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 大島隆二は、中央線で下諏訪駅へ降り立った。ウイークデーの夕方でもあり、まだ日が高いから、そう人は多くない。改札を抜けタクシ−を拾おうとしたとき、甲高い女の叫び声がした。
 「キャアー」
 声の方を振り向いてみると、青みがかったグレーの作業服を着て、頭に頭巾をした太った中年の女性が、トイレから転がり出てきた。
 「ひ、人殺し!」
 そう叫んで、駅前にある交番へ向かった。辺りにいた人間が、あっという間にトイレの入り口に集まった。大島もふと気になってその野次馬の中に加わった。
 男が、仰向けにトイレの中に倒れていた。胸からおびただしい血液が流れ出ている。男の顔を見た。
 「長谷川俊二だ」
 大島は、心の中で叫んだ。やられたのか!? 長谷川も大島と同じ監視部隊の一員だ。レッドイーグルが動いていると言うことか? そう思ったとき、みぞおちに鋭い痛みを覚えた。えっと言う思いだった。みぞおちを見ると、ナイフが突き立っていた。誰だ! そう叫ぶこともできないまま、大島はタイルの上へ崩れ落ちた。
 「キャーッ」
 大島のまわりに空間ができた。その空間は生と死を隔てる空間だった。

 目立つことを恐れて、後藤悟は、下諏訪駅では外に出ず、ローカル線に乗り換えて岡谷駅で下車した。人気は少ない。駅前から、バスで下諏訪へ戻るつもりだった。
 バス停へ向かって歩いていると、横から若い娘が歩いてきた。いかにも田舎娘と言った感じの女の子だ。はやりの厚底ブーツを履いていた。
 その女の子が後藤の前を通り過ぎるとき、突然倒れてしまった。厚底靴のせいで足を捻ってしまったようだ。
 「痛いい・・・・」
 女の子は、蹲って呻き始めた。
 「そんな靴を履くからだ」
 後藤は跪いて、女の子と足を見てやった。
 「すみません。ついでと言っては何ですけど、あそこに見える病院まで連れていってもらえませんか?」
 若い女ににっこり微笑まれて頼まれれば、断る理由はない。後藤は二つ返事で引き受けた。
 その女の子を背中におぶって病院まで運んでいった。女の子の指示するとおりに歩いていくと、病院の裏口へ着いた。
 「ここでいいです。ありがとうございました」
 「気をつけるんだよ」
 そう言った瞬間、後ろから細いひもで首を絞められた。
 「だ、誰だ」
 「若い女には気をつけた方がいいぞ」
 その言葉を聞き終わらないうちに、後藤は魂切れた。

 岡谷インターで高速を降り、下諏訪へ向かいながら、讃井元治は、携帯電話をかけてようとしていた。事故を起こすと問題になるかな? そう思って、路側帯に車を停めて電話をかけた。出ない。もうほかの3人とも下諏訪へ着いている頃だが・・・・。おかしい。圏外ではないはずだが・・・・。
 ともかく、落ち合う場所へ行ってみよう。讃井は車を発進させた。

 「こんばんわ。予約していた讃井です」
 「ああ、三谷商事の讃井さんですね。お待ちしておりました」
 初老の男が窓口に顔を出した。丸顔の人の良さそうな男だ。
 「ほかの3人は、もう着いているかい?」
 「まだ。お着きじゃありませんが・・・・」
 おかしいなと思いながら、讃井は靴を脱いだ。
 「そうですか・・・・。あがらせてもらうよ。部屋はどこだ?」
 「二階の松の間です」
 「二階の松の間ね。風呂には入れるかな?」
 「もう入れますよ。どうぞごゆっくり」
 「入ってるときに連れが来たら、部屋で待たせておいてくれ」
 「承知しました」
 讃井は、荷物を松の間に置くと、もう一度携帯から電話した。やはり誰も出ない。まだ電車の中だろうか? 落ち合うまでまだ時間がある。きっとそうに違いない。そう思い直して、讃井は風呂を浴びることにした。
 風呂に入って汗を流し、自販機からビールを買って部屋に持って帰る。リングプルを起こし、ぎゅっと一口飲んでから、もう一度携帯に電話した。誰も出ない。
 どうしたんだろうと思っていると、階下で声がした。長谷川と名乗っている声が聞こえてきた。やっと一人来たか。讃井は少しほっとする。
 ビールを飲んで長谷川があがってくるのを待っていると、しばらくして階段を上ってくる足音がした。襖が引かれた。
 「遅かったな。まあ、一杯やれ」
 そう言おうとして、讃井は凍り付いた。そこには、長谷川ではなく、サイレンサー付きの銃を構えた男が立っていたのだ。
 「誰だ!」
 「大石雅代のいるホテルはどこだ?」
 「し、知らない」
 ブシュッと銃が発射され、讃井は右の大腿部に痛みを覚えた。
 「ううっ!!」
 「次は左足だ。どこにいる?」
 「知らない。ほんとに知らないんだ」
 左の腿に痛みが走った。
 「嘘じゃない。明日の朝、護衛隊が着く。その時、知らせてもらう予定だった」
 「ほんとだな」
 「ホントだ。嘘じゃない」
 「じゃあ、おまえにはもう用はない」
 「殺さないでくれ!」
 生まれたばかりの娘の顔が頭に浮かんだ。死にたくない。
 「顔を見られたから、そう言うわけには行かない。あばよ」
 数発の弾丸が発射され、讃井は息絶えた。