第10章 どっちがいいか迷っちまう

 朝までゆっくり眠った。心地よい目覚めだった。ベッドの中で寝返りを打って時計を見た。午前6時半を過ぎていた。
 (あっ! 急いで帰らなきゃ)
 島本香のために朝食を用意してやらなければならないことを思い出した。俺は大慌てでシャワーを浴びて彼女のマンションに戻った。
 マンションのドアを開くと、彼女は既に起きていてコーヒーを飲んでいた。
 「ただいま、遅くなっちゃって。すぐにご飯を用意するわ」
 彼女はブスッとして返事をしない。俺はエプロンをしてキッチンへ向かった。料理をしている間、彼女はまったく喋り掛けてこなかった。
 「何とか間に合ったみたい」
 時計は午前7時15分を指していた。俺は飯の入った茶碗と味噌汁の入ったわんを彼女の前に置いた。彼女は黙って箸を取った。半分ほど食べたところで彼女は箸を止めた。
 「もう食べないの?」
 「美味しくない」
 突っ慳貪にそう言って立ち上がった。
 「そうかなあ」
 味噌汁を啜ってみたが、いいできだと思った。
 「出るわ」
 お茶を用意したのに、コートを着てさっさと部屋を出て行ってしまった。
 「何だよ! せっかく急いで戻ってきて食事を作ってやったのに・・・・」
 何だか腹が立った。ムシャクシャしながら洗濯をして部屋の掃除をした。昼食時期になって気がついた。
 (香さん、まさか俺に嫉妬してるんじゃあ)
 そう思うと何だか嬉しくなった。俺が彼女に嫉妬することはあっても、彼女が俺に嫉妬するなんてことはなかったからだ。
 俺は浮き浮きして午後の時間を過ごした。

 夕方帰ってきた彼女は、いつもと変わらぬ様子に戻っていた。
 (なんだ。違ったのか。喜んで損した)
 夕食がすみ片づけを終えると、交代で入浴をした。小さなショーツを穿き、ベビードールを来てリビングに戻ると彼女は縛り用の紐を用意していた。
 「縛りはなかったんでしょう?」
 「ええ、もちろん」
 「縛って欲しい?」
 「はい。お願いします」
 後ろ手に縛られ、さらに上半身を縛られた。紐の間から大きくなった乳房が飛び出すようにその存在を誇示している。乳首が勃起していた。
 「吉田にどうされた?」
 その言葉に、やっぱり彼女は嫉妬していると俺は確信した。
 「後ろから抱きしめられて肩にキスされて耳たぶを咬まれたわ」
 彼女は俺が告白して行く通りにやり始めた。ベッドに運ばれキスされ乳首を舐め咬まれた。彼女に愛撫されて感じていると言うよりも、前日のことを思い出しながら俺は高まっていった。
 「それから?」
 「舌で身体を舐められたわ」
 「それから?」
 俺は黙って彼女の顔を見た。
 「・・・・フェラチオされたのね?」
 「・・・・はい」
 俺がそう答えると、彼女は躊躇いを見せた。これまで彼女は一度も俺にやってくれたことがなかったのだ。レズのタチ役だから、男にそんなことをしたことはないはずだ。吉田と同じ行為をしようとしていると言っても、そこまではやらないだろうと俺は思っていた。だから、彼女にペニスを銜えられたときには俺はアッと驚きの声をあげていた。
 嬉しかった。とうとうやってくれたという気持ちになっていた。そのひととき、俺は男に戻っていた。
 (香さん、あまりやったことがないんだ)
 そう思うほど、ぎこちなかった。歯が当たるし、ただ口の中に入れて舐めているだけだった。
 「さあ? それからどうしたの?」
 吉田の口の中に射精してしまったと言うことは、彼女の自尊心を傷つけると思って言わなかった。勃起はしているものの、射精に至るにはほど遠かった。わずか一分足らずの出来事だったからだ。
 「お返しにフェラチオしてあげた」
 「じゃあ、やって」
 俺は縛られたまま彼女の装着しているペニスバンドを銜えた。俺がしゃぶり銜えている様子を見て、彼女は自分のやり方が拙かったことを悟ったようだった。
 「もういい! 次は?」
 怒ったように聞いた。
 「両足を彼の肩にかけて、挿入されたわ」
 「両足を肩に掛けたのね」
 そう言ったが、彼女は俺の両足を頭の方にあげるとそのまま膝と胸の間に紐を掛けた。
 「これくらいは変えないと、面白くないでしょう?」
 「はい」
 俺は頷いた。彼女は俺の太股の裏に手を掛けてペニスバンドを挿入してきた。根本まで入れ抜けるまで引き抜く、そんなピストン運動を繰り返した。恐らくこんなことをできないだろうと誇示したかったに違いない。しかし、それは吉田もやったことだ。
 (あのピクピクが何とも言えなかったな)
 そう思いながらも俺は次第に上っていった。
 「あっ! あっ! はあっ! あっ! はあっ! はああんん・・・・」
 先走り汁が溢れ出し、やがて俺は達した。俺の吐き出したザーメンが俺の下腹を濡らした。
 ペニスバンドが引き抜かれ、彼女が俺にキスして聞いた。
 「それから」
 「それで終わりだったわ」
 「そう? 一度だけだったの?」
 意外そうな口調だった。
 「はい」
 そう答えると彼女はニヤリと笑った。
 「もう一度行かせてあげる」
 彼女は自分が優位に立とうとしていた。膝の紐が解かれうつ伏せにされてバックから挿入された。今度はただ突くだけではなく、恐らくペニスバンドの根本を持って手で動かしているのだろう、前後左右に振って、俺が感じるところを責めてきた。行ったばかりだったけれど、すぐに上ってきて、再び達してザーメンを吐き出した。
 「どうだった?」
 彼女が耳元で囁いた。
 「よかった・・・・」
 「そう・・・・。どっちがよかった?」
 吉田の方がよかったなどと言える場面じゃなかった。それに俺は拘束された状態が好きだ。拘束されて行かされるのが好きだ。だから、即座に答えた。
 「香さんの方がよかった」
 彼女の表情が緩む。
 「そう。わたしを愛してる?」
 「はい。香さんのことが大好きです。愛してます」
 「あなたはわたしのものよ。何度も言うけど、身体は売っても心まで奪われちゃダメよ。絶対に」
 「はい。わかっています」
 彼女がニッコリ笑って俺の頬にキスした。

 金曜日になって約束通り吉田に抱かれた。俺の中でピクピクと震える彼のペニスを感じたとき、吉田の方がいいと思った。けれど、島本香に縛られ何度も行かされると彼女の方がいいと思った。俺の気持ちは揺れ動いた。
 しばらくして、吉田はホテルに拘束具を持ち込んできた。
 「真知子はこれが好きだったんだよな。忘れていたよ」
 そう言いながら、俺を皮でできた拘束具で身動きできないようにした。その拘束具は無理がなく自由が奪われ素晴らしいと感じた。
 首枷、手枷そして足枷をされて彼の大きなペニスを受け入れたとき、俺はそれまで感じたことのない高まりの中で身体を震わせていた。
 吉田の勝ちだと思っていた矢先、彼女は電動のペニスバンドを買い込んできた。
 「どう? 本物以上でしょう?」
 吉田のピクピクどころじゃなかった。俺は快感の中でウンウンと頷くしかなかった。電動のペニスバンドは素晴らしく、俺を翻弄した。

 彼女から離れられなくなりそうな気がしていたのだが、実際には俺の心は少しずつ吉田に傾いていっていた。
 何故か? それは俺の心の変化によると俺は思っている。俺は、吉田か島本香の手によって毎日行かされていた。そうしているうちに、俺の男としての自覚というものが失われていった。
 (ペニスによって快楽を得ているんだから、俺は女に近い。体つきだってもはや女だ。俺が彼女を愛したのは、俺が男で彼女が女だったからだ)
 俺の男としての自覚がなくなり、女として目覚めてくると、男のように振る舞っていても本物の男ではない彼女のことは俺の意識の外に追いやられていった。
 俺は本物の男を求めた。男の堅い筋肉に憧れ、その太い腕で抱かれることを夢見るようになった。男として一番近い距離にあったのが吉田だった。だから心が吉田に傾いていったのだ。
 けれど、そんなことは彼女には言えなかった。言えるはずもなかった。

 そんな俺の心の変化に彼女が気づかないはずはなかった。気づいたからこそ電動のペニスバンドを買い込んできたのだ。けれど、それでも俺を引き留められないことを知ると、暴挙に出たのだった。