葬儀の翌日には親戚連中は去っていき、ミチルとなった沖中と美津子だけになった。父親が死んだと言うことで、忌引きになっていて学校へはしばらくの間は行かなくてすむというので、沖中はホッとしていた。今更机に座って勉強などしたくなかったし、何よりスカートを穿きたくなかったからだ。
約二日間をセーラー服で過ごした沖中だったけれど、葬儀が終わって家に戻ると、早速ジーンズに着替えた。
(やあ、楽チン楽チン)
両足を放り出してベッドの上に寝転がった。
(そんなものばかり穿いていると、スカート穿いたとき、困るわよ)
(スカートなんてできるだけ穿かなければいいよ)
(女の子はスカートじゃないといけないこともあるのよ)
(ともかく、今はこれがいい)
忌引きと言うことなので、外を遊び回るわけにはいかない。もっとも、女の子として慣れていない沖中にとって、外出なんてしばらくは避けたい状況だった。だから、終日ミチルの部屋に籠もって、ミチルが買い貯めていた小説などを読んだ。
(こんな恋愛小説ばかりで、よく飽きないね)
(よく読んで、女の子の気持ちがわかるようにならないといけないわね)
(もういいよ。おまえに身体を返すから、成仏させてくれよ)
(わたしはそんなことできないわよ。神様だけが決めることだから)
(神様も困ったもんだ)
沖中は口を尖らせた。
「ミチル? ミチル?」
美津子が階下から大声を出して呼んでいた。
「何? お母さん?」
お母さんと言うとき、美津子と出そうになるのを寸前で止めて、階段の上から美津子に笑顔を向けた。
「買い物に行ってくるわ。お留守番、頼むわよ」
「はあい」
美津子は、空っぽになってしまった冷蔵庫を一杯にするために出かけていった。女の子ひとりの留守番と言うことで、美津子は玄関に鍵をかけていった。沖中は、ミチルの部屋にあるベッドの上に寝転がって本を読み始めた。ミチルにはああ言ったけど、恋愛小説も結構面白いと思いながら読み進んだ。
30分ほどしてミチルが頭の中で囁いた。
(お父さん?)
(何だ? ミチル?)
読んでいた小説を腹の上に置いて沖中は答えた。
(・・・・ちょっとやって欲しいことがあるんだけど)
(やって欲しいことってなんだ?)
(・・・・)
(何だよ? はっきり言えよ)
(誰もいないから、・・・・オナニー、して欲しいんだ)
(オ! オナニー!!)
沖中はガバッと起きあがった。
(お、おまえ! いつ、そんなことを覚えたんだ!)
(いつって、いつだったかなあ・・・・。中学に入ってからだったと思うけど)
(中学生の癖して、オナニーだなんて)
(お父さんだって、中学生の頃やってたんでしょう?)
秘密はすべてミチルに筒抜けだ。否定するわけにはいかない。
(男の子と女の子とは違う!)
そう言うしかないのだ。
(あら? 女の子だから自慰行為をしたらいけないなんて法律はないでしょう?)
(それはそうだが・・・・)
(ねえ、やってよ。わたしの意志じゃできないんだから)
(駄目だ! 絶対駄目だ)
(自分の娘がそんなことをしているなんて思いたくない気持ちはわかるわ。でも、したいの。お父さんにだって、身体が疼いているのがわかるでしょう? お願いよ。ねえ、お父さん)
(駄目だって言ってるだろう!)
(お父さんだって、女の子がどう感じるか知りたいんでしょう? 隠したってわたしにはわかるんだから。ねえ、早くやってよ)
沖中にしてみれば、ここでミチルの言うことを聞けば、近親相姦にも等しいことをやっているようなものだと思っていた。
(お父さんの気持ちは十分理解できるわ。だけど、この身体は今はお父さんのものなのよ。遠慮しないで、自由に扱っていいのよ。それに、わたしが望んでいることなんだから、お父さんが気に病むことはないわ)
長い葛藤の時間が過ぎた。沖中はとうとうミチルと自分自身の誘惑に負けた。左手をTシャツの下から入れて、ブラジャーの下から中に滑り込ませて可愛い膨らみをその手で覆った。美津子のものより小さな膨らみだ。
(そのうち、お母さんくらい大きくなるわ)
そうなるだろうなと沖中は思った。
(揉んでよ)
言われたとおりに掌で揉んでみた。沖中が沖中であったとき、その柔らかい感触が手から伝わってくるだけだったが、今は胸から頭に手の感触が伝わってくる。奇妙な感覚だった。
(乳首も抓んで)
乳首はかなりの刺激があった。
(気持ちいいでしょう?)
沖中は返事ができなかった。しばらくその感触を楽しんだ。
(お父さん、場所はわかるでしょう?)
沖中は頷きながら、左手をショーツの中に滑り込ませた。
(右手が自由になるといいのに・・・・)
ギプスの巻かれた右手を恨めしく見た。トイレに行ったとき、すでにそこにわずかな陰毛が生えつつあることがわかっていた。その中心部を下に向かって中指をはわせていった。
(あん、お父さん、そこよ)
堅くなった小さな隆起に行き当たった。勃起したペニスを触るのと同じような痛みに似た感触があった。
(ホントに男の人と同じ感じなの?)
(発生学的には、クリちゃんとペニスは同じものだって小山内が言っていたよ)
(小山内って、誰?)
(お父さんの中学の時の同級生なんだ。医者になって、今は婦人科をやってるんだ)
(お医者さんが言うのなら、ホントね。アア、気持ちいい・・・・)
ホントに気持ちよかった。しかし・・・・。
(射精するとこれ以上気持ちがいいの?)
沖中の気持ちはミチルの通じる。
(あ、ああ)
(これ以上気持ちがよくなるなんて、男の方がいいな)
(女が行ったら、男以上に気持ちがいいらしいよ)
(ホント? どうしたら行けるかしら?)
沖中は、指を下の方へずらし始めたが、すぐに止めた。
(どうして止めるのよ!)
(指なんか入れちゃ駄目だ)
(わたし、行きたい!)
(駄目だ。もっと大人になるまで我慢しなさい)
(お願い。やってよ)
(もう駄目だ。終わり、終わり)
沖中は、ショーツの中から手を引き出した。
(お父さんの馬鹿!)
(そんなこと言うと、もう二度としてやらないぞ)
(・・・・じゃあ、我慢する)
ミチルの気持ちが伝わってきた。
(駄目だ、駄目だ。お父さんが、ミチルの身体を動かしている間は、男の子とどうかなるなんてことは絶対にやらないからね)
(一生? 一生やらないつもりなの?)
(一生、ミチルのままでいるつもりなんてないんだ。ミチル! ミチルも自分に身体を返して欲しいって願うんだ。いいね)
(そうしたら、お父さんがいなくなってしまうんじゃないの?)
(お父さんはもう死んだんだ。だから、そうなるべきなんだ)
(いやよ。ずっとそばにいてよ)
(ずっといてやりたいけど、そうするわけにはいかないだろう?)
(ずっとそばにいて。お願い・・・・)
一生ミチルと共にいたい。それは沖中も望むことだ。しかし、そうすることは、沖中が誰か男に恋をして結婚し、子供を産むことになってしまうのだ。
(いいじゃない。お父さんは今や女なんだから)
(だから・・・・)
話が堂々巡りになってしまう。
忌引きの期間が過ぎた。今日は学校へ行かなければならない。勉強しに行くなんて、16、7年ぶりだなと沖中はぼんやりと考えた。
(うまくできる?)
(中学の勉強くらいできるさ)
(ホントに?)
自信はなかった。しかし、何とかなるだろうと思った。
(ミチルがいるから大丈夫だろう?)
(わたしは思考だけよ。何の手伝いもできないわ)
(嘘だろう?)
(ホント)
(なんて不便なんだ。ミチルの知識くらい使わせてくれればいいのに)
(神様なんて言う存在は理不尽なものよ)
(ミチルはお父さんが考えているよりずっと大人だな)
(どういたしまして。ところで、そろそろお母さんが呼びに来るわよ。早くセーラーを着たら?)
起きてから歯を磨いて顔を洗うのにも苦労した。パジャマを脱ぐのにはもっと苦労した。セーラー服を着るのは、難行苦行だ。
(ひとりじゃ着られないよ)
(スカートは穿けるでしょう?)
葬式以来のスカートだ。沖中はスカートを持ってジッと見つめていた。
(ほら、来たわよ)
美津子が階段を上がってくる足音がした。
「ミチル! 準備はひとりでできる?」
美津子が部屋に顔を出した。沖中はスカートを手に四苦八苦していた。
「手伝ってあげるわ」
美津子が手早くスカートを引き上げてホックを留めてファスナーをあげた。さらにセーラー服を着せてから、沖中を鏡の前に座らせた。
「ちょっと伸びちゃったわね。今度の土曜日に切りに行きましょう」
髪の毛を手で梳きながら美津子が沖中の顔(ミチルの顔)を見た。
「伸ばすわ」
「あら? 長いと洗うのが面倒だっていったのはミチルよ」
(そうなのか?)
心の中でミチルに聞いてみた。
(伸ばしてみたらわかるわ)
(そうか。でも、やっぱり伸ばそう。お父さんは長い髪の女の子が好きだから)
(そんなこと、聞いたことがないわ。お母さんだってショートカットだし)
(言ってないからね)
(お父さんの好きにしたら? わたしが髪を洗う訳じゃないから)
(そうさせて貰おう)
「どうしたの? ボッーとして」
「あ、なんでもない。髪、伸ばすから」
「好きにしなさい。じゃ、横をピンで留めておくわね」
美津子は、耳のあたりにピンをいくつか留めて形を整えた。
「さあ、早くご飯を食べて学校へ行きなさい」
「はあい」
鞄を持って階段を降りた。右手がギプスで自由にならないからバランスが取りにくい。階下に降りると、パンの焼ける臭いがした。
左手一本では食事がしにくいので、このところ朝はずっとパン食だった。
(もう飽きたね)
(外人だったら、飽きたも何もないぞ)
(でも日本人だから、味噌汁にご飯がいいわ)
(ギプスが取れるまでの辛抱さ)
(ギプスは3週間だったっけ?)
(医者がそう言っていたな)
(もう2週間も我慢しなければならないの?)
(仕方ないよ)
美津子がジッと見ていた。ハッとして上目遣いに見た。
「ミチル、あなた、最近おかしいんじゃないの?」
「な、なにが?」
「心ここにあらずって感じで、ボーっとして」
「そんなにボーっとしてる?」
「してるわよ」
「そうかなあ」
「頭を打った後遺症かしら?」
「後遺症なんてないわ」
「でも、心配だわ。今度病院へ行ったら、もう一度検査して貰いましょう」
「わかったわ」
ミチルと喋っているとき、端で見ているとボーっとしているように見えるのだろう。少し気を付けないといけないなと沖中は思った。