雀の鳴く声に目が覚めた。研究室のソファーの上で眠り込んでいた。急いでメールチェックする。返事が来ていた。
>KEI、ごめん。今朝、メールを見たんだ。
>昨日は3時にメールチェックしたんだけど。
>そのすぐあとに、急ぎの仕事が入って徹夜だよ。
>すぐにでも会いたいけど、君の前で眠ってしまいそうだ。
>一眠りするから、午後1時にバンビで会おう。
>from Jin
やっと連絡が付いた。やっと仁美に会える。論文も仕上がったし、嬉しくて嬉しくて堪らない。2日も風呂に入っていないから、アパートに戻って、風呂に入って着替えをすることにした。
正午。ぼくはバンビのテーブルを前にしていた。仁美はまだ来ていない。ホットサンドとコーヒーを注文して、仁美を待つ。12時半少し前、仁美が現れた。
「あら、もう来てたの? わたしの方が早いと思ったのに」
「ぼくは朝から暇だったからね。充分眠ったかい」
「5時間眠ったから大丈夫よ」
「そうだったね」
「あら、5時間で大丈夫って、ケイに言ったことあったかしら」
うっかりしていた。南美樹になっていたときに聞いたんだったっけ。
「聞いたような気がするよ。確か」
「そうだったかなあ。まあ、いいわ。マスター、わたしにもコーヒーとホットサンドね」
「仁美、この前はごめんね。君の気持ちも分からないで」
「ケイ、あなたのせいじゃないわ。わたしが悪いの。わたしから誘っておいて」
「いや、ぼくのせいだ」
「わたしのせいよ」
「二人とも何の話しだい。謝りっこなんかして」
バンビのマスターがコーヒーとホットサンドをテーブルにおきながら、僕たちを交互に見た。
「ありがとう、マスター。ちょっとした行き違いなの。もう仲直りしたわ」
「良かったね。これサービスね。最近よく来てくれるから」
小さなお皿に、美味しそうなアップルパイが載っていた。そんなにここに来ているのかなあ。ぼくは2度目なのに。
「わあ、ありがとう、マスター。美味しそう、頂くわ」
仁美と夕方まで、じっくりと話をした。胸のつかえがお互いに完全に取れた。あの薬のお蔭だ。途中で、サービスと言いながら、マスターがコーヒーを追加してくれた。ぼくたちがいる間、お客はちらりほらりとしかやってこない。こんな事で商売になるのかしらと要らぬお節介をする。
今日は安いところにしようと、山本が連れていってくれた居酒屋に顔を出した。店の主人がちょっと変な顔をしていたが無視した。もし、聞かれたら、ぼくによく似た女の子がいるらしいね、ぼくが女装しているじゃないかって言われて困っているんだよと惚けるつもりだ。
少しメニューを変えてみたけれど、今日も美味しかった。勘定はぼくが払った。そのために貯金を下ろしてきていた。前回と同じで、仁美が割り勘にしようと言い出したが、頑として譲らなかった。
(男はこれでなくっちゃね)
仁美の方が背が高いので、山本がぼくの肩を抱いてくれたようには行かなかった。そのかわりに、手を繋いで歩いた。いい年してと思われるかもしれないなと考えながら。
どちらが言うともなしに、ホテルに入った。仁美とのセックスも良かったけれど、何故かぼくには山本との方が良かったように感じた。ぼくはおかしいのだろうか?
ぼくは論文が終わったので、毎日が日曜日みたいなものだ。毎日でも会いたいというと、わたしもそうしたいのはやまやまだけど、仕事があるし、だらだらと関係を続けるのは嫌だから、けじめはきちんとしましょうと言われた。まったくその通りだ。二人で相談して、デートは週に1回くらいにしようということになった。その方が二人の関係も長持ちするだろう。
帰り際に、仁美と電話番号の交換をした。メールだけでは急ぎの時うまく連絡できないことがあるからだ。これまでメールだけでいいと思っていたが、今回のことで思い知らされた。ただ、なるべくメールにしようねと約束した。