杉田は軽いビッコを引きながら、剣道の防具を背中に抱え、アパートの向かって歩いていた。杉田のアパートは、三鷹駅からそう遠くないところにある。いつもは苦痛にもならない距離だったが、捻挫している杉田にとっては、今日は少し苦痛だった。ちょっと近いが、タクシーにすれば良かったと後悔していた。
捻挫のせいで、今年は昇段できなかった。悔しい思いで、気は滅入る一方だった。今日はやけ酒だ。
アパートへ向かう最後の角を曲がったとき、後ろから誰かが走り寄ってきて、杉田に声をかけた。振り向いてみると、その人物は、はっと目を見張るような美人だった。一目で分かる高級な服の上に、杉田ではとても手にできそうもない本皮のコートを纏っていた。肩から下げたショルダーバッグもどこかのブランドものだった。川本が欲しいと言っていた、確かプラダか?
「助けてください。お願いです」
その女は哀願するような目で杉田に声をかけた。
「どうしたんだ?」
「ストーカーらしい男につけられています。お願いです。助けてください」
振り返って通りを眺めてみたが、それらしい人影はない。
「誰もいないようだが・・・・」
「今は隠れています。お願い・・・・」
切羽詰まったような女の様子に、ただならぬ気配を感じた。
「分かった。警察に保護してもらおう。ぼくも警察官だ。すぐに連絡してあげるよ。取り敢えず、部屋まで来なさい」
警察官という言葉で安心したのか、女は杉田に付いてきた。それでも時々後ろを振り返ってみているところを見ると、ストーカーに追われているというのは嘘ではないようだと杉田は思った。
それにしても凄い美人だ。こんな美人と少しの間だけでも一緒にいられるなんて、男冥利に尽きる。そう思いながら階段を昇っていった。
女を部屋の中に招き入れ、ドアを閉めるとき、通りの角に怪しげな男が杉田の部屋を見上げているのに気付いた。間違いない。杉田はすぐに電話することにした。