第10章 アルバイト

 雨が降り続く。梅雨はまだ明けない。来週から休みに入る。夏休みには帰ると母と約束したけど、帰れば近藤に会うことになりそうだ。できるだけ帰らない口実を作っておかないと。できれば、すれ違いになるように。
 そんなことを思っていたある朝早く、アパートのドアを叩く音で目が覚めた。ぼくのアパートを尋ねてくる人間はいないはずだ。まさか、近藤では? 高鳴る胸を押さえながら返事をした。
 「だ、誰?」
 「すみません。郵便局のものです。電報です」
 近藤ではなかった。ホッとする。
 「電報・・・・。すぐ開けます。ちょっと待ってください」
 ドアを開けると、郵便屋の格好をした若い男がずぶぬれになって立っていた。
 「弔電とか祝電とか以外で電報を配るのは初めてだよ」
 そう言いながらぼくに電報を手渡して、雨の中へ消えていった。一昔ならばともかく、電話社会の今時、電報なんて、確かに珍しいだろうなと思った。
 電報の差出人は、母だった。
 『シキュウレンラクシテ ハハ』
 たったそれだけだった。だけど、急ぎの用事であることは間違いなかった。傘を差して近くのコンビニまで行き、母に電話した。
 「もしもし、俺。勇一。電報なんかくれて、いったいどうしたの?」
 「大変なことが起こって・・・・」
 母の声は切羽詰まっていた。
 「何だよ。大変なことって」
 「お父さんの会社が倒産してしまって・・・・」
 「倒産・・・・」
 「ええ。再就職をするところを探しているんだけど、父さん、46でしょう? なかなかなくって・・・・」
 父の会社が倒産して、父が職を失った。それは分かったが、何となくピンとこなかった。
 「だからどうだって言うんだよ」
 「だからね。あなたに、仕送り、できないのよ」
 そう言われて、大変だという意味をようやく理解した。
 「そうか。仕送りができなくなってしまうんだ・・・・」
 「あなたには、大学は出て貰いたいんだけど、こんなことになってしまったから」
 「うーん」
 「東京はアルバイトとか多いんでしょう? 何とかなる?」
 「予備校生だからね。そんなにいいバイトはないよ」
 「そう・・・・。1,2万なら何とかなるけど、勇一、どうする?」
 「どうするって言われても・・・・」
 「大学を諦めるってこと、できないわよね」
 「あ、うん」
 「そうよね。あなた、成績がよかったんですもの。こんなことで諦めるわけにはいかないわよね」
 大学生だったら、奨学金も出るから、こんな時でも何とかやれるけど、予備校生ではなんともできない。
 「何とか頑張ってみるよ。生活費くらいどうにかなるよ」
 「生活費はともかくとして、問題は、授業料とアパートのお家賃なのよ。9月分までは払い込んであるけど、それまでにお父さんが就職できないと、そのあとの授業料もお家賃も払えないのよ。大丈夫?」
 そうだった。生活費だけではすまないのだ。
 「大丈夫でなくても頑張ってみるしかないよ。すぐにでもバイトを探すから。夏休み返上で頑張るよ」
 「ごめんね。こんなことになって」
 「母さんの所為じゃないよ。勿論父さんの所為でもない。これは、ぼくに与えられた試練だと思って頑張るから」
 「じゃあ、無理しないでね」

 その日から、バイト探しを始めた。大学生なら、食事つき家庭教師という口もあるのだろうけれど、予備校生にはそれは期待薄だ。コンビニとかファーストフードの店員を捜すしかない。
 それもなかなか見つからない。男女機会均等法とか何とか言っても、小さな店には通用しない。男のアルバイトよりも、女のアルバイトの方が募集が多いのだ。女の方が時給が安く雇えるかららしい。それに男じゃ、可愛い女の子と違って客引きにならない。
 予備校とアパートのちょうど中間あたりにあるコンビニで店員募集の張り紙を見つけた。駅から近いし、好条件なのだけど、やはり女子店員募集だった。
 考えた末に、ひとつの決断をした。そんなことを二度とするつもりはなかったのだけれど、背に腹は代えられない。ぼくは女装することにした。
 近藤から貰った女装用の服や化粧道具は捨てるに捨てられず、段ボールに詰めて持ってきていた。こんな時に役に立つとは思わなかった。
 すね毛も腋毛も剃って、眉も女のように切りそろえた。眉は最近は男も切りそろえるから、男の姿に戻っても問題ない。
 化粧してウイッグを被り、ワンピースを着て鏡を覗くと、ぼくは可愛い女の子に仕上がっていた。
 履歴書には、宮本八重子という母の名前を使った以外は、すべてぼくのものを使った。ちょっとハスキーボイスのぼくを、男だとは疑いもせずに雇ってくれた。

 予備校のある間は、午後4時から午後9時まで、予備校がない間は、午前10時から、午後7時まで働かせて貰った。
 生活費を切りつめてはいるけれど、毎日同じ服を着ていく訳にもいかず出費は結構かさんだ。貯金なんてそれほどできるはずもなかった。それでも9月の中頃には、15万ほど貯めることができた。だけど、これではアパート代ですぐに消えてしまう。授業料が払えない。思い余って、母に電話した。
 「母さん、父さんはどこかへ就職できた?」
 「まだなのよ。なかなかいい所がなくって・・・・」
 「そう・・・・」
 「何とかなりそう?」
 「アパート代は何とかなりそうだけど、授業料の方が・・・・」
 「困ったわね。勇一? どうするの?」
 「もう少し、頑張ってみるよ」
 「家のローンがなかったら、貯金を回せるのに・・・・」
 「いいよ。なんとかするから。じゃあ」
 何ともなりそうもなかった。大学を諦めるしかなさそうだ。溜息がでた。

 授業料の納入期限が迫ったある日、バイトを終えて駅に向かっていると、ケバイ化粧をした中年の女の人に声をかけられた。
 「ちょっと、ちょっと、そこのお嬢さん?」
 「わたしですか?」
 「ちょっと話しがあるんだけど、そこの喫茶店でお茶でも飲まない?」
 その女の人は、いかにも水商売ふうで、顔だけ見るとまあ美人だけど、声が太い。どうも怪しい雰囲気だ。
 「ねえ、ちょっとだけだからいいでしょう?」
 殆ど引っ張られるようにして、喫茶店の中に入った。
 「コーヒーね。あなたは?」
 「わたしもコーヒーでいいわ」
 「コーヒーふたつ、お願いね」
 「かしこまりました」
 店員が去っていくと、少し小声になってぼくに言った。
 「あなた、男の子でしょう?」
 ぼくはギョッとなった。あのコンビニに勤め始めて約3ヶ月。一度も男だと疑われたことはなかった。デートを誘われたことすらあったのに・・・・。
 「隠しても分かるわよ。同類ですもの」
 同類! やっぱりそうだった。目の前の女の人は、オカマなのだ。
 「・・・・わたしに、何の用ですか?」
 「あなたみたいな可愛い子を探していたの。わたしのお店で働いてみるつもりはない?」
 「あなたのお店って!?」
 「勿論、ニューハーフクラブよ」
 ぼくは店の中を見回した。誰もぼくたちの会話に耳をそばだてているものはいないようだ。
 「お断りします」
 ぼくは席から立ち上がった。女はぼくの手を引く。
 「どうして?」
 「わたし、こんな格好をしているけど、そっちの趣味はありませんから」
 「あら、大変な誤解だわ。わたしたちがみんなホモだと思ってるの?」
 「・・・・そうじゃないんですか?」
 「違うわよ。性的には女性が好きでも、女装が趣味の子たちも多いのよ」
 「へええ」
 ぼくは席に座り直した。
 「あんなコンビニじゃ、時給が安いでしょう。うちに来れば、見習いでも時給1000円以上。売れ子になったら、一晩で数万は固いわよ」
 「数万!!」
 「すぐにはそうはなれないけどね」
 「それはそうでしょうね。でも、時給1000円以上になるんですか?」
 「なるわよ。あなたくらい可愛かったら」
 「具体的にはどんな仕事なんですか?」
 ぼくはお金につられて、半分その気になっていた。
 「まずはホステスみたいな仕事ね」
 「ホステス?」
 「お酌をしたり、お客さんと話しをしたり」
 「お酌はともかく、話しなんてできるかしら?」
 「最初は先輩のやることを見ていたらいいわ。あなただったら、じっと座っているだけで、お客は喜ぶでしょうね」
 「それならできそうです」
 「じゃあ、明日からでも来てくださるかしら?」
 そう言って、そのオカマさんは名刺をぼくに手渡した。
 「午後5時にお店に直接来てね。待ってるわ」

 嘘の理由を付けて、コンビニのバイトを午後4時で切り上げて、名刺に書かれた住所を訪れた。
 「来てくれたのね。待ってたわよ」
 顔を出した女性は、昨日の人だったけど、和服を着て髪をあげていたから、別人に見えた。
 「あら? 可愛い子ね」
 ワンピース姿の若い女性がでてきた。ワンピースを着ていたから、女性だと思ったけど、顔を見ると、とても女には見えなかった。
 奥からもうひとりでてきた。
 「この子が噂の新人さんね」
 とても男とは思えなかった。すごく綺麗なのだ。ただ、声が太いから男だと分かった。
 「初めまして、宮本です」
 「あら? 声も女の子みたいね。地声なの?」
 「あ、はい。ちょっと高くしてますけど」
 「へえ、大したもんだわ。聞いてなかったら、本物の女の子だと勘違いするところだわ」
 「ありがとうございます」
 「全員そろったら、紹介することにして、仕事の手順を教えましょうね」
 ママは、サクラさんという。この道30年のベテランだと。懇切丁寧にいろいろと教えてくれた。こんな仕事をしている人間は、ホモばかりじゃないと言ったけど、ママをはじめとして、みんなホモセクシュアルのようだ。
 「衣装を貸してあげましょう。そうね。あなた、若いから、セーラー服にしましょうかね」
 「セーラー服!?」
 「あら? いやなの?」
 「イエ、そうじゃないですけど・・・・」
 「じゃあ、着替えを手伝ってあげるわね」
 「い、いいですよ」
 「だめよ。ここはあくまでお金をいたただいて、お客さんを楽しませてあげるところだから、やるべきところはきちんとしておかないといけないの。分かるわね」
 「は、はい」
 「じゃあ、奥にいきましょう」
 衣装部屋兼化粧室へと連れて行かれた。ここにもオカマさん、いやニューハーフが二人居て、一人はもう準備ができあがってタバコを吹かしていて、もう一人が下着姿で化粧の真っ最中だった。
 「みんな、新人の・・・・。そうだ、名前を決めてなかったわね」
 「あ、はい」
 「そうねえ。何にしようかしら? ・・・・晴美。いえ、美晴にしましょう。それでいいでしょう?」
 「みはる? どう書くんですか?」
 「美しいに晴れるって書いて、美晴。いい名前でしょう?」
 ぼくにとっては、名前なんてどうでもよかった。
 「はい、それでいいです」
 「じゃあ、改めて、みなさん、美晴さんです。今日から、ここで働くことになりました。よろしくね」
 「よろしくお願いします」
 ぼくはぺこりと頭を下げた。
 「はい! よろしく!! 五月よ」
 「わたしは、ルナよ。よろしくね」
 「さあ、着替えましょうね」
 一番奥に連れて行かれて、椅子に座らされた。ママは、衣装ケースから服を取り出している。
 「さあ、服を脱いで」
 「あ、はい」
 ぼくは着てきたワンピース、スリップを脱いだ。
 「スポーツブラなのね」
 「はい。安かったから」
 「そう・・・・。ショーツはそれでいいけど、毛がはみ出てるわ。シャワールームに行って剃ってきなさい」
 すね毛と腋毛は処理していたけれど、陰毛には手を入れていなかった。ママに言われるようにショーツから毛がはみ出ていた。
 「毛がはみ出なければいいですね」
 「だめよ。できるだけ少なくした方がいいわ。全部剃ってもいいわよ」
 「えっ!? 全部ですか?」
 「そう。その方がすっきりするかもね」
 「やっぱり、全部というのは・・・・」
 「まあ、やってみなさい。剃ったあとで点検してみるわ。さあ、行って」
 シャワールームで裸になって、陰毛を剃った。何だか妙な気分になってくる。
 「剃れた?」
 「はい」
 「ちょっと見せて」
 「恥ずかしいです」
 「そう言わないで、早く」
 裸の姿を他人に見せたことなどなかった。恥ずかしくて、顔が赤くなった。
 「結構大きいのね。お客さんの前で勃起させちゃダメよ」
 裸だけでも恥ずかしいのに、勃起したペニスを見られるのはもっと恥ずかしかった。
 「少し長いわね。じっとしてて。切ってあげる」
 ハサミで短くされてしまった。ぼくの陰毛は、ペニスの上にちょっとあるだけになってしまった。こんなんじゃあ、銭湯に行けやしない。
 「さあ、体をさっと流して、戻ってきなさい」
 シャワーを浴びて体を拭いて化粧室に戻ると、乳房がふたつ繋がったブラジャーのようなものを手渡された。乳首も茶色の部分もあった。
 「これは?」
 「イタリアのニューハーフが使っているものを日本人向けにしたものよ。本物みたいに見えるでしょう?」
 「はい」
 「早く付けて」
 ブラジャーのように付けてみると、まるで本物のおっぱいがあるように思えた。
 「そのままでもいいけど、あなたの場合は、ブラをした方がいいでしょうね。そうね。あなたのしてきたスポーツブラをそのまま使いましょう。その方が、セーラー服にお似合いだから」
 シリコン製の乳房の上からスポーツブラをした。上から触ってみると、感触も本物そっくりだ。
 「すごい」
 「さあ、セーラー服よ」
 夏物の白にブルーの線の入った上着に、紺のミニスカートだった。
 「こんなに短いもの、穿いたことがないです」
 「すぐに慣れるわよ」
 そんなこと言われたって、恥ずかしいものは恥ずかしい。急かされて穿いてみたけれど、また勃起してしまった。
 「あら、あら、元気なのね。こんなになっちゃって」
 スカートの上からペニスを触られて、慌てて腰を曲げた。
 「いいものがるわ。これを穿きなさい」
 ママに手渡された袋の中には、黒いゴムの固まりが入っていた。広げてみると、ショーツの格好をしている。それもかなり小さなショーツだ。
 「ちょっと小さいんじゃあ・・・・」
 「それでいいの。ペニスを押さえ込んで目立たなくするものだから。今穿いてるショーツを脱いで、それを穿きなさい」
 「はい」
 ショーツを脱いで穿こうとしたけど、小さくてなかなか上に上がらない。
 「ちょっと無理みたい」
 「大丈夫。ほら、もっと上げて!」
 ゴム製のショーツをあげていると、ママが股間に手を突っ込んできた。
 「ちょっと、ママ、どうするの?」
 「黙ってなさい!」
 タマを股間の中に押し込まれ、ペニスを後ろに回された。それから、ゴム製のショーツを引き上げた。
 「さあ、これでいいわ」
 「痛いよ」
 「我慢しなさい。さあ、ショーツを穿いて」
 痛いのを我慢して、ショーツをあげた。
 「へえ、タマもペニスもないみたい」
 ぼくは感嘆の叫びをあげた。
 「そうでしょう? これなら、スカートめくりをされても大丈夫よ」
 ぼくは肩を竦めた。
 「清純派の女子高生と言うことにして・・・・、でも、ちょっとはお化粧してないとね。いつもの薄化粧でいいわよ」
 「分かりました」
 いつもバイトに行くときにしている化粧を施した。
 「ウイッグは、こっちにしなさい」
 普段のぼくはボブのウイッグをしている。手渡されたのは、セミロングのウイッグだった。
 「さあ、鏡を見て」
 「いいみたい」
 「ちょっとボーイッシュな女子高生ってとこかな?」
 「ボーイッシュですか?」
 「そうよ。さあ、ルーズソックスと靴よ。履いて」
 ルーズソックスとピンクのスニーカーを履くとぼくは完璧な女子校生になっていた。ボーイッシュだと言われたけど、こんな女子高生なら、いくらでもいる。

 午後7時、店が開店した。しばらくして、お客が二組やってきた。中年のサラリーマングループと、若いOLらしいグループだ。
 ぼくはサラリーマンのグループの方へ連れて行かれて、ママの紹介された。
 「今日から働くことになった美晴です。よろしくお願いしますね」
 「美晴です。よ、よろしくお願い、い、いたします」
 「やあ、可愛いね。まあ、座って」
 ママの方を見ると、早く言うとおりに座れと、目で言っていた。
 「はい」
 ぼくはサラリーマンの間に座ってかしこまっていた。
 「そんなに固くならなくてもいいよ。一杯飲む?」
 「あの、わたし、未成年ですから」
 「女子高生だもんね。でもホントは二十歳を超えてるんだろう?」
 「いえ、ホントに未成年なんです」
 「そう。声も女の子みたいだけど、ホントに男の子なの?」
 「は、はい」
 「ホントかな?」
 そう言って、その男はぼくの股間に手を回した。ぼくは慌てて腰を引いた。
 「あれ? まさか! ホントにないよ」
 ゴムのショーツの威力は絶大だ。ぼくにペニスがあるとは思わなかっただろう。
 「ほんとか? まさか本物の女子高生か?」
 男たちの視線がぼくに集中した。
 「この店に女はいませんよ。その子は正真正銘男の子ですよ」
 「へえ、じゃあ、手術したの?」
 「そうなの、手術したばかりよ」
 ママがすぐさまそう男に答えた。ぼくは、唖然としてママを見た。ママはぼくにウインクして見せた。
 「女になってよかったかい?」
 男がぼくに尋ねた。ママに言われていたように、話しを合わせることにした。
 「はい。とっても」
 「そうか。もう試したのか?」
 「えっ?」
 「とぼけて。セックスはしたのかって聞いてるんだよ」
 「ま、まだです」
 「そうか。じゃあ、処女って言うわけだ。そうか、そうか」
 男は嬉しそうにぼくの肩を抱いた。まさかぼくを抱きたいなんて言うんじゃないだろうなと思っていた。
 その男は、閉店までずっと居座って、ぼくのそばにいた。ぼくはママにそれとなく助けを求めたけど、知らんぷりされていた。
 ぼくはその男に酒をどんどん飲ませて、とうとうダウンさせてやった。これで危機は去った。

 「お疲れさま。今日のお手当よ」
 ママから渡された封筒には、5000円が入っていた。午後7時から、0時まで働いたから、ちょうど時給1000円也だ。
 「明日も来てくれるでしょう?」
 「いいですけど、ママが手術したなんて言うから、あの男がわたしとしたがっているみたいで、怖かったわ」
 「あれが手なのよ。きょうは、あなた、うまくやったわ。今日みたいに、処女と寝られるかもしれないって期待を持たせて、どんどん飲ませてね」
 「あ、はい。分かりました」
 水商売なんて、そんなものなんだろうなと思った。男に期待させて、お金をむしる。悪い商売だ。

 着替えてアパートに帰り、ベッドの中で封筒の中の5000円札を見つめた。
 「別に悪いことしているわけじゃないもんね。コンビニで立ちづめの仕事するより楽だし、お金になるから、しばらくあそこで働こう。女装なんて、ホントはしたくないけど、大学に通ってしまえば、奨学金も入るだろうし、それまでの辛抱だ」
 そう思いながら、眠りについた。

 翌日、受験勉強が忙しくなったからと嘘を言って、コンビニを辞める連絡をした。
 「そうか、残念だな。君みたいな可愛い子がいてくれると、売り上げが上がるんだけどな。大学に受かったら、また働きに来てくれないか?」
 「はい、喜んで。大変お世話になりました」
 二度と行くことはないだろうなと思うと心苦しかった。だけど、いつかはこうなるんだから、仕方のないことだと自分に言い聞かせた。