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 京子からの電話が切れると、佐野は洗面所に行って冷たい水で顔をぶるぶると洗った。まだ酒は抜けないが、気持ちだけは引き締められた。
 京子は榊の愛人だったのか。榊・・・・。佐野の相棒、杉田の敵。絶対殺してやる。殺して仇を討ち、京子をこの手に抱くのだ。

 榊に対抗するためには、少なくとも拳銃が必要だ。しかし、手元にはない。佐野は現在停職中で、署に取りに行く訳にもいかない。
 レッドイーグルのおかげで、商売ができなくなった大友と言う男が、銃を扱っていたはずだ。やつに頼めば、都合してくれるかもしれない。佐野は、早速新宿の町へ飛び出していった。

 大友の舎弟だった男を見つけた。ランジェリーパブの呼び込みをやっていた。落ちたものだ。
 「いよう。元気か?」
 「ああ、佐野の旦那。どうです? いい娘がいますよ」
 「ちょっと聞きたいことがあるんだ。顔を貸してくれ」
 「今、仕事中ですから」
 佐野は男を睨み付ける。
 「ほんの5分でいいんだ。5分でもダメなのか?」
 男は身震いをして、佐野に付いてきた。物陰に隠れて男に尋ねた。
 「大友の居場所が知りたい。知ってるだろう?」
 「し、知りませんよ」
 「嘘言うな。嘘言ったって、目を見りゃ分かるんだ!」
 「ほ、ほんとですよ」
 「ぱくるつもりじゃない。プライベートな用事があるんだ。頼む。教えてくれ」
 佐野の鬼気迫る表情に、男は大友の居場所を白状した。
 「俺から聞いたって言わないでくださいよ」
 「分かった。すまなかった」
 佐野は男の着ていたワイシャツのポケットに1万円札をねじ込むと、片手をあげてその場を去っていった。

 そこから10分ほど歩いた古いビルの3階に佐野は姿を現した。新宿金融と書かれた粗末な看板があがっている。中から、女の喘ぎ声が聞こえてきた。佐野は、躊躇いもせず、ドアを開けた。
 「だ、誰だ!」
 下半身丸出しの女が、大友が座っていたイスから慌てて降りて、衝立の後ろに姿を隠した。
 「相変わらず、お盛んなことだな」
 「何だ。佐野の旦那ですか? 何の用です? カネが必要なら、利息を安くしておきますよ」
 大友はズボンをあげながら愛想を言う。
 「おまえに借りたら、すぐに夜逃げしなけりゃならなくなる」
 「そんなことはないですよ。お客は生かさず、殺さずですからね」
 「正直だな」
 佐野は苦笑いを浮かべた。
 「で、何の用です?」
 「銃を一丁買いたい」
 「旦那。何のご冗談を」
 大友は、椅子に深々と座り直して、煙草に火を点けた。
 「おまえが銃を扱っているのは知ってるんだ。ぱくられたくなかったら、早く出せ」
 佐野は机をバンと叩く。
 「銃なんて扱ってませんよ」
 大友は動じない。煙草の煙で、ドーナツを作っている。
 「殺されたいのか? 俺は本気だぞ!」
 佐野は大友の首に手をかけた。佐野の眼光にただならぬものを感じた大友は、慌てて答えた。
 「何に使うんです? まさか公務じゃないですよね。公務なら、署から借り出せばいいですからね」
 「余計なことは聞かないでいい。早くしろ」
 佐野は大友の首から手を離した。大友は煙草の火を消して立ち上がり、探るような目で佐野を見た。
 「まさか、ただってことはないでしょうね」
 「心配するな。金は払う」
 「そう言うことなら、お出ししましょう」
 大友は、衝立の裏に回って、何やらごそごそやっている。しばらくして、銃を二丁取り出してきた。
 「これはベレッタのオートマチック。こっちは、ダーティーハリーで有名な、マグナム44。どちらにします?」
 「いくらだ?」
 「弾をサービスして、1挺15万」
 「高い。もっと安くしろ」
 「佐野の旦那。旦那だから、これでも安くしてるんですよ。勘弁してくださいよ」
 「2挺で20万じゃどうだ?」
 「そりゃひどい。儲けがなくなる」
 「ぱくられて、押収されたと思えば、20万の儲けだ」
 「・・・・旦那には敵わないなあ。しかたがない。それで手を打ちましょう。持ってけ、泥棒」
 「すまんな。そのうち、穴埋めはさせてもらう」
 「期待しないで待ってますよ」
 佐野は拳銃を懐にしまうと、新宿駅へ向かった。