午前11時。変身が解けた。元に戻れないのではと今日も不安でならなかったから、ほっとした。急いで着替えて、バイクで研究室へと急ぐ。
第2研究室には誰もいなかった。これ幸いとコンピューターを立ち上げる。メールをチェックすると仁美から来ていた。
>KEI お久しぶり。元気にしてたかい?
>このところ、仕事が忙しくてね。連絡しないで、ごめん。
>この前のこと、怒っているだろうな。それも合わせて謝るよ。
>誘っておきながら、帰ってしまうなんて、何て悪い女だと思っただろう。
>本当に、ごめん。会って、謝りたいんだ。
>KEIの都合に合わせるから、日時と場所を決めてくれないか?
>ただ、勝手を言って悪いけど、明日は、別の用事があってだめだから。
>いつまでも返事を待ってる。
>from Jin
とても謝っている文調ではないけど、彼女らしいなと思う。「何て悪い女だと思っただろう」と言う部分がなかったら、まるで、男から女へのメールだ。
(仁美と会おう。会って正直に話せば、元の二人に戻れる)
早速返事を書いた。
>ぜんぜん怒ってなんかいないから。気にしてない、気にしてない。
>こちらも論文作りで忙しくて。今、助教授に添削頼んでる。
>数日中に出来上がる予定だよ。
>ほんとは今日にでも会いたいんだけど、今からバイトに行かなきゃ。財布がピンチ。
>明日はこちらも、別の用事で手が放せない。
>添削の都合で、どうなるか分からないけど、Jinに早く会いたい。
>会いたくて、堪らない。
>月曜の午後、またメールするから、待ってて。
>KEI
どうもいつもの癖で、女が書いたような文章になってしまう。
(忙しかった? だいぶ嘘が混じっているなあ。気にしてない。そんなことはない。仁美のことが気になって、女になってまで探りに行ったのに)
でも、これで何とかなりそうだ。
メールを発信してから、どうして「明日はこちらも、別の用事で手が放せない」何て書いたんだろうと思った。
(山本に会いに行くつもりなんてないのに)
仁美と仲直りできると考えただけで、浮き浮きしてしまう。急に人生がバラ色に思えてきた。腎換丹様々だ。
2時から、バイトに行った。今日は店長しかいない。佐田も佐和ちゃんも休みだそうだ。山本も連絡が付かないとぼやいている。
「中山君が来てくれて助かったよ。ぼく一人でどうしようかと思っていたんだ」
「時給を上げて貰おうかな」
「そんなこと言うなよ。これでも他の所よりは出しているんだよ」
「そうですかあ」
「中山君?」
「はい、なんです?」
「今日は、いやにご機嫌がよろしいようで」
店長がボクの顔を見てにやっと笑った。
「そんなことないですよ」
「そうかなあ。ここ何日かの中山君と違うよ。何か良いことあったな」
「ないですよ」
「そうかなあ。彼女とよりが戻ったとか」
「いやあ・・・・」
「そうか。良かったな。ところで、休むときは連絡してくれよな。昨日は困ったよ。誰も来てくれないから、孤軍奮闘だよ。今日も一人じゃたまらんなと思っていたんだ」
昨日はいろんな事がありすぎて、バイトを休むことを連絡し忘れたことに気づかなかった。
「済みません。つい忘れてしまいました」
「まあいいよ。お蔭で彼女とよりが戻ったんだろう」
「今日は一生懸命働きます。でも明日は休ませてください。用事があるので」
「デートかい?」
「そうじゃないんですけど・・・・」
「いいよ。明日は佐田君と佐和ちゃんが来てくれることになっているから」
「済みません」
ぼくは山本のデートの申し込みを気にしていた。すっぽかそうと思っているのに。山本とは、合計しても24時間も付き合っていない。だけど何故か山本のことが気になるのだ。おそらく、山本のぼくに対する思いと、ぼくの山本に対する思いは同じだ。気が合うのだ。ずっと長い友達でいられそうな、そんな気がする。デートをすっぽかされて、がっくりきた山本の顔を見たくないのだ。
山本に目は真剣だった。女に変身したぼくに一目惚れというのは本当のように思えた。女とホテルに行ったという話はしていたけれど、そんな女たらしのは見えない。一度くらいデートに付き合ってやっても良いではないか。ぼくはだんだんそんな気になっていた。
(別に変なことするわけじゃないし)
バイトが終わってアパートに帰り、布団の中に入ってからも、気になって寝付かれなかった。
また夢の中に山本が出てきた。やっぱり山本とキスする夢だった。