ベンツの後部座席に座って、榊は地図を広げていた。ふたりの乗ったパジェロは、国道20号から、塩尻カントリーへの道へ入ったことは確認されている。このまま走れば、153号へ出る。
逃げる方法としては二通りだろう。国道153を北上し20号へ入って下諏訪へ戻る。逃げ出したところに戻って逃げるとは、通常考えないからむしろ安全だ。もう一つの道は、153を下ってどこかで中央道へ入る。東京へは向かわず、名古屋へ向かって、東名経由で東京へ向かう。
国道153を北上するつもりなら右折、南下するつもりなら左折だ。戦力を分散させたくないが、逃げられては元も子のない。榊自身と4号車は左折し、2号車と復帰した3号車右折させるつもりでいた。
それにしても、3号車、5号車、6号車が、こうも簡単にやられるとは思ってもみなかった。相手は、何もできない人形のような女と、図体ばかりがでかいたったひとりのデカだというのに。
いや、何もできない人形は間違いか。3号車の林からの連絡では、雅代は、あっと言う間にふたりの男を蹴り倒したと言っていた。いつの間にそんなことを覚えたのだろうか? ここ1年で、そんなことを身につけられるはずはないのだが・・・・。
それに、5号車、6号車を狙撃したのは雅代らしい。銃なんて撃ったこともない女が、プロ顔負けの狙いで撃ってきたと言っていた。いま逃げている雅代は、よく似た偽物ではないか? そんな疑いが頭を持ち上げてきた。それしかない。あの時、雅代の頭を打ち抜いたのは自分だ。あれで生きているはずがないのだ。偽物! それなら、合点がいく。
しかし、例え偽物でも逃がすわけには行かない。橋爪を100パーセント自分のものにするためには、偽物といえども殺してしまわなければならない。それに、あのデカだ。橋爪が心を動かした男は、決して生かしておけない。
153号へまもなく合流する地点になって、榊は車を停めさせた。
「こんなところで停まってどうするんですか?」
「ここでちょっと待ってろ」
榊は、トラックに荷物を積んでいる建設会社の従業員に声をかけた。
「すまない、警察のものだが、誘拐犯を追っている。大男が乗ったパジェロだ。助手席に誘拐された若い女が乗っているんだが」
「ああ、それなら、今し方ここを通ったよ」
「今し方? どれくらい前です?」
「5分くらいかな?」
「どっちに行ったか分かりませんか?」
「確か左に曲がったと思うけどね」
「ご協力ありがとう。犯人を捕まえたら、お礼に来ます」
「いや、そんなことはされなくても・・・・」
「市民の鏡ですよ。じゃあ」
左折したか。遠回りを選んだというわけだ。まあ、元に戻るのは、勇気がいるからなと榊は思った。
「計画変更だ。奴らは左折した。2号も3号も左折だ」
5分か。距離にして4,5キロだろう。少し飛ばせば追いつける。