ドアを開けると部屋の中は真っ暗だった。こんなことは初めてだった。橋爪は壁のスイッチを入れて部屋の明かりを点けた。
 「雅代! 雅代! どこにいる?」
 返事はなかった。部屋の中を探し回った。いくら広いマンションとはいえ、探すのにはそんなに時間は掛からない。橋爪は電話を手にした。
 「俺だ。雅代がいない。俺に黙って出かけたのか?」
 榊の抑揚のない声が聞こえてきた。
 「夕方ちょっと目を離した隙にマンションを抜け出したようです。新宿駅で見つけだして、今、浜田と他の3人の手下に追わせてます」
 「どこにいるんだ?」
 「三鷹行きの電車に乗っていると連絡が入っています」
 「すぐに連れ戻せ」
 「人目がありますから、何処か人が少なくなってから連れ戻そうと思っていますが、それでどうでしょうか?」
 「・・・・仕方がないな。見失うんじゃないぞ」
 「分かってます」
 雅代は、橋爪と出掛ける以外には、マンションをひとりで出たことがなかった。何のために? いるものはすべて与えている。ここを離れては、雅代は生きてはいけないはずだ。橋爪は、怒りを覚えながら、榊の連絡を待った。