初めて入れ替わった日は大変だったなあと思い出していた。まだ子供だったのに、生きるってことを結構真剣に考えたっけ。
女として、愛美として暮らした昨日一日。スカートを穿くのは、ちょっと抵抗があったけど、生きていくのに男も女もない。そう思った。ただ、大人になったとき、そう思えるかどうかは、今は分からない。
昨日寝る前、ぼくはマスターベーションした。愛美が、昨日今日が危険日だと言っていた。それは実感できた。体が火照って何とかしてくれって感じなのだ。女は妊娠するのが人生の大きな仕事だ。だから、そうなるのだろうと思う。
中学生のぼくが妊娠するわけには行かない。愛美が我慢しろと言ったのは正解だ。だけど、我慢するだけでは体の火照りは治まらない。だから、ぼくは、ぼく自身でその火照りを治めようとしたのだ。
胸や乳首は、思っていたより敏感だった。それにも増して、クリトリスは凄いの一言に尽きる。軽く触っただけで、全身に快感が走った。
射精で感じた快感の何倍もの快感の中で、ぼくは眠りについた。ずっと愛美のままでいいと思っていた。
目が醒めたら、ぼくはぼくの部屋で寝ていた。体を触ってみると、男に戻っていた。ぼくは、ちょっとガッカリした。
入れ替わったのも何の前触れもなかった。元に戻るのもそうだった。訳が分からなかった。
「雅也! 雅也」
愛美の大きな声が聞こえてきた。ぼくは、窓を開けて愛美の返事した。
「なに?」
「元に戻っちゃったね」
にっこり笑った愛美の笑顔が可愛い。
「うん」
いつものように、愛美が、窓からぼくの部屋に入ってきた。
「取り敢えず良かったね」
「ああ」
「一時はどうなるかと思っちゃった」
パジャマ姿の愛美が床にぺたりと座り込み、ぼくを見上げてそう言った。
「そうだね」
「あら? 雅也は、元に戻りたくなかったの?」
愛美は小首を傾げた。
「そんなことないよ」
「そう? そんな風に見えないけど・・・・」
「そんなことないってば!」
ぼくは、もう一度女として、マスかいてみたいと思っていた。そんな自分の心の中を覚られまいと必死だった。
「まあ、いいわ。雅也!」
「なんだよ」
「元に戻っても、ずっと一緒よ」
愛美は、ベッドに座っているぼくのそばに座り直して、ぼくにもたれかかってきた。
「分かってるよ」
愛美の体の柔らかさを感じながら、ぼくはそう答えた。
それから、ぼくたちは入れ替わることもなく平穏な日々が過ぎていった。安全日だと言った月曜日、ぼくたちは、親に隠れてセックスした。やっぱり男がいいな。その時は、そう思った。
それから10日ほどたったある朝、目覚めてみると、ぼくは愛美になっていた。今度も何の前触れもなかった。
「どうしてだよ。どうして入れかわっちゃんだ!」
ぼくの部屋にやってきた愛美に尋ねた。
「分からないわ」
愛美も首を傾げて考える。
「明日になったら、元に戻るのかなあ」
「この前は一日で元に戻ったわね」
「一日で元に戻るって、確証はあるのか? 愛美」
「ないわ。待つしかないでしょうね」
「そうだな。・・・・ところで、なんか、ごわごわするけど、これ、何?」
「・・・・生理が始まったの」
「生理!? 生理が始まった!?」
「そうよ。女は月に一度は生理があるの。そんなこと知ってるでしょう?」
「知ってるけど・・・・。生理を経験できるなんて、思ってもみなかったよ」
「ちょっと辛いと思うけど、頑張ってね」
気の毒そうな顔をして、愛美がぼくを見た。
「辛い?」
「まだ始まったばかりだけど、だんだんひどくなるから・・・・・」
「どんな風に?」
「なったら、分かるわ」
愛美は簡単に言ったけど、辛いの一言じゃあ治まらなかった。お腹とも腰とも言えない部分にひどい痛みが襲ってきて、立っていられないのだ。それに、気分の悪いことといったら、この上ないのだ。
そう言えば、愛美は月に一度、必ず二日学校を休んでいた。その理由が、この生理痛のためだとようやく分かった。
「女はみんなこんなにひどいの?」
「わたしは特別よ」
「こんなのが、一生続くの」
「子どもを産めば、軽くなるってお母さんに聞いたけど」
「子どもなんて、まだ早いよね」
「うん。大人になるまで、我慢しなくちゃ。はい、お薬」
セデスを飲んでも、痛みは完全には治まらなかった。ただただ、ベッドの上に横になっていた。
この痛みが2日続くと聞かされて、ちょっと絶望的になったけど、もしかすると、一日でぼくは雅也に戻り、この生理痛から解放されるんじゃないかと期待していた。
思った通り、翌日ぼくは雅也に戻っていた。窓から、愛美の部屋を覗くと、愛美が恨めしそうな顔をして、ぼくを見ていた。
それから、4週間後、ぼくは再び愛美になった。愛美は、またもや生理中だった。
「なんだよ。どうしてだよ」
「ごめん。一日我慢して」
「なってしまったものは仕方ないけど、どうしてなんだろう?」
「・・・・分からないわ」
「あああ、早く1日たたないかなあ」
それから、4週間後、ぼくはまたもや愛美になり、やっぱり生理中だった。
「どうしてだよ。愛美が生理のときに入れ替わるなんて!!」
愛美は、下を向いたまま押し黙っている。何か心当たりがありそうだ。
「愛美!! なんか心当たりがあるんだろう!」
「・・・・心当たりって言えば、・・・・あるけど・・・・」
「何だよ。はっきり言ってみろよ」
「女の子がそんな言葉遣い・・・・、おかしいよ」
「おかしくてもおかしくなくても、そんなこと関係ないだろう? 愛美のせいで、こうなってるんじゃないのか? ぼくは怒ってるんだからね」
「分かったわよ。・・・・雅也、最初に入れ替わった日の前の日、あなた、寝る前に何か思わなかった?」
「最初に入れ替わった日の・・・・前の日?」
あの日は? あの日は・・・・、息抜きにファミコンしていて、母に勉強しなさいって怒られて、ファミコンを取り上げられたんだっけ。そして、・・・・受験勉強なんて嫌だ。愛美はいいなって思ったんだ。
「それだと思うのよ」
「えっ!? どう言うこと?」
「愛美はいいなって思ったってことは、わたしになりたいって思ったってことでしょう?」
「うーん。そう言うことかな?」
「だから、入れ替わったのよ」
「・・・・て言うことは、愛美! 生理が嫌だから、ぼくになりたいって思ったってことか!」
「うん。そうだと思うの。先々月も、先月も、昨日の夜も、わたし、生理のない、男になりたいって思ったから・・・・」
「なるほどね。・・・・愛美! 次からはもうやめてくれよ。これはおまえの役目なんだから」
「分かってるわ。もう二度と思わないから」
「1日たたないと元に戻らないんだろうか?」
「さあ、どうかしら?」
その日から、ふたりで相談して、いろいろと試してみた。いろんなことが分かった。
まず第一に、入れ替わりたいと願っても、いつでも入れ替わるというわけではない。夜の午前0時から午前3時の間に願った場合に限られることが分かった。
第2に、入れ替わったあとは、どんなにお願いしても元には戻らないが、24時間たつと、自然に元に戻る。また、入れ替わりが24時間以上続くことはない。
第3に、元に戻った後、24時間は、入れ替わることはない。つまり、ぼくがずっと愛美のままでいることはないのだ。
第4は、ちょっと困りものだ。この入れ替わりは、どちらか一方が願うだけでいい。つまり、相手の意向など関係なく、もう一方が願うと入れ替わるのだ。例えて言うなら、ぼくがいくら入れ替わりたくないと思っても、愛美がその気になれば入れ替わってしまうのだ。これはあんまりだと思う。しかし、どうしようもないのだった。
「とにかく、生理中に、ぼくと入れ替わろうなんて思わないでくれよ。今度やったら、絶交だからね」
「分かったって、言ってるでしょう? 何度も言わせないでよ」
愛美の怒った顔は結構可愛い。
「分かってりゃいいんだ。入れ替わるときは、互いに相談しよう。それでいいね」
「いいけど、雅也がわたしになりたいことなんてあるの?」
女として、セックスしてみたいなんて言えないから、考えていたほかの理由を愛美に話すことにした。
「ぼくは、理数系が得意で、愛美は英語が得意だろう?」
「うん」
「入試のとき、時間割が許せば、入れ替わって受験してくれないか?」
「ああっ! そんなの狡いよ。絶対」
「いいじゃないか。誰も気づかないだろうから」
「うまくいったら、痛みを分け合ってくれる?」
「生理か?」
「そう」
「交換条件か。まあいいよ。だけど、上手く行ったらの話しだよ」
「契約成立ね」
「そう言うことにしよう」
高校入試は、時間割が思った通りに行かず、結局ぼく単独でテストを受けた。何とか合格することができた。愛美は、推薦だから、問題なく女子高へと進んだ。
通う学校は異なっても、家に帰るとぼくたちはほとんど一緒に過ごした。月に一度、安全日にセックスもしている。勿論、親たちは知らない。
ふた月か三月に一度、ぼくは愛美に頼んで入れ替わって愛美になり、女としてセックスしている。相手は当然のことながらぼく自身だ。交換条件は、ぼくが生理の数日間を愛美として過ごすこと。
愛美は、ぼくが女としてのセックスのほうがいいから、こんな条件を呑んでいると思っている。しかし、ホントのところはそうでもない。
確かに女としてのセックスもいい。しかし、男の快感も捨てたものではない。男のそれは、急峻で、確実だ。一方、女のそれはだらだらといつまでも続く。頂点は確かにあるけれど、男と違って、必ず頂点に達するとは限らない。むしろ、今一歩ということが多いのだ。ひとりエッチだって、最初の時は最高だと思ったけれど、やっぱ男の方のには敵わないと思う。だから、ぼく自身は男のほうが好きだ。迅速かつ確実な方が。
それでは、なぜぼくが愛美になって生理を引き受けているかと言えば、それは愛美に対する思いやりでしかない。ぼくは愛美を愛している。だからこそ、痛みを分け合いたいと思っているからだ。
愛美はそこのところを分かっていない。だけど、それでいいのだ。いつかはぼくの気持ちを愛美は分かってくれる。そう信じている。