朝食後、昨日の午後美奈子が買ってきた『新しく社会人になったあなたの可愛い化粧法』という本を見ながら、化粧をしてみた。もちろん化粧品は恭子のものだ。使えないものもあるが、簡単な化粧には不自由しないだけのものがある。もし必要なら買い足せば良い。ただ、今の今まで気づかなかったが、女の化粧品がこんなにたくさんあるとは思ってもみなかった。しかもずいぶん値段が高い。あるクリームの底には8000円と書かれた値段表が残っている。いったい全部でいくらするんだろう。
いざ、化粧をやってみるとなかなかうまくいかない。洗ってはやり直し、また洗うの繰り返しで、何とかお化けと言われないくらいの出来になったかなと思えるようになった時には、正午近くになっていた。
帰ってきた美奈子は、少し吹き出しそうな顔をして、化粧したわたしの顔を見た。
「うん、まあまあね。お父さん上達が早いわよ」
誉められたのだろうか? 美奈子の顔を見ているとそうでもないようなのだが・・・・。
テレビをつけてみると、正午のニュースをやっていた。『・・・陽一氏のマンションから中継でお送りしました』という言葉が耳に飛び込んできた。本田陽一だろうか。画面がスタジオに切り替わり、謎の大量失踪事件の失踪者と見られていた、大日本ゼウス製薬の社長の息子の本田陽一が自宅マンションに帰ってきたと伝えていた。
涙がぼろぼろと零れた。良かった。手がかりは消えていない。元に戻れるとは決まったわけではないが、可能性は0ではなくなった。美奈子も涙を流して喜んでいる。午後三時から記者会見するというのでじっと待った。
本田陽一は、ひとりで旅行に出かけていて、旅先で今回の失踪事件を知って急いで帰ってきたと話していた。そして父親を含めたそのほかの人たちの行方については何も知らないと。
そんな筈はない。少なくとも北田所長がどうなったか陽一は知っている筈だ。もっとも若返りすぎて死んだなんて言っても誰も信じてはくれないだろうけれど・・・・。
時間が経てば経つほど元に戻るチャンスが少なくなるのではと思いながらも、騒ぎの渦中にある本田陽一には近寄れそうもない。じっと待つしかない。