橋爪は、小沢と榊の電話の盗聴に全力を注いでいた。レッドイーグルのヘッドは橋爪ではあるが、実働部隊はすべて榊に握られていた。現在、橋爪が直接命令できる手下は一人もいない。インターネットで情報を収集し、事態がどの様に動いているか把握するだけが、橋爪のできることだった。
モニターを見ながら、自分のコンピューターがおかしいことに気付いた。コンピューターの裏側を調べてみると、見覚えのない配線が見えた。榊のこんな芸当ができるわけがない。榊が部下に命じてやらせたに違いない。すると、佐野に雅代の救出を頼んだことも知られている可能性が大だ。橋爪はチッと舌打ちをした。
榊は現場へ行っている。こちらの動きを知られないためには、自分のコンピューターを覗き見ているやつを片づけて置いた方がいいだろうと橋爪は考える。。
配線の具合から見て、相手は榊の部屋にいるに違いない。橋爪は、コンピューターに小沢のオフィスの盗聴を自動的にやるように設定して、寝室へ入っていった。
寝室には秘密の階段があった。下の階に榊の部屋がある。さらに下の階には、もうひとつの橋爪の部屋がある。
普段の橋爪は、女性モードでこの部屋で暮らしていた。調度も衣服もすべて女性もので、この部屋で暮らす人物が男だとは誰も気付かない。
女性モードの時は、橋爪の愛人であり、ほとんど娼婦に近い役割を演じていたが、男性モードになると、立場が逆転し、レッドイーグルのヘッドとして、榊を手足のように使っていた。
そのことを知るものは誰もいない。橋爪が普段は女性モードで暮らしていることを知るものもごく僅かで、他の人間に洩らそうものなら、その人間もろとも消されてしまうから、決して口外することはなかった。だから、橋爪の姿を警察関係者は見つけることができなかったのだった。
橋爪は、秘密の階段を足音を立てないように降りていった。寝室から、榊が書斎として使っている部屋を覗くと、若い男がモニターに釘付けになっていた。ゆっくり後ろへまわり、持ってきた細いヒモで首を絞めた。男は、あっけないほど簡単に息絶えた。
これで、榊の情報源が絶たれる。橋爪は、安心したように上の階へ戻った。
コンピュータに接続されたケーブルを引きちぎり、モニターを見る。小沢の交信記録が記録されていた。相手は、長野県警の警務部長のようだ。通話記録を再生してみた。
「小沢さん、どうなってるんだ。お宅の派遣した部下が、5人死亡。ふたり重体、もうひとりも重傷だ。戦争でもやってるのか?」
「覚醒剤密売組織のレッドイーグルは知ってるでしょうね」
「勿論だとも」
「ヘッドの橋爪の女を保護したんです」
「ええっ!? 橋爪の女? 聞いたことがないぞ」
「間違いないんですよ。こちらへ移送しようとしたんですが、彼女は、橋爪の顔を知っている。レッドイーグルは、彼女を消そうと躍起になってるです。そう言うわけなんです」
「・・・・訳は分かった。しかし、そんなことは、事前に連絡してもらわないと困る。こちらの管内で、警察官が5人も死んで、面子が丸つぶれだ」
「申し訳ありませんでした。しかし、もう終わりでしょう」
「終わるって言うと、その女が消されたのか?」
「分かりません。分かりませんが、消息が途絶えたから、消されたんだろうと思います。迷惑をかけました」
「小沢さん、できたらこちらへ来てもらって、署内と報道関係に釈明を願いたいんだが。いいですか?」
「分かりました。数日中に伺います」
雅代の消息が途絶えた!? つまり殺されてしまった? イヤ、榊から、雅代を殺したとは連絡が入っていない。殺せば、すぐにでも橋爪に連絡があるはずだ。雅代は逃げ延びている。雅代はひとりで逃げている? いや、雅代にそんなことができるはずがない。助けているものがいる。護衛の警察官は、死んだか病院だ。きっと、佐野が一緒に違いない。
ここで手をこまねいていても、進展はない。現地に向かうことにした。その方が、雅代に接触する可能性が高くなると考えたからだ。雅代をこの手に抱けば、賭は自分の勝ちだ。そうしてから、佐野に榊を片づけさせる。榊の後がまには佐野だ。橋爪は、パートナーとしての榊を既に切り捨てるつもりでいた。