第12章 取引

 留置場の中には、乳房がこぼれ落ちそうなブラウスにショーツがはみ出そうになっているミニスカートを穿いた娼婦らしい女性と、ゴリラ女みたいな女性が先客としていた。
 久美が中に入ると、娼婦とおぼしき女性が近づいてきて、英語混じりの現地語で久美に話しかけてきた。何を言っているのかわからなかったので、久美は首を振った。
 女は久美の顎に手を掛けて値踏みをするようにして久美の顔をじっと覗き込んだ。それから、フンと馬鹿にしたような表情を浮かべて元いた場所に戻って片膝を立てて座った。ピンク色の薄いショーツを通して、女の黒々とした部分が透けて見えていた。男だとばれたらどうなるだろうかと、久美は戦々恐々として小さくなってうずくまっていた。
 どれほどの時間が過ぎたのだろうか? 太陽の光が留置場に差し込まなくなった頃、久美は手錠をかけられて留置所から外へと連れ出された。
 「どこに行くんでしょうか?」
 そんな問いに警官らしき男は何も答えず、ただ久美の背中を押した。不安になりながらも、久美は男の指示に従うしかなかった。
 久美が最初に留置場に連れて行かれた階段とは違う階段を上っているようだった。人気がまったくないのだ。久美を連行している警官を隙をついて蹴飛ばせば、恐らく逃げ出せるだろうと思った。だけど、それから先が問題だとすぐに気づいた。大使館に逃げ込めばいいのだろうけれど、麻薬所持で捕まった久美を快く受け入れてくれるとは思えなかった。まして逃げ出したとなれば・・・・。
 大使館の力を借りないで日本へ帰るのは至難の業だ。久美が話せるのは片言の英語だけだし、お金もパスポートもないのだ。黙って階段を上っていくしかなかった。

 留置場は地下一階にあった。久美は階段を4階分昇った。つまり建物の三階まで来たことになる。そこで久美を連行してきた警官は、磨りガラスのはめ込まれたドアのノブを回して開けて中に声を掛けた。タイ語にタイ語の返事があった。
 警官が中へ入れと顎で久美に合図した。久美が部屋の中に入るとドアがばたんと閉じられ、久美はポツンと取り残された。
 部屋はかなり広く、建物の様子から想像されるものと違って、どこかの大企業の社長オフィスのような豪華さだった。
 広い窓を背に大きなデスクがデンと据えられていた。久美が入ってきたドアとは反対側のドアが開いて、でっぷりと太った警官の制服を着た男がのしのしと入ってきて久美を一瞥すると椅子に腰掛けた。どうやらこの警察署の署長のようだ。
 「こちらへ来て座りなさい」
 日本語だった。その言葉を発したのは署長ではなかった。声のした方を見ると、衝立の向こうにあるソファーに中年の男が座っていた。髪の毛をきっちりと七三に分け、金縁の眼鏡を掛けていた。日本語を話したからと言うわけではないけれど、いかにも日本人という感じの男だった。着ているスーツはそう安くはないもののようだ。誰だろうと訝りながら、久美はソファーに近寄っていった。
 「太田照美さんですね」
 「は、はい」
 パスポート上はそうなっているから、そう答えざるを得ない。
 「わたしは、日本大使館の次官をしている葛城というものです」
 「日本大使館・・・・」
 助けが来てくれた。そう思うと久美は、ホッとしてソファーに座り込んだ。
 「困ったことしてくれましたね」
 「わたしじゃないんです。誰かが、わたしのバッグの中に・・・・」
 「誰かが?」
 「ええ」
 「いったい誰があなたのバッグの中にあんなに大量の大麻を入れたというのですか?」
 「さあ・・・・」
 首を傾げる久美を葛城という次官が腕組みをして見つめた。
 「助けていただけるんでしょう?」
 葛城は、押し黙ったままだ。
 「ねえ、葛城さん、何とかなるんでしょう?」
 「ちょっとだけだったらともかく、あれだけ大量となると誤魔化しがきかない」
 「じゃあ、どうなるんですか?」
 「そうですね。ちょっと聞いてみましょう」
 葛城は立ち上がって、署長らしい男に何やら聞いている。署長が指を三本あげるのが目に入った。葛城が頷きながら、久美の前に戻ってきた。
 「明日裁判が行われるそうだが、あれだけの量となると、懲役三十年はくだらないだろうと言うことだ」
 「ちょ、懲役三十年!」
 「軽くてそれくらいだろうと言うことだ」
 「助けてください。お願いです。三十年も刑務所に入るなんてイヤです」
 「そうは言ってもねえ・・・・」
 葛城は腕組みをして久美をじっと見ながら溜息をついた。
 「何か手はないんでしょうか? お金を積むとか・・・・」
 「そんなお金を持っているのかね?」
 「今は持っていませんが、日本に連絡すれば、20万くらいは」
 「たった20万じゃあ、許してくれないだろう。何しろ懲役三十年の罪だからねえ」
 「いくらだったら、許してもらえるでしょうか? 聞いてもらえませんか?」
 「なにか? 買収しようって言うのかね?」
 「あ、いえ、そう言うことじゃなくって・・・・」
 葛城はにやりと笑う。お金で罪を許してもらおうと言うのだ。買収と同じだ。
 「そうだな。ま、ちょっと聞いてあげよう」
 葛城は立ち上がって、再び所長と何やら話し始めた。今度も指が三本立てられた。久美はその意味を知ろうと葛城が戻ってくるのを待った。
 「30万だそうだ」
 「それくらいだったら何とかなると思います」
 緊張が少し解けて、久美は安堵の声を上げた。
 「円じゃない。ドルだよ。30万ドルだよ」
 「ええっ! 30万ドルですか? ・・・・つまり、4000万円と言うことですか?」
 「ま、そう言うことになるな」
 「そんな大金なんてとても無理です」
 「そうだろうね」
 久美はがっくりと肩を落とした。沈黙が部屋の中を支配した。署長が椅子を揺らす音だけが響く。
 「ひとつだけ手がないことはない」
 上着のポケットから葉巻を取りだして火を付けながら、葛城がぼそりと呟いた。
 「な、何ですか? それは?」
 溺れるものは藁をも掴むの心境で久美は訪ねた。
 「わたしは署長と懇意にしていてな。わたしの言うことなら、大抵のことは聞いてくれるんだ」
 「とおっしゃいますと?」
 「懲役刑を刑務所ではなく、わたしの屋敷で執行してもらえるようになら頼めるだろうな」
 「えっ? それって、どういう意味でしょうか?」
 「わからないか? つまり、わたしの屋敷で暮らしてもらうってことだよ」
 「葛城さんの屋敷で暮らすって・・・・」
 「そう。わたしが君の面倒を見るということだ」
 久美はじっと葛城の顔を見た。葛城はニヤリと笑って見せた。
 「・・・・ただ面倒を見てくれるってことじゃないんですね」
 「ま、そうだな。刑務所のようなところではなく、快適な屋敷で暮らせるんだ。それ相応の見返りは必要だ」
 久美はごくりとつばを飲んだ。金も地位もない女に見返りを要求すると言うことは・・・・。
 「イヤか? イヤなら、刑務所で30年を過ごせばいいだけだが・・・・」
 葛城は冷たく言い放つ。久美はじっと考える。刑務所に入れられたら、チャンスはない。それに、男だとばれたらどんな目にあるかわかったものではない。葛城の元なら、何とかチャンスを見つけられるだろうと判断した。
 「わかりました。葛城さんのお世話になります」
 「そうか。そうか。そう、それがいい」
 喜色満面となり、葛城は立ち上がって署長のデスクへ足を運び何やら話を始めた。署長は、指を何本か立てる。葛城は、頭を振って激しく応酬する。
 何分かして、話が付いたようだ。葛城が久美の元に戻ってきた。
 「交渉成立だ。さあ、行くぞ」
 「行くぞって、すぐにですか?」
 「そう。早くしないと、署長の気が変わるかもしれん」
 手錠を外されて、せき立てられるようにして久美は警察署を出て、葛城の用意した車に乗り込んだ。

 久美の隣に乗り込んできた葛城が、素知らぬ顔をして久美の膝に手をかけ撫で回した。おぞましさでゾッとしながら、久美は屋敷に着いてからのことを考えていた。
 変身パーツを身に着けている久美は、ただ全裸になっただけでは男とは見破られないだろう。しかし、葛城が久美にセックスを要求してくることは目に見えている。女性変身ツールマークWならば、何とか誤魔化せないことはない。けれども、今久美が身に着けているのは、マークVだ。すぐにばれてしまう。
 「どうしよう・・・・」
 久美は考えあぐねる。
 「男だとばらそうか?」
 しかし、考える。久美が女だと思ったからこそ、署長と取引をしてこうして引き取ってくれたのだ。男だとわかれば、刑務所行きになるに違いない。
 「困ったなあ。どうすれば・・・・」

 良いアイデアを思い浮かばない間に、車はとある屋敷へと滑り込んでいった。
 「さあ、着いたぞ。ここが今日から君が暮らす屋敷だ」
 久美は目を見張った。日本では考えられないような大きな屋敷だったのだ。広い庭の遙か向こうに入ってきた門が見えた。
 車を降りると、エプロンをしたメードらしい女性が3人久美たちを出迎えた。
 「ご主人様、奥様、お帰りなさいませ」
 奥様? 久美は葛城の横顔を見上げた。葛城は、嬉しそうな顔をしながら、久美の腕を取った。
 「さあ、照美。ここがわたしたちのすみかだ」
 この時、久美は何かがおかしいことを漠然と感じていた。
 「シャワーを浴びて汗を流して、そんな粗末な服は脱いで着替えておいで」
 そんなに安い服じゃないのにと思いながら、久美はメードに案内されてバスルームらしいところへ連れて行かれた。
 ドアを入って左手に曲がると、10畳くらいの部屋があった。真正面の壁に大きな鏡が設えてある。さらに左手に大きなドアがあって、向こうの部屋には蒸気が籠もっていた。そこがバスルームで、今久美がいる部屋は前室らしい。
 「奥様。お召し物をお脱ぎになって」
 久美のそばに膝をついたメードが流暢な日本語でそう言いながら、久美の着ていたワンピースを脱がそうとした。
 「自分でやります」
 「いえ、お手伝いいたします」
 「いいですから」
 久美は懸命に断る。女性変身パーツを身に着けていることを見破られることを恐れたこともあるが、人前で裸になることが恥ずかしかったのだ。
 しばらく押し問答したけれど、メードは一向に引く気配を見せない。久美はとうとう諦めて、着ていたものを脱がせてもらい始めた。
 「変身パーツをしているから全裸じゃないよね。だけど、見破られないかな?」
 戦々恐々としながら、ブラを取りショーツを脱いだ。メードは気がついていないようだ。久美は急いでバスルームへ飛び込んでいった。
 バスタブに体を沈めると、メードが腕を捲り上げて中に入ってきた。
 「奥様。お体を洗って差し上げます」
 「自分で洗いますから出ていってください」
 「いえ。ご主人のお申し付けですので」
 「これだけは絶対にイヤ。出ていかないと、あの人に言って、あなたを馘首にしてもらいます。それでもいいの!」
 そう言い放つと、メードは渋々バスルームを出ていった。久美はバスタブの中で足をのばす。
 「刑務所じゃなくてよかったけど、ホントに困ったなあ・・・・」
 バスタブを出て、体を洗う。本来ならば、女性変身パーツを外して体を洗うところだが、そうはできない。
 「外さないと不潔になるんだけどなあ・・・・。外そうにもあの液体がないと外れないし、バッグごと取り上げられてしまったからなあ」
 どうしようもないので、久美はソープを下半身に刷り込むようにして洗い、バスタブの中で充分石鹸を落とした。。

 バスルームから出ると、メードが畏まって待っていた。すぐにバスローブが久美にかけられる。鏡に湯上がりのいい女が映っていた。
 バスルームとは反対側にドレッサーがあった。椅子に腰掛けて乳液を手に取り顔をマッサージしていると、メードが濡れた髪の毛の水分をふき取りドライヤーをかける。
 「すごいお屋敷だわ。わたしがホントの女で、ご主人様が良介だったら・・・・。イヤ、良介はわたしを置いて逃げたんだ。あんなやつ、絶対に許さないから!」
 怒りがこみ上げてきた。
 「奥様。どうかなさいました? 痛かったですか?」
 ブラシを止めてメードが鏡の向こうから久美の顔をのぞき込む。
 「何でもないわ」
 「そう? では、奥様。下着を」
 メードが差し出したのは、シルクのブラとショーツだった。こんなの着てみたかったんだと、久美は喜んでその下着を手に取り身に着けた。素晴らしい着心地だった。
 久美はさらに胸の大きく開いた真っ白なドレスを身に着けた。
 「まるでお姫様みたい」
 鏡に映る自分の姿を見ながら、久美はにっこりと微笑んでいた。
 「お似合いですよ。少しお化粧をなさって」
 先の不安など忘れて、久美は鏡に向かって化粧を施した。
 「ご主人様が食堂でお待ちです。さあ、参りましょう」
 食堂と言われて、久美は急に空腹を覚えた。朝のモーニングセット以来、何も食べていなかったからだ。
 久美に姿を認めると、葛城は嬉しそうに目を細めた。
 「さあ、腹が減っただろう。どんどん食べなさい」
 久美は遠慮せずに出されたものに舌鼓を打った。

 食事が終わってコーヒーが出る頃になって、久美はそれから起こるだろうことを思い出して気が滅入った。
 「何とかばれずにすむ方法はないものか?」
 考えを巡らせる。しかし、良いアイデアは浮かばない。良いアイデアが浮かばないまま、久美はメードにベッドルームへ案内された。
 「奥様。お化粧を落として、ドレスをお着替えになってお待ちください」
 それを着て寝るには勿体ないようなドレスと見まがうようなシルクのナイトウエアを手渡される。
 久美は化粧を落とし、着替えてベッドの上に座った。
 (急な用事ができて出かけてしまうとか、インポで立たないとか)
 そんなことを期待していたのに、しばらくして葛城がベッドルームに入ってきた。
 「待たせたな」
 やはりシルクのパジャマに着がえた葛城の股間がせり上がっていた。久美は何とかこの苦境を乗り切れないかと考えていた。
 男だと告白するのは自殺行為だ。そんなことをしたら、刑務所送りになってしまう。女を演じ続けるためには、少なくとも葛城の相手をしなければならない。葛城を受け入れるのには抵抗がある。しかし、それは仕方のないことのように思えた。
 (男だとばれないためには・・・・)
 久美は可能な限りの策を弄することにした。
 「さあ、何をしている。ベッドに中に入りなさい」
 「あのう。葛城さん?」
 「なんだ?」
 「恥ずかしいです。暗くしていただけません?」
 暗くすればばれにくくなる。
 「恥ずかしい? ふふ。処女でもあるまいし」
 「でも、葛城さんとは初めてですから」
 「・・・・そうか。そうだな」
 葛城は、明かりを消そうとする。
 「それから・・・・」
 「それから?」
 「今日明日が危険日なんです。・・・・できたら、・・・・あれをしてもらえませんか?」
 アヌスで葛城を受け入れることを悟られないために、考えた末に思いついた嘘だった。
 「危険日? そうか。そうだな。できちゃあ、困るな」
 葛城は、枕元の電話機を取るとメードに何やら命令を下した。しばらくして、ドアがノックされた。葛城はドアを開けて、メードから包みを受け取る。その包みを枕元にポンと放り出すと、葛城は久美をベッドの上に押し倒した。
 「葛城さん。明かりを消して。お願い」
 明かりが消えた。葛城の脂臭い息が久美に掛かる。久美の唇に葛城の唇が押しつけられ、舌が割って入ってこようとした。抵抗しようとすると、葛城は唇を離して恫喝するように言った。
 「刑務所の方がいいのか?」
 どうしようもなかった。久美は差し入れられる葛城の舌を吸った。その間に葛城の手がせわしなく久美の体を撫で回し乳房を揉みしだく。
 (全然疑う様子はないけど、本物と変わらないのかしら?)
 久美自身は、かなり本物のように感じるとは思っていたけれど、まったくそうとは知らない葛城が疑う素振りを見せないことで、改めて北村の腕に感心していた。
 (それに感じるし)
 葛城の舌が久美の装着している人工乳房の乳首をなめ回す。センサーがその刺激を久美自身の乳首へと伝える。
 「ああん・・・・」
 「いい声だ。もっと喘げ」
 いつの間にやら、久美は裸にされていた。葛城の手がウエストからヒップ、そして股間へと回されてきた。久美は思わず膝を閉じて腰を引いた。
 「力を抜け。わかってるだろう?」
 葛城の動きを見ていると、かなりのベテランのようだった。だから、ばれそうな予感がし始めた。
 指が降りてきた。人造クリトリスから亀頭へ刺激が伝わってくる。
 「ううん・・・・」
 久美は体をよじる。葛城は動きを止めない。まだ気がついていない。不安と安心が入り交じった思いで、久美は葛城の愛撫を受けていた。
 人造クリトリスと襞の間を葛城の指が上下する。感じ始めた久美は、先走り汁が流れ出始めたことを感じていた。
 葛城の指がさらに後ろへと伸びてきた。コンドームをかぶせたペニスなら誤魔化せるかもしれないけれど、指を入れられたらばれると思った久美は、両腕をぴんと伸ばして葛城から体を離した。葛城はそうさせまいと力を込める。
 「今更、何を抵抗する?」
 「指はイヤ」
 「我が儘を言うな」
 抵抗しても、葛城に力には敵いそうもなかった。久美は指を入れられないために仕方なく最後の手段に出た。
 「葛城さん。フェラしてあげるわ」
 そう久美が言うと、葛城は力を抜いた。葛城は50前後に見えた。フェラチオで一発出してやれば、今晩のところは逃げられるかもしれないと久美は考えたのだった。
 とは言っても、久美は良介のものしか銜えたことがない。いつものやり方でいいのか迷った。
 (良介はいつも満足してくれていたから、いつも通りでやればいいわね)
 パジャマの上から葛城の堅く隆起したものを撫でる。良介のものとはそう変わらないような手触りがした。パジャマをずり下げると、葛城は真っ黒でぴったりと肌に吸い付くようなブリーフを穿いていた。久美はそのブリーフもずり下げて葛城の息子を露わにした。先端が少し左に曲がっているような気がした。
 歯を立てないようにして葛城の怒脹を口に入れ、唇をすぼめて密着させて前後に動かす。そうしながら舌を使って紐のあたりをコチョコチョとくすぐる。いったん口を離して指でしごきながらカリの部分に舌を這わせた。
 そのまま発射させようと、懸命に努力してみたが葛城は行きそうにない。
 「行かせて、できないようにしようなんて魂胆らしいが、そんなテクニックではわたしを行かせることはできんぞ」
 にやりと笑いながら、葛城が体を起こした。
 「さあ、ひとつになろうか?」
 手早くコンドームを装着すると、葛城は葛城の横に座っていた久美を押し倒した。
 「足を開かないか!」
 そう命令されて、久美は仕方なく葛城を受け入れる準備をする。葛城が入れようとしている場所がアヌスだと悟られないように力を抜く。
 入ってくる。恐喝されて無理矢理相手をさせられることで、久美は悔しさと悲しさで涙を流した。要するに久美は強姦されようとしているのだ。
 (良介。ごめんね)
 裏切られたとまだ思っていた久美だったけれど、そんな思いが脳裏に浮かんだ。心の奥では、裏切られたなんてことは嘘だと思っていたのかもしれない。
 根本まで差し入れられたが、葛城はそこでじっとして動かない。どうやら久美のアヌスが小さく痙攀しているのを楽しんでいるようだ。しばらくして、今度は抜けるばかりまで引き抜き、そして再び根本まで差し入れてきた。そしてまたもじっとしている。久美の奥底で、葛城の肉棒がピクリピクリと動く。経験したことのない感覚が湧いてきて、久美は思わず喘ぎ声をあげた。
 「はあ・・・・。ああん・・・・」
 「いいか?」
 暗闇の中で久美は頷く。ホントに気持ちがよかったのだ。北村としたときよりも感じていた。浅くしたり深くしたり、焦らしに焦らされて、久美は昇っていった。
 長い間そんなふうにされていた。久美は何度か行ったような気がしていた。射精しないのが不思議なくらいだった。
 「さあ、そろそろフィニッシュといこうか。俯せになれ」
 言われたとおりに俯せになると、激しく突き抜かれた。
 「も、もうだめ。い、行って! お願い。行って・・・・」
 「まだまだ。おまえが前の男を忘れるまでだ」
 セックスだけで言えば、葛城は良介より数段うまい。気が狂わんばかりになって久美は髪を振り乱した。
 「さあ、おまえも行くんだ。さあ、行けえ・・・・」
 良介とのセックスで久美は何度も行ったことがある。だけど、今久美は、今までのエクスタシーがまだほんの序の口のものだったことを悟った。久美は声も出せずに、ただ体を硬直させていた。