今日も九時から、陽一のマンションに出かけた。昼食はビーフストロガーノフ。これもとてもおいしかった。お光さんは料理の天才だ。
午後四時。今日は帰ろうかどうしようか迷っていたら、息を切らせて陽一が帰ってきた。
「今日は帰さないぞ。帰るなんか言わないだろう?」
「もちろん帰るわ」
「嘘だ。帰りたくないと顔に書いてある」
「書いてない」
「いや、書いてある。顔が笑っているじゃないか」
「だめね。騙せないわね。そう、あなたの言う通りよ。帰りたくないわ。ずっとあなたの傍にいたい」
本気でそう思った。陽一に抱きついてキスした。
「美香はどこに住んでるの?」
「西崎さんのうちに居候しているの」
「居候か。じゃあ、ここに越して来いよ」
そう言われて、ちょっと迷った。男の陽一が、女のわたしにそんなことを言うのは、毎日セックスしようよと言っているのと同じことだ。しかし、セックスを別にすれば、陽一にそばにいられるいいチャンスだ。
「いいの?」
「いいさ。大歓迎だ」
「お母さんに怒られない? 変な女を連れ込んでって」
「きみは変な女じゃないよ。大丈夫だよ」
「ほんとに」
「それに、うちは学歴とか、家柄とかは関係ないから。うちの母だってそうさ。父がどこからか連れてきて結婚したんだ。だれも反対しなかったし、素性を調べるなんて事もぜんぜんしなかった。そう聞いている。ぼくも母から、気にいった女性ができたら、連れてきなさい。反対はしないからといわれているよ」
「まさか、わたしと結婚したいなんて言うんじゃないわよね」
「言っちゃいけないかな」
「初めて会ってから、まだ一週間も経ってないのよ」
「時間なんて関係ないよ。それにきみは処女だったんだろう? 初めてのぼくとじゃあ、いやかい」
「あなたのことは、すきよ。でも・・・・」
参った。まさか結婚を申し込まれるなんて。
「それじゃあ、問題ないじゃないか。さっき、ずっと僕の傍にいたいと言ったのは嘘かい?」
「嘘じゃないけど、ほんとにわたしなんかでいいの?」
「いいに決まってるじゃないか? 大切にするよ。金ならいくらでもあるし、何でも買ってあげる。もちろん愛情もふんだんにね」
「ほんとにいいのね」
「結婚してくれるか? 美香」
「ええ」
成り行き上、そう答えざるを得なかった。薬の行く末を見極めるには陽一のそばにいることが必要だ。そのためには結婚することが早道だなとは漠然と思っていた。それがこんなに早く実現しそうになるとは思ってもみなかった。