ドンドンドン。ドンドンドン。とドアを叩く音。あの叩き方は、金城だ。俺は慌てて毛布を引き上げた。
「迫村! まだ、寝てんのか?」
昨日、金城が帰った後、鍵を閉めた覚えがない。そう思っていると、がちゃりとドアを開けて金城が入ってきた。
「迫村! 迫村・・・・」
金城はベッドの中にいる俺に気づいたようだ。意外なものを見つけたという表情を見せた。
「おまえ、誰だ?」
どう答えたらいいんだろうか? 答えが見つからず、俺は、首まで毛布を引き上げて、じっと金城を見つめた。
「あれから、おまえを引っ張り込んだのか。迫村も隅に置けないな・・・・。なあ、迫村はどこへ行った?」
黙っているのもおかしいと思い、返答をした。
「ちょっと買い物に・・・・」
「買い物? そういやあ、昨日、食いもんはみんな食っちまったなあ。パンでも買いに行ったのか?」
俺は、小さく頷く。
「そうか。じゃあ、すぐに帰ってくるな。待たせて貰うぞ」
金城は、いつもこんな調子で、俺がいないときに上がり込んでプレーステーションなどして待っている。女がベッドの中にいるというのに、今日もそうするつもりのようだ。まったくなんて奴だ。実際に俺が女を引き込んでいて、ここに俺が帰ってきたらなんと言うつもりだろう?
金城はテレビのスイッチを入れてプレステにCDをセットすると、コントローラーを操作し始めた。
「帰ってこねえなあ」
ひとしきりゲームをした後、金城が独り言のように言う。
「どこまで買い物に行ってるんだ?」
俺に聞いたようだ。俺は首を横に振った。
「女に行かせりゃいいのに・・・・。また、来る。俺が来たって言っててくれ」
俺の方を見て、意味ありげな笑みを浮かべて、金城は出口へと向かった。ドアの取っ手に手をかけてから、振り返って思い出したかのように言った。
「俺の名前は金城。金城が来たって言えば分かる。いつも連んでるからな。・・・・おまえ、名前は?」
この女の名前なんて知らない。だから、黙っていた。
「そうか。言いたくないか。そうだろうな。じゃあ、迫村によろしくな」
言い残して、ドアを閉めて出ていった。
金城の階段を下っていく足音を耳を澄ませて確かめる。間違いなく下まで降りたことを確かめてから、俺は急いでベッドから飛び出てドアの鍵を閉めた。
「ふうう。オナニーしているときに来なくてよかったぜ」
ほっと溜息をついた。
「さあ、再開だ」
次ぎに俺がやろうとしていることは、女が小便するところを見ることだ。金城がプレステをしている間に、布団の中で小便したくなったのを我慢していて思いついたのだ。
画像では見たことがある。インターネットを探せば、その手の画像はいくらでも転がっている。俺の持っているコンピューターにもいくつか保存してある。
しかし、実際に女が小便するところなんて見たことがない。大学に入って初めて付き合った女に、一度見せてくれとせがんだことがあったが、『変態!!』と、まるで汚いものを見るかのように睨まれて、見事に断られたばかりでなく、当然の如く、その後会ってくれなくなった。
「今日こそ望みが叶うぞ」
鏡を持ってトイレに行った。便器に腰掛けて出そうとして思いとどまった。鏡をかざしてもよく見えないのだ。ちょっと考えて、俺はバスルームへ移動した。
バスタブの端に腰掛け、両足をバスタブの縁に上げてバランスを取った。鏡で股間を覗きながら下腹に力を入れてみた。緊張しているせいか、すぐには出てこなかった。
「出ろよ。ほら。はあっ!」
出た。出始めると、もの凄い勢いでバスタブの中にほとばしり出た。俺とはまるで別の女が小便しているのを覗いているような気分で、今は女の俺の割れ目から小便が流れ出ていくのを見ていた。
「これでひとつ望みが叶った」
シャワーでバスタブの中の小便を洗い流しながら、俺は口元を緩ませた。
「この女、こんなことをされていると知ったら、どう思うだろうか? 泣きわめくだろうか?」
ぺろりと舌を出し、体もシャワーで洗い流してバスルームの外に出た。
「したいことは全部したなあ。あとは、男とのセックスだけど・・・・。しまった。せっかく金城が来たのに、抱いて貰えばよかった」
俺は舌打ちをする。
「電話すれば来るけど・・・・。ま、いいか。そのうちチャンスもあるだろう」
腹がキュウッと鳴った。もう9時過ぎだ。腹が減るはずだ。俺は、食い物を探す。買い置きのインスタントラーメンは底を突いていた。食べられるものは、バナナだけだ。
「コンドームの中のバナナ? うへえ。あれはちょっとなあ」
冷蔵庫に入れてある、もう一本のバナナを取りだして頬張った。バナナはあっという間に腹の中に納まった。
「一本じゃあ、足りないなあ・・・・」
俺は、ベッドの上に放り出したあった、コンドームの中のバナナを見つめる。
「汚くはないよな」
コンドームの中から潰れたバナナを取りだして、クンクンと嗅いでみた。バナナの香りしかしなかった。俺は、口の中に入れた。腟の中に入っていたバナナ。それを銜えるようにして口に入れている俺。まるでフェラチオしているみたいに興奮してしまった。
腹の虫は少しは治まった。だけど、他にはまったく食べるものはない。何とかして調達してこなければ。
「やっぱり金城に連絡するか?」
受話器を取ってみたけれど、何と説明しよう? 俺の彼女と思われているんだ。食料を買って来いなんて言うわけにもいかない。俺自身が買い物に出かけたと話してもいるし・・・・。自分で買いに出かけるしかないのだが・・・・。
俺は素っ裸。何も着るものがない。当たり前だ。俺に女の服を着たり、集めたりする趣味はない。
「俺の服を着るしかないか」
タンスの中を捜す。下着はトランクスしか持っていない。一番上にあるやつを取りだしてはいてみた。かなりだぶだぶ。少し小さめのやつがあったの思い出して探す。
「これ、これ」
はき換えてみた。まだ余裕があるが、他のものよりましなようだ。
「まあ、いいか」
次ぎに、やはり小さめのTシャツを取りだして頭からかぶった。長い髪の毛を外に出すのに苦労した。
「邪魔だなあ。切ってやろうかな?」
ぶつぶつと文句を言いながら、細身のジーンズを取りだした。俺にとっては細身だったけれど、今の俺にはかなりゆとりがある。しかし、はけないことはない。裾を二回折り返して長さを調節し、革のベルトを締めた。ベルトの穴が足りなかった。
「ずいぶん細いんだなあ・・・・」
ジーンズを脱いで、ウエストを測ってみることにした。
「測るもの、測るもの」
30センチの定規はあるけど、腰に巻き付けて長さを測るようなものはない。
「さて、どうするか?」
部屋の隅の放り出していた荷物用の紐に目がいった。
「これ、これ」
ぐるりと腰に回して、ウエスト位置で印を付け、定規で測ってみた。
「56センチ!? 細せえ!」
もう一度計る。今度は55センチだった。息を吸って腹を引っ込めると、53センチ。これはちょっときつい。ともかく細いのは確かだ。
ついでにバストとヒップを測ってみた。バスト77センチ、ヒップ79センチだった。
「あそこはともかく、体つきはまだ発展途上と言った所かな?」
俺は肩をすくめた。
「切ってしまうと後で困るから、ベルトに穴を開けるしかないな」
クローゼットの奥にしまって置いた工具箱を開いて千枚通しを取りだし、革のベルトに穴を開ける。いつもなら簡単に開く穴がなかなか開かない。女の力が弱いせいだ。かなり苦労して、やっとの事でベルトに穴を開けた。
「こんな所に穴開けたら、みっともないな。この女に弁償して貰わないと・・・・」
ベルトを締めると何とか形になった。さらにジージャンを着込んだ。Tシャツの上に何か着ないと乳首が丸見えなのだ。恥ずかしいというわけじゃなくて、男たちにじろじろ見られるのがいやだったのだ。袖をやっぱり二回折って調節した。
「さて、似合ってるかな?」
バスルームに鏡に映してみた。
「ちょっと、いただけないなあ。他人のものを借りてきているのが見え見えだ」
ジーンズはともかく、ジージャンがいけないかなと思って、上着を探してみたけれど、どれも50歩100歩だった。結局、一番おかしくなかったのは初めに着たジージャンだった。
財布と部屋の鍵を持って、出かけようとして玄関まで行ってから、履くものがないことに気がついた。
「足も小せえからなあ・・・・」
俺のスニーカーは27センチ。履いて靴紐を締めてみても、まるで小さなこどもが父親の靴を履いて遊んでいるみたいにぶかぶかだった。
「これじゃあ、とても外に履いて出られないなあ」
靴箱の中を探って、ビーチサンダルを探し出した。
「格好悪いけどこれしかない。笑われるのは俺じゃなくて、この女なんだからいいさ」
そう割り切って、ビーチサンダルを履いて部屋の外に出た。
部屋の鍵をかけていると、一番奥の部屋の住人である加藤が通りかかった。俺を頭のてっぺんから足の先までじろじろと見ながら、胡散臭そうな顔で通り過ぎていった。
「へん、馬鹿野郎」
口には出さないが、俺は心の中でそう悪態を付いた。加藤が降りていってからしばらく待って、俺も階段を下りていった。
階段を下りてすぐ、大家の奥さんと鉢合わせになった。俺をじろりと睨む。俺は、ぺこりと頭を下げて大家の奥さんのそばをすり抜けた。
俺が普段乗っている自転車のそばまで歩いていって、鍵を取り出そうとした。振り返ってみると、大家の奥さんがまだ俺の方を見ていた。俺がどの部屋から出てきたかは、まだばれていない。自転車を使うと俺の部屋から出てきたことがばれてしまう。仕方なく、俺は歩きで行くことにした。
自分ではそうでもないと思っていたのだけど、俺の格好はよほどおかしいらしい。すれ違う連中のほとんどが妙な視線で俺を見る。通りがかりの店のショウウインドウに映る自分の姿を見ると、確かにおかしい。
この女に相応しい女物の服も買おうかとも思ったけれど、財布の中には一万ちょっとしか入っていない。赤の他人のために服を買う金なんてない。
「まさか、ずっとこのままなんてことはないだろうな」
そんな思いが過ぎったけれど、すぐにうち消たした。
「そのうち元に戻るさ」
俺はかなり楽観主義者だ。
アパートから200メートルほどの場所にあるスーパーまで歩いていって、インスタントラーメンとレンジでチンするとすぐに食べられる冷凍食品を三日分ほど買い込んだ。スーパーの女子店員も上目遣いに俺を妙な表情で見ていた。
荷物を抱えて出口に向かっていて、ふと出口の右手にある衣料品売場に目がいった。
「服はいらないけど、パンツくらいはあった方がいいかな?」
俺は、下着売場へと向かった。こんな所へ足を踏み入れたのは初めてだ。もし、やむなくこの場所を通る羽目になっても、下着には目をやらないようにするだろう。
俺にとっては禁断の地である女物の下着売り場の入り口に、『幸運に恵まれるようになります』と書かれた札を付けた真っ赤なブラジャーとパンティーが数組ぶら下がっていた。
「すっげえ、派手だな。こんなもの身に着ける女がいるんだな」
ちょっと感慨深げに、俺は通り過ぎた。
「安くていいさ。屁をして破れない程度なら」
男物より安いんだなと思いながら、白やベージュ、パステルカラーのパンツの中から適当なものを物色する。
突然、この場で元に戻ったらどうしようかと言う思いが浮かんだ。俺は慌てて俺自身の姿を確認した。
「大丈夫だ。しかし、会計を済ませるまでは、元に戻るなよ。とんでもないことになるからな」
俺は、380円の表示があるシンプルなデザインの白のパンツを2枚手にすると、急ぎ足でレジへ向かった。
「ご会計の方、798円でございます」
俺は500円玉を一枚と100円玉を3枚取りだしてトレーの中に放り込んだ。
「800円からですね」
店員は一円を取り出すのにもたもたしている。元に戻ったら困る俺は焦った。
「もう、いいですから」
パンツの入った袋を取り上げて去ろうとしたけれど、店員は俺を引き留める。
「すみません、はい、領収書とお釣りの2円です。当店の会員になっていただきますと、毎月5のつく日は、消費税が還元されます・・・・」
「あ、そんなのいいですから」
「そうですか。お得ですよ」
店員はなおも食い下がった。
「いいです。急ぎますから」
「ありがとうございました」
俺は急ぎ足でその場を去った。店員は、どうして会員になってくれないのかと不満そうな顔で俺を見送っていた。
アパートの前まで来ると、そこには大家の奥さんがまだいて、駐車場となっているアパートの前にある広場を箒で掃除していた。俺は、電信柱の陰に隠れて大家の奥さんがいなくなるのを待った。
10分ほどして、大家の奥さんはちりとりに溜まったゴミをゴミ箱に放り込んで、アパートの奥にある自宅へと消えていった。
俺は、きょろきょろと見回して他にも俺を見咎める人間はいないか確かめてから、急いで階段を上り部屋の中に飛び込んだ。
「ふう」
何も悪いことをしているわけではないのに、安堵のため息が出た。
「他人から見れば、俺が女をアパートに引き込んでいるように見えるなあ。これって、悪いことなんだろうか? 別に悪いことじゃないよな。誰だってやってることだからな」
俺は肩をすくめる。
時計は午前10時半を少し廻ったところ。昼飯にはまだ早すぎる。冷凍食品を冷凍庫に入れ、棚にインスタントラーメンを放り込んだ。
「さてと。食料は買い込んだ。また楽しむことにするか」
俺は、玄関ドアの鍵をもう一度確かめ、カーテンの隙間から部屋の中を覗かれないか確かめた。
「梯子でもかけない限り、覗かれることはないな」
俺は服を脱ぎ始めた。脱ぎ始めて気がついた。
「しまった。バナナ、買い忘れた」
しかし、もう一度アパートの外に出る気はしなかった。俺は諦めて、着ていた服を脱ぎ捨てるとベッドの上に横になった。
「ホントに敏感な女だなあ」
乳首を触っているとすぐに濡れてきた。クリトリスを触ると、そこはもう洪水状態だった。
「うん、うん、うん、うん。あ、あん、ああ、あん、あん、ううっ、はあああ」
俺はあっと言う間に達して、ベッドの上でまどろんだ。
マスターベーションを覚えた猿のように、俺は昼飯も食わずに、起きてはオナニーをして快感で眠り込むのを何度となく続けた。クリトリスが麻痺したようになっていた。
そんなことを続けていたものだから、夕方には、俺は空腹と気怠さで、ベッドから起きあがれなくなっていた。
「ちょっとやり過ぎたなあ」
反省しながらも俺は、クリトリスを触っていた。
ドンドンドン。ドンドンドン。ドアを叩く音がして、俺は慌てて手を股間から離した。あの叩き方は金城だ。
「迫村。迫村よう」
やっぱりそうだ。
「いねえのか?」
ガチャガチャとドアを開けようとする。鍵をかけているから、今度は入ってくる気遣いはない。今朝は、金城が来たら、何とか口説いてセックスしてみようと思ったけれど、今はその気力がなかった。諦めて去っていくのを待った。
「どこ行ったんだ?」
ぶつぶつと言いながら、階段を下りていく気配がした。