第8章 驚きの新パーツ

 いつもより少し早い午前6時に目を覚ました久美は、女装しようとしてハッと思いとどまった。マークVが来たら、装着し直さないといけないと。そこで、Tシャツにジーンズという出で立ちで北村を待った。
 北村がやってきたのは、午前9時ちょうどだった。
 「待ったか?」
 「ええ、首がキリンみたいになっちゃった」
 「すまん、すまん」
 北村はバッグを床の上にどんと下ろして、胡座を掻いて開き始めた。久美は、玄関の鍵を掛ける。
 「これだ」
 手渡されたふたつのパ−ツを久美はじっと見つめる。
 「どこが改良されたの?」
 「ふふ。身に着けてみればわかるよ」
 相変わらずの言い方だ。マークUとぜんぜん変わったところはなさそうだと思いながら、久美は女性変身パーツを身に着け、変更のない喉仏パーツをくっつける。
 「どうだ?」
 「何が変わったの? ぜんぜんわからないけど・・・・」
 「鈍感なやつだなあ」
 「だって、わからないんだもの。どこが変わったの? 教えてよ」
 「教えなくなって、そのうちわかるよ」
 「意地悪!」
 「いつものことだろう?」
 久美はふくれて、下着を身に着け、ブラウスに膝上丈のタイトスカートを穿いた。
 「まだ、わからんか?」
 「わからないわ」
 「あああ。2週間も掛けたのに、無駄骨だな」
 「だから、どう違うのよ」
 「ま、そのうちわかってくるだろう。ところで、今日、明日の予定は?」
 「予定なんかないけど」
 どこかに出かけて、写真を撮って貰うしかないなと久美は思っていた。
 「鬼怒川にでも行こうか? 一泊泊まりで」
 「鬼怒川? 鬼怒川温泉のこと?」
 「そう。秘湯の里で、露天風呂に浸かるクミを写真に収めるって言うのはどうだ?」
 「わあ、嬉しい。行く、行く」
 「善は急げだ。すぐに準備しろよ」
 「北村さんは?」
 「ほらこの通り」
 バッグの中から、下着と髭剃りを取り出す。
 「ちょっと待って、すぐに準備するから」
 久美は右往左往する。今着ている服は外出に適しているかとか、明日も同じ服は着られないとか、化粧品はどれくらい持っていけばいいのか、ドライヤーもいるかしらとか、なかなか準備が整わない。
 「まだかよう・・・・」
 業を煮やして北村がぶつぶつ言い出す。
 「もうちょっと、もうちょっと待って」
 「女の買い物と旅行の準備にはつきあえんな」
 たばこを吸わない北村は、手持ちぶさたにしている。「女」と言う言葉に、久美はちょっと嬉しくなる。

 「おまたあ」
 大きな鞄をぶら下げて、久美がニコニコと北村のそばに座った。
 「何持っていくんだよ。一晩泊まるだけだぞ」
 「だって、みんな必要なんだもん・・・・」
 「参るな。ま、いいや。さあ、行こう」
 恋人同士のように見えるふたりだから、女に荷物を持たせるわけにはいくまいと、北村は久美の鞄も抱えた。
 「いいよ。自分で持つから」
 「車までだからいいさ」
 アパートの前の空き地に停めてあるパジェロまで荷物を運ぶと、車は一路鬼怒川へと向かった。

 開け放たれたウインドーから吹き込んでくる秋風が気持ちいい。長い髪をなびかせる久美を、北村は時折まぶしそうに横目で見ていた。
 車は、大きなホテルの建ち並ぶ中心街を抜けて、ひっそりとした森の中へと入っていった。
 「こんなところにホテルがあるの?」
 「秘湯の里って言っただろう? 小さな、まあ、旅籠ってところかな?」
 「へえ。面白そう」
 舗装されていないでこぼこ道を進むと、不意に湯煙の立つ和風の建物が眼前に現れた。
 「へえ、こりゃすごい」
 北村が感嘆の声を上げた。
 「北村さんも初めてなの?」
 「勿論だよ」
 「誰からここのことを聞いたの?」
 「仕事場の先輩。先月、彼女と来たらしい」
 「へええ。高そうね」
 「それなりだよ」
 いくらするんだろう? 割り勘でもいいようにお金は持ってきたけどと久美は思っていた。
 「いらっしゃいませ。北村様ですね」
 砂利の敷かれた駐車場に車を停めて玄関をくぐると、いかにも番頭というような白髪の男性が出てきて挨拶した。
 「宿帳にご記入をどうぞ」
 北村がペンを取り宿帳に記入する。北村良介の横に「妻・久美」と書いている。久美はなんだか嬉しくて、空を飛んでいるような気分になった。
 「どうぞ」
 番頭さんに付いていくと、雅(みやび)と書かれた部屋に案内された。大きなテーブルの置かれた、床の間のある10畳あまりの部屋があり、その向こうに遠くの山々と鬼怒川が望める3畳あまりの和室があった。さらに6畳の和室が隣に付いていた。
 「24時間営業の露天の大浴場がございますのでどうぞ。お食事は、午後6時半でよろしかったですね」
 「はい。お願いします」
 「では、ごゆっくり」
 番頭さんは、丁寧に頭を下げて出ていった。
 「大丈夫なの?」
 「何が?」
 「すっごく高そう」
 「心配するな。俺のおごりだ」
 「えっ? いいの?」
 「俺の方が年上、おまえは女。俺が支払うのが当然だ」
 「女だなんて・・・・」
 「違うのか?」
 「あ、まあ、今はそのように振る舞っていますけど・・・・」
 「それでいいじゃないか。楽しんでくれ。俺はおまえの写真を撮れれば、それでいい」
 「そう? じゃあ、お言葉に甘えまして」
 久美は、荷物を整理して浴衣を丹前に着替えた。そんな様子を北村は写真に収める。
 「入浴シーンを撮ろうか?」
 「エッチ!」
 「いつも俺にヌードを晒しているくせによく言うよ」
 久美は肩をすくめる。
 「露天風呂って、混浴なの?」
 「あ、そうか。女湯じゃあ、俺が入れないし、おまえを男湯に入れるわけにもいかんか・・・・」
 「入浴シーンはお預けして、とにかくお風呂に入りましょうよ」
 「そうだな。そうするか」
 二人して、案内に従って露天大浴場へと向かった。
 「おい、クミ。おまえは向こうだろう?」
 腕を組んで北村と一緒に男湯に入ろうとして押し止められた。
 「あ、そうか。わたしは女湯か。じゃあ、バイバイ。あとでね」
 久美は、北村に手を振って女湯へ入っていった。

 脱衣籠の中には浴衣があった。先客がいるようだ。久美は、ばれるはずはないと思いながらも、ちょっと緊張しながら着ているものを脱いで露天風呂に続くドアを開いた。
 ひとりが洗い場で身体を洗っており、もうひとりは湯船に浸かって遠くの景色を眺めていた。
 久美の気配に、ふたりとも久美を見たが、すぐに視線を戻した。
 (よかった。ばれてない)
 久美は、掛かり湯をして湯船に入る。少し熱めのお湯が身体にしみた。
 (気持ちいい。来てよかった)
 のびをしながら、久美は呟く。そうして、ふたりの女性の仕草をそれとなく観察した。座り方、タオルの使い方などだ。
 ひとりが露天風呂を出ていった。もうひとりが洗い場へと向かう。久美も続いた。見られてもおかしくないようにして身体を洗い、髪を洗った。
 (あれ? なんか違う)
 身体を洗いながら、いつもと違う感覚を覚えた。これがマークVなんだと感慨を覚え嬉しくなった。
 再び湯船に浸かり、体を拭いて脱衣場で浴衣を着て外に出た。北村が待ちわびたというような顔をして待っていた。
 「待った?」
 「ああ、湯冷めしそうだ」
 「も一度入ってきたら?」
 「そうしよう」
 北村は、男湯に飛び込んでいく。
 「先に部屋に戻ってるから」
 「わかったよ」

 ドライヤーで髪の毛を乾かしていると、北村が戻ってきた。
 「おまえ、化粧しなくても可愛いな」
 すっぴんの久美を見てマジでそう言った。
 「男性ホルモンが足りないって言いたいの?」
 「そんなこと言ってないさ。褒めてやってるだけさ」
 「ありがとう」
 髪が乾くと、久美はお肌の手入れを始める。
 「そうか。肌が綺麗なのは、そのせいか」
 久美が乳液をマッサージするように擦り込んでいる様子を見て呟く。
 「そうかも」
 そんなことをしていると、女性の声がした。
 「お食事をお持ちしました」
 仲居さんがふたり入ってきて、料理を並べ始める。
 「お飲物は?」
 「ビール・・・・で、いいよな」
 北村が聞くので、ええとニッコリ笑って久美は答えた。
 「可愛らしい奥さんですね。新婚さんですか?」
 「半年前、結婚したばかりです」
 平気な顔をして、北村が答えた。
 「そうですか。お子さんはまだですか?」
 「来年あたり作ろうかって話しをしてるんです。なあ、クミ?」
 「え、ええ」
 仲居たちは、北村の言うことを信じて疑わない。ほとんどすっぴんの久美でも、女としてみられていることがわかって、久美は嬉しくなった。
 山の幸を中心とした料理に舌鼓を打った。ヤマメの塩焼きは絶品だった。ステーキなんて余分だと思った。
 食事をしながら、相変わらず北村はシャッターを押し続けた。写真集でも販売するつもりなのかしらと久美は思う。でも、そんなことされたら困る。アラレもない姿態をした写真もあるのだから。

 食後の散策を楽しんで帰ると、料理は片づけられていて、お茶と夜食用のおにぎりの入った籠がテーブルの上に置かれていた。
 「へえ、至れり尽くせりね」
 「この旅館のご主人のこだわりらしい」
 「ふうん」
 久美はお茶をいただき、北村は夜食を久美の分まで食べてしまった。
 「よく入るわね」
 「せっかく用意してくれたから、残すと悪いから」
 しばらくテレビを見ると、時計は午後11時を指していた。
 「運転で疲れたし、もう寝るか」
 「そうね」
 北村が立ち上がって、布団が敷かれている隣の6畳間を覗く。布団が二組並べて敷かれていた。
 「お休み」
 北村は左側の布団の中に潜り込んだ。久美は右側の布団の中に足を突っ込んで北村を見た。
 久美は迷っていた。本物のペニスを味わうために北村を誘うチャンスは今しかない。かなり迷ったあげく、久美は言葉を口にした。
 「寒いね」
 「そうだな」
 北村は久美に背中を向けたまま答えた。
 「一緒に寝ましょうよ」
 「一緒にか?」
 目を丸くして久美の方を見た。
 「その方が暖かいから」
 「・・・・そうだな」
 北村は顔を伏せる。
 「夫婦なんだから、一緒に寝てもかまわないでしょう?」
 「あ、まあ、そりゃそうだが・・・・」
 「どうかしたの?」
 「おまえと一緒に寝たら、妙なことになりそうで・・・・」
 久美は北村の顔をじっと見つめる。
 「妙なことになりたいから、ここに誘ったんじゃないの? それに、そうじゃなかったら、宿帳に夫婦なんて書かないでしょう?」
 北村にもその気があった。何しろ今の久美はまったく女に見えるのだから。
 「・・・・いいのか?」
 「いいから、付いてきたんでしょう?」
 「ほんとに?」
 「その気がなくなってもいいの? 早く」
 久美は、北村の手を引いて布団の中に引っ張り込んだ。
 「あのさ。おまえのあそこを使うんだよな」
 「だいじょうぶ。コンドーム、用意してきたから」
 そう言うと、北村は嬉しそうな顔になった。久美は、北村の首に腕を回し、唇を合わせた。北村が舌を差し入れてくる。久美はそれを一生懸命吸った。
 北村が浴衣の前から手を入れて久美の乳房を揉み始めた。
 「あん」
 「感じるか?」
 「ええ。感じるわ。これが、マークVなのね」
 「そう。乳首と乳房の何カ所かにセンサーを取り付けて、おまえの乳首や胸に刺激が伝わるようにしてある」
 「すごく感じる。まるで、自分のおっぱいみたい・・・・」
 北村が人工乳房の乳首を吸うと直接乳首を吸われたように感じた。北村の手が下たに降りてきて、ショーツを下げクリトリスの部分を触る。
 「ううん・・・・」
 「ここも感じるだろう?」
 「ペニスを擦られているみたい」
 「クリトリスの隆起の中にやっぱりセンサーを取り付けてあるからね。亀頭に信号が伝わるようになっている。ここはどうだ?」
 「ああ、そこも感じる」
 陰唇部分の信号は、陰嚢に伝わるようにしてあった。北村は、久美の股間にある人工女性器が濡れてきたのを感じた。
 股間へ降りていってショーツを剥ぎ取り、そこに舌を這わせると久美は悶え喘いだ。
 「ああ。いい。あん、北村さん、いいわ」
 「おい。北村さんはないだろう? 良介って呼べよ」
 「ああ、良介愛してる」
 北村はそんな言葉にちょっとビックリするが、そのまま久美への愛撫を続けた。愛撫されながら、久美は北村とこうなったときにやろうと思っていたことを実行に移すことにした。
 「良介?」
 「なんだ?」
 「・・・・フェラ、フェラチオしてあげようか?」
 「フェ、フェラチオをか?」
 「ええ、やってみたいの。女の子はみんな男の人にやってあげるんでしょう?」
 久美がそんなふうに言ったのは、久美が今までつきあった女はセックスするとなるとみんな躊躇いもせずに久美のペニスにしゃぶりついていたからだ。それに、ディルドーを相手にフェラチオらしきことはやってみていたけれど、それでは満足できなかった。本物のペニスがどう反応するか知りたかったのだ。
 一方、期待はしていたが、男である久美の方からそう言ってくれるとは思っていなかった北村は、すぐに頷いた。
 (フェラチオなしのセックスなんて、クリープの入らないコーヒーだな)
 ずいぶん古いコピーを思い出したものだと北村は思っていた。久美は北村の大きく怒脹したものを口にくわえ、舌を這わせた。ディルドーとは違うものだから、歯が何度か当たってしまって久美は言い訳をした。
 「初めてだから、うまくできないけど、我慢してね」
 「すごくいいよ・・・・」
 時々歯が当たって痛いけど、うまくできないと言った割にはうまいと北村は思っていた。男だからどこが感じるかわかっているからだろうと北村は思っていたが、久美の方はただ一生懸命やっていただけだった。
 しばらくして、北村はペニスに冷たい感触を覚えた。久美が北村のペニスにコンドームをかぶせたのだ。
 「来て。良介」
 久美が仰向けになって、足を開き膝を立てる。北村はその上に重なった。
 「ホントにいいんだね」
 「何度も言わせないの」
 久美はアヌスの緊張を解き、北村を迎え入れた。ディルドーでなれていたから、痛みはなかった。痛みの代わりに、久美はディルドーとはまったく違った感覚を覚えていた。それは経験したことのない快感だった。
 (アア、いい気持ち。早くやって貰えばよかった)
 「ああん・・・・」
 思わず久美は腰を振った。久美が腰を前後に振るたびに、北村のペニスが締め付けられた。それは故意ではなくて、感じている久美の自然な動きだった。北村は、今抱いているのが前嶋ヒサヨシという男であると言うことを忘れて腰を動かし続けた。
 久美は感じていた。ディルドーでは感じられないペニスの暖かさを感じ、完全に北村の支配下に置かれているという受動的な状態に酔っていた。
 北村の動きが性急になって行くに連れて、久美は昇っていくのを自覚した。
 「ああ、良介、良介。ああ、いい。行きそう。もっと、もっと。もっと激しくう・・・・」
 北村がそのすべてを久美に中に吐き出したとき、久美は身体を硬直させた。
 「ううん・・・・」
 北村は、激しく締め付けらる痛みを伴った快感の中で、「俺は久美を愛している」と感じていた。