快感の嵐のあとの微睡みの中で、ぼんやりとしていた久美は葛城の腕にしがみつきその胸に頬ずりしていた。
「よかったか?」
そんな葛城の声に、抱かれた相手が葛城だったことを思いだしてハッと我に返り、久美は慌てて体を離した。
「ふふ。可愛いやつだ」
久美は無言で身を堅くしている。そうしながら、何とか葛城を誤魔化せたことに心の中ではホッとしていた。
「新婚旅行でこっちへ来たんだったな」
小さく久美は頷いた。
「おまえを捨てて日本に帰ったやつを愛しているのか?」
久美は考え込む。信じたくはない。信じたくはないけれど、良介が久美を捨てて日本へ帰ってしまったのは事実だ。それでも・・・・。愛していないなんてことは言えない。
「あんな男に義理立てすることはなかろうに」
葛城の言っていることが理解できずに、久美は首を傾げた。
「諦めた振りをしてアヌスを差し出すとはなかなか考えたな。気がつかないとでも思ったのか? この国は世界でもっともニューハーフの多い国だ。ワギナとアヌスの区別くらいはつく」
ばれていた。背筋が寒くなるのを覚えた。
「アナルファックもなかなかよかったが、今度はおまえのワギナを使わせてもらうぞ」
アヌスで受け入れたことはばれたようだが、久美が男だと言うことはばれていない。久美はベッドから飛び出した。
「裸でどこへ行こうと言うんだ? そんな格好じゃあ、この屋敷から出られんぞ。まあ、屋敷はおろか、この部屋からも出られんがな」
ドアのノブを回したけれど、びくともしなかった。部屋に明かりがともる。
「諦めて、わたしに抱かれろ」
葛城が久美に近づいてくる。その股間には、すでに復活した隆起が黒々と光っていた。
「イヤ! 絶対、イヤ!!」
「我が儘を言うな」
腕を捕まれ引き寄せられた。久美は足で蹴りを入れる。その足が葛城に当たる前に久美は太股に激しい衝撃を覚え、床に膝をついた。訳がわからず、自由な左手を振り回そうとすると、今度は二の腕に衝撃を覚えた。
葛城の右手にスタンガンが握られていた。
「大人しくしないと、もっとひどい目に遭うぞ」
「イヤだ!!」
床に倒れたまま久美は足をバタバタさせる。
「聞き分けのないやつだ」
右の脇腹、下腹に続けて衝撃が走った。最後に胸に衝撃が走り、久美は気を失った。
目を覚ますとベッドの上だった。葛城が久美の乳房を揉みながら首筋に舌を這わせていた。久美は再び抵抗を始めた。
「諦めの悪いやつだ。いくらじたばたしても、どうせわたしのものになるのだから、いい加減に諦めたらどうだ?」
男だとばれなければ、様子を窺うために大人しくいていてもいい。しかし、このままにしていれば、久美が男だとばれることは必死だ。久美は力の限りに藻掻く。
ビシッと左の殿部に衝撃が走った。葛城が再びスタンガンを使ったのだ。久美の下半身に力が入らなくなる。葛城がいきり立ったものを久美に押しつけ腰を沈める。そうしてから、首を傾げて引き抜き、もう一度腰を沈めた。
「何だ? どうしてだ?」
いくらしてもアヌスにしか入らないものだから、葛城はちょっと焦り気味になる。
「いったいどうなってる?」
葛城は体を離して、久美の股間に目を向けた。久美は力の入らない下半身を何とかひねって見せないようにするが、葛城に力任せに元に戻され股間に指を這わされてしまった。
「これがワギナか?」
アヌスの前に作ってある疑似ワギナを触って、葛城は驚きの声を挙げた。
「しんじられん。おまえにはこんなワギナしかないのか?」
良介の作った下半身パーツはよくできているから、そう思ったのも無理はない。
「む? これは?」
葛城はアヌスの周囲が少し違っていることに気がついたようだ。他の部分は段差がないようにできているのだが、アヌスの周囲だけはどうにもしようがなかったのだ。
「照美! どう言うことだ? どうなっている?」
久美は葛城を見つめたまま黙して語らない。
「言え! どう言うことだ!」
スタンガンが久美の左の太股に当てられ衝撃が走る。久美は自由の利く上半身を使って何とか逃げ出そうとするが・・・・。
右の殿部にスタンガンが当てられる。その瞬間、バチッと音がして、久美の股間に激しい痛みが走った。油臭いニオイが漂い始め、久美は股間の圧迫がとれたような気がした。
「ややっ! こ、これは・・・・」
葛城は、久美の股間にあらぬものを見つけて絶句した。スタンガンの強大な電力によって、下半身パーツに組み込まれていた電子回路がショートして焼け、その周りのシリコンをも破壊してしまい、久美の本来の股間が露わになったのだった。
「お、おまえは男なのか?」
久美は手のひらで股間を隠すが、もう手遅れだ。
「よくも騙してくれたな」
「あんたが勝手にぼくのことを女だと思いこんだんじゃないか」
「くそ!」
逆上した葛城が、久美にスタンガンの雨を降らせた。
「止めろ! 止めろ! 止めてくれ!!」
「手間暇と大金をかけたのに、どうしてくれる!」
どう言う意味だと思いながら、全身に広がる痛みの中で久美は完全に意識を失った。
厚いモヤのかかったような意識の中で、久美は手足を拘束されているのを自覚した。再び痛みが襲う。止めてくれと叫びたかったけれど声が出なかった。
首から胸に痛みが走り、それから久美の股間が集中的に的にされた。焼けただれたニオイが漂い、首をあげてみると、ペニスが焼け落ちるのが見えた。
「イヤだあ・・・・」
「奥様? 奥様? どうされました?」
そんな声に目を開けると、心配そうな表情をしたメードの顔が目の前にあった。久美はふかふかのベッドの上に寝ていた。夢だったのかと久美は安心する。
それにしても、それにしてもと久美は考える。葛城は、あのあと久美をベッドに寝かせたらしい。そしてメードに介抱させたようだ。
じっと考えてみた。女だと思って連れ込んだ久美が男だとわかって逆上したものの、周りの人間への体裁を取り繕うために、久美をまだ女として扱っているようだと判断した。先のことはわからないけれど、少なくともすぐに刑務所送りにはならないようだと思って、久美は幾分安心していた。
「奥様? 大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫。変な夢を見ただけだから」
女言葉でそう答えた。
「お熱を」
手渡された体温計を久美は口に銜えた。スタンガンで気を失った久美を、病気で倒れたとでも言い訳しているのだろうと思った。
「お熱はありませんわ。お食事はどうされます?」
そんな言葉に腹がキュウと鳴った。
「頂くわ」
メードが、そばのテーブルの上にあった容器をオーバーテーブルの上に置き、スプーンで久美の食べさせてくれた。お粥と言うより、おじやに近い食べ物だった。三口ほど食べたところで、少し吐き気がした。
「もういいわ」
「もう少し食べませんと」
「吐き気がするの」
「そうですか。では、後ほど軽いデザートをおもちいたします」
「ありがとう」
メードがドアを開けて出て行くと葛城が入れ替わりに部屋に入ってきた。
「気分はどうだ?」
久美は、黙って答えない。ただ、葛城をじっと見つめていた。葛城に続いて、白衣を着た医者らしい男と看護婦が入ってきた。
「ドクター、診察を」
医者は頷いて久美に近寄ってきた。葛城もやりすぎを恥じて、医者まで呼んでくれたと思い、少しは葛城を見直していた。
医者は、久美の脈を取り、下瞼を押さえて観察している。
「口を開けて」
片言の日本語で久美に命じた。久美は口を開ける。医者が聴診器を耳に当てる。胸を聴診するのだろうと思って、久美は着せられていたガウンの胸をはだけた。上半身パーツは損傷がないようだった。
「大きく息を吸って。吐いて」
聴診が終わると、驚いたことに医者は久美の乳房を揉むようにして触った。そうして、満足げに頷くのだった。
久美は葛城の顔を見た。葛城が医者に久美の乳房が作り物だと教えたと思ったのだ。葛城は、素知らぬ顔で久美を見つめ返していた。
聴診器を鞄にしまうと、医者は久美の足元のシーツを捲った。看護婦が手伝ってパリパリと腰のあたりにあるテープを剥ぐ。どうやらオムツのようなものを穿かされているらしい。スタンガンで傷つけられたからなあと久美は思う。
医者は、久美の股間を消毒し始めた。ピリピリと痛みがあった。それも妙な痛みだ。久美は痛みの表情を浮かべた。
「経過はいい」
医者が久美の表情を見て言う。
「少し痛いが、動かないで」
看護婦が久美の膝を押さえた。何をするんだろうと思っていると股間に激痛が走った。
「痛ああい・・・・」
久美は思わず叫び声をあげた。久美の中からズルズルと何かが抜け出ていった。医者が再び消毒をする。今度は痛みと言うより痺れた感じだった。看護婦が白い棒状のものを医者に手渡す。久美は股間に痛みを覚えた。
「えっ? なに? これ?」
医者が看護婦に手渡されたものを久美の股間に差し込んでいるのだ。それも、久美には存在しない場所に。
ガーゼが当てられ、再びオムツのような当てものが久美の股間を覆った。久美は言いしれぬ恐怖におののいていた。
「ぼくに何をした?」
医者と看護婦が部屋から出ていくなり、久美は葛城を問いつめた。
「若い女の子がぼくなんて言っちゃあ、おかしいぞ。わたしと言いなさい」
久美が男であることがわかっている葛城の口から出たその言葉で久美はすべてを理解した。イヤ、その言葉を聞く前からわかっていた。
「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!!」
「嘘ではないことはわかっているんだろう? おまえの股間には、もうあの醜いものはない。代わりに、わたしを受け入れるためのワギナがある」
「嘘だ・・・・」
「さっき、おまえに作られたワギナの中から化膿止めがたっぷりと塗られていたガーゼが抜き取られて、狭くならないようにプロテーゼと呼ばれるシリコンの棒が差し込まれた。おまえはそれを見ていただろう?」
もう説明は必要なかった。体がそれを理解していた。
「おまえを刑務所にたたき込んでやってもよかったのだが、あのまま刑務所にやったのでは、これまでの投資が無駄になる。わたしはおまえのことが気に入った。もちろん女としてのおまえがだ。だから、おまえを女にしてやったんだ。おまえは、これから先は、あんなちんけなものを身に着けなくとも、女の服が着られるんだ。有り難く思え」
「イヤだ。イヤだ。イヤだ」
「おまえ、女になりたかったんじゃないのか?」
久美は頭を振った。
「そうなのか? しかし、もう手遅れだ。おまえは女になったのだ。もう二ヶ月もすれば、わたしと褥を共にできる。楽しみにしていろ」
「もう二度とおまえとなんか寝るもんか!」
「ふん。強がりを言っているのも今のうちだけだ。泣いても喚いてもこの屋敷から一歩も出られん。おまえは籠の中の鳥だ。どんな野生の野獣も、檻に入れられればいつかは大人しくなる。おまえも早々に諦めて、わたしの言うことを聞いた方が身のためだ」
「死んでやる!」
「ああ、それは困る。大枚をはたいたのが無駄になる。だが、どうしても死にたければ死んでもいいぞ。ただし、死んでもおまえを犯してやる。その上で、素っ裸にして、わたしは性転換者ですという張り紙を付けて通りの真ん中に放り出してやる。おまえは、皆に笑われて、ぼろ切れのように朽ち果てるのだ。それでもいいのなら、死んでみろ」
久美は絶句する。
「大人しくわたしの愛人として生きればいいのだ。そうすれば、何不自由ない生活を保障してやる。わかったな」
「イヤだ。イヤだ・・・・」
久美の目から涙がこぼれた。
「まあ、泣きたければ泣け。それが女の特権だ」
笑い声を残して、葛城は部屋を出ていった。久美は、痛む股間に手をやった。オムツのようなものが当てられているけれど、そこには何もないことは明らかだった。もちろん下半身パーツを身に着けているときにもそんな感覚なのだけれど、下半身パーツを身に着けているときには、殿部入っているお尻を大きく見せるパッドのせいで座布団を敷いたような感覚があるのに、それが今はない。久美の男の部分が切り取られてしまったことは事実だった。
久美はふと医者の行動を思い出す。久美の胸を触り満足そうな表情を見せたことを。久美はガウンの前をはだけてみた。胸の隆起が上半身パーツを身に着けていたときよりも小さかった。乳首も小さい。そして、何よりも、乳首以外の部分に触った感触が明確にあった。
「豊胸術も施されている・・・・」
さらに久美は喉を触ってみた。
「喉仏もない」
もう男には戻れない。久美は女の格好をし、良介を相手にアナルファックもしている。しかし、それはあくまで性的快感を得るためであって、女になりたかったわけではない。それなのに、無理矢理性転換されてしまって、しかも見知らぬ土地で、葛城のような男の愛人として暮らさなければならない。久美は絶望に打ちひしがれ、ベッドの上で泣いた。涙が涸れるまで。
本当は死んでしまいたかった。しかし、泣きながら葛城の言葉を反芻した。死んだらとんでもないことになってしまう。いくら何でもそんな死に様はイヤだ。
あくまで抵抗するとしても、この屋敷から逃げ出せない以上、いつかは諦めて葛城に屈服することになるだろう。
久美は決心した。大人しく葛城の言うことを聞こう。そうしながら、チャンスを窺おうと。いつかは、この苦境から抜け出せる日を信じて。
1時間ほどたって股間の痛みが治まり違和感だけになった頃、メードがシャーベットを持って部屋にやってきた。
「冷たいものがよろしいかと」
「ありがとう」
この時になって、久美は苦もなく高い声が出せることに気付いた。すべてが完璧に行われていた。
「今日は何日だったかしら?」
「27日でございますけど・・・・」
「そう。そうだったわね」
久美は頭の中で計算した。スタンガンで気を失ってから10日が経過していることになる。その間に手術が久美に施されたようだ。タイと言えば、性転換手術のメッカ。腕のいい医者がいる。もちろん、性転換手術を受けるものは、精神鑑定やリアルライフテストなとを経て手術を受けることになるのだが、葛城がその権力を使って誤魔化したに違いない。
「喉の傷はもうよろしいのですか?」
まだ赤い傷を見てメードが言う。メードには葛城はなんと説明してあるのだろうかと久美は訝った。
「甲状腺の手術は簡単と申しますけど、痛かったでしょう?」
なるほどそんな言い訳をしていたのかと久美は納得する。葛城がメードに性転換手術の件を隠しているのなら、敢えて言うことはない。久美はそう判断した。久美にとっても隠しておきたいことだからだ。
「大したことはないわ」
「それでは溶けないうちにお召し上がりください。後ほど片づけに参ります」
何不自由ない生活を保障してやるという葛城の言葉に嘘はないようだ。しかし、葛城の愛人として暮らすことにはやはり抵抗がある。そうせざるを得ないだろうけれど。
翌日、ドクターがやってきて、久美の傷を観察してから満足そうな表情を浮かべて言った。
「我ながらいい仕上がりです。あなたもきっと満足してくれるでしょう」
「ありがとうございました」
久美には他に答える言葉がない。
「さて、経過もいいことだから、明日からは自分で傷の手当てをしてください」
「えっ! 自分でですか?」
「そうです」
「できるんでしょうか?」
「簡単です。傷に軟膏を塗って生理用のナプキンをあてるだけです。ナプキンのあて方はわかりますね?」
「は、はい」
「排尿、排便後はきれいに洗って、同じ処置をすること。それさえ守っていただければ、結構です。わかりましたか?」
「わかりました」
「それから、来週から女性ホルモンの注射と内服を始めていただきます。注射は、週に一回看護婦をこの屋敷に寄こしますが、内服は忘れないようにしてください。よろしいですね」
「はい」
女性ホルモンの投与なんて受けたくはなかったけれど、それも拒否できる立場にはないと久美は頷いたのだった。
動き回ったり、トイレに行くと股間の傷が痛んだ。じっとしていてもじりじりとした不快感がある。何とか耐えていたのに、女性ホルモンのせいらしい吐き気とめまい、苛立ちがそれに加わって最悪の精神状態だった。葛城の脅しがなかったら、窓から飛び降りていたところだ。
そんな症状も2週間あまりたった頃には不思議と消えていた。二度と見たくないと思った股間の傷も、陰毛が生えてきたせいもあって見られるようになっていた。
「ちょっと見は、本物の女に見えるな」
鏡で覗きながら久美は呟く。しかし、本物の女だと騙せるほどではないだろう、性転換して女になったと知った上でないと、誰も抱いてはくれないだろうと久美は思う。
「葛城はともかく、良介はどうだろうか?」
日本に帰れる希望はまだないのに、久美はそんなことを考えていた。