第14章 愛人生活

 術後1ヶ月が経過した。傷はほぼ完全に癒えたけれど、時々ピリピリと痛むことがある。
 「痛むということは、感覚があると言うことだ。安心したまえ」
 週に一回定期検査のためにやってくるドクターにそう言われ、久美は少なからず安心した。
 「クリトリスは感じるようにしてあるし、ご主人とセックスをするようになったとき、ちゃんと濡れるし、オーガスムを覚えるようにしてあるつもりだ」
 久美を安心させるつもりで、ドクターはそう言ったようだが、久美としては葛城に抱かれることには嫌悪感を覚えていた。

 このころになると、女性ホルモンのせいで、体が少し丸く柔らかくなってきたような気がしていた。
 入浴後、バスルームの鏡に映った久美をじっと見つめる。自分でも感心するくらい可愛らしい女が映っていた。
 視線を下方へ移す。乳房もただの隆起から女性らしい乳房の形に整ってきていた。その頂上にある乳首はまだ小さく、もう少し大きい方がバランスがいいなと久美は思う。
 さらに視線を下方へ移す。太めのウエストが目に入った。体を斜にする。
 「もっと細くしないと・・・・」
 さらに臀部に目を移し、口を尖らせた。それから、自分で臀部を触りながら呟く。
 「小さなヒップ。もっと大きく、柔らかなヒップにしなくちゃ」
 自分の身体が女性へと変化しつつあるのに、久美は他人事のようにそう思うのだった。
 「ここもずいぶん可愛くなったわね」
 ドレッサーの前に座って、久美は手鏡で股間をのぞき込む。陰毛の生えそろった久美の股間は、もはや女性そのものに見えた。
 「ちょっと濃いめだけど、男の毛の生え方とは違うんだ」
 陰毛は、性ホルモンに左右される。久美の陰毛も女性型に変わっていた。ちょっと濃いめと久美は思ったのだけれど、男の時よりは薄く、毛の生えている範囲も狭くなっていた。
 その茂みの中に久美は指を這わした。
 「いけない。こんなことしちゃ・・・・」
 傷に悪いのではないかと思いながらも、医者の言った『感じるようにしてある』という言葉に、久美は衝動を抑えきれなかった。一ヶ月も性的欲求を我慢していることなどまれなことだったからだ。
 最初は痛みに似た感触があった。しばらく擦っていると、その痛みが遠のいてきて、ペニスが勃起したような懐かしい感覚が湧いてきた。
 「ああ、気持ちいい。ああ、いいなあ」
 ペニスをしごいているような気持ちになって擦り続けていると・・・・。
 「ううん・・・・」
 何だか射精したあとのような快感が久美を襲ってきた。
 「いい気持ち・・・・」
 以前と同じようにいけることを知って久美は安心した。腟を使ったセックスはもっと感じるんだろうかという思いが脳裏を過ぎるが、久美は慌ててそれをうち消す。
 (葛城となんかするのはイヤだ)
 しかし、それは逃れようがないのだ。いつかは葛城に抱かれることになる。その日が刻々と近づいてきているのだ。

 それまで週に二度ほど葛城がやってきて、久美と一緒に夕食を取っていた。初めの頃は娘と食事を取るような雰囲気だったけれど、褥を共にすると宣言した術後2ヶ月目が近づいてくるにつれて、葛城の態度が微妙に変化してくるのを久美は感じ取っていた。そう、目つきがいやらしくなってきたとでもいうのだろうか? 子羊を目の前にして舌なめずりをするオオカミと言った雰囲気に変わっていったのだった。
 そして、術後2ヶ月目のドクターの診察が終わった日、いつもより早めに姿を現した葛城は、飢えたオオカミそのものになっていた。
 「照美。今日、ドクターからお許しが出た」
 食事が終わると、メードに聞こえないように葛城が久美の肩を抱いて耳元で囁いた。久美は黙ったまま下を向く。
 「おまえが今どんな気持ちでいるのかわたしにはわからないが、どうせなら、互いに楽しもうじゃないか。えっ?」
 「わかっています」
 そう久美が答えると、葛城は意外そうな顔をした。
 「ほう。ずいぶん素直になったじゃないか」
 「抵抗しても、無理矢理わたしを抱くんでしょう?」
 「ま、そう言うことだな」
 「どのみち、男には戻れないし、せっかく女にしてもらったんだから、楽しまない手はないって思ったの。そうでしょう?」
 これは半分は本心であり、半分は諦めから来るものだった。
 「気持ち悪いな。何かおかしなことを考えているんじゃないのか?」
 「まさか。おかしなことなんてしたら、わたし、生きてこの屋敷を出ることができなくなるんでしょう?」
 「ふん。よくわかっているな。おい! 風呂の準備はできているか?」
 メードに向かって葛城が叫ぶ。
 「はい。丁度いい湯加減になっております」
 「そうか。照美。一緒に入ろうか?」
 「・・・・はい」
 子供のように無邪気な顔をして、葛城は久美の手を引いた。

 葛城は、素っ裸になってジャグジーの中に飛び込んだ。久美は、ドレスを脱ぎ、下着を外す。ショーツを脱ぐときに、人造腟の中からプロテーゼをそっと取りだして脱いだ下着の下に隠した。
 「早く来ないか」
 促されるままに葛城のそばに入った。葛城に抱き寄せられてキスされる。久美は差し込まれてきたら躊躇わずに吸ってやろうと思っていたのに、そうしてこなかったので久美の方から舌を差し入れた。
 乳房を揉まれ、乳首を摘まれると、変身パーツでは感じなかった快感が体にわき上がってきた。
 (全然違うんだなあ)
 そう思いながら、久美は葛城に身を預けていた。
 「体を洗ってくれ」
 しばらくして葛城が命じたので、久美はスポンジにボディーシャンプーを取って葛城の背中を流してやった。葛城のペニスが真上を向いているのが見えた。
 「今度はわたしが洗ってやろう」
 「お願いします」
 拒否せず素直にそう答えた。葛城は、久美の体を撫で回すようにして洗った。くすぐったくて久美は体をよじる。
 「どうする? ここでやるか?」
 「ベッドにしましょうよ。ここは床が堅いから」
 久美の要求が通るとは思わなかったけれど、言うだけ言ってみた。
 「そうか。そうだな」
 簡単に同意してくれたので、久美は葛城に向かってちょっと笑顔を見せた。葛城に手を引かれてバスルームを出た。メードがバスローブをふたりに掛けてくれる。葛城はそのままベッドルームへと久美を引っ張っていった。
 「葛城さん。明かりを落として」
 「明るいところでおまえを見たい」
 「それだけはイヤ。他のことは何でも言うことを聞くから、お願い、暗くして」
 「・・・・わかった。少し暗くしてやる」
 メインの明かりが消され、薄明かりになった。久美には葛城の顔を僅かに確認できるだけだ。暗くしてもらったのは、葛城に見られることが恥ずかしかったわけではない。葛城の顔が見えないようにして、相手が葛城だということを意識の外に追い出したかったからだ。
 葛城は丁寧に丁寧に久美の体の隅々まで愛撫する。
 (葛城はホントにうまい)
 それだけで達しそうになりながら、久美は葛城の愛撫に酔っていた。
 「さあ、準備ができたようだな」
 久美の小さな隆起を指で回すように撫でながら葛城が囁く。性転換されて初めてのセックスだというのに、久美は濡れているのを感じていた。
 (これまで何度もオナニーをしていたからなあ)
 葛城は久美の両足の間に割って入り挿入の体勢になった。
 「葛城さん。フェラはしなくていいの?」
 「今晩はわたしとおまえの処夜だ。処夜から女にフェラチオをさせる男なんているものか」
 そう葛城は言い訳をしたけれど、キスの時に舌を入れないことといい、フェラチオをさせないことといい、久美がおかしなことをしないと約束したことを信じていないからのようだった。
 久美は、膝を立てて、葛城を受け入れる準備をする。
 (良介、ごめんね。あなたに処女をあげたかった)
 一筋の涙が久美の頬を流れた。
 「痛っ・・・・」
 グリッと音がしたような気がして、ヌルヌルと葛城が奥へと侵入してきた。痛みに久美は歯を食いしばる。
 「痛いか? そうだろうな。おまえは処女だからな。痛くて当然だ。少しの我慢だ。だんだん気持ちがよくなってくる」
 前回と同じように、葛城は恥骨と恥骨が当たるまで挿入すると、そこで動きを止めた。
 「ふう。きついな。ま、しかし、初めはこれくらいきつい方がいいのかもしれん。おう、少しは締まるじゃないか」
 久美は変な気分だった。元々久美の体にはないところに異物が入っているのだ。それもプロテーゼではなく、暖かみのある弾力を持ったものだ。それまで体全体を愛撫されて高まっていたせいもあるのだろう、久美は他人の男性自身が自分の中にあると言うことに興奮し始めていた。感じ始めると、久美は腰を浮かせ前後左右に振った。もう痛みはなかった。
 「感じるか? そうか。そうか。初めから感じるとは、おまえは女になるために生まれてきたようなやつだな」
 恥ずかしかったけれど、どうもそれは事実のようだった。
 「あうっ。ああ、あん。ああ、いいっ!」
 久美は腰を振り続ける。葛城はそんな久美の様子を窺いながら、腰を前後左右に動かした。
 襲い来る快感の嵐に、久美は無理矢理性転換され愛人として抱かれていることなど忘れていた。
 「はうっ・・・・」
 久美は葛城の背中に爪を立てる。意識が集中できなくなる。
 「い、行く。行く。ああ、行くぅ・・・・」
 久美の手から力が抜けた。久美は行っていた。しかし、葛城はまだ久美を責め立てる。久美はよだれを流しながら、葛城の激しい動きを受け止めていた。
 少し冷めかけたとき、葛城が行った。
 「ぐぐぐっ!」
 その瞬間、久美はもう一度行った。
 「ああん・・・・」
 のしかかってくる葛城を抱きしめ、差し入れられてきた葛城の舌を吸った。そうしながら、冷めかけるのを押しとどめるかのように腰を前後に振り続けた。

 「なかなかいい。思った通り、おまえは素晴らしい女だ」
 久美の長く伸びた髪の毛を撫でながら葛城が言った。快感のまださめやらぬ久美は、葛城の腕にしがみついてぼんやりと葛城を見上げていた。
 「大枚をはたいた甲斐があったというものだ」
 大枚をはたいたという言葉を何度久美に言っただろうか? その何度か目に、葛城自身が警察署長への賄賂と、久美の性転換手術の費用以外にも、大金を使っていたことをばらした。

 「わたしの気に入った女の荷物の中に大麻を忍び込ませるように税関の係員を買収しておいたのだ。もちろん連行する警察官数人や、署長にも賄賂を送っていた。人数が多かったから、結構な金を使った。引っ掛かったのがおまえだ」
 「じゃあ、良介は大麻とは関係なかったのね」
 「まあな。そう言うことだが、良介とやらにまだ未練があるのか?」
 「未練がないって言ったら嘘になるけど、もう二度と会えないんでしょう? 忘れるしかないわ」
 「おまえはなかなか物わかりがいい」
 「でも、どうしてわたしを性転換してまで抱くの?」
 「言っただろう? もう一度やり直すよりも、性転換手術の費用の方がずっと安かったからだ」
 「男のわたしのどこがいいのよ?」
 「おまえが気に入ったと言っただろう? おまえのその顔、雰囲気、何というかな? まあ、言ってみれば、一目惚れと言うところかな」
 「一目惚れ? 信じられないわ」
 「自分でもよくわからんのだが、それが事実だろう。ま、それに、性転換したおまえなら、避妊の心配がいらんしな」
 生理中だとか、危険日だとか言われて、コンドームを付けさせられることほど興ざめなことはない。葛城の気持ちが久美は少しはわかった。
 「何を考えている?」
 「なんにも」
 「そうか? あのままあの良介とかいう男と一緒に日本へ帰ったときより、ずっと幸せにしてやるからな」
 「わかってるわ」
 「ホントにおまえは可愛いやつだ」
 本心はそうではなかったけれど、チャンスが訪れるまでは、こうして葛城を喜ばせるしかないと久美は思っていた。
 「ところで、照美というのは、本名ではないな」
 「え、ええ」
 「あのパスポートはどうやって手に入れたんだ? 本物のようだが」
 「ああ、あれは・・・・」
 「男のおまえが、女のパスポートを持てるはずがない。しかし、写真はおまえのもののようだが」
 「あれは、姉から借りたのです」
 「姉? なるほど。あれは姉の写真なのか。だから、おまえが使えたはずだな。おまえの本名は? 本名はなんというんだ?」
 「本名なんて聞いてどうするの?」
 「ま、知っておきたいだけだ」
 「・・・・ヒサヨシって言います」
 「ヒサヨシか。どう言う風に書く?」
 「久しいに・・・・」
 正直に言うかどうか迷う。しかし、今更隠しても何のメリットもない。
 「久しいに美しいと書いて、ヒサヨシと読みます」
 「久しいに美しい? それは普通はクミと読むよな」
 「え、ええ」
 「そんな名前だから、女装し始めたのか?」
 「そう言う訳じゃないけど」
 「そうか?」
 「もしかすると、姉にクミ、クミって、いつも呼ばれていたからかもしれないわ」
 「そうか。じゃあ、今晩から、おまえのことをクミと呼ぶがそれでいいか?」
 「ええ。テルミと呼ばれるよりも、ずっといいわ」
 「じゃあ、クミ?」
 「もう一発やるか?」
 「葛城さんって、年の割に強いのね」
 「クミのせいだ」
 「そう?」
 「ああ。・・・・クミ?」
 「何?」
 「わたしのことを葛城さんというのは止めてくれないか?」
 「じゃあ、なんて呼んだら? パパでいい?」
 「・・・・そうだな。それでいい」
 「じゃあ、パパ、もう一度抱いて」
 「ホントにクミは可愛い」
 半分は演技、半分は本気。半分は情熱の赴くまま、半分は冷静な目で観察する。久美は早くも女に近づきつつあった。

 何度目か抱かれたとき、久美は自ら葛城にフェラチオをしてやった。おかしなことを久美がやらないと確信していた葛城は、喜んで久美に銜えさせた。久美は、葛城の放ったものをすべて飲み下し、決して吐き出すようなまねはしなかった。
 葛城の要求する体位をすべてこなし、時にはアナルファックにも応えた。避妊の必要がなく、娼婦のような久美に、葛城は溺れていった。
 だから、葛城は週に3,4日ほど屋敷にやってきては久美を抱いた。葛城の妻とは、せいぜい月に一、二度だそうだから、久美へのいれあげようは並大抵のものではないようだった。
 そうしながら、久美はチャンスを窺っていた。しかし、チャンスは訪れなかった。
 (葛城に捨てられるまで、このままこうして暮らさなければならないのだろうか?)
 葛城が来ない夜、久美は良介のことを思って泣いた。

 久美が性転換されてから半年が経過した頃、久美が逃げ出そうとする意志がないと判断したのか、屋敷の外に買い物などに出かけることが許された。逃げ出せるかもしれないと思ったけれど、葛城が付き添うか、ガードマンがくっついていた。もっとも、葛城の手から逃げ出したとしても、パスポートもなしに日本へ帰る手だてはなかった。なにしろ、葛城のいる大使館へ助けを求めることができないのだから。