第14章 女子中学生のセックス談義

 娘であるミチルとなった沖中愉司は、セーラー服に身を包んで家路を急いでいた。まだ終業時刻ではないから、道行く人たちが少し変な顔をしていたが、沖中にとってはそんなことなどどうでもよかった。
 (急いで処置しないと・・・・)
 トイレで宛てたハンカチがどうやら限界に達しそうだった。恐らくどす黒い血液で汚れているだろう。体温を失った経血が冷たく、気持ち悪さは限界に達していた。
 「ミチルちゃん、早いのね?」
 団地の入り口で斉藤茂の母親にばったりと出くわした。
 「体調が悪くて・・・・」
 「そうなの。気を付けてね」
 斉藤茂の母親は沖中の体調不良の原因を察したようだった。女の勘と言うよりも沖中自身も感じている独特の臭いなのかもしれない。
 門を抜けて玄関ドアのノブを回した。しかし、回らなかった。
 (あれ? いないのか?)
 沖中はチャイムに手を伸ばした。家の中にチャイムの音が鳴り響いているのが聞こえた。しかし、美津子の姿は現れない。
 (買い物にでも行っているのだろうか? 困ったな。あっ!)
 限界に達したのだろう。液体が太股を伝い落ちるのを感じた。
 (どうしよう、どうしよう・・・・)
 隣か向かいの奥さんにでも助けを求めようかと沖中は辺りを見回した。しかし、恥ずかしくてそんなことはできそうもなかった。
 ジョンの鳴き声が聞こえた。沖中はハッと気がついた。
 (そうだ。裏に合い鍵を置いていたっけ)
 裏庭に回っていくと、ジョンが嬉しそうに尻尾を振った。
 「ジョン! ちょっと待ってね。あなたにかまっていられないの」
 犬小屋のすぐそばに置いてある棚の中に鍵がある。沖中はそれを取りだした。その間にジョンにほっぺたや耳を舐め回された。
 「ジョン! あとにしてって」
 鍵を手に勝手口に行き、鍵を開いて家の中に入った。玄関からではなく勝手口から入るというのは、何だか悪いことをしているように思えた。
 太股にまた血液が流れたようだ。
 (急がなきゃ)
 沖中は洗面所に入ってスカートを捲り上げた。ショーツに血が滲んでいた。顎でスカートの裾を挟んで落ちないようにしてショーツを脱いだ。血だらけのハンカチが床の上にビチャリと音を立てて落ちた。洗面台の中にショーツを投げ込み、ハンカチの端を指で抓んでショーツの上に放り込んだ。
 (洗うのはあとだ、あと。生理用ナプキンは確かトイレの中だったよな)
 トイレに入って棚を見上げると可愛らしい籠が置いてある。以前、その籠を発見したとき、何だろうと思って覗き込んでその中に生理用ナプキンを見つけてちょっとドギマギした覚えがあった。籠を降ろして中のナプキンを見た。
 (多い日用と普通用か・・・・。多い日用だろうな。ミチル! それでいいな?)
 (いいわよ)
 ひとつを取り出して籠を棚の上に戻した。ナプキンを手にトイレを出ようとして、立ち止まった。
 (綺麗にしておこう)
 スカートをあげてトイレに腰掛け、ビデのボタンを押した。
 (シャワーの方がよかったかなあ。なあ? ミチル?)
 (どっちでもいいわよ。綺麗になれば)
 (そうだよな)
 ビデを止めてトイレットペーパーで拭った。股間は綺麗になったけれど、股に血液がこびりついていた。それも綺麗に拭き取ってトイレを出た。
 (さて、新しいショーツを出そう)
 ミチルの部屋に入り、タンスの引き出しを開いた。初めてその引き出しを開いたとき、娘の下着を覗き見るなんてとひどい罪悪感に捕らわれたものだが、今はもう慣れた。
 (確か、生理用のショーツがあったな)
 引き出しの端の方に、いつも穿いているショーツよりも生地の厚いショーツが畳まれていた。初めてそれらを見たとき、何だろうなと思って手に取っていたら、美津子が生理になったのと声をかけてきて、それが生理用のショーツだと知ったのだった。
 生理用ナプキンを袋から取り出してから、沖中は首を傾げた。沖中としてはハンカチと同じようにその部分に宛てて生理用ショーツを穿くつもりだったのだが、テープらしいものを見つけたのだ。
 (あそこに宛てる方とは反対側にテープが付いている。ははあ。これはショーツに貼り付けて動かないようにするためのテープか。そうか、そう言うことか)
 沖中は生理用ショーツの股間に当たる部分にナプキンを貼り付けてからショーツを引き上げた。
 (これでよし)
 ホッと安堵の溜息が出た。
 (女は面倒くさい)
 (我慢、我慢)
 (神様は、いつまでお父さんをミチルの中にいさせるつもりかな?)
 (わたしにはわからないって何度も言ってるでしょう?)
 (そうだけど・・・・。こんなの何かの罰を受けているようなものだよ)
 (思い当たるようなことをやったの?)
 (ないさ)
 (ほんとに?)
 沖中は黙り込んだ。
 (へえ、そうなの。浮気したの?)
 考えていることが筒抜けというのはどうにもならない。ミチルに隠していた秘密を知られてしまった。
 (出来心なんだ。酔っぱらって、気がついたらホテルの部屋にいて・・・・)
 (浮気は最大の裏切りよ。だから・・・・)
 (だから?)
 (当分戻らないんじゃないの?)
 (・・・・そうか)
 諦めてミチルと共に生きるしかないと沖中は溜息をついた。
 (お父さん、汚れ物を洗わなきゃ)
 (そうだったな)
 沖中は階段を下って洗面所に戻った。蛇口をひねって流れ出る水でショーツとハンカチを洗った。わずかなシミだけになったところで絞って洗濯機の中に入れて蓋をした。
 ホッとして洗面所を出たとき、玄関の鍵を開ける音がした。玄関に行くと、買い物袋を抱えた美津子が入ってきた。沖中の姿を認めてビックリしたような顔をした。
 「ど、どうしたの? もう帰ってきたの?」
 「急に生理になっちゃって・・・・」
 「生理? そう言えば、事故のあと、ずっとなかったわね」
 「う、うん」
 「うまく処理できた?」
 「ちゃんとやったけど、ナプキン、学校に持って行ってなかったから、ショーツを汚しちゃった」
 「まあ。どこにあるの?」
 「洗って、洗濯機の中に入れたわ」
 「そう。それならいいわ。今度から、時期が来たらナプキンを持っていくのよ。いいわね」
 「わかった」
 「セーラー、着替えてきなさい。美味しい水ようかんを買ってきたから、お茶でも飲みましょう」
 「はあい」
 沖中は勝手口に放り出していた鞄を手にして階段をとんとんと上っていった。

 濃いめのお茶を飲みながら、水ようかんを口に入れた。うまいと沖中は思った。沖中自身はようかんなど口にすることはほとんどなかった。
 (ミチルは甘党だったから、美味しく感じるんだろうな?)
 美津子もうまそうにようかんを頬張りながらテレビの画面に食い入っていた。午後の主婦相手のくだらない番組だ。美津子が大声を上げて笑った。
 (夫が外で働いているときに、気楽なもんだ)
 (女だって大変なのよ。今は休憩中よ。わかってあげて)
 (休み時間がずれてるって訳か?)
 (そうよ)
 沖中も画面に目を移した。双子タレントのひとりが、街角奥様の服装をチェックしていた。言っていることがすごく正しいようにも思えるけれど、ただの難癖のようにも思えた。
 そうこうしているうちに玄関のチャイムが鳴った。
 「はあい」
 美津子が玄関へと向かった。
 「あら? 亜由美ちゃんに華奈ちゃん。来てくれたの? ミチル! 亜由美ちゃんと華奈ちゃんが来たわよ」
 沖中は玄関へと走った。
 「大変だったね。もう大丈夫?」
 「もちよ。助けてくれてありがとう。上がる?」
 ふたりとも頷いた。
 「お母さん、ジュースか何か持ってきて」
 そう言い残してミチルの部屋に上がった。
 「ミチルはいつ始まったの?」
 部屋に入るやいなや池田華奈が聞いてきた。ピンとは来なかったけれど、すぐに初潮のことだと気がついた。
 「去年の暮れよ」
 「まだ半年なのね」
 「時々しかないから、急に来ちゃってビックリしたわ」
 これは沖中の作り話だ。事故前のことは沖中にはさっぱりわからない。
 「わたしもまだ不規則で困っちゃうわ」
 松本亜由美が同情するように言った。
 「あら? 排卵がわかれば生理の日も予想できるでしょう?」
 池田華奈が不思議そうな顔をして言った。
 「排卵なんてどうしてわかるのよ」
 沖中と松本亜由美が池田華奈の顔を見た。
 「わかるわよ。あ、今日は右の卵巣から排卵があったって」
 「嘘でしょう?」
 「嘘じゃないわよ。お腹が痛くなるんだもの。それからきっちり14日目に生理が始まるわ」
 「へえ。そうなの?」
 「気を付けていれば、あなた達もわかるわよ」
 松本亜由美が沖中の顔を見るので、次は試してみようとふたりで言った。
 「それにしても女はイヤねえ」
 松本亜由美の言葉に二人とも頷いた。
 「でも、子供を作るためだから仕方ないかな?」
 「女だけが子供を作らなければいけないなんて不公平だわ」
 池田華奈の意見にまたも他のふたりが頷いた。その時、ドアが開いて、美津子がジュースの入ったコップを持ってやってきた。
 「あらあら、何を話しているの?」
 「女だけが子供を作らなければいけないなんて不公平だわって話していたの」
 「子供を産むのは女だけに与えられた特権なのよ。男は逆立ちしたってできないことなの」
 「それはそうだけど」
 「子供を産むってことは素晴らしいことなのよ。あなた達も一度経験したらわかるわ」
 「ふうん」
 三人とも顔を見合わせた。美津子はジュースを置くと部屋を出て行った。美津子が出ていくと、池田華奈が沖中と松本亜由美に近寄って小声で尋ねた。
 「子供はどうやってできるか、知ってる?」
 「卵子と精子が合体してできるんでしょう? 保健の時間に聞いたわ」
 松本亜由美が胸を張って答えた。
 「精子はどんなふうにして卵子のところへ行くの? 具体的に知ってる?」
 松本亜由美は知らないと答えた。沖中はちょっと迷ってから知ってると答えた。
 「亜由美、中2だったら、もう知っておくべきよ」
 「そ、そう?」
 「ねえ、ミチル?」
 「え、ええ」
 「ミチル、あなたが教えてあげなさいよ」
 「イヤよ。そんな恥ずかしいこと言えないわ」
 「そんな恥ずかしいことなの?」
 松本亜由美がキョトンとして尋ねた。
 「ホントに知らないのね。いいわ。わたしが教えてあげる。女には膣があるでしょう?」
 「あるわね」
 「そこに男がオチンチンを入れて射精するの。そうしたら、精子が子宮の中に入って卵子と結びつくって訳。わかった?」
 「男のオチンチンが、・・・・入るの?」
 「そうよ」
 「汚い! おしっこするところが入るなんて」
 「汚くはないわよ。ちゃんと洗ってから入れるんだもの。ねえ、ミチル?」
 「え、ええ」
 そう答えながら沖中は考えていた。寝る前に入浴をするからそこは綺麗になっている。だから、池田華奈のいう通りかも知れない。しかし、若い頃酔っぱらって入浴しないでそのままやったことも何度かある。必ずしも洗うなんてことはないのだがと思っていた。
 「痛くないかしら?」
 「ちっちゃいんだから大丈夫でしょう?」
 そんな池田華奈の意見に沖中と松本亜由美が池田華奈を見た。
 「なによ。何かおかしいこと言った?」
 「ちっちゃいってどういうこと?」
 「これくらいしかないでしょう?」
 池田華奈は指を5センチばかり広げて見せた。
 「そんなんじゃないわよ。もっと大きいわよ」
 松本亜由美が反論した。
 「だって、慶君はそれくらいの大きさよ」
 「慶君ってあなたの弟でしょう? 子供じゃないの。大人のオチンチンはもっと大きいのよ」
 「ホント?」
 沖中に振ってきた。沖中はうんと頷いた。
 「大きいってどれくらいあるの?」
 「これくらいよね、ミチル?」
 松本亜由美が指を10センチばかり広げた。
 「それは、普通の状態の大きさでしょう?」
 「普通の状態ってどういうこと?」
 「普通の状態だと、ふにゃふにゃで腟の中には入らないのよ。硬くならないと」
 「硬くなる?」
 「そうよ。男のオチンチンは、興奮すると勃起って言って、硬く大きくなるのよ」
 「へえ」
 松本亜由美と池田華奈は目を丸くした。
 「どれくらいの大きさになるの?」
 「15センチくらいだと思うけど」
 「15センチ!!」
 ふたりの目がさらに見開かれた。
 「ちょ、ちょっと待って。15センチですって?」
 「そうよ」
 「ミチル! 定規ない?」
 「あるわよ」
 「貸して?」
 「いいわ」
 机の引き出しから定規を取り出して池田華奈に手渡した。池田華奈は定規の端から15センチのところを持って股間に宛てた。
 「嘘・・・・。お臍まで届いちゃう」
 「やだ。そんなの、やだ」
 松本亜由美が泣き出しそうになった。
 「臍まで届くなんてことないでしょう?」
 「だって、ほら、届いちゃうよ」
 「体を曲げてるからでしょう? ほら、これくらいだよ」
 床の上に寝かせて定規を当てると、臍までは届かなかった。
 「それでもこんなところまでくるわ」
 松本亜由美はまた泣き出しそうな顔をしている。
 「根元まで入る訳じゃないんじゃないの?」
 「それもそうね」
 池田華奈はホッとした感じで定規を机の上に放り投げた。
 「ミチル?」
 「なに? 亜由美?」
 「太さ、太さはどうなの?」
 「太さ? 太さって・・・・」
 そんなことを答えてもいいのだろうか? ちょっと考えてから沖中は答えた。
 「太さまでは知らないわよ。だけど、普通の状態の時よりは太いでしょうね」
 「普通の状態の太さって、これくらいよね」
 松本亜由美は親指と人差し指で円を作った。
 「それくらいかな? わたし、よく知らないわ」
 「これより太くなるの? そんな太くて15センチもあるものが入るの? やだやだ。そんなことしたくないわ」
 松本亜由美はとうとうべそをかき始めた。
 「わたしは、愛する男の人のものだったら、どんなに大きくても、どんなに痛くても受け入れたいわ」
 夢見る乙女ふうに両手を合わせて池田華奈が呟いた。
 「わたしは絶対イヤ!」
 松本亜由美は顔を両手で覆って泣く始末。想像だけでこれほど入れあげられるとは、女の子は違うなと沖中は思った。
 「ミチル? あなたは?」
 ふたりの目が沖中を見た。
 「えっ? あっ? わたし? わたしは・・・・」
 「ねえ? どうなの?」
 「女の子は子供を産むのは当然だし、お母さんも素晴らしいことだって言ってたでしょう? 子供を産むためには、オチンチンを受け入れなければならないのなら、それは仕方ないわ」
 「そうよね」
 我が意を得たりという表情で池田華奈は松本亜由美を見た。
 「わたしは人工受精にして貰う。そうしたら、汚いものなんて入れなくてもいいもの」
 「そこまで言うのなら、そうして貰ったら?」
 「そうするわ」
 セックスは初めは痛いだろうけど、慣れればすごく気持ちがよくなるのよと喉元まで出かかったが、沖中は飲み込んだ。そんなことは、まだ処女であるミチルの口から言わせるわけにはいかないからだ。
 「ねえ、ねえ。ミチル? ミチルは誰とだったらしてもいい?」
 「えっ? 誰とって?」
 「仲のいい男の子たちがいるじゃない? 例えば、笹本とか」
 池田華奈が言うのは笹本卓のことだろう。沖中が沖中愉司であったとき、ハンサムで格好いい男の子だと思っていた。沖中がミチルなら笹本卓を選ぶとも考えていた。しかし、いざその状況となってみると、即座に答えは出ない。
 「笹本は格好いいんだけど、ちょっと不良でしょう?」
 「そこがいいんじゃないの?」
 そこへ松本亜由美が割って入ってきた。
 「ミチルは笹本のこと、好きだってわたしに言ったんじゃなかった?」
 ギョッとしたが、沖中はすぐに切り返した。
 「今はよくても将来を考えるとね」
 「へえ、ミチルって、そんなことまで考えて男の子とつき合うの? クールね」
 「だって、一生の問題だもの」
 「ミチル、結構古いのね。わたしはいろんな男の子とつき合った上で一番いい男の子を選ぶわ」
 「華奈はそれでいいかも知れないけど、わたしはちょっと・・・・」
 「ミチルが笹本を選ばないのなら、わたし、アタックしようかな?」
 「華奈、笹本のこと、好きなの?」
 「笹本を狙っている子は多いわよ」
 「へえ、そうなの」
 「斉藤は? 斉藤は真面目だし、結構格好いいけど」
 斉藤と言えば、斉藤茂のことだろう。沖中はしばし考える。
 「斉藤って、暗くない? 一緒にいて楽しくなさそう」
 「それは言えるね。もうちょっと明るくないと。じゃあ、木下は?」
 「即却下。将来禿げる可能性のある男の子はお断り」
 「ハゲの人って男性ホルモンが多いって言うでしょう? 精力絶倫かも?」
 「華奈って、よくそんな恥ずかしいことを大きな声で言えるわね」
 「だって、そう聞いたんだもの」
 それから1時間ばかりそんな話が続いた。美津子が上がってきて、そろそろ終わりにしたらと言うので、ふたりとも帰っていった。
 沖中はナプキンを替えながら、ハアと溜息をついた。
 (ミチル、いつまでこんなことが続くんだ?)
 (さあね)
 (冷たいんだな)
 (だって、ずっとお父さんといられるから)
 もう言葉がなかった。