七月十九日(月)

 美奈子は学校へ行った。今日が一学期の終業式だと言っていた。わたしは勇気を出して膝が隠れるくらいの長めのスカートを穿き、ひとりで町に出かけた。踵の高い履き物も今日は大丈夫だ。

 デパ−トに行ってジーンズを買った。やっぱりジーンズのほうがいい。裾上げを待っている間、ぶらぶらしていたら、可愛い服を見つけた。美奈子に買ってやろうと店に入ったら、勘違いされて試着させられ、お似合いですよとしつこく薦められるものだから、結局買ってしまった。まあいいか。必要になるかもしれない。
 ジーンズを受け取ってデパートを出た。若い男から、お茶しない? と誘われた。バスに乗るまで何人も。男達の下心は分かっている。とんでもないとけんもほろろに断ったが、わたしも満更ではないなとほくそえんだ。このままでもやっていけそうだ。

 現金が底をつきそうだ。キャッシュコーナーに行って、三万円ほど引き出した。残高を見てみると、かなり増えている。給料が振り込まれているようだ。失踪した人間に給料は出ないだろうと思っていたので、ちょっと意外な感じがした。これでしばらくの間大丈夫だ。

 帰宅すると、郵便受けに封筒が入っている。消印もなければ、差出人の名前もない。誰かがポストに直接入れたみたいだ。
 リビングで封筒を開けてみた。一枚の便箋と、書類が入っている。便箋には、女性が書いたらしい達筆な文字が並んでいる。内容を読んで驚いた。便箋には短く、こう書かれてあった。
 「今のままでは、あなたは幽霊でしょう。同封の戸籍を使いなさい。使うことで、その戸籍の本人やその他の人たちに迷惑がかかることは絶対にありません。安心して結構です。
 ただし、いらぬ詮索をすると、その戸籍が使えなくなって、あなたは本当の幽霊になってしまいますよ」

 誰かわたしのことを知っている人物がいる。そうとしか思えない。書類は戸籍謄本だ。三人の名前がある。そのうちの二人には×印が入っている。最後の一人は、美香となっている。昭和五十五年五月十六日生まれ。本籍は福岡県。×印の二人は、死亡した美香の両親だ。わたしにこの戸籍を使えと言うのだろうか? この片桐美香はどうしているのだろう? それに何のためにわたしにこんな戸籍謄本を送ってきたのだろう? だれが。文字の感じも内容も女性が書いたもののようだ。思い当たる関係者に女性はいない。詮索するなと書いてある。分からない。何がどうなっているのだろう。美奈子にはしばらく内緒にしておくことにする。