第5章 なんて強い男だ

 宙に浮いたような感覚がして目が覚めた。宙に浮いたんじゃなくて、俺の上に載っていた金城が俺の上から離れたのだ。
 「すんげえ、良かった」
 言いながら、金城が俺に軽くキスをした。俺は金城に向かってにっこり微笑む。
 「今度は行ったんだろう?」
 「うん」
 金城は嬉しそうに口元をほころばせた。
 「シャワー浴びるか?」
 俺は頷く。股間がベチョベチョで気持ち悪かった。
 「火をつけるから、ちょっと待ってくれ」
 金城がバスルームに入ってシャワーの準備をしている間に、俺はティッシュを探した。テーブルの下に転がっていたティッシュのケースを見つけた。何枚か引き出して股間を拭いた。拭いても拭いても、べっとりと精液が流れ出てきた。
 「いいぜ」
 ペニスをぶらぶらさせながら、金城はバスルームから戻ってきた。
 「ありがと」
 俺は着ていたものを全部脱いで、素っ裸でバスルームへと向かった。もう他人じゃないんだから恥ずかしくない。と言うつもりじゃなくて、俺は自分が女だと言うことをその時忘れていただけだ。金城の嫌らしい目を見てハッと気が付いたけど、そのままバスルームへ入っていった。
 金城のバスルームには、何故かシャワーキャップがある。そのことは一週間ほど前、ここに来たときシャワーを浴びた時から分かっていた。金城は、時々引っ張り込む女のために、こういったものを揃えているのだ。こんなものがあれば、ほかの女がこの部屋に来ることが分かってしまうだろうに、金城はそのことに気づいていない。そういったことには無頓着なんだけど、金城という男は結構もてるのだ。俺から見ればそれほどいい男には見えないのだが、女から見ればかなりいい男らしい。ま、女には優しいと言えば優しいようだが。
 髪の毛をゴム紐で括りシャワーキャップをかぶってシャワーを浴びた。女として浴びる二度目のシャワー。自分の体を洗うと言うよりは、女の体を愛撫しているのに近いかもしれない。
 「一緒に入ってもいいか?」
 ドアが少し開いて、金城の片目が覗いた。
 「狭いわ」
 「でも入れないことはない」
 「すぐに出るから」
 「一緒がいいんだ」
 俺はちょっと考えてから答えた。
 「なら、いいわ」
 金城がにこにこ顔で入ってきた。すぐに入ってきたところを見ると、声をかけるときには、服を脱いでいたようだ。
 金城のペニスは大きいなと思う。金城の自慢のタネのひとつなんだけど、俺のものより一回りは大きい。その自慢のペニスが、もう勃起していた。
 金城は、一晩に七回やったことがあると俺に自慢したことがある。それが俄に現実味を帯びてきた。このまま、この狭いバスルームの中で俺に迫ってくるつもりのようだ。
 俺の手からシャワーのノブを取り上げると、俺の体を流し始めた。流しながら、愛撫を始める。
 「くすぐったいわ」
 「そうか?」
 「だって、ベッドの中とは違うのよ」
 「そうか。そんなもんか」
 「洗ってあげようか?」
 そんな俺の言葉に、金城は嬉しそうな笑顔になる。俺は、ボディーソープを手にとって、金城の体に塗りつけてやった。まるでソープ嬢だななんて思っていた。
 固く勃起したペニスを柔らかく撫でてやった。カリの部分やヒモの部分が感じるのは分かっている。俺が今撫でているのは、カリの下の部分だ。俺自身はここが一番感じると思っているからだ。
 「ちょっと、それ、効く・・・・」
 「ふふふ」
 「お、おい! で、出ちまうよ」
 俺は刺激を止めない。
 「ううっ!!」
 ペニスの先から、精液がほとばしり出てきた。自分以外のペニスから、精液が出るのを初めて見た。俺は、ちょっと感慨深げに痙攣する金城のペニスを見つめていた。
 がくっと膝をついた金城を残して、俺はバスルームを出た。勿論、俺の胸に飛んできた精液は洗い流しておいた。

 バスタオルで体を拭いて、服を着ようとして思いとどまった。脱がされて床にくしゃくしゃになっているパンツに精液が付いていた。とてもはけたものじゃない。
 「ノーパンでいくか?」
 そう思ってスカートを手に取ると、スカートの裾にも精液が付いていた。
 「糞!」
 どうしたものかと佇んでいると、ガチャリとバスルームのドアが開いて金城が出てきた。
 「どうした?」
 「洗わなきゃ」
 俺はスカートを金城の目の前に差し出した。
 「汚れたのか?」
 「ええ」
 「しょうがないな。洗濯機で洗えよ」
 「洗ったら、他に着るものがないわ」
 「出ていけないって訳だな」
 「・・・・そう」
 「じゃあ、泊まってけよ」
 金城の意図は分かっている。分かっているけど、裸でこの部屋を出て行くわけにもいかない。精液で汚れた服も着たくないし・・・・。
 「・・・・そうさせて貰うわ」
 別に減るもんじゃなし、元に戻れば俺とは関係ない。そんな簡単な考えでそう答えた。
 「ビール、飲むか?」
 「紅茶がいいわ」
 「紅茶か。紅茶はおいてない」
 「じゃあ、ビールでいい」
 パンツとスカートを洗濯機に放り込んでスイッチを押している間に、金城は、冷蔵庫を開いて、缶ビールを二本取りだした。リングプルを引いてビールを口にしながら、もう一本のビールを俺に手渡す。
 「未成年だったな」
 「もうすぐ二十歳だからいいの」
 17、8かもしれないけど、誰が咎めるというわけじゃない。俺は、リングプルを引いた。
 「ああ、美味しい」
 ホントに美味かった。この女、かなり飲めそうな気がする。
 「いけるんだな」
 「ちょっとはね」
 そう答えて一本空けてしまったのだけど、飲み終わる頃に急に酔いが回ってきて、頭がくらくらし始めた。酒の味は分かるが弱かったみたいだ。
 「おい、大丈夫か?」
 そんな金城の声が遠くに聞こえた。
 「大丈夫」
 と答える前に意識が朦朧としてきた。金城がまた俺の体を撫で始めるのが分かったけれど、体は動かなかった。
 俺は、あっと言う間に眠り込んでしまった。

 眠っている間に金城は俺を犯したようだ。折角シャワーを浴びたのに股間がまた汚れていた。2時間あまりの間に4回。元気なやつだ。呆れてしまう。
 時計は午前2時ちょっと前を指していた。4時間ほど眠っていたようだ。俺は、トイレに行ったあと、洗濯機からパンツとスカートを取りだしてハンガーに掛けて干しておいた。
 「どうしようかな?」
 金城はベッドの中で眠りこけていた。
 「自分だけベッドに寝て!」
 毛布をかけられていたけれど、俺は床の上にずっと寝ていたのだった。
 「床の上で寝るのは痛いな」
 床以外には金城の横しか寝るところはなさそうだ。考えても仕方がない。今更別に寝る理由もない。俺は金城の横に滑り込んで体を密着させた。
 冬山で遭難したとき、裸になって抱き合うといいという話しを聞いたことがある。それが実感できる。
 「暖かい・・・・」
 俺はほとんどいつもひとりで冷たいベッドで寝る。だから、幸せな気分だった。
 「男同士だったら、こんなことはできないけどな」
 そう思いながら、眠りに落ちていった。

 雀だろうか? 小鳥の鳴き声が聞こえてくる。夜明けが近いようだ。その小鳥の声に起こされたわけじゃなく、金城が俺のおっぱいを触るものだから目が覚めたのだ。
 「金城さん、ホントに元気なのね」
 「ああ、これだけが俺の生き甲斐だ」
 「これだけじゃあ、女はついてこないわよ」
 「一日でも半日でも、イヤ一時間でも付き合ってくれればいい」
 「刹那主義なのね」
 「人間いつ死ぬか分からないからな。だから、それでいいのさ」
 「そんな人、嫌いよ」
 「でも、今は好きなんだろう?」
 金城の指が俺の敏感なところをまさぐっていた。好きとか嫌いとかの感情に関係なく、そんなことをされれば、女は感じてしまうもののようだ。そういやあ、男だってそうだなと思い返す。
 「嫌いだけど、そこ、感じるわ」
 「ふふっ、ホントに感じやすい女だな」
 その通りだ。この女は感じやすい。『は』と言う助詞を使うのは問題かな? 他の女もみんなそうかもしれないのだから。
 「あーーーーーん」
 イヤやっぱりこの女は感じやすいようだ。また達してしまった。

 金城は起き抜けにも俺を抱いた。一晩に7回という話しは嘘ではなかったようだ。数えてみれば、俺がここに来てから、合計6回射精している。今、金城は、朝食用のトーストを焼いている。時間があったら、もう一度俺を抱こうとするかもしれない。
 「紅茶はないから、コーヒーでいいだろう?」
 「ええ、いいわ」
 何とか乾いた服を着終わった頃、マーガリンの付いたトーストを皿の上に載せ、コーヒーカップを持ってきた。
 「ジャムは、いるか?」
 痩せぽっちだから、少々のことは大丈夫だろう。
 「ええ、ちょうだい」
 「オレンジとブルーベリーがあるが、どっちにする?」
 「ブルーベリーがいいわ」
 金城は、ブルーベリージャムの瓶を持ってきて蓋を開ける。さらにトーストに塗るためのスプーンを俺に手渡す。ホント、まめだね。俺も結構まめな方だけど、金城の方が上を行くようだ。
 ブルーベリージャムをたっぷり付けたトースト一枚とコーヒーの朝食を済ませると、俺は汚れた皿を洗ってやった。少しは女らしいこともしてやらないとな。

 「今日は一時限目から出なけりゃいけないんだ。一緒に出よう」
 有無を言わせず、俺は金城の部屋から連れ出された。
 「じゃあ、縁があったら、また会おう」
 そう言い残すと、金城はさっさと大学へ行ってしまった。残された俺は、どうしようもなくその場に佇んでいた。
 「困ったぞ」
 この女の身元は分からない。だからどこへも行くことができない。俺が行くことができるのは、俺自身の部屋。迫村浩二の部屋以外にない。鍵は持って出てきた。俺はポケットの中にある鍵を取りだして見つめた。

 俺のアパートまで歩いて約15分。ブラブラと歩いていく。誰かこの女を知っているものに出会わないかと思うのだけれど、道行く人たちは、俺には何の関心も示さない。
 「この近くに住んでいる女じゃないみたいだな」
 小さなブティックのショーウインドウに俺の姿が映った。髪の長いちょっと幼く見える女の子。セックスにはかなり慣れている感じだから、年はある程度いっているとは思うけど、今時の女は高校生でもバコバコやっているから、それだけでは本当の年齢は分からないなと思う。
 アパートへ続く角を曲がろうとして、大家さんの奥さんが今日も掃除をしている姿を見つけた。
 「毎日、掃除してるんだ」
 そんなことをしているなんて、ちっとも知らなかった。人は、人が気づかないところでいろんなことをやっているものだ。
 俺自身の部屋に戻るんだけど、女のままじゃ変な目で見られることは間違いない。俺は、電柱の陰に隠れて、大家の奥さんが奥に戻っていくのを待った。

 10分ほどして、伸びをしたあと大家の奥さんは、ゴミ箱にゴミを入れると奥の自宅へと戻っていった。
 俺は、キョロキョロと見回してから、アパートの階段を上った。部屋の鍵を開けていると、3階から誰かが下りてくる物音がした。俺は慌てて部屋の中に滑り込んだ。
 「ふう」
 部屋の鍵を閉めてベッドの上に寝転がった。
 「やっぱ、自分の部屋が一番くつろぐよ」
 しばらく横になっていて、ふと思いついて部屋の掃除を始めた。俺は、あんまり部屋の掃除なんてしたことがない。たまにお袋がやってきて掃除していってくれる。だけど、急に掃除したくなった。
 「女の本能? まさかね」
 女が掃除洗濯するのは、本能何かじゃない。それは分かっている。だけど、何となく掃除したくなった。ま、他にすることもないからだ。
 教科書や雑誌を本棚に並べ、ポテトチップスなどの空き袋をゴミ箱に入れる。床を箒で掃いておいた。
 部屋が綺麗になったところで、台所の掃除。油汚れがひどくて、これはかなり時間がかかった。
 「疲れたあ」
 ベッドのばたりと横になる。そのとたん、腹がキュウッと鳴った。時計を見ると、正午を回っていた。
 「もう昼飯の時間だ。何食うかな」
 買い込んできた食料はまだある。俺はインスタントラーメンを取りだして作り始めた。このラーメンは、インスタントと言っても生麺で、出汁も本物を濃縮したものだ。だから、もの凄く美味くて、俺のお気に入りだ。
 「げっ! 不味い・・・・」
 体が違うせいだろうか? いつもとまったく違うのだ。
 「せっかく作ったからな」
 美味くなかったけれど、無理矢理押し込んで食べた。不味かったのと胃が小さいせいで、やっぱり半分あまりしか食べられなかった。
 いつもは次ぎにラーメンを作るときまで食器は洗わないのに、今日は丁寧に洗って食器棚にしまった。
 「この女がきっと掃除好きなんだろう」
 俺は呟く。それは絶対間違いない。

 食器の片づけを終えると、トイレとバスルームの掃除を始めた。この部屋に住み始めてから一度も使ったことのないトイレ用の洗剤を使って、黄ばんだトイレをゴシゴシと掃除した。嘗めてもいいくらいにピカピカになった。
 バスルームもピカピカだ。指で擦ると、きゅっ、きゅっと音がする。俺は両手を腰にあててすくっと立ち、自慢げにウンウンと頷く。
 「ホント、疲れたあ・・・・」
 俺はばたりとベッドに倒れ込んだ。時計は午後3時を回っていた。金城に何度か起こされて寝不足気味だったし、掃除で疲れていたせいもあって、そのまま眠り込んでしまった。