかと思ったが、社長室から電話して、十月の結婚式を予約してくれた。ほんとに夢みたいな話しだ。わたしみたいな女が本当に陽一と結婚できるなんて思ってもみなかったから、狐につままれたような感じだった。その上、結婚式まで三ヶ月も待てないでしょうと言われ、母親に役所まで連れて行かれて、婚姻届まで出してくれた。わたしはあっという間に本田美香になってしまった。
その日の午後から、妻として陽一のマンションに一緒に住むことになった。陽一の母親が、結婚祝だといって、市内の一番大きなデパートに連れて行ってくれて、山のように衣装を買ってくれた。夕方には、ドレッサーやたんすなどがマンションに運び込まれた。わたしはただ、呆然とするばかりだった。
料理は光子さんが毎日作ってくれるのだけれど、自分で作って食べさせてあげたいので、明日から、光子さんに教えてもらうことにしている。