遠くでベルが鳴っていた。そのベルの音が次第に近づいてきて耳元でけたたましく鳴り始めた。払いのけようとするのに、ベル自体がどこにあるのかわからない。
「くそ! どっか行け!!」
ベルは鳴り続け、俺は頭を抱えた。
「和己! 和己!! 朝よ! 起きなさい!!」
お袋の声だ。その声と同時に、ペシッと何かを叩く音がしてベルの音が止んだ。ベルは目覚まし時計の音で、お袋が目覚まし時計を止めたのだった。うるさい音が止まって、俺はまた眠りに引き込まれた。
「和己! バイトに遅れるわよ」
俺は布団の中に潜り込んだ。
「こら! バイトに行かないつもりなの?」
お袋が俺のかぶっていた布団を剥いで耳元で叫んだ。
「辞めた」
「辞めたって、昨日から働き始めたばかりでしょう?」
「あんなきつい仕事なんてやってられるかよ!」
俺はお袋の手から布団を奪い返して、もう一度頭からかぶった。
「きつい? どんな仕事だって、少しはきついわよ。一日行っただけで辞めるなんて、馬鹿じゃないの? やっと見つかった仕事だっていうのに」
「馬鹿はないだろう? 馬鹿は!」
俺はがばっと起きあがってお袋を睨んだ。
「馬鹿よ。ほんと、あんたって子は根性がないんだから」
「根性がないのは、おまえに似たんだ」
「おまえ? 母親に向かっておまえとは何よ!」
頭をぽかりと叩かれた。本気になって怒り始めたお袋に、俺はちょっとたじたじとなって語気を弱めた。
「・・・・うるさいなあ」
「うるさいがありますか。あんたなんか、もう知りませんからね」
お袋はかなり腹を立てて階段を下りていった。この春高校を卒業してからまだ2ヶ月目だけど、辞めたバイト先はこれで5カ所目になった。お袋が怒るのも無理はない。だけど、大した給料でもないのに、あんなきつい仕事なんてやってられない。それが俺の正直な気持ちだ。
昨日行き始めたバイトというのは、親父の高校時代の同級生がやっているという警備会社の仕事で、最近できた郊外型のショッピングセンターのガードマンだ。ガードマンなんていうと格好良く聞こえるけど、実際は駐車場に車を誘導するだけの仕事だ。
アスファルトで覆われた駐車場は、初夏だというのにアスファルトの照り返しの熱気でムッとしていた。昼休みは30分しかなく、汗だくになりながら一日中働いた。夕方、こんな仕事は何日も続けられないと思った。
「和己? ちゃんと辞めるって言ってきたの?」
お袋が再び上がってきて、ドアの隙間から聞いた。
「・・・・言ってない」
「お父さんのお友達の会社なのよ。ちゃんとしなきゃ」
「お袋が言ってくれよ」
「何でわたしが? あなたのことでしょう?」
俺は黙りこくって布団をかぶった。
「・・・・もう。だらしがないところは、お父さんそっくり」
ぶつぶつ言いながら、お袋は階段を降りていった。ボソボソと電話をかけるお袋の声が聞こえてきたから、断りを言っているようだ。俺は、少しホッとして眠りをむさぼった。
(大学、行ってりゃよかったよ。そうすりゃ、こんな小言を聞かされずにすんだのに)
夢の中でそう思った。
根を詰めれば、俺だっていい成績がとれるはずだ。だけど、俺にはその根がない。いつも途中で放り出してしまう。
小学校の時に入った野球クラブも一週間でやめた。中学校で入ったサッカー部は三日目にやめた。高校では、純一に誘われて弓道部に入ったけれど一ヶ月でやめた。
(弓道が一番ものになりそうだったけど・・・・)
いつもそう思う。だけど、当時の弓道部には女子がいなかった。隣のコートで練習していたテニス部の女子がはいている短いスカートに目を奪われてテニス部へ入ったものの、練習のあまりのきつさにすぐにやめてしまった。もう一度弓道部にとも思ったけれど、そんな格好悪いことできなかった。
勉強だってほとんどやった覚えがない。毎日毎日テレビゲームに浸っていた。もし本気で勉強していたら、今頃は一流大学に入って悠々としていたはずだ。親父もお袋も有名大学を卒業しているのだから、根本的には俺の頭が悪いはずはない。
自分でも情けないと思いながら、どうしても自分の性格を変えられない。変えようとしない。
その次に目が覚めたのは、午前11時過ぎだった。
「ああ、よく寝た」
伸びをしてベッドから抜け出した。寝過ぎて頭が痛い。次の仕事を探さなきゃとは思ったけれど、すぐに見つかるはずもないとすぐに思い直した。
Tシャツを頭からかぶり、薄汚れたジーンズをはくと階段を下りた。階下にお袋の姿はなかった。買い物でも行ったようだ。
(なんか食い物ないかな?)
きょろきょろと見回すと、ダイニングのテーブルの上にバナナがあった。一本ちぎって玄関を出た。
(鍵は・・・・)
俺のうちには、どうせ盗むものなんてないと思って、玄関の鍵はかけずに家の裏手にある駐車場へ足を向けた。
(恵子、いるかな?)
恵子というのは、俺の彼女だ。今日は水曜日。水曜日は恵子の職場は休みで、買い物にでも出かけていなければ、アパートにいるはずだ。
(デートするような男は俺しかいないし)
メットをかぶってバイクに跨る。セルを回すと心地よい爆音が響き渡った。
「うん、いい調子だ」
ギアを入れてアクセルを二、三度吹かしてから、クラッチを離して通りに出た。通りに出たところでお袋に出くわしてしまった。
「和己! どこへ行くの?」
目を三角にして俺を睨む。
「ちょっとな」
「ちょっとなって、どこ行くのよ」
「どこでもいいだろう?」
俺はアクセルを回し、表通りへと向かった。
「いつ帰るの?」
そんなお袋の声は無視して交差点を曲がった。
5月の風は心地よい。俺は風を切ってバイクを走らせた。
(今日はウイークデーだよな。こんな時間に何やってんだろう?)
通りをふたりの女子高生がおしゃべりしながら歩いていた。肩までのボブで、短めのセーラーから素肌が見えていた。チェック柄のスカートも短く、今にもパンツが見えそうだ。それに、もう廃れたと聞いているルーズソックス。手には勉強道具が入ってるんだろうかと思うように薄い鞄が握られていた。後ろ姿は、まるで双子のように見えたけれど、ちょっと振り返ってみたふたりの顔はまったく違う。
(同じ格好をしていないと気が済まないんだろうな。個性なんてありゃしないな)
そう思いながら、バイクを走らせた。
恵子のアパートが見えてきた。
(おっ、あれは恵子じゃねえか?)
前方にピンクのTシャツに白いミニスカートをはいた女が歩いていた。背丈、髪型からすると恵子に間違いないと思った。その手には透明な袋がぶら下げられていた。近くのスーパーで買い物をしての帰りのようだ。バイクをその女の横に進めて顔を覗いてみた。
「あら? 和己。どうしたの? 今日は仕事じゃなかったの?」
やっぱり恵子だった。
「ああ、仕事ね。・・・・辞めた」
「辞めた? また?」
恵子はちょっとあきれ顔を見せた。
「あんなきつい仕事なんてやってられないよ」
「少しは我慢しないと・・・・」
「お袋みたいなことを言うなよ」
そう言うと恵子は肩をすくめた。
「来る?」
「ああ。乗れよ」
「いいわよ。もうすぐそこだから」
「そうだな。じゃあ、先に行って、停めてくる」
俺は、アクセルを開けて一足先に恵子のアパートへ横付けした。
「もう少し横に置いておかないと、邪魔になるわよ」
すぐに追いついてきた恵子が顎で指した。俺は振り返ってバイクを見る。
「これくらいあったら通れるだろう?」
「奥のおじさんがうるさいのよ」
「うるさく言ったら、俺がぶん殴ってやる」
「この前どつかれそうになった倶利伽藍モンモンのヤーさんよ。それでもぶん殴る?」
「あ、そりゃやばい」
俺はバイクを壁に寄せて通りやすくしておいた。その間に恵子は階段を上がって部屋の鍵を開けている。
(おおっ! ぞくぞくするぜ)
恵子が片足を後ろへあげてサンダルを脱いでいる姿が開いたドアから見えた。細く締まった足首から、俺は視線をあげていった。
(あのミニスカートの中には・・・・)
細身のジーンズの中で、固くなった俺の息子が行き場所を求めて藻掻いていた。俺は、階段を駆け上がっていった。
「入って。早く」
「あ、ああ」
後ろ手にドアを閉めて、スニーカーを脱いで部屋に上がった。女の部屋らしい独特のいい匂いが漂っていた。
(この匂い、好きだな)
俺は、恵子の匂いとも言うべき部屋の匂いを胸一杯に吸い込んだ。
「お昼は?」
買ってきたものを冷蔵庫に納めながら恵子が尋ねる。
「まだ。さっき起きたばかりだから」
「じゃあ、何か作るわね」
「頼むよ」
「できあがるまでテレビでも見ていて。コーヒー、いれようか?」
「うん」
俺はテレビのスイッチを入れてどっかと座り込んで、テーブルの上に広げられていた新聞を手に取った。
(暗いニュースばっかりだな)
明るいニュースが多いと人の心は和み、陰惨な事件ばかりだと人の心は荒むと聞いたことがある。ならば、暗いニュースは新聞に載せない方がいいんじゃないかと思いながら、新聞に目を通した。
「はい。コーヒー」
「サンキュウ」
恵子の入れてくれたコーヒーはインスタントだけど、砂糖とクリームの具合がちょうどいい。カップからコーヒーをすすりながら、俺は目をテレビに移した。タモリの「笑っていいとも」のオープニングが流れていた。
片目でテレビの画面を見ながら、もう一方の目では恵子の後ろ姿を見ていた。
(ホントに形のいい足だぜ)
俺はちょっとにやける。俺の想像の中で恵子は裸になっていた。いつか見たAVのように、裸の上にエプロンひとつをつけただけの恵子を想像していたのだ。
形のいい双臀。くびれたウエスト。そのウエストから両手を忍び込ませ手前へ回すと豊満な乳房がある。
(Dカップだって言ってたなあ。恵子のお袋さんと俺にしか見せたことがないって言ってたけど・・・・)
「何、にやにやしてるの?」
俺が見ているのがわかったように突然振り返って、恵子は俺の顔をじっと見た。
「あ、このタモリの惚け方。すっげ、おもしれえ」
「そう? すぐにできるからね」
「ああ、待ってる」
俺は、テレビに見入った。しばらくして、恵子がテーブルに皿を並べ始めた。
「こんなものしかないけど、いい?」
「いいも悪いも。恵子が作ってくれたものなら何でもいいよ」
「そんなこと、いつまで言ってくれるのかなあ」
「ずっと。死ぬまで言ってあげるさ」
「死ぬまで? 和己。まさか、あなた、わたしと結婚でもしようって言うの?」
「もちろんだよ」
「・・・・そう言ってくれるのは嬉しいけど、結婚するって言うのなら、ちゃんとした仕事についてもらわないと・・・・」
恵子が言うのはもっともだ。ヒモと言うわけにもいかないのだ。
「・・・・わかってるさ」
「少しくらいきついのは我慢しないとね。わたしと結婚する気なら尚更よ」
「ああ・・・・」
俺は恵子の目を直視できず、テーブルの上に並べられた料理に手を伸ばした。
炊事場で洗い物をしている恵子の後ろ姿を見ていたら、もう耐えられなくなった。俺は立ち上がって、恵子の腰を抱いた。
「だめよ。昼間っから」
そんな言葉を無視して、俺は恵子の首筋に舌を這わせ始めた。
「だめだったら・・・・」
そう言いながら、恵子は後ろ手に俺の尻を撫で始めた。俺は恵子の腰に当てていた手を上へとずらして、恵子の豊満な胸をまさぐった。
「和己。ベッドに行きましょう」
「ここでいい」
「いや! ベッドに行くの」
恵子は、俺の手を振り払ってベッドの上に座った。俺はTシャツを脱ぎながら恵子に近づきキスをした。
「和己。好きよ」
「俺も・・・・」
恵子にキスしながら、恵子の着ていたTシャツを脱がせ、そのままベッドに押し倒してスカートを剥ぎ取った。手と足を使ってパンツを脱がせ、ブラジャーをずらして揉んでやった。乳首が固く勃起してくるのを感じた。
「ああ、いい。和己。そこ、いい・・・・」
俺は、恵子の乳首を舌で転がし吸いながら、恵子の敏感なところを指で刺激していた。
(そこがいいというけれど、乳首とクリトリスとどっちだろう。ま、いいか。どっちにしても喜んでくれてるんだから)
小さな隆起が少し大きくなってきた。襞を下へ辿っていくと陰口に達した。そこはわずかに小さな収縮を繰り返しているようだ。愛撫を続けていると、ぬるりとした感覚を覚え、そのぬめりがどんどん広がっていった。愛液が溢れ出したのだ。すると、指が抵抗もなく穴の中に吸い込まれていった。
(こうなってほんとに感じているんだよな)
「あ、うん・・・・」
指がやんわりと締め付けられてきた。指の先を少し曲げて出し入れしてやると、恵子はのたうち回った。
「あん、あん、あん、あん、あん。ああん・・・・。い、いいい・・・・」
俺の指がちぎれんばかりに締め付けられた。
(すごい力だ)
俺は恵子の中から指を抜き去って、ジーンズのベルトを緩め始めた。恵子は上半身を起こして、それを手伝ってくれる。そうしてから、ジーンズと一緒にトランクスも降ろして、俺のいきり立った肉棒を握りしめてむしゃぶりついてきた。
舌先を使ってカリや裏筋をなめ回し、決して小さくはないと思っている俺の肉棒を根本まで飲み込んだりした。
初めてそんなことをされたときは、俺は恵子の口の中にありったけのザーメンをぶちまけていたけれど、最近はそんな恵子の攻めにも耐えられるようになっていた。
(というか、ちょっと不感症気味になったのかな?)
恵子が俺の顔をちらりと見た。俺のものを銜えたままそんな目で見る恵子がすごくいやらしく見えた。俺は思わず笑みを浮かべた。
恵子は、俺をベッドの上に押し倒すとそのまま跨るようにして俺を自分の中に導いた。
「うぅぅ・・・・ん」
目を瞑って天井の方を見上げ、それからゆっくりと両手で自分の乳房をまさぐり始めた。そうして、腰を上下させる。俺はその腰の動きに合わせて、下から突き上げてやった。
恵子が口を半開きにして恍惚とした表情を見せる。
「ああ、いい・・・・」
恵子の上半身が、俺の上に倒れ込んできた。俺は恵子を抱きしめて、さらに突き上げた。恵子は声にならない声をあげ続けた。
俺は体勢を入れ替えて恵子の上になって、深く浅く、ゆっくりとそして性急に突き続けた。
「ああ、もう・・・・、もう、行って。お願い。もう行って・・・・」
「恵子。好きだ」
「ああ、和己。愛してるわ」
「ぐうぅぅ・・・・」
「はあぁぁぁ・・・・あ」
恵子は体を痙攀させて、俺のペニスを支点にのたうち回った。
(やっぱセックスは最高だぜ。金があれば、毎日一日中こうしていられるのに)
恵子とセックスするたびにそう思う。しかし現実はそうはいかない。どうにかして稼がなければならないのだ。
(楽して儲かる仕事があればいいんだけど・・・・)