第2章 年上の彼女

 恵子の足が俺にからみついていた。俺は、ゆっくりとたばこを吹かしている。未成年だからタバコは止めなさいとお袋に何度も言われたが、当然のごとく無視している。
 (三つも年上なのに、ホント、可愛いな)
 俺は、じっと恵子の顔を見つめた。

 俺は、この秋に19になる。恵子の方はと言うと、4月に22になっていた。だから、今は四つ年上と言うことになる。そんなに年が離れているのに、どこでどうやって知り合ったかというと、実は恵子は俺の幼なじみの姉貴なのだ。恵子のことも小さい時からよく知っていた。
 恵子の弟、杉下純一と友達になったのは幼稚園の頃だった。ただ単に、通っている幼稚園が同じだったと言うことだけだ。ただ、小学校も同じ、中学校も同じ、そして高校も同じだった。だから、いつも一緒に連んで遊び回った仲だ。
 恵子は、3学年上だったから、小学校の頃は同じ学校へ通っていたものの、俺が中学校へ入る時には高校生だったし、俺が高校へ入った時には短大に進んでいた。
 たまに顔を合わせても、恵子は俺のことを単なる弟の同級生と言う目でしか見ていなかった。俺の方にしても、恵子は三つも年上だから、好きだとか嫌いだとかというような対象ではなかった。綺麗な姉貴がいていいなと純一を羨む程度だった。
 俺と恵子がこんな関係になったのは、俺が高校3年になったばかりのことだった。恵子は短大を卒業して市内のデパートに勤めていた。自宅からの通勤が可能だったのにもかかわらず、一人暮らしをしたいと言って、自宅近くのアパートを借りて暮らしていた。俺は、恵子が杉下家を出て一人暮らしを始めたことは知っていたけれど、別に興味があった訳じゃない。これは誓って本当だ。

 その日、無理矢理通わされていた塾からの帰りで、時刻は午後9時を少し回った頃だったと思う。バスから降りてうちへ向かって歩いていると、後ろからハイヒールの足音が近づいてきた。
 「和己君でしょう?」
 横に並んで俺の顔を覗き込んでそう尋ねる女性の顔を見ると、見覚えのある恵子の顔だった。
 「あ、ああ。純一のお姉さん」
 「久しぶりね。元気にしてた?」
 そんな風に気安く声をかけられたことなどなかったし、化粧していて以前よりずいぶん綺麗になっていたので、俺はどぎまぎしてしまった。
 「は、はあ」
 「塾の帰り?」
 「はい」
 「受験生は大変ね」
 「・・・・勉強なんてしたくないんだけど、親がうるさいから」
 「若い間にうんと勉強しておいた方がいいわよ。そうしないと後で後悔するから」
 (母親みたいに説教するんだな)
 そう思いながら、恵子の話を聞いていた。
 「ねえ、和己君。ちょっと、わたしのアパートに寄らない?」
 「えっ!?」
 「おいしいケーキがあるの。ご馳走するわ」
 「い、いいです」
 女の方から誘われたことなどなかった。それも同級生の姉貴になんて。
 「遠慮しなくていいわよ」
 「別に遠慮なんて」
 「男の子がケーキに釣られるなんておかしいって思ってるんでしょう?」
 まさにその通りだった。
 「そ、そんなことはないです」
 「ふふ。ケーキは口実よ。和己君にちょっと話したいことがあるのよ」
 「話したいこと? なんです?」
 「ここじゃね。とにかく寄って」
 腕を捕まれてほとんど強引に恵子のアパートへ連れて行かれてしまった。

 恵子のアパートは2DKで、右奥の部屋にベッドやタンス、ドレッサーなどが置かれていた。俺は、入って正面の部屋に通された。
 「コーヒー? それとも紅茶?」
 「コーヒーを」
 「ケーキが甘いからブラックでいいわね」
 「あ、はい」
 しばらくして、恵子がコーヒーの入ったカップとケーキの載った皿をお盆に乗せてボクの前に座った。
 「この店のケーキ、おいしいのよ」
 「ご馳走になります」
 俺は、フォークでケーキを頬張った。男のくせにといわれるのが嫌いだけど、ホントは俺はケーキが好きだ。フルーツパフェだって大好きなんだけど、中学に上がって以来注文したことがない。
 「どう? おいしい?」
 「はい。美味しいです。で、話って言うのは?」
 恵子はすぐには答えなかった。迷ったあげくと言うようにして、ようやく言葉を口にした。
 「・・・・和己君、・・・・女の裸、見たことある?」
 「ええっ!?」
 恵子のそんな言葉に、俺は持ち上げようとしたカップを危うく落とすところだった。
 「あ、あります」
 「誰の?」
 「友達から借りた本で」
 実は自分で買ったのだけど、そんなことはとても言えなかった。
 「あら? 写真だけなの? 実物は? 生の女の裸は見たことあるの?」
 「あります。・・・・お袋の」
 「あら? お母さんの? まだ一緒にお風呂に入ってるの?」
 「と、とんでもないです。ずっと前の話です」
 「ずっと前? そう。お母さん以外の女の子の裸を生で見たことはあるの?」
 「な、ないです」
 何故恵子が俺にそんなことを聞くのかわからなかった。
 「そう。・・・・見せてあげようか?」
 圭子は悪戯っぽい笑顔を俺に向けた。
 「ええっ!?」
 俺は驚きに目を見張った。
 「見たくない?」
 「あ、あの。け、恵子さんの・・・・裸を?」
 「そうよ。見たい?」
 「ホントに? ホントに見せてくれるんですか?」
 「ええ」
 俺はごくりとつばを飲み込んだ。俺の返事を待たずに、恵子は着ていたワンピースのファスナーを下ろし始めた。俺は金縛りにあったように動けず、恵子が下着姿になるのをじっと見ていた。
 「信じてもらえないかもしれないけど、男の人の前でこんなことするの、初めてなのよ」
 俺は、口を半分開けたまま恵子の顔をじっと見つめた。
 「和己君のこと、ずっと好きだったの」
 意外な恵子の言葉だった。
 (そんな素振りを一度も見せたこともなかったのに・・・・)
 「さっきバス停で和己君を見かけたら、どうしても告白しておきたくて・・・・。でも、わたしって、おかしいわね。突然裸になるなんて」
 「あ、いえ・・・・」
 俺は顔を真っ赤にして下を向いた。
 「わたしが和己君のことを好きだってことだけはわかって」
 「は、はい」
 ブラジャーとパンティーだけの姿で、四つんばいで俺に近づいてくると呆然としている俺にキスをした。恵子の唇が俺の唇に触っただけで俺は心臓が高鳴り、股間が痛くなるのを覚えていた。
 恵子は、顔を傾け俺の唇を割って入り舌を差し入れてきた。俺はどうしていいのかわからなかった。
 「吸って」
 一度舌を抜いてから、恵子が俺の耳元で囁いた。もう一度差し入れられてきた恵子の舌を俺は一生懸命吸った。
 そうするうちに、恵子の手が俺の股間に伸びてきた。盛り上がっている俺を優しく撫でるのだった。
 「け、恵子さん・・・・」
 「黙って」
 恵子は、俺のはいていたチノパンのジッパーを下ろし、トランクスの穴から俺のペニスを取り出した。俺のペニスはもう爆発寸前になっていた。恵子が、二三度擦ったところで耐えきれなくなった。
 「あ、け、恵子さん。で、出る・・・・」
 マスターベーションはしたことがあった。だけど、他人によって導かれるものは違った快感があった。
 (このままぶちまけてもいいのだろうか?)
 そう思った瞬間、恵子が俺のペニスを銜えた。
 「ううっ・・・・」
 柔らかい唇と舌の感触に酔いながら、俺は痙攀を繰り返した。恵子は、少しむせながらも、俺のペニスから口を離さなかった。すべてを恵子の口の中に吐き出したことがわかると、恵子は喉をごくりと動かしてそのすべてを飲み下した。そして、俺の顔をうれしそうな顔をして見つめた。俺は放心状態で、恵子を見つめ返していた。

 「今日は帰りが遅かったけど、ほとんど7時には帰ってるから時間を見つけて来て」
 俺を送り出しながら、恵子がそう囁いた。
 「いいですか?」
 「和己君、あれだけで満足なの?」
 まだ半裸の恵子しか見ていなかった。
 (あの下着を全部剥ぎ取ってやりたい。それに・・・・)
 「もっといいことしたいでしょう?」
 俺は頷いた。
 「じゃあ」
 「あ、明日でもいいんですか?」
 「もちよ」
 「明日。明日、必ず来ますから」
 「そう? じゃあ、待ってるから」
 恵子の笑顔に送り出されて階段を下りていった。

 家へ向かって歩きながら、恵子の下着姿を思い出した。
 (胸がでかいって純一が言ってたけど、ほんとにでかかったなあ。あのブラジャーを取ってみたいなあ)
 思い出すと胸がどきどきした。恵子に吸い取られてしまったせいか、ペニスはまだ反応しなかった。
 (もっといいこと。もっといいこと。もっといいことって、あれのことだよな)
 期待で俺の胸は爆発しそうだった。
 (なんて言い訳して家を出ようか?)
 家に帰り着くまでずっとそのことばかりを考えていた。

 「お帰り。遅かったのね」
 すでに入浴をすませたお袋が、ネグリジェと言うには色気も素っ気もない寝間着を着て俺を出迎えた。
 (まだ30代なのに、もっと色気を出せばいいのに)
 そう思ったけれど、親父はずっと単身赴任で家にいない。色気を出しても見てくれる男がいないのだ。
 (浮気する勇気はなさそうだし・・・・)
 PTAに出かければ、同級生の父親たちにちやほやされるほど美人なのに、お袋は親父にぞっこんで、とても浮気などしそうもない。それはわかっているけれど、あんまりダサイ格好ばかりしているお袋はあんまり好きじゃない。
 「ご飯、暖めるから、先にお風呂に入ってきて」
 「はあい」
 このころの俺は結構素直だった。勉強道具の入った鞄を部屋のベッドの上に放り出すと、下着とパジャマを持ってバスルームへ行った。
 着ていた服を洗濯機に放り込んで浴室に入り、お湯をかぶろうとしてギョッとした。
 (ペニスが真っ赤だ)
 それは、恵子がしていた口紅だった。俺のペニスを銜えたときに付いたのだ。
 「和己。湯加減はどう?」
 浴室の外からお袋が声をかけてきた。浴室のドアが開いている訳じゃないから見えるはずもないのだけれど、俺は慌てて股間を隠した。
 「あ、ああ。いい湯加減だよ」
 「すぐにできるからね」
 「わかった」
 俺は、石鹸で口紅を洗い落とした。
 (恵子が俺のこのペニスを銜えたんだ)
 そう思うと勃起してきた。
 (もう少し時間があったら、あのまま、もっといいことができたのに)
 それが残念だったけど、明日にはもっといいことができると思って俺はにんまりと笑った。
 その夜、ベッドに入ってから恵子の下着姿、俺のペニスを銜えながら俺を見上げた眼差しを思い出しながらマスを掻いた。
 (自分でするよりフェラチオの方がいいや)
 夢の中で恵子を抱く夢ばかりを見ていた。

 その翌日、俺は学校でも夜のことを思ってそわそわしていた。勉強にはまったく身が入らなかった。
 「和己! なんか、いいことでもあったのか? にやけてるぜ」
 純一が俺に尋ねた。
 (おまえの姉ちゃんといいことしたんだ。今晩はもっといいことするんだ)
 そんなことは言えない。
 「べ、別に」
 「そうか? なんか怪しいな」
 「何でもないって」
 俺はとぼけ通した。いくら何でも実の弟にそんなことを言えるはずがなかった。

 夕食後、片づけをしているお袋に言い訳をして家を出ることにした。
 「ちょっと本屋に行って来る」
 「本屋さん? 何を買いに行くの?」
 「参考書」
 「お金は?」
 「2000円くらいだと思う」
 お袋は財布から1000円札を二枚取りだして俺に手渡した。
 「早く帰るのよ」
 「はあい」
 俺が本屋に行くときは、いつも1時間以上戻らない。だから、多少遅くなってもお袋は不審に思うことはない。
 俺は、目的の本を本屋で買うと、すぐさま恵子のアパートへ向かった。

 人に見られないように、こっそりと恵子のアパートの階段を上ってドアをノックした。
 「はい、どなた?」
 「ぼく」
 「待って、すぐ開けるわ」
 ドアが開くと、パジャマ姿の恵子が立っていた。その姿を見ただけで俺のペニスはぎんぎんに勃起していた。いや、本屋を出たときから堅くなっていた。
 「早く入って」
 恵子はドアを閉めるとすぐに鍵をかけた。そうしてから、俺に抱きついてキスした。
 「来てくれたのね」
 「う、うん」
 恵子は、立ったまま俺の着ていた服を脱がせ始めた。
 「すごい・・・・」
 そう言って、すぐに俺のペニスに食らいついた。舌と唇が俺のペニスを刺激した。固く勃起していたけれど、その日は暴発しない自信があった。夕方、学校から帰った後、お袋に隠れてマスを掻いておいたのだ。
 「ベッドに行こうか?」
 ひとしきり舐め回した後、恵子は俺の手を引いて奥のベッドルームへ導いた。そして、自ら着ていたパジャマを脱いだ。下着姿の恵子がそこにあった。
 「後は和己君が脱がせて」
 俺は恵子にキスしながら、恵子の指示に従ってブラジャーのホックをはずしパンティーを脱がせた。
 「舌で転がすように。そう。そう。うまいわ」
 女とのセックスの仕方なんて、本を見て覚えているようでも、実際にやってみるとまったくわからない。俺はただ恵子に言われるままにやっていた。
 「舐めて。吸って。ああ、いい。和己君、うまいわ」
 恵子は仰け反る。
 「和己君、もういいわ。もう入れて」
 「は、はい」
 うまく入らなかった。どこに入り口があるのかわからないのだ。
 「ここよ」
 恵子が俺のペニスを持って導いてくれた。
 「あ、入った」
 暖かかった。
 (これが女の中か・・・・)
 感激しながら、腰を動かした。だけど、何度も動かさないうちに限界を超えていた。
 (だめだよ。まだだよ)
 自分にそう言い聞かせたけれど、俺のペニスは俺の言うことを聞いてくれない。自分勝手に痙攀し始めた。恵子が不満そうな顔を俺に向けた。
 「ご、ごめん。もう行っちゃった」
 「いいわよ。若い証拠よ」
 そう慰めてくれた。

 それから二日後、俺は恵子が何とか満足してくれるくらいのセックスをすることができた。
 それ以来、俺と恵子の仲は続いている。俺はもちろん童貞だったけれど、あんなに大胆だった恵子もどうやら処女だったらしいことが後にわかってちょっとビックリした。
 (血は出なかったよな)
 そんな俺の心を見透かすように、
 「運動選手は初めての時でも出ないことがあるのよ」
 と、恵子は呟いた。恵子は、高校時代までバスケットの選手をしていたのだ。

 「ほんとにわたしと結婚する気があるのなら、ちゃんとして仕事に就かなきゃだめよ」
 帰りしなに、もう一度そう言われた。
 「わかってるさ」
 そう答えたものの、俺の性格からすると・・・・。
 (自信がないんだよな)