第4章 写真撮影

 「彼女に会いたいんだ。ここへ呼んでくれ」
 北村は、薄笑いを浮かべて久美に言う。
 「勘弁してください、北村さん」
 「俺に会わせたくないのか?」
 「もうわかってるんでしょう?」
 嘆願するように久美は言う。
 「会いたいんだ。おまえの素敵な彼女に」
 久美は項垂れる。北村は、カメラに収められた女性が久美だとわかってそう言っている。会いたいと言うことは、久美に女装してみろと言うことだ。
 「どうしても直接会いたいって言うんですか?」
 「ああ、そうだ」
 テコでも動きそうもなかった。久美は一度溜息をついた。
 「30分待ってもらえます?」
 「30分だな」
 ニヤリと北村は笑みを浮かべた。
 「はい。ちょっとその辺でも散歩してきてください。その間に呼び寄せます」
 「わかった」
 北村は、カメラを鞄の中に戻して抱えると部屋を出ていった。

 「逃げ出せないしなあ・・・・。仕方ない」
 久美は、覚悟を決めて女装にかかった。クローゼットの中から先ほど放り込んだ服を取りだして身に着け、髪の毛を分け直して化粧を施した。
 ピッタリ30分たった頃、北村が玄関のチャイムを鳴らした。久美はちょっと躊躇いながらドアを開けた。
 北村は、久美の姿を見てほうと感嘆の声を上げ、丁寧に頭を下げた。
 「初めまして。ヒサヨシの友人の北村です」
 「は、初めまして」
 久美はうわずった小さな声で答えた。
 「邪魔していいかな?」
 「あ、ど、どうぞ」
 北村は部屋の中に入ると、先ほど口を付けた紅茶を一口飲んで、久美の姿を頭のてっぺんから足の先まで何度も見た。
 「ヒサヨシがぞっこんになるのも無理はないな」
 久美は恥ずかしくて下を向く。
 「ところでヒサヨシはどこへ行った?」
 意地悪そうに北村が言う。
 「北村さん、虐めないでくださいよ」
 久美は下を向いて小さくなる。
 「ふふ。しかし、よく化けたもんだな。カメラに収めたときも気がつかなかったぜ」
 「そうですか?」
 「おまえの姉さんよりも美人だな」
 そう言われて一層気恥ずかしくなった。
 「足も綺麗だ」
 久美は慌てて座り込んだ。北村は、床に頭をすりつけてミニスカートの裾の方から中を覗き込もうとする。
 「止めてくださいよ」
 久美はスカートの裾を押さえた。
 「いやあ、ほんと、こりゃ参った」
 紅茶をがぶりと飲む。
 「誰にも言わないでくださいね」
 久美は両手を合わせた。
 「誰に言うって言うんだよ」
 「あ、まあ。そうですね」
 「黙っててやるよ。しかし、何でまた女装なんてしようと思ったんだ?」
 「それはですね・・・・」
 久美は、女装を始めた経緯を話した。ただし、ディルド−を使ってのマスターベーションについては隠した。
 「へえ、そうだったのか。女装する動機って言うのもいろいろだな」
 「他にも知ってるんですか?」
 「ああ、知ってるさ。女になりたいやつもいれば、ホモで相手を見つけるためなんてやつもいる。おまえはどうなんだ? ホモってことはないよな」
 久美は頭を横に振った。
 「ないですよ。さっき話したとおりです。ぼくの恋愛対象は女。女装は単なる趣味に過ぎません」
 胸を張ってきっぱりと答えた。
 「なるほど。しかし、おまえくらい美人になれたら、女装も楽しかろうな」
 「まあですね」
 「・・・・写真、撮ってやろうか?」
 「えっ! 写真ですか? とんでもないです。人に見られたら恥ずかしいですから」
 久美は両手を振って断る。
 「このデジカメで撮って、データーをおまえにやるよ。それならいいんじゃないか?」
 「・・・・はあ」
 「鏡は右左逆だろう? 実際のおまえとは違うぞ」
 「あ、そうですね」
 じっと考える。鏡の中の自分はすぐに消えてしまう。しかし、カメラに収めれば、いつでも取り出せる。それも、久美のコンピューターの中にだけ記録しておけば、誰にも知られることはない。
 「じゃあ、お願いします」
 その答えを聞くなり、北村はバッグの中からデジカメを取りだした。
 「じゃあ、そこに立って。もう少し斜に構えろよ。そうだ。行くぞ」
 フラッシュが焚かれる。いいと言ったものの久美は恥ずかしさと緊張でどきどきしていた。
 「他の服はないのか?」
 「ありますけど」
 「着替えてくれ」
 「わかりました」
 クローゼットの中からワンピースを取り出す。久美は北村を見た。
 「恥ずかしいから、向こうを向いていいてくれませんか?」
 「だめだ」
 「だって・・・・」
 「いいから早く着替えろ」
 口を尖らせながら、スカートを下ろしTシャツを脱いだ。予想していたとおり、その間も北村はシャッターを押し続けた。
 ワンピースを着ると、いろいろなポーズを取らされてシャッターが押された。
 「もういいでしょう?」
 「もう少しメモリーがある。下着だけになって、ベッドの上でポーズを取ってくれ」
 イヤだと言っても許してくれそうもない。久美は、ブラとショーツだけになってベッドの上に行き、言われるままにポーズを取った。

 メモリーがなくなった。北村はデジカメの中からメモリーを取りだし、久美のコンピューターにセットして、ハードディスクの中にコピーした。
 「こちらの分は消していくからな」
 そう言って、北村はデジカメ用のメモリーの中にあるデータを消した。それから、今撮ったばかりの久美の姿をモニター上に表示した。
 「どうだ? こうしてみる自分の姿は?」
 久美はじっとモニターを見つめる。
 「鏡で見るのとは全然違いますね」
 「ああ、実物はもっと可愛い」
 真顔でそう言われて久美はポット顔を赤くした。
 「おまえが女だったら、この場で押し倒すところだ」
 久美はギョッとして北村を見た。
 「それくらい可愛いってことだ」
 北村はニヤリと笑った。モニターに次から次と画像が表示されていく。スカートを脱ぐ自分にペニスが勃起した。それを北村に悟られまいと、久美は膝をギュッと閉じた。
 下着姿の久美の画像が映し出された。ペニスの膨らみがわからないようにうまく撮ってあって、まるで本物の女に見えた。
 (北村さんって、カメラマンの才能がある見たい)
 北村はもう一度初めから画像を眺め始めた。そうしてから、ぽつりと言った。
 「女物の服って言うのは、確か号数で言ったよな」
 「あ、はい」
 「おまえが着ているのは何号だ?」
 「9号です」
 「9号って言うのは、大きいのか小さいのか?」
 「小さい方だと思いますけど、そんなこと聞いてどうするんですか?」
 「モデルの服を調達してきてやるんだよ」
 「ええっ!」
 「おまえにいろんな服を着せて撮りたくなった。いいだろう?」
 有無を言わせぬ表情にうんと答えざるを得なかった。そんなことはしないだろうけれど、イヤだと言ったら、女装をばらすと脅されそうだった。
 北村が帰ったあと、久美はモニターを何度も見た。ホントに綺麗に撮れていた。こんな風に写真を撮って貰うのも悪くないと思った。

 翌日の日曜日の早朝、北村は大きな紙袋を抱えて久美の部屋にやってきた。
 「まずこれ、行こうか?」
 久美に手渡したのは、バドガールの衣装だった。
 「こんなの恥ずかしいですよ」
 「おまえは足が綺麗だから似合うって。パンツは白にしろよ」
 白のショーツに白のブラを身に着けて、白のパンストを履いてバドガールの衣装を着た。化粧はピンク系にして、ちょっと前に買ったウイッグをかぶった。
 「おっ! そのカツラはいいな」
 カツラだなんて古いなと思いながら久美はそのことを口には出さなかった。立ち姿、膝を突いた姿、ベッドの横になった姿、そしてショーツをちらりと見せた姿などが何十枚と撮られた。
 コンピュータにデータを移してメモリーを空にすると、次は北村はセーラー服を取り出した。
 「北村さん。ぼくの年を考えてくださいよ。セーラー服なんてとても着られませんよ」
 「着て見なきゃわからんだろう?」
 にべもなくそう言われて、久美はセーラー服に着替えた。
 「似合う、似合う」
 煽てられて久美はポーズを取った。北村はこれでもかこれでもかとシャッターを押し続けた。
 ふとした弾みに、久美は北村の股間が膨らんでいるのに気がついた。久美に欲情していると思った瞬間、怖くなった。まさか、自分を襲ったりしないだろうなと。しかし、そんな事態は起こらなかった。
 カメラのレンズを通してみる久美の姿に欲情していただけで、実際にそんな気はないと北村が笑いながら言ったのだった。
 (まあ、普通はそうだろうな。いくら可愛く見えるからと言って、男とわかっているのに襲おうなんて気にはならないだろう)

 モニター上の写真を眺める。どれも男が女装しているとは思えない。どの服装も似合うと思うけれど、普段着にしている白のミニスカート姿が一番似合っていると久美は思った。

 翌週からも土曜日になると、北村は女装用の服と食料を抱えて久美の部屋にやってきて、一日中シャッターを押しまくった。
 北村の久美の女装がばれてから、3週間目の日曜日、ワインレッドの下着姿の写真を撮っているとき、北村が不満そうに言い出した。
 「胸の谷間がないって言うのは何ともしがたいな」
 「北村さん、こればっかりはどうしようもないですよ」
 「手はないことはないんだが・・・・」
 「はあ?」
 「ヒサヨシ、そのブラジャーを取れ」
 「取ってどうするんですか?」
 「いいから、早く」
 ブラジャーを取り去ると、久美の真っ平らな胸が露わになる。女になったつもりでいる久美は、恥ずかしげに胸を両手で隠した。
 「カツラも取って」
 「はあ?」
 「髪の毛が邪魔なんだ。早くしろ」
 何がなんだかわからず、久美はウイッグを取った。
 「両手を横にあげて真正面を向け」
 言われたとおりにすると、北村はシャッターを切った。
 「こんな写真を撮ってどうするんですか?」
 「いいから、いいから。今度は横を向いて」
 仕方なく久美は横を向く。北村はさらにシャッターを切り続けた。
 「よしよし」
 北村は、撮った写真をコンピューターに移そうとしないで、バッグの中にしまった。
 「北村さん、困ります」
 「裸の上半身だけだ。何も心配することはない。それに、この写真だって、他人には絶対見せない。約束する。いいな?」
 「わ、わかりました」
 何をするつもりなのか久美にはさっぱりわからなかった。

 翌週、北村は久美の部屋にはやってこなかった。さらに一週間がたった土曜日の午後、北村がやってきた。
 「何してたんですか?」
 「俺が撮影助手をしているのは知ってるな」
 「はい」
 北村は、某映画会社の撮影助手をしている。いずれは、スピルバーグみたいな監督の下で撮影監督をしてみたいと言っていた。
 「今、撮影中の映画に特殊メークが使われているんだ」
 「特殊メーク?」
 「そう。スター・ウォーズや猿の惑星なんかに使われているやつだよ」
 「ああ。で?」
 「谷間を作ってやろうって言うんだよ」
 「あ、まさか、胸を作ってきたってこと?」
 「そう言うことだ。これだ。付けてみろ」
 北村が取り出したのは、ピンク色のシリコンのような材質の乳房がふたつ連なったもので、ストラップ風のものも連結してあった。
 「本物そっくりの柔らかさですね」
 乳房の部分を揉むようにして触ってみて久美が感心したように言った。
 「そうだろう? ずれないように接着剤を塗るからな」
 北村は、裏面に何やら液体を塗り広げ、フウフウと息を吐きかけて乾かした。
 「さあ、付けてみろ」
 久美は上半身裸になり、頭から通す。位置を調節して体に密着させた。
 「ぴったりですね」
 「そりゃそうさ。おまえの写真をコンピューターに取り込んで、女の胸の写真と重ね合わせて、サブトラクションという技法で立体成型したんだからピッタリのはずだ」
 「あ、なるほど」
 前後左右から写真を撮ったわけがやっと理解できた久美だった。鏡に映してみると、本物の胸ができたようで気恥ずかしく、顔が赤くなった。
 「乳房丸出しって言うのもいいが、まずはブラジャーを着けろよ」
 「は、はい」
 久美は、ブラの中からオイルパッドを取り出す。しかし、そこでブラを手にしたまま北村を見た。
 「どうしたんだ?」
 「このブラは、Bカップなんです。この胸には・・・・」
 「あ、そうだったな。・・・・実は買ってきたんだ」
 北村が白のブラをポンと投げてよこした。
 「北村さんが買ったんですか?」
 「ああ」
 「恥ずかしくなかったんですか?」
 「恥ずかしかったさ。しかし、彼女にプレゼントするって言ったら、別に何も言わないで売ってくれたよ」
 北村の勇気には恐れ入る。久美は、Dカップのブラジャーをする。ブラを付けるときに前屈みになるのが必要だと言うことが本当に実感できた。
 「いいなあ」
 笑みを一杯に浮かべて、北村はカメラを構えた。乳房の谷間が写るように、北村はアングルを調整する。ブラを取り除いた写真も撮った。
 人工乳房を付けて、股間のふくらみが見えないようにして撮った写真は、本物の女性のセミヌードのように見えた。
 「すごいですね。まるで本物の乳房みたいです」
 「特殊メークの勝利さ」
 「明日はどんな写真を撮ります?」
 「水着と行こうか?」
 久美はにこりと笑う。この人工乳房なら、水着になってもいいなと思ったのだ。
 「じゃあ、明日の朝な」
 北村はバッグを抱えて久美の部屋を出ていった。

 北村が階段を下りていくのを確かめると、久美は玄関の鍵を掛けてゴクリと唾を飲んだ。久しぶりにマスターベーションしようと思ったのだ。
 「ホントに本物みたい・・・・」
 全裸になりベッドの上に寝転がって、胸に付いた乳房を揉んだ。乳房を触っている感触は手に感じるけれど、触られている感触がないのが不満だった。だけど、やっぱり興奮してきた。
 いつものようにペニスにコンドームを装着し、同じくコンドームを装着したディルドーをアヌスに挿入した。
 「ああ、いい。ああ、すごいよ・・・・」
 まるで本物のような人工乳房の感触に、久美は30分以上楽しんでいた。

 久美が疲れ果てて眠り込んでから、ベランダからひとつの影が樋を伝わって地上へ降りていった。
 「ふふ。いい絵が撮れた」
 北村だった。北村は、久美がディルドーを隠し持っているのに気がついていて、久美がマスターべーションする様子を時々隠れて撮っていたのだった。ただ、その写真を他人に見せたりすることはなかった。北村はそんなあられもない肢体を晒す久美を見るのが楽しみだったのだ。