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 杉田は、自分の状態を受け入れてくれたようだ。小沢はほっと安堵した。しかし、話しはまだこれからだ。
 トイレから出てきた杉田は、トイレに入る前の杉田と様子が変わった。小沢はそう感じた。
 「おれ・・・・じゃあ、おかしいですね。わたしは、これからどうしたらいいんですか?」
 小沢は杉田の正面に座って、顔をじっと見ながら話した。
 「そのことだが・・・・、君にお願いがあるんだ」
 「お願いって、何ですか?」
 「君に囮になってほしい」
 「囮ですって!?」
 杉田は大きく目を見開いた。
 「そうだ。大石雅代が生きていると、橋爪に知らせるんだ」
 「ええっ!?」
 「橋爪は、大石雅代は死んだと思っている。しかし、生きていたと知ったら、動くはずだ」
 「動くって、もう一度わたしを殺しに来るってことですか?」
 「それは分からない。連れて戻るかもしれない」
 「だけど、あの時、連れて戻ろうとはせずに、すぐに撃ち殺したんですよ」
 「・・・・まあ、そうだが、今度はそうしないと思う」
 「どう言う根拠があるんですか?」
 「大石雅代が死んだあと、3ヶ月ほどレッドイーグルの動きがおかしくなった。聞くところによると、大石雅代を失った精神的ショックで、橋爪がしばらくレッドイーグルのブレインとしての活動を放棄していたらしいんだ」
 「雅代をそれだけ愛していたと言うことなんですね」
 「そう思う」
 「じゃあ、何故殺してしまったんでしょうか?」
 「組織を守るためだろう。女一人のために、組織を危険にさらせなかったんだろう」
 「それじゃあ、今度もわたしを殺そうとするのではないですか?」
 「いや、連れ戻そうとするんじゃないかと思っている」
 「その保証があるんですか?」
 「ない」
 小沢は、間髪を入れずにそう答えた。
 「そんな・・・・」
 「やつを逮捕するためには、賭けるしかないんだ。頼む。うんと言ってくれ」
 杉田は考えている。そう簡単にはイエスとは言わないだろう。自分の命がかかっているのだから。小沢は、祈るような気持ちで杉田の返事を待った。

 杉田はしばらく考えていた。そうしてから、顔を上げて小沢の目を見て言った。
 「わかりました。やります。どうせ一度死んだ命ですから」
 「よかった。恩に着るよ。もし、君を橋爪の元に連れていくようだったら、橋爪を逮捕できる。もし君を殺そうとしたら、刺客を捕まえて、橋爪を追いつめる。刺客が榊なら、片腕をもぎ取ることになるから、作戦は成功と言ってもよくなる」
 「そう簡単にいくのかしら?」
 「やってみないとわからん」
 「・・・・そうでしょうね」
 「できる限り屈強なやつを護衛をつけておく。君が殺されないようにな」
 「佐野は? 佐野を呼んでください。わたしを守れるのは、彼しかいません」
 「佐野か・・・・。佐野は無理だ」
 「どうしてですか?」
 「君が死んでからと言うもの、やつは酒浸りで職務法規を繰り返した。先々月から、停職処分にしてある。このまま行くと、馘首だ」
 「酒浸り・・・・馘首・・・・」
 杉田は悲しいような嬉しいような顔をした。悲しい顔をするのは分かる。優秀なコンビを組んでいたパートナーがそんな風になってしまったのだから。しかし、嬉しいような顔は? 小沢は、変な気がした。
 「病院では迷惑がかかるから、作戦が開始される前にホテルに移ってもらう」
 「分かりました。で、護衛は何人?」
 「二人のつもりだが。それに、監視用に二人」
 「二人で大丈夫でしょうか?」
 「・・・・そうだな。じゃあ、倍の4人にしよう。監視用の護衛もな」
 「それなら安心です。作戦開始は、いつですか?」
 「一週間後にしよう。護衛を人選しなければならない。護衛は前日にはこちらへ着くように手配する。君は、2,3日したら、ホテルに移動してくれたまえ」
 「はい」
 「じゃあ、くれぐれも気をつけて。健闘を祈っているよ」
 「頑張ります」

 小沢は病室を出て、直ちに警視庁へ向かった。護衛の人選は急を要する。署内から8人も抜けられない。昔の部下に声をかけて、何とかかき集めなければ・・・・。
 東京へ向かう新幹線の中で、小沢は考える。
 雅代になった杉田を橋爪が都合よく連れ戻ってくれればいいが・・・・。もし殺しに来るようなことがあれば、部下を危険にさらすことになる。いや、今の杉田は部下ではない。それに、もはやあれは杉田ではない。大石雅代だ。例え殺されたとしても、杉田が二度死ぬわけではない。橋爪の情婦である大石雅代が死ぬだけだ。そう思えば、もし殺されてしまったとしても、心の痛みは軽くなるはずだ。
 俺は冷たい男なのかもしれない。いつから、こんな男になってしまったのだろうか・・・・。